第9話 正体
俺が潜ると金髪美女も俺を監視するためか、潜ってきたのが目に見える。そこで金髪美女の正体がわかった。
金髪美女の上半身は人間の身体だったが、下半身は蛇になっていて、緑色の鱗が太陽の光を反射していた。
前面と言えばいいのだろうか? 前面部分は色が違っていて黄色になっている。
背中にはドラゴンのような薄緑色の翼が折り畳まれていた。陸の上からだと身体ごとこちらを向いていたので、死角が出来て見えなかったんだろう。
あっ、頭を洗うことを忘れていた。
俺は息が切れる前に、急いで頭をごしごしと両手で洗う。
あの姿は間違いなく人魚ではないな。水蛇のような下半身に竜の翼…… ああ、思い出した。誰かの本で出てきた魔物で、名前はメリュジーヌって名前の人物だったはず。
メリュジーヌは人物名で、魔物の個体名ではないから本人ということはないはずだが。
聞くにしても言葉がわからないんじゃ、どうすることも出来ない。
俺は髪を洗い終えると、すぐに岸に上がり身体を擦って下がった体温を上げようとするが、気休め程度にしかならない。
時折吹く風が冷たい冷たい。今度来る時は、服か、火を焚く用意してから来ることにしよう。
俺が身体を擦ってる間に、片目はメリュジーヌに近付いて少し話をしてる。
おおかた感謝の言葉と別れの挨拶だろう。あとは俺関連の話か。
ダメだ。身体に付いてる水滴に風が当たり、更に体温が奪われてく。周りに身体を拭けるようなやつは…… 茂ってる草ぐらいか。
俺はすぐに行動に移し、手当たり次第葉っぱを毟って身体を拭いてく。
あまり水滴は取れなかったが、風が当たると前よりは冷たくなくなった。
片目が近寄りながらどすの利いた声で怒鳴ってきた。何も伝えずに離れたから、それで怒ってるんだろう。謝ろうにも言葉がわからないし、外国人は謝るとき頭下げたりしないしどうすればいいんだ……
俺はただひたすら俯きながら、片目の怒りが収まるのを待つ。その間メリュジーヌともう一人の監視役は俺と片目を見ながら、お互いに声を上げて笑っていた。
片目は言いたいこと言い終えたのか、肩で息をしながら巣のある方に歩いて行ってる。
もう一人の監視役が慌てて俺の背中を手で押してきた。早く付いて行けってことだと思う。
俺は小走りで追いかけた。途中振り返ってメリュジーヌが居た方を見ると、目から上を水面から出してこちらを見ていたので手を振って別れを伝えが、何の反応もなく水中に潜っていった。
人間に対してあそこまで警戒してるとは…… 本当に本人じゃないだろうか?
メリュジーヌに疑問を感じたが、離れてく片目が目に写るとその疑問も頭の片隅に隠れ、俺は慌てて片目追いかけた。
巣に戻った俺はすぐに藁に包まり震える身体を暖めてる。本当に服をどうにか手に入れないと、今後毎日これだとやばいな。
俺は藁から身体を起き上がらせ、片目がいる入り口に歩いて近づき話しかけた。
「お仕事ご苦労さん」
片目は何か用かと言いたげに見てきたので、服を着たいことを身振り手振りで伝えると意味がわかったのか通路を歩き出し、ついて行くと防具などが置かれてる部屋に着いた。
部屋に入った片目は隅に置かれてた箱を持って俺の足下に置いた。中を見てみると、衣服が無造作に詰め込まれている。上着と思う布を一つ手に取って広げて見ると、斜めから一直線に引き裂かれ、その周りが薄い紅色に染まっていた。
おそらくだが人間からの戦利品だろう。でもって、この持ち主は死んだんだろうな。もしかしたらだが、ここにある防具や、他の部屋に置いてある武器なんかも人間からの戦利品である可能性が高い。
まあ俺には関係ないことだ。持ち主が死んでるなら、俺が有り難く使わせてもらおう。
とりあえず今持ってる服は修繕しないと使い物にならないから戻すとして、比較的に破損が少ない服を探すか。
他の服を探してみると、全く破損していない黄土色の上下の服を見つけた。その服は首まわりが赤くなっていた。持ち主の最後が思い浮かんだが、気にしないように使うとする。
着てみた感想としては、ごわごわとして着心地が良いとは言えない。着れるだけましだと思って、贅沢は言わないこととしよう。
やっぱり服を着てると着てないでは全く違うな。肌を晒してないだけで温かい。
これで俺の息子を見られることはなくなる…… 決して残念な気持ちになんてなってない。なってないからな。
俺が礼を言おうとすると、着終わるのを見届けた片目はまた何も言わずに出て行った。なかなか礼をするタイミングがない。
俺は服の入った箱を壁に寄せて出て行こと思ったが、水浴びの件を思い出して、何着か服として使えない物を持ってから部屋を出た。
後ろを付いてくともう一人の監視役が部屋の入り口に盆を持って待ってた。
どうやら飯を持って来てくれたようだ。
「ありがとう」
盆を手に取りながら、言葉が伝わらないとわかっていても、つい言ってしまう。監視役は俺の顔を見てきょとんとした表情をしていた。まあわからないよな。
盆を持って藁の上に座り食事をする。今回も果物のみだ。そろそろパンかご飯が食べたくなってきたが、食事をきちんと貰ってるのだから文句は言えない。
果物を食べ終えのんびりしていたが、やることもないので暇が出来た。
そういえばこっちに来てから筋トレをしてないな。することもないから身体を鍛えるか。
俺は休憩を入れながら一日過ごした。
ちなみに、食事は三食果物だった…… 肉も食いたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます