ファーストコンタクト其の弍

「そうだな・・・きょうとかにあちゃんとか・・・。」


「響はねぇよ!あいつより俺はできるからな!!」


 席から立ち上げり声を荒らげる。


 店の客が道標に注目する中、逆は本を閉じて静かに呟いた。


「やめてくれ、恥ずかしい。」


「いや・・・く、コノヤロウ、覚えとけよ。」


 道標はふてくされたようにヘッドホンを着けて窓の外を眺め始める。


「・・・にしても、彼女遅くはないか?」


 逆の問も道標には届く訳もなく、逆は本を閉じて振りかぶる。


「ちょっ、わかっ、待て待て待て!!なんですか、なんでしょうか逆さん!!」


 偶然それが目に入るやいなや、ヘッドホンを外して逆の手を抑える。


「聞こえているなら返事をしたらどうだ。彼女、待ち合わせの時間を10分ほど遅れているが。」


「あぁ、あいつ道に迷ってるかもな。元々30分くらいは遅れて来るような奴だし。」


「はぁ、うちの会社にまともな人材はいないのか。」


「とりあえず俺は来るまで音楽聴いて過ごすから、用があれば肩を叩いてください。」


 それから30分ほど時間が経っただろうか。


 外を眺めていると、青髪のツインテールの女の子が目の前を通り過ぎた。


「・・・あいつ、気づいてないな。」


 ポケットから携帯を取り出そうとすると肩を叩かれた。

 ヘッドホンを外し逆に目をやるが、そこに逆の姿は無い。


「あ?逆ぁ、おぉい。肩たたいたよな・・・。」


 ヘッドホンを掛け直そうとすると後頭部に何かが当たった。


 ゆっくり振り返ると見覚えのあるL時の黒い塊が目の前にあった。


「・・・はい?」


「しゃ、が、め。しゃがんで机の下に入れ。何回言わせる。」


「すんません。」


 道標が指示に従うと、男はレジの方に戻っていく。


 机の下には逆が手を頭に挙げ小さくなっていた。


「はぁ、ヘッドホンの音量は控えめに、耳と周りに気を使って。」


「どこのポスターだそれは。つぅか、何、あれ。」


 レジにいる3人の覆面を指さして素朴な疑問をぶつけてみる。


「客に見えるのか?」


「客に見えなくもないな。」


「そうか、撃たれて死んでくれ。」


「まぁ、待てよ。なんだ、強盗って雰囲気でもねぇし・・・。そうか、金じゃなくドーナッツ目的か!!」


 その瞬間、銃声と共に道標の近くの床に大きな穴が空いた。


 客の悲鳴と共に覆面の怒号が轟く。


「うっせーぞ!!糞ガキ!!てめぇの頭吹き飛ばすぞ!!」


「んだとコラァぶっ」


 怒鳴り返そうとした道標の口にドーナッツ用のナイフが飛び込んで来た。


 喋っている途中だった口はナイフに強く噛み付いてしまう。


「んだよ逆。」


「僕じゃ無いが静かにしておいた方がいいぞ。目立って得はない。床の銃痕見てみろ、45だ。比喩ではなく、文字通り頭が消し飛ぶぞ。」


「45口径!?んだよ、あれ44か?ちげーな、デザートイーグルか。どっちにしろ関係ないだろうが。」


「目立って得はないと言っているだろう。」


 覆面は天井に向けて1発銃を撃ち、自ら名乗りをあげ始めた。


「我らは反政府団体、片翼の鷹だ。本日受理される分領法案を強く批判し撤回を求める。お前らにはこれより、政府がこの法案を撤回するまで1時間に1人、尊くも意味のある犠牲になって貰う。これはネットにライブ配信し逐一犠牲者のえい。」


 そこまで言いかけた時、入口の自動ドアが開いて入店音が虚しく鳴った。


 入って来たのは青髪ポニーテールのアメリカ系の女の子。


「やっちまったな。」


「あぁ、僕も危惧・・・いや、もう予見していたと言っても過言ではない。」


 覆面たちは目配せで、お前鍵閉めてなっかのかよ、とお互いにやりあったところで銃口を彼女に向ける。


「Ah、わたしもしかしテ・・・やらかしてしちまっテやがりマスでしょうカ。」


 片言の日本語は覆面には理解できなかったようで、彼女は抵抗もできずに覆面の腕の中に収まっていった。


「エアリス、いまピンチnow。えっと、Because・・・Help meですネ。あ、タスキを求めてまス。」


「誰も繋げねぇよ・・・。」


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