ミスマッチ!
○ 智也の家・外観(夜)
二階建てのモダンな住宅。
○ 同・浴室
妹の真央(15)、風呂イスに座り、ボディソープで体を洗っている。
真央「♪~(鼻歌を歌っている)」
○ 同・リビング
テーブルの上に広げられた白紙の原稿用紙と、シナリオ学校のプリント。
食器を洗う音が聞こえている。
る。
シナリオ学校のプリントの文字。
S「20枚シナリオ課題:マッチ本来の目的とは違った使い方をすること」
智也「う~ん……う~ん……」
母の
晶子「はやくトイレ行ってきなさーい」
智也「ちげーよ、うんこじゃねーよ!」
晶子「おしっこでしょ」
智也「(イラつき)ちげーって……」
晶子「おなら?」
智也、勢い良く立ち上がり、母に向かって原稿用紙を見せつける。
智也「ああもう、邪魔すんなよ! シナリオスクールの課題だよ、課題! 明日提出
なのに全然思いつかねぇの!」
と、溜息をついて座り直す。
水道の水が止まる音。
晶子「なになに? 課題って?」
と、ニコニコ興味ありそうにテーブルに来て、智也と向い合って座る。
智也「あぁん? 短いシナリオ書かなきゃなんないんだけどさ、題材がマッチなの」
晶子「マッチ?」
智也「(鼻で笑い)古いんだってぇ~の。マッチなんて今どき見るのも珍しいだ
ろ?」
晶子「マッチなら昨日テレビに出てたわよ」
智也「え?」
晶子「この頃またよく見るようになったじゃない」
智也「うそ、マジで!? なんで? 流行ってんの?」
晶子「今日も出てるかも」
と、テーブル上のリモコンを取り、テレビの電源を入れる。
テレビ画面の映像が、
バラエティ番組、
野球中継、
テレビドラマ、
ニュース番組、
と、次々切り替わったあと、電源がオフになる。
晶子、リモコンから手を離す。
晶子「ざんね~ん」
智也「なんだよ、ネタになるかと思ったのに……(母を見て)昨日マッチが出てた番
組ってどんなの? あ、刑事ドラマとか?」
晶子「ドラマじゃないわよ、歌番組」
智也「うた……歌番組!?」
○ 同・浴室
真央、湯船に浸かり、タオルでクラゲをつくって遊んでいる。
○ 同・リビング
テーブルで向き合っている智也と晶子。
晶子「なに驚いてるの?」
智也「え、だって、えぇ? 小道具とかで使われてたってこと?」
晶子「失礼ね。歌ってたに決まってるじゃない」
智也「はあ? マッチが歌うわけねぇだろ」
晶子「(キョトンと)歌わなかったらマッチじゃないでしょう?」
智也「……(困惑で顔をしかめる)」
晶子、マイクを握るしぐさで、ウキウキと歌いはじめる。
晶子「キンキラリンでわざとらし~い♪ わざとらし~い♪」
智也「…………」
しかめっ面のまま立ち上がり、晶子の元へ歩み寄っていくと、晶子の肩に手を
のせる。
智也「(真顔で)母さん」
晶子「なに?」
智也「病院行こう、頭の」
○ 同・浴室の脱衣所
下着姿の真央、パジャマのズボンを履いている。
○ 同・リビング
テーブルについている晶子。傍に立っている智也がいきり立っている。
智也「だからマッチだよ! 頭こすって火を出すだろう!?」
晶子「(目を皿にして)マッチって手品ができたの?」
智也、自分の額をおさえる。
智也「……(厭きれ厭きれ)手品じゃなくてほんとに火が出るだろって」
晶子「だから頭も、毛がチリチリなのねぇ」
智也「〝も〟ってなんだよ。……毛なんかないよ、つるつるだよ」
晶子「えぇっ!? じゃあ、あれカツラ!? ……お母さん知らなかったわぁ」
智也、リビングの壁によたよた歩いて行く。
智也「(嘆き声)カツラってなんだよぉ!」
壁に頭突きを食らわす。
○ 同・浴室前の廊下
パジャマ姿の真央、タオルを頭に載せ、濡れた髪を拭きながら浴室から出てく
る。
○ 同・リビング前の廊下
真央、タオルで髪を拭きながら歩いてくる。
と、リビングから智也の声。
智也の声「カツラってなんだよぉ!」
ドンッと、壁から音。
真央、立ち止まり、壁を訝しげに見て、
真央「(ぽつりと)……カツラ?」
真央、小首をかしげて歩き出し、リビングの向かいにある座敷の戸を開ける。
○ 同・座敷
薄暗い部屋に、廊下の明かりが差し込んでいる。
真央、入ってきて照明の紐をひっぱる。
部屋の奥隅に、仏壇がある。
真央、仏壇の前に正座する。
真央「(キョロキョロと)火~、火~、……あった」
経机の端にあるチャッカマン。
真央、それを手にし、チャッカマンで直接、線香に火をつける。
線香立ての鉢に、線香を立てる。
チーンと鳴らし、合掌。
真央「(目を閉じ)今日も1日平和でした」
仏壇に、父親と思しき人物の遺影。
真央「(目を開け)よしっと」
立ち上がる。
○ 同・リビング前の廊下
空舞台の廊下。
智也の声「もういい、わけわかんねぇ! 真央に聞くわ!」
真央、座敷から出て来る。
智也、ペンと原稿用紙を持ってリビングから出て来る。
真央「智兄、うるさい」
智也「あ、真央。ちょっと助けて!」
真央「なぁに?」
智也「マッチを題材にしてシナリオ書かなくちゃいけないんだ。なんかいいアイディ
アない?」
真央「マッチ? ……マッチ」
智也「そうそう。マッチ」
真央、指をアゴに当てて思案してから、
真央「ああ、昨日テレビで歌ってたよ」
床に、ペンと原稿用紙が落下する。
○ 同・外観
二階建てのモダンな住宅。
家の中から智也の叫び声。
智也の声「マッチってなんだよぉ~~~!」
○ 同・リビング
テーブルのイスに座っている晶子、廊下側の壁に体を向けている。
晶子「――(廊下側を見て、悪戯っぽくクスクス笑っている)」
晶子、テーブルに向き直って、リモコンでテレビを点ける。
晶子「あっ!」
テレビ画面に歌番組が映っている。
美形の中年男性(50)がマイクを握って舞台に立っている。中年男性の髪
は、チリチリの天然パーマだ。
晶子、笑顔で嬉しそうに手をふり、
晶子「キャァ~、マッチ~❤」
テレビ画面左上にテロップ。
S「♪キンキラリンでわざとらしい/山田マッチ」
中年男性、流れている曲に合わせて歌い出す。
中年男性「キンキラリンでわざとらし~い♪ わざとらし~い♪」
○ タイトル「ミスマッチ!」
[END]
【シナリオ】 ミスマッチ! のうみ @noumi
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