第8話 切迫
眠りに沈んでた意識がゆっくりと浮き上がってきた。
目を開くと土の天井が見えた。少しずつ意識もはっきりしていき今までのことを思い出す。
藁から体を起き上がらせて、疲れてた体を大きく伸びをする。うつ伏せで寝てたからか至る所の骨が鳴る。
こんなに寝たのは学生の時以来だ。サラリーマンの時は上司の付き合いやら、残業やら、やりたいことで寝る時間が減ってたからなあ。
柔軟をして軽く体をほぐしてると、朝特有の生理現象が迫ってきた。
腹が痛みを発して警告を出してくる。排便だ。
そういえば昨日は一切出してなかったな。考えてきたら腹が痛みでうなり声を上げ始めた。
やばい。この世界に水洗トイレなんてないだろう。いや、まだ見てないからわからないが。けど、ここは間違いなくない。もしかしたら便所がないかもしれない。女王と一夜共にした日は、部屋から出ることがなかった。ってことはジャイアントアントは排便行為がないかもしれない。
そんなことを考えてたら、また腹がうなり声を上げる。
部屋を見渡してもトイレらしい物はない。聞くしかないんだろうが言葉が通じないし…… ああ、腹がきゅるきゅる鳴ってる。なんとかして、俺の腹のことを伝えなくては……
俺は腹を手で抑えながら、入り口に立ってる監視役の片目達二人に近寄っていく。
近寄っていく俺に気付いた二人が、それぞれ武器を手に警戒していた。
片目は剣の柄を握り、いつでも抜けるようにして、もう一人は槍をこちらに向けていた。これだけでも二人の経験の差が窺える。
槍では横に振っても穂先以外殺傷力はないので、通路などの横に移動出来ない場所で真価が発揮される。それに対して剣はリーチが短いが、横にも縦にも切れると同時に突くこともできる。だから、剣を選んだ片目の戦闘経験がどれほどか窺える。
ああ、また腹が……わかったから、わかったから落ち着いてくれ、お腹。
思いが伝わったのか痛みが和らいでくれた。顔から脂汗を垂らしながら、片目達に腹をさすって腹が痛いことを教える。察した片目達は慌てずに、いつも通り俺の前後に付いて先導してくれる。時々、片目が振り返って歩調を合わせてくれた。嬉しい心遣いだ。
片目達に付いてくと巣を出て森の中を歩いて行く。外は明るく太陽が真上にあった。途中出しそうになり、立ち止まって引っ込むのを待ったりし。そして目的地と思われる場所にたどり着いた。
まあ便所はないと思ってたが、見渡しが良い川とは。
俺は恥を捨てて、腹を刺激しないよう川に近づき腰を下ろすと、今まで我慢してた物が一気に出始めた。
うん。爽快だった。だったんだが、片目達がずっと俺を監視してたのを忘れてた。さっき捨てた恥が浮き上がってきて、穴があったら飛び込みたい気持ちになったが、腹がそれを許してはくれず動けない。俺は堪らず叫んだ。
「見ないでくれ!頼むから見ないでくれ!!」
俺の願いは届かず、排泄が終わるまで見られていた。危うく、俺は見られることに快感を覚えそうになった。
五分ほどだろうか、便意が収まりお腹もスッキリした。そういえば昨日から風呂に入ってなかったな。
尻を洗うついでに、体も洗おうと思い川に入ろうとして肩を掴まれた。
いつの間に側に来たのか、片目が俺の肩を掴んで入るのを止めてきた。
川を泳いで逃げられると思ったのかな。俺は体を洗う仕草をして片目に何をしたいのか伝えると。
意味がわかったのか、俺に向かって何か言ってから、川に槍の柄を入れて何かしていた。すると、川の中から金髪の美しい女性が顔を出した。鼻はすらりと伸び、瞳は青空のように澄み切った色をして、唇は淡いピンク色で、髪は長く水中に金色の髪が漂って体が見えないほどだ。
どこからやってきたんだ? 確か俺が排便をしてる時には周りに誰もいなかったはず。
女性は俺を一瞥してから片目と話し始めた。
俺は待ってる間暇になったので、美女の正体を探ろうと首から下を観察していたが、わかったのは外人特有の白い肌が眩しく見える上半身と、ふくよかな乳房だけだった。
おかしいな。俺が腹の中を出すのに踏ん張ってた時間は大体五分くらい掛かったはずなんだが、その間ずっと川の中で潜ってたのか。もしかして人魚? それなら川の中でも息が出来るし、美女なのも納得だ。
話を終えた片目は槍で川を指した。
川に入っていいということだろう。久しぶりのと言っても一日ぶりの水浴びだ。日本にいた時は喧嘩で興奮した気持ちを静める為に、風俗に行き女性に静めてもらったりしてたが、金が無い時は自宅に帰って水のシャワーを浴びて静めていたな。
こっちに来てからは興奮のしっぱなしだ…… たまに肝を冷やすこともあったが。
たった一日前だが…… いや、寝てからこっちに来たから、二日前か? 日本での事が昔のように思える。それほどの出来事が、こっちに来てから色々な起こったからなあ。
俺はゆっくり足を川に入れて温度を確かめてから入る。やはり四月だからか、ものすごく冷たい。
あれ? 日本では四月だったが、こっちではどうなんだろう?
疑問が増えるばかりだが、とりあえずは体を洗わなければ。
寒さを我慢して川に入り手で体を擦っていたが、寒さで歯が自然と震えガチガチと音を鳴らしてしまう。
我慢出来ないほどの冷たさでも、少し入ってるだけでここまで凍えるんだ。四月で間違いないはずだ。
体を濯ぎ終わったし、最後に残った頭は水中に潜って一気に終わらせよう。
俺は息を吸い込み潜った。そこで、金髪美女の正体がわかった。
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