第24話 恥
アルラウネが別れの言葉を口にしていたが、結果は再会する可能性が出てきたところだ。まあ、男が変なことでもしなければだけどねぇ。
女王も思い切ったことをしたもんだねぇ。まさかその日の内に交尾をするとは、さすがは元おてんば娘だ。そのおてんば娘も世代交代で女王になり、子供を産んでから落ち着いたというか女王の自覚が芽生えたのかねぇ。
んで、あたいは現在女王の部屋横の通路に座って、もしもの時に備えて待機しているんだけど、部屋の中から女王の喘ぎ声が通路まで響いてくる。
女王があんな声を出すのは初めて聞いたが、アルラウネの時は目の毒だったけど、今は耳の毒だ。
その毒はあたいだけじゃなく周りの妹達にも回ったようで、女王の声が聞こえた妹達が好奇心で部屋の中を見ようとしてくる度に追い払った。
部屋の中で男を監視している妹二人が気の毒だねぇ。
一回り大きな喘ぎ声が聞こえて荒い息遣いだけが微かに聴こえてきた。やっと終わったかと思ってたら、また喘ぎ声が聞こえてくる。
何回するつもりなんだい……
結局終わったのは月が真上にくるまでだった。あたいは下半身の湿りを辟易しながら寝床に入り眠った。
次の日には女王は男を気に入ったのか、朝食を男と共に食べていた。
食べ終わった男を部屋に送ったあと、部屋の外でおかしなことをしないか注意深く聴いていたが、昨日の長い長い交尾で疲れてたのかすぐに寝息が聞こえ、中を見ると藁から手足を大きく投げ出し無防備な姿で眠ってるのが見えた。
眠ったふりの可能性もあったので、部屋の外でしばらく様子を見ていたがどうやら本当に眠ってるようだ。
今のとこは男に問題はなさそうだけど、念のために誰か部屋の外に就けておくか。さて女王に今後のことを聞きに行くかねぇ。
女王の部屋に行く途中で仕事がない妹二人に男の監視を任せた。
部屋の前に着いたんだが……女王が藁の上で手で顔を隠して脚をばたつかせている。
こりゃあ突拍子もないことを言い出すかもしれないねぇ。
あたいは気を引き締めて女王に声をかけた。
「はぁ……」
自室に帰り藁の上に座ってると口から溜め息が出る。
まだ物々交換の時はあたいが一緒に行けば済むから問題ないけど、まさか出産場面にあの男を立ち会わせるなんて、何を考えてるんだか……もしかしたら情が移った?
「女王なら一線を守って欲しいんだけどねぇ……はぁ」
こりゃあよほどのことでもない限りは、あたいが付きっきりで見るしかないねぇ。それか信用に足る何かが起これば安心できるんだけど。
また溜め息が出そうになるのを堪えて、明日の監視に備えて睡眠をとり始めた。
眠りから覚めると近場にいた妹と一緒に男の部屋前に向かった。先に監視していた二人と交替して監視に当たった。
そのあと男が起きて腹が痛かったようなので、妹と男とあたいの三人でメリュジーヌのいる川に行って糞を放り出した。出したあとには身体を洗いたいと言い、仕方なくメリュジーヌを呼ぶことにした。
やってきたメリュジーヌは男を見て一瞬固まり、川辺に膝をついたあたいに顔を寄せてきた。
「殺すのを手伝って欲しいの?」
「いいや。今は生かしておくことになってる」
あたいの発言に眉を顰め気持ちを表にした。
「その発言は貴女の種族の総意?」
「違う。あたいは反対だ」
あんな奴が近くにいたんじゃ、妹達が心配で目を離せないからねぇ。
「ならいいのよ。貴女のとこの女王は相変わらず後先考えず動くわね。ちゃんと止めてるの?」
「あんな得体の知れない人間を、あたいが生かすことに賛成すると思ってるのかい?」
「思わないわね。それで、なんであたしを呼んだのかしら?」
「あの男が身体を洗いたいみたいなんだけど、知っての通りあたい達の種族は泳げないから、男が逃げた時に対して呼んだのさ」
「えぇー……嫌って言ったらどうする?」
「今度人間を捕らえたら、女王に伝える前に渡す」
「じゃあ、嫌で良いわ」
あたいの言葉にメリュジーヌは狂喜的な笑顔を浮かべる。
交渉成立だね。まあ女王と交尾は済んでるから、当分男は必要ないし大丈夫だろう。餌や物々交換の際の材料としては欲しいところなんだけどねぇ。
「それじゃ、男を川に入らすから……殺すんじゃないよ?」
「わかってるわよ」
メリュジーヌはそう言うと笑顔を引っ込め仕事に徹し始めた。
人間を憎んでるのに、ここまで切り替えが早いのは年月の違いかねぇ。
男は川に入り身体などを手で擦ったりしていて、一度頭まで潜った時は逃げたかと思って背筋がひやっとしたが、男が何事もない顔をして水面から顔を出した時は男に対し殺意が芽生えた。
そうして水浴びは問題なかったのだが、問題はそのあとに起こった。
何があったかと言えば、川から上がった男が突如茂みの方に駆け出したのだ。
いきなりの行動に一秒ほど眺めてしまったが、ハッと我に返えりあたいの頭に“逃げた”という言葉が浮かんだ。
まるで逃げるような素振りを見せなかったので、反応が遅れてしまい捕まえれる距離ではない。あたいはそう判断して、持っていた槍を男に投げて殺そうとした時、茂みの手前で止まり草を毟って身体に擦り付け始めた。
あいつはなにしてんだい?
男の行動にあたいや妹やメリュジーヌは呆気にとられていた。あたいは槍を投げようとした手を下ろして男を眺めていると、怒りがふつふつと沸いてくる。
「お前!!」
あたいはは男に怒鳴りながら近付き、怒りの丈を言っていた。
「何かするなら言え!伝えろ!意味が通じないなら身振り手振りで伝えろ!今度からそうするんだよ!いいかい!?こんなこと妹達が子供だった頃からやっていたことだよ。それをお前は……お前はあたいの子供かい!?」
男は俯きながらしょぼくれた様子であたいの話を聞いている。笑い声が聞こえ見ると妹とメリュジーヌが腹を抱えて笑っていた。耳を澄まして聞いてみると、メリュジーヌはこう喋っていた。
「アハハハッ!あいつが、怒鳴ってる!ヒィッヒィッー、まるで自分の子供を叱るように……アッハハハ!!」
あたいはそれを聞いた途端に小っ恥ずかしくなり「もう帰るよ!」と大きな声で言い、恥ずかしさから逃げるように大股でズンズンと歩き先に巣のある方に帰る。
「約束を忘れないようにね!“お母さん”!アッハハハハ!!」
最後にメリュジーヌの言葉を聞こえ更にあたいは恥ずかしくなり、大股に加えて早歩きで帰ることになった。
早く!早く自室に入って引きこもりたい!!
その気持ちはメリュジーヌの笑い声が聞こえなくなるまで消えなかった。
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