ミスマッチ!

○ 智也の家・外観(夜)

   二階建てのモダンな住宅。


○ 同・浴室

   妹の真央(15)、風呂イスに座り、ボディソープで体を洗っている。

真央「♪~(鼻歌を歌っている)」


○ 同・リビング

   テーブルの上に広げられた白紙の原稿用紙と、シナリオ学校のプリント。

   食器を洗う音が聞こえている。

   智也ともや(19)、テーブルに座り、ペンで用紙をトントン叩きながら唸ってい

   る。

   シナリオ学校のプリントの文字。

   S「20枚シナリオ課題:マッチ本来の目的とは違った使い方をすること」

智也「う~ん……う~ん……」

   母の晶子あきこ(46)、台所で食器を洗っている。

晶子「はやくトイレ行ってきなさーい」

智也「ちげーよ、うんこじゃねーよ!」

晶子「おしっこでしょ」

智也「(イラつき)ちげーって……」

晶子「おなら?」

   智也、勢い良く立ち上がり、母に向かって原稿用紙を見せつける。

智也「ああもう、邪魔すんなよ! シナリオスクールの課題だよ、課題! 明日提出

 なのに全然思いつかねぇの!」

   と、溜息をついて座り直す。

   水道の水が止まる音。

晶子「なになに? 課題って?」

   と、ニコニコ興味ありそうにテーブルに来て、智也と向い合って座る。

智也「あぁん? 短いシナリオ書かなきゃなんないんだけどさ、題材がマッチなの」

晶子「マッチ?」

智也「(鼻で笑い)古いんだってぇ~の。マッチなんて今どき見るのも珍しいだ 

 ろ?」

晶子「マッチなら昨日テレビに出てたわよ」

智也「え?」

晶子「この頃またよく見るようになったじゃない」

智也「うそ、マジで!? なんで? 流行ってんの?」

晶子「今日も出てるかも」

   と、テーブル上のリモコンを取り、テレビの電源を入れる。

   テレビ画面の映像が、

   バラエティ番組、

   野球中継、

   テレビドラマ、

   ニュース番組、

   と、次々切り替わったあと、電源がオフになる。

   晶子、リモコンから手を離す。

晶子「ざんね~ん」

智也「なんだよ、ネタになるかと思ったのに……(母を見て)昨日マッチが出てた番

 組ってどんなの? あ、刑事ドラマとか?」

晶子「ドラマじゃないわよ、歌番組」

智也「うた……歌番組!?」


○ 同・浴室

   真央、湯船に浸かり、タオルでクラゲをつくって遊んでいる。


○ 同・リビング

   テーブルで向き合っている智也と晶子。

晶子「なに驚いてるの?」

智也「え、だって、えぇ? 小道具とかで使われてたってこと?」

晶子「失礼ね。歌ってたに決まってるじゃない」

智也「はあ? マッチが歌うわけねぇだろ」

晶子「(キョトンと)歌わなかったらマッチじゃないでしょう?」

智也「……(困惑で顔をしかめる)」

   晶子、マイクを握るしぐさで、ウキウキと歌いはじめる。

晶子「キンキラリンでわざとらし~い♪ わざとらし~い♪」

智也「…………」

   しかめっ面のまま立ち上がり、晶子の元へ歩み寄っていくと、晶子の肩に手を

   のせる。

智也「(真顔で)母さん」

晶子「なに?」

智也「病院行こう、頭の」


○ 同・浴室の脱衣所

   下着姿の真央、パジャマのズボンを履いている。


○ 同・リビング

   テーブルについている晶子。傍に立っている智也がいきり立っている。

智也「だからマッチだよ! 頭こすって火を出すだろう!?」

晶子「(目を皿にして)マッチって手品ができたの?」

   智也、自分の額をおさえる。

智也「……(厭きれ厭きれ)手品じゃなくてほんとに火が出るだろって」

晶子「だから頭も、毛がチリチリなのねぇ」

智也「〝も〟ってなんだよ。……毛なんかないよ、つるつるだよ」

晶子「えぇっ!? じゃあ、あれカツラ!? ……お母さん知らなかったわぁ」

   智也、リビングの壁によたよた歩いて行く。

智也「(嘆き声)カツラってなんだよぉ!」

   壁に頭突きを食らわす。


○ 同・浴室前の廊下

   パジャマ姿の真央、タオルを頭に載せ、濡れた髪を拭きながら浴室から出てく

   る。


○ 同・リビング前の廊下

   真央、タオルで髪を拭きながら歩いてくる。

   と、リビングから智也の声。

智也の声「カツラってなんだよぉ!」

   ドンッと、壁から音。

   真央、立ち止まり、壁を訝しげに見て、

真央「(ぽつりと)……カツラ?」

   真央、小首をかしげて歩き出し、リビングの向かいにある座敷の戸を開ける。


○ 同・座敷

   薄暗い部屋に、廊下の明かりが差し込んでいる。

   真央、入ってきて照明の紐をひっぱる。

   部屋の奥隅に、仏壇がある。

   真央、仏壇の前に正座する。

   経机きょうづくえに乗っている線香入れから、線香を一本抜き取る。

真央「(キョロキョロと)火~、火~、……あった」

   経机の端にあるチャッカマン。

   真央、それを手にし、チャッカマンで直接、線香に火をつける。

   線香立ての鉢に、線香を立てる。

   チーンと鳴らし、合掌。

真央「(目を閉じ)今日も1日平和でした」

   仏壇に、父親と思しき人物の遺影。

真央「(目を開け)よしっと」

   立ち上がる。


○ 同・リビング前の廊下

   空舞台の廊下。

智也の声「もういい、わけわかんねぇ! 真央に聞くわ!」

   真央、座敷から出て来る。

   智也、ペンと原稿用紙を持ってリビングから出て来る。

真央「智兄、うるさい」

智也「あ、真央。ちょっと助けて!」

真央「なぁに?」

智也「マッチを題材にしてシナリオ書かなくちゃいけないんだ。なんかいいアイディ

 アない?」

真央「マッチ? ……マッチ」

智也「そうそう。マッチ」

   真央、指をアゴに当てて思案してから、

真央「ああ、昨日テレビで歌ってたよ」

   床に、ペンと原稿用紙が落下する。


○ 同・外観

   二階建てのモダンな住宅。

   家の中から智也の叫び声。

智也の声「マッチってなんだよぉ~~~!」


○ 同・リビング

   テーブルのイスに座っている晶子、廊下側の壁に体を向けている。

晶子「――(廊下側を見て、悪戯っぽくクスクス笑っている)」

   晶子、テーブルに向き直って、リモコンでテレビを点ける。

晶子「あっ!」

   テレビ画面に歌番組が映っている。

   美形の中年男性(50)がマイクを握って舞台に立っている。中年男性の髪

   は、チリチリの天然パーマだ。

   晶子、笑顔で嬉しそうに手をふり、

晶子「キャァ~、マッチ~❤」

   テレビ画面左上にテロップ。

   S「♪キンキラリンでわざとらしい/山田マッチ」

   中年男性、流れている曲に合わせて歌い出す。

中年男性「キンキラリンでわざとらし~い♪ わざとらし~い♪」


○ タイトル「ミスマッチ!」


[END]

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【シナリオ】 ミスマッチ! のうみ @noumi

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