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 みづきと巴瑞季が茶室を後にし、和史だけがそこに残った。

「危機感のない馬鹿だけど邪魔にならなくていいよね、あの二人は」

淳史が小さく鼻歌交じりにそんなことを言う。

「青については悠人のところを潰せれば大丈夫だろう。隼人は学園内にいないから何かしてくるとは考えにくいし。赤についても葵はほとんど三年生の宝石人種ジュエロイドを維持するだけで精一杯だし、琉はまだ高校にあまり登校していないようだしね。この間に転入生は二人とも確保しておきたいな」

「桐吾はどうする」

「あいつは生徒会勧誘の体からは離れられないから、ここから大きく動くことはないよ。プライドが無駄に高いから必死こいて宝石人種ジュエロイドを集めることはしません、っていうスタンスだし」

淳史は立ち上がると茶室の窓を開けた。夜風がすっと部屋の中に入ってくる。

「でもどうする。二人石持ちが増えたところで晃には全然勝てないぞ。あいつもう石持ちだけで十五人くらいはいってるんじゃないか」

三条家長男・晃はもともとコレクターのように収集品として宝石人種ジュエロイドを集めることに積極的だった。石を持つ人間を集め、手近なところに置き、自分の手でトランサーに引き上げる。晃は照彦の十人の孫の中で一番照彦に似ているといわれ、かつ彼の初孫ということでかなりのお気に入りでもある。

「ああ、それについては心配ないさ。俺に考えがあるから、和史は引き続きステージは問わずにバッチを付けていない生徒を中心に勧誘を続けてくれ」

淳史は和史に向けてにっこりと笑った。淳史は弟が笑顔を向けるだけで口答えをしなくなることにだいぶ前から気づいていた。

「もう一度、茶を点てる練習をしたい。和史も付き合ってくれるか」

淳史がそういうと、まるで茶など嗜むようには見えない不良が小さくうなづいた。


 淳史は棚から茶筒を取り出し、茶杓で抹茶を掬って茶碗に落とし……和史が見ていない隙に袂から薬包を取り出した。抹茶の上に白い粉末をふりかけ、そこに湯を入れる。茶筅で丁寧にかき混ぜると、その粉末は抹茶とともに溶け、綺麗な緑の抹茶が出来上がった。

 淳史が和史に茶碗を差し出すと和史は姿勢を正してそれを受け取った。左手に茶碗をのせ、右手を添える。茶道としてではなく単純に淳史の茶を点てる練習に付き合っているだけで、作法にのっとった飲み方などしていないが、昔自分も習っていた時の癖なのか、茶碗を持つときだけは姿勢を正すようになっていた。

 弟が静かに茶を飲み干す様を淳史は満足げに見つめる。

 ——ああ、本当に扱いやすくていい。

 目を細め、口角がいびつにゆがむ。

 ——愚鈍な兄と、馬鹿な妹と、そして間抜けな俺の弟。

 何かを盛られたことにも気づかずに和史は茶碗を戻す。兄が笑っているのに気づいた彼は、普段のいかつい表情からは想像できないようなやわらかな微笑みを淳史に返した。

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