暗雲
第27話 近親
まだ木々に生える葉が紅葉になってない日に、作業や日課の合間に娘の鍛練に付き合って、実践形式で戦い終えた後のことだ。
「足の防具が重いよパパ~」
疲れ地面に寝ころんだ娘が、また泣き言を言い始めた。
この頃娘が練習中に、このようなことを一時間も経たないうちに言うようになった。
最初は可愛い娘だから甘やかして休んだりしていたが、毎回のように言うようになってから女王や片目に相談すると「甘やかしすぎ」と指摘された。だから今日は娘が立てなくなるまで練習させるつもりだ。
「それを着けて動くことも練習だから、我慢しなさい」
「ぶぅ~」
娘は上半身を起こして、不満げに頬を膨らまして抗議してくる。可愛い。
「そんな顔してても駄目だ。さあ起きた起きた」
もう少し娘の姿を眺めていたかったが、俺は心を鬼にして言う。
「わかった。水分補給してから練習始める」
自前に持ってきた水筒を手にして飲み始める娘だが、俺が娘の飲み終わるのを眺めてたのを俺も飲みたいと勘違いしたのか、娘は水筒から口を離して俺に向かって水筒を差し出して「パパも飲みたい?」と言ってきた。
なんて優しい娘なんだ!パパ喉乾いてないけど、娘の好意をむげにする訳にはいかないから貰おう。
「ありがとう」
礼を言ってから水筒を貰いあおる。後になって後悔するが、味も確かめず一気に飲んだのが悪かった。
水筒の正体がわかったのは喉を相当量の液が通ったあとで、味が後から追ってきた。酸味が少しする柑橘の味。そう、俺が飲んだのはアルラウネの液だった。
慌てて俺は水筒から口を離して娘に注意した。
「これはアルラウネの液で、水分補給するために飲む物じゃないからね」
「え?だってパパとママが一緒に食事する時にはいつもその飲み物飲んでるでしょ?」
それは滋養強壮剤みたいな効果があるから飲んでるんだが、女王は効果を知って……いるんだろうな。しかも、普段から飲んでるようで子作りしない時でも飲んでたから、女性には効果がないのかも知れない。
「それは子作りの時に必要で飲んでたんだよ」
「じゃあアルラウネとも子作りしてるの?」
あ~、そういえば娘が近くにいた時にやってしまったことがあったな。
「あれは……うん、子作りしてるな」
あれはその場の雰囲気でアルラウネと時々してはいるが、子作りしていることには変わりない。けど、アルラウネとの子供が出来たら嬉しいことは確かだな。うん。
娘と問答していると徐々にだが自慢の息子が起き上がってきた。そんな時娘が俺の下半身にちらりと視線を向けたあと、顔を逸らして一言口にした。
「いいよ」
「もしかして、アルラウネとの行為を許してくれるってことかな?」
「ううん」
おっと、違った。なら何がいいんだ?
「その、興奮しているなら、あたしが相手してもいいよ」
「へっ?」
うん?聞き間違いかな?
「もう一度言ってくれないか」
「だから、あたしが交尾の相手していいよ」
いきなり何言ってんだ我が子よ!?
「いきなりどうしたんだ!?何か悩んでるならパパが相談に乗るぞ」
「ママに相談して決めたことだから」
えっ?ちょ、ちょっと女王なんて答えたんだ!?と、とにかく断らないと……
娘の驚愕の発言と必死に諭そうとする気持ちは、完全に目覚めた息子の興奮を上回るほどで、息子が元気良く立っていることを忘れさせた。
「いいかい、親子で交尾したら駄目って決まりがあるんだ」
「それは人間の決まりでしょ?あたしは人外だから、そんな決まりないよ」
娘は逸らしていた顔を俺に向け、目を逸らさず言う。その顔からはさっきの照れたような態度はなく、真剣な表情をしていた。
「確かに……いやいやいや、駄目だから。俺が駄目だから」
「どうして?」
どうして?どうしてと言われたら「それが俺の中での常識だから」
「……いや」
娘は顔を俯け少しの沈黙のあと否定した。娘の感情を知ろうとするが、下を向いた顔からではわからない。
俺は娘を諭そうと声をかけるが。
「けどね、俺は」
「どうして?」
俺の言葉を遮り、娘が沈痛な声を出しゆっくりと顔を上げる。その目からは涙を流していた。
その姿を見て喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。口から出そうになった言葉がどれも娘には伝わらないような気がしたからだ。
「ごめん」
だから、娘の身体を抱きしめて謝ることしかできなかった。娘は黙って抱擁を受け入れ、俺の背中に手を回してぎゅっと力強く抱きしめ返した。
娘のことは好きで愛してるが、この気持ちは父親としての愛情だとわかってる俺は、アルラウネの液を飲んでるとはいえ娘を襲うことは無かった。
胸元で泣いていた娘が静かになり、そろそろ泣き止んだかと思った頃に未だに元気な息子に柔らかだが気持ちいい刺激がしだした。
娘の身体が当たってると思い腰を引くが刺激は尚も続く。まさかと思い抱きしめていた娘の身体を押して自分の腰に目をやると、娘の手が息子を優しく愛でるようにタッチしていた。
「何してるのかな?」
「あたしに欲情するかなと思って」
そう言う娘の顔はぶすっと不満げな顔をしている。
「欲情するかい!」
思わず関西弁で突っ込んでしまった。
あのまま撫で回されていたら欲情したかも知れないが、そんなことを娘の前で言ったら何をされるかわからない。
さっきまでの泣き顔が嘘のようだ……嘘泣きだとしたら魔物娘だとしても女性は恐ろしいな。
そんな感想が思い浮かんでると、まだ諦めきれない娘が手を息子に伸ばしてきたので、俺は伸ばしてきた手を掴んで防いだ。
「さっき欲情しないと言ったのに、何してるのかな?」
「嘘だとわかったから、続きをしようと思って」
ばれてる!?
「いや、嘘じゃないぞ……今度は何してるのかな?」
娘の掴んでた手を娘は別の手で掴み返し、さらに空いていたもう片方の俺の手首を掴んできた。
「あたしは四つ手があるんだから、両手を掴めば防げないでしょ?」
娘よ、それは息子を触りますよと言ってるようなもんだぞ!?
返事を終えた娘は残った一つの手を息子へと伸ばしてくる。さっきの刺激からそれほど時間も経ってないのに、また新たに刺激が加えられると娘と関係を持ってしまうかもしれない。
それだけは絶対に避けなければ!
手の拘束を脱出するために、まず掴んでいた娘の手を離す。その後、捕まれてる両手を内から外に回すように素早く振る。
すると、俺の手を強く握っている娘の手は掴んだ時の位置のまま動かないので、自然と娘の手を捻る形になり痛みから手首を離すことになった。
拘束が解けた俺は後ろにステップして少し距離を取ってから巣のある方に向きを変え猛ダッシュした。
「パパのけちー!!」
後ろから不満の声があがるが、俺は振り返らずにこう答えた。
「けちで結構!帰ったらママと三人で話し合うぞ!」
俺は娘から逃げるように巣に向かって走った。
巣に戻る途中、息子を鎮めたのは女王や娘達には内緒だ。
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