ファーストコンタクト其の参
エアリスと名乗った女の子は目に涙を溜め体をプルプル震わせている。
「あぁ、逆、どうするよあれ。」
「面倒が大きくなる前に助けるしかないだろう。」
「そもそも、あいつが遅れなきゃこうはならなかっただろ。無視してもいいんじゃないか。」
「まず取り引き場所が彼女しか知らないから彼女は必須だ。それに彼女よりも覆面が来なきゃこうはならなかったと思うが。」
「あぁ、まぁ、確かにそうなんだが。なんだ、あいつら鷹の爪だっけか?安っぽいテロ集団だろ。一掃して早く仕事済ませたいんだが。」
「片翼の鷹だな。なんとも子供っぽく稚拙な名前だ。聞いたこともない。」
机の下で行われる密談は静かな店内にしっかりと伝わっていた。
人質に取られている元客は勿論、覆面3人にもエアリスにもしっかりと聞こえている。
「そこ2人、立ち上がれ。さっきから言いたい放題だな。先にぶっ殺すわ。周りも見ておけ、俺らが本気だってな。」
指示された2人は覆面の正面に堂々と立ち上げり気だるい顔を見せていた。
逆は思い出した様に自分の席から、持ってきていたアタッシュケースを開けて1着のコートを道標に渡す。
その動作には恐怖や不安など一切ない、自然で日常の一部と何ら変わらないもので、そのまま退店する気満々だった。
「てめぇら、舐めてんな。そのままあの世に送ってやる。」
1人が道標に銃口を向ける。
「恨むなら政府を恨みな。俺らは今の国を変える英雄になるんだからな。」
1人はエアリスに向けた銃を握り直す。
「ガキの頭吹き飛ぶとこ見とけよ、腐った政治家ども!」
1人は配信用のカメラに怒鳴りつける。
道標は渡されたコートに腕を通して静かに笑っていた。
新しい玩具でも見つけた子供の様なその目は覆面3人を写す。
「はっ!なんだそのだっせぇ服!!ポケット縫い合わせて作ったのかよ。」
道標のコートは全てがポケットで覆われたもので、コートを着ると言うよりもポケット塊を着ていた。
そのうちの1つに手を入れ、今度は不機嫌そうに3人を見る。
「わっかんねぇかなー、このセンス。わっかんねぇだろうな。ボディーガード界のファッションリーダーのセンスだぜ?」
「は?ボディーガードだぁ。てめぇが要人警護ってか。じゃあ、銃弾に飛び込んでさっさと死んじまいな。」
45口径の弾丸は道標の額へと撃ち出され、その頭を粉砕すると誰もが思った。
「きひひひ!!ばっかじゃないの!?ボディーガードも知らねぇでテロとはね。」
銃声が止む頃、聞こえたのは悲鳴ではなく道標の元気な笑い声。
「なんで生きてんだよてめぇ!」
2発目の銃弾は道標の目の前で軌道を変えて直ぐ後ろの壁に命中していた。
「当たんねぇよ。何発撃っても当たんねぇよ。流石にこのナイフ1本じゃあ、2発流すのがせいぜいだけどよ。」
右手には大きく折れ曲がった1本のナイフが握られていた。
「弾を弾きやがった・・・。」
「おい、その女ぶっころs」
覆面の1人の首に大きな衝撃が襲った。
自分で確認することもなく静かにその場に倒れて、床に綺麗な赤い血がゆっくりと広がっていく。
「ストライク!曲がったナイフも投げれば刺さるんだな。」
「くっそが!!今すぐ殺す!!」
エアリスに向いていた銃口が道標に向けられる頃には、その腕に2本目のナイフが深く突き刺さっていた。
「はいはい、噛ませ犬諸君もういいわ。」
「んだっ・・・」
エアリスを抱えていた覆面も首から血をあたりに巻き散らせながら床に倒れる。
そこには血で覆われた可憐な少女がナイフを手に笑っていた
「なんなんだよお前ら、誰なんだよなんなんだよ!」
「俺か?ボディーガード会社『虹凪』の赤凪道標だ。」
「ボディーガード会社・・・。」
覆面は腰を抜かし、ただただ床に座る事しか出来なくなっていた。
逃げる足も銃を持つ手も震え、目は化物を見るように怯えていた。
「あぁボディーガードって名前の殺し屋な。」
逆が覆面の持っていた銃を取り上げ、持ち主に向ける。
「まぁ気すんなよ。じゃあな噛ませ犬。お務めご苦労さん。」
fortissimo~虹凪~ @nagisahisa
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