第7話 誤解
目が覚めると土で出来た天井が見えた。
一瞬頭に会社のことが過ぎり、急いでスーツに着替えようと、身体を起こそうとしたら、フルーツの香りと右腕に掛かる重みに気が付いた。
見ると、女王が目を閉じて安らかな顔で、俺の右腕を枕に寝てた。
その姿を見て、俺は昨日の出来事を思い出した。
夢じゃなかったんだな。
起こそうとした身体をゆっくりと下ろす。これからどうなるのかと不安が胸に込み上げてくるが、それよりも夢である魔物娘との情事が出来たことの嬉しさと、これから起こる退屈しない毎日に期待で胸が一杯だ。口元も自然とにやけてくる。
やることもないので横を向いて女王の顔を眺めてると、昨日の情事を思い出して女王が愛しくなり、暇してる左腕で女王の髪や頬を撫でていた。
そんなことをして起きないはずがなく。女王の瞼がゆっくりと開き、少しの間俺と見つめ合っていた。もしかすると、女王もなんで俺が横にいるのか、わからなかったのかもしれない。
女王は俺の右腕から身を起こし、入り口で監視していた二人の内一人に指示を出すと監視役が一人部屋を出て行った。
少しして監視役が槍をどこかに置いてきたのか持ってなく、四本の手に木で出来たお盆を二つ持って帰ってきた。そのお盆を俺と女王に渡してきたので受け取る。お盆の上にはリンゴ、梨、干しぶどう、イチジクなどなどの色とりどりの果物が入っていて、どれも見たことのある果物だ。
そういえば昨日から何も食べてなかったな。そのことを思い出した途端腹の虫が鳴った。食事を目の前にして鳴るとは都合の良い腹だ。
女王のお盆には、一口で食べれる大きさに切られた生肉が大量に乗っていた。よくよく生肉を見てみると、鮮やかな朱色ではなく、日にちが経って変色したことがわかる濁った色をしていた。
蟻が肉食なのは知ってたが、まさか腐ったものも大丈夫だとは思わなかった。
女王は色など気にせず肉を一つ摘み、口に含んだ。そして美味しそうに咀嚼して飲み込む…… 見てたら食欲がなくなりそうだったので、自分の食べ物である果物に集中する。
リンゴを手に取りかぶりつく。噛む度に口の中に甘酸っぱい果汁が広がる。
ああ、腹に染み渡る。一日ぶりの食事だからかいつも食べてる物より旨い。周りを忘れて夢中で食べてたら、いつの間にかお盆から果物が消えてた。
「食った食った」
お腹も一杯になり幸せだ。
俺が食い終わるのを見計らって、監視役が一人お盆を手に取り出て行き、もう一人は俺に槍を突きつけてきた。
あれ? もしかしてさっきの食事は、最後の晩餐的なやつですか?
俺は助け船を期待して女王に視線を向けるが、女王は微笑んだまま入り口に向かって優雅に手を指す。
出ていけってことか。まるで死刑宣告を受けた気分だ。
槍を向けられ反抗することも出来ない。仕方ないので女王の命令に従って、藁から下りて部屋を出ていくことにした。どこかしらで逃げれるチャンスがくるだろう。
部屋を出るとすぐ横で壁に寄りかかって休んでた片目がいた。
俺が部屋から出るのを待ってたのか、片目は壁から体を離して昨日の時のように槍で付いてこいと示した。
俺は従い、片目の後を付いて通路を歩いてく。昨日は周りが暗く、しかも俺の後ろにいたのでわからなかったが。ランプの淡い明かりに浮かぶ片目の身体には、顔の傷以外にも至る所に刀傷とわかる大きな傷が見えた。
これは歴戦の兵士だな…… 逃げるのは無理かもな。
本格的に生命の危機がわかったからか、心臓の鼓動が徐々に早くなり、俺の身体から止めどなく冷や汗が流れ始めた。
どうする。どうする俺。何か逃げる切っ掛けはないかと待つが…… 何も起こらない。
片目がある部屋の前で止まって、俺の方に振り返って槍で中を指した。
逃げる機会がなかった。胸が痛く思うほどに、心臓の鼓動はどんどん激しくなる。
まだ部屋の中を見てないが、拷問道具がいくつも置かれてたり、部屋中おびただしい血に濡れてたり、部屋の中心に穴が空いていて中には人間の頭が入ってたりなどを想像している自分がいる。
呼吸が荒くなるのを感じながらゆっくりと部屋を覗くと、ランプの光に照らされた中には一人分寝れる藁が置かれてる。ただ、それだけだった。
どう見ても処刑場や拷問部屋ではない。女王の部屋に来るまで見たジャイアントアントの部屋と同じだったので、ここが俺の部屋ってことだろう。とりあえずは、すぐに殺されるということはないみたいだ。
安心したのか体から力が抜け疲れが波のように襲ってきた。すぐにでも横になって休みたい気分だ。
俺は重くなった体を藁に投げる。体を受け止めた藁は、ベッドのように優しく包み込んではくれなかったが、休むには十分だったので眠気がきた。
こんな緊張が毎回あるのは精神的にきついな。早くここの言葉を覚えて、少しは内容がわかるようになろう。そうすれば安心出来る場面が増えるはずだ。
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