fortissimo~虹凪~

@nagisahisa

ファーストコンタクト 其ノ壱

 場所は某有名ドーナッツチェーン店

 学生やカップルが席に座り談笑している中、周りとは不釣り合いな男2人が窓際で向かい合わせで座っていた。


 髪の長い男は数個のドーナッツとコーヒー並べて本を読み、 もうひとりの男は、山盛りのドーナッツを目の前に置いて、ヘッドホンで音楽を聴きながら両手でルービックキューブをカチャカチャ動かしている。

 2人は会話もするわけでも無く、ただ自分の時間だけを過ごしていた。

 いっこうに揃う気配のないルービックキューブと、残りのページが少なくなっていく本。


 ようやくルービックキューブの男が手を止めてドーナッツ手を伸ばす。

 が、なかなかドーナッツが口に運ばれないので、本の男が口を開いた。


「・・・おい。」


 声をかけてはみたがヘッドホンが邪魔をして彼には届かない。


「おい、道標 みちしるべ。」


 少し声を大きくしたが反応はなく、道標と呼ばれた彼の目は学生が座る席だけに集中している。

 本の男が学生を確認、ゆっくりと本を閉じて大きく振りかぶった。


「痛った!はぁ!?」


 景気良い爽快な音と共に本は彼の頭にクリティカルヒット。

 たまらずヘッドホンを外し本の男睨みつけ。


「なにすんだよいきなり!!俺の天才的脳みそがこんにちはしたらどうすんだよ!」


「よそ見しているお前が悪い。2回ほど声もかけた。僕は悪くない。」


「あぁ、100歩譲ってよそ見は俺が悪くて、1000歩譲って さかの声に気付か無いのも俺が悪いとしよう。でもな、何歩譲っても背表紙で殴られた事には納得いかねーぞ!普通表紙だろうが!!」


「少し静かにしてくれ、周りに迷惑だ。・・・で、あそこの学生になんにかあったのか。」


 逆は本を再び開いて何事も無かったかように読み始めた。


「いや、あそこの席の女の子がよ、ずっとお前をみているからな。」


「ほぅ、女の子がか。」


「そう、女の子が。んでよ、携帯でな、写真を撮り始めたから目で威嚇していたんだ。」


「なぜ威嚇を。」


「こんな奴の写真撮って趣味が悪いんじゃないか?お前の目大丈夫か?携帯の容量勿体無いぞってな威嚇を。」


「ふむ、どうやら僕は、お前の脳みそにこんにちはと挨拶をしなくてはいけないらしいな。」


 道標は慌てて両手で白羽取りの構えをつくり、逆を目で挑発する。

 勢いよく本が閉じられ、つられて道標の手も軽く動いた。


「なんだ、道標。新しい宗教か。」


「てめぇ、そこは叩きに来いよ。俺が恥ずかしいだろ。」


「知らないな。」


 逆は本を置き、ルービックキューブを手に取って観察を始める。


「お、お。逆できんのかよ。俺でできないんだ、お前の脳でできっがっ。」

 

 顔面に投げつけられたルービックキューブは綺麗に完成されていた。


「お前はいちいち俺に暴力を振るわなきゃ生きていけないのか?あ?パワハラで訴えるぞ。」


 机に転がるキューブを拾いなおし、再びバラバラにする。


「上司に言葉の暴力を振るう部下に、肉体的暴力・・・いや、教育的調教をしたら訴えられるのか。それは初耳だ、覚えておこうか。」


「もっと教育のできる上司を連れてきてくれねぇか。」


「もっと仕事のできる部下を連れて来ればよかったな。」

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