第21話 決め事
メリュジーヌに土下座をして水汲みをし終え、アルラウネの所に向かって途中。
「もうメリュをからかったりしないでよパパ」
「はい。大変反省しております」
その道中も娘から走りながら説教を食らってた。
「前もそう言ってたじゃない。たしか前のは『君の身体を滴る水になりなたい』とか言ってからかってでしょ」
「あれはからかったんじゃなくて、本心で言ったんだけどなぁ」
「しかも私が教えてない言葉まで使ってるし、一体どこで覚えてくるの?」
「あ~……ひ・み・つ♪」と言った途端に耳にギュルッと地面を抉る音がしたので、俺はとっさにしゃがむと頭上を娘の蹴りが通り過ぎた。
「……なんで当たらないの」
そんな恨めしそうな目で言われても、パパだって痛いのはいやだから避けるのは当たり前。
「仮にもパパは娘の師匠なんだ。これぐらいは予測して避けることが出来る」
などと偉そうに言ったが、心の中では『蹴りが来るのはわかったけど、上段中段下段、どこに攻撃するかわからなかった』などと思ってない。一切ない。断じてない。
娘とスキンシップ(接触すれば大怪我)をしながら走りながら続け、アルラウネの所に着く頃には俺の体力は又しても底を突きそうになっていた。
「着いたぁ~」
アルラウネの蕾の前まで着いた俺は、腐肉の入った桶を置いて疲れてがくがくに震えてる足を休めるために地面に胡座(あぐら)をかいて座る。
休んでる俺の前でアルラウネの蕾が開き、いつもと変わらぬ妖艶な姿を現した。
『おはよう』
もう昼は過ぎてるんだが、いつもこの挨拶なので習慣になってしまった。
『おはよう。今日もいつもの?』
聞き取りは出来るんだが……
いつもと違う返事を返すようにと、アルラウネと片目と娘達が俺の答えも聞かずに決め事が出来てから毎回この時困ってしまう。
ちなみに娘の通訳はなしだからものすごく辛い。
『君の……為に持ってきたんだ』
なんか会話になってないが、これでアルラウネが合格か不合格か判断を下す。合格ならいつも通り肉と交換にアルラウネの唾液をくれるんだが、不合格の場合は……
アルラウネは目を閉じて首を傾げ、人差し指を唇に押し当て『う~ん~……』と考えてる。
今のうちに立っておこう…… げっ、足の筋肉が強ばってる。早く解さないとやばい。
俺は急いで屈伸運動などして筋肉を解しながらアルラウネの判断を待つ。
アルラウネは薄目をして俺の準備が終わるのを待ってくれてる。ほんとアルラウネ優しくて大好き!
ん? 待ってくれてるってことは、これ駄目なんじゃ……
娘の反応はどうだろうと視線を向けると、いつの間にか触手の範囲外である茂みにいる。
あっ、察し。
俺は諦め半分に柔軟運動を終えると、アルラウネは目を開けてドラムロールを真似て口で言う。
ドラムロールだが前にいつもと違う食材を出す時にやった時以来、アルラウネは気に入ったのかやってる。
『ズダダダダダダダ……不合格!』
アルラウネはそう叫びながら頭の上に腕で×印を作った瞬間、俺の足下の地面が盛り上がるのですぐに跳び退った。
そう、アルラウネ達がした約束の不合格の場合、俺は触手の範囲内で避け続けること。ちなみに終わりはない。
ここまで片目の鍛錬が及ぶなんて誰が想像出来ただろう。俺は全く想像してなかった。
ともかく避け続けるのみ。攻撃は禁止されてる。
最初の攻撃は避けれた。地面から出てたきた触手は二つ、まずはこの二つをさばききる。いつも通りならこの二本をさばいている途中から、一本ずつ触手が増えていくはず。
深く息を吸い込み身体の力を抜いてく。避けるのに力はいらない、必要なのは柔軟な身体、反射神経、音、そして予測だ。
触手は別々に別れそれほど早くない速度で俺の足下と頭を狙ってきた。
左に頭を傾げて頭を狙ってた触手を避ける。触手は側頭部近くを通り過ぎていき、足下にきた触手は先端を踏んづけて止めた。
ただ通り過ぎるだけなわけないよな。
俺は頭を下げて折り返してきた触手を感と音で避け、また跳び退って距離を開ける。
なんとか第一関門突破っと、次は三本かな?
触手を注意して見てると、新たに地面から一本出てきた。今度は三つ同時か?
空中に漂っていた触手は今度は一つずつ襲いかかってくる。さっきと同じ速度なので避けるのは簡単だ。
左、右、右、下、上、前……
次々にくる触手の攻撃を避けていくが、徐々に触手の攻撃速度が早くなってきて、触手を避ける時の動作が大きくなり雑になる。
まさか、体力を削りにくるなんて、思いもしなかった。
大きく動くせいで呼吸が荒くなり考える時間もない。そしていつの間に回り込んだのか回り込んだ触手が後ろか攻撃を仕掛けてくる。
背後から風を切る音が耳に聞こえ、慌てて前転などをして避けるが、その動作でまた体力が消費されていく。
くそっ、酸素が、足りなくて、頭が、回らない……
体力が限界に近づいてきて鈍重な身体で避けるが、動く度に筋肉が軋み悲鳴を上げる。
頭は回らない状態でも、攻撃が見えたら条件反射で身体が勝手に動き、攻撃を避けている。もう心の中ではもう捕まって楽になりたいと思っていても、身体が許さず俺を限界まで動かしてる。
楽になりたい……けど、負けたくない。
そう思うが、足掻いていた身体が遂に限界を迎えた。
前方から四本の触手が同時に俺の四肢を狙って攻撃してきた時だ。
俺は前転して避けようと前に身体を傾けようとしていたが、全身が鉛のように重く感じ思うように動かせない。
前転することは出来ず、そのまま地面目がけて倒れかけたが、アルラウネが触手で俺の身体を支えてくれたおかげで、無様に倒れることはなかった。
『捕まえた』
アルラウネはにっこりと笑うが、疲労困憊で返事に返せないので苦笑で返した。
情けない俺に娘が興奮した様子で声をかけてきた。
「すごいよパパ! 触手を四つも避けてたよ!」
あれ? そういえばいつの間に三つから四つに増えていたんだ? まさか攻撃してくる触手だけを見てたから気がつかなかったのか……
今度娘に言って、俺が避けてる時に質問するように頼もう。そうすれば疲れたときでも無理矢理でも頭が働くようになるはずだ。
今後の課題も見つけて解決方法も考えながら、俺は指一本動かせない中で触手に運ばれ、俺の身体はアルラウネに優しく抱きしめられた。
『お疲れさま』
アルラウネから労いの言葉を貰って、いつものキスをしてくれる。
この唾液は本当にすごい。疲れた時などに飲むと身体の隅々まで浸透するような感覚になり、疲れが吹っ飛び喉も潤う。
ただ、その後に肉欲を求める昂ぶりが身体の内側から吹き出してくるのだけが欠点だ。まあこのおかげで、アルラウネとは色々と仲良くさしてもらってます。
ということで、今もキスをしながら唾液を飲んでるということで、我が息子が興奮した状態になっているのはいつものこと。
ここからは娘には見せられないので、アルラウネに頼んで花びらを閉じてもらい二人で蕾の中へ。
そして三時間後……
必死にむくれた娘の機嫌を取る俺の姿があった。
今日は本当によく謝る日だ。
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