第2話
2018/03/21/00:29:38
USA,Waikiki
「ハァ、ハァ、ハ・・・・・!」
走ったわけでもないのに、緊張で息が上がる。この感覚は何度やっても慣れない。
―大丈夫、大丈夫だ。変装だって完璧だ、警備員の奴らも難なく騙せたじゃないか。大丈夫。バレやしない。
だが、この規模の家に這入るのは流石に初めてだ。
それに、すぐ近くに金の匂いがするとなると否が応でも鼓動は高まる。
―だが全ては上手く行っている。もはやこの家に主はいないんだ、誰にも見つからないさ。
そう思わなければやってられなかった。
彼は自覚していないが、「この手の職業」を生業とする者の中ではまだまだ素人なのだ。
―確か、この先だったはず・・・・・
「・・・・・?」
目的のモノを探す途中、彼は事前に調べた見取り図にない廊下を見つける。
それがただの部屋に繋がる廊下でない、と今までの経験で培った感覚が告げている。
(・・・・・なにより、普通に調べただけでは分からないってこたぁ、隠したい何かがあるってことだろうしな)
計画変更、怪しげな部屋に向かう。
「こりゃあ・・・・・」
向かった廊下の突き当たりは、地下室だった。しかもただの地下室ではない。これは、恐らく何かの研究室だろう。異様に清潔な部屋、無駄が一切存在しない調度は、その全てが最新鋭の電子機器のようだ。これを全て売りに出したらいくらになるだろう。
早速、運びやすくてそれなりに高そうな小型の機械に手を伸ばす。
―それが、この部屋全体の生体認証装置であると気づかなかったのは、この手の機械に疎かった彼の不運だろう。
<警告>
<警告>
突如、ブザーが鳴り響く。
鳴り止まぬ警告音。
「んなっ・・・・・!?」
<侵入者>
<侵入者>
しまった。
気づいた時にはもう遅い。
―やば、逃げっ・・・・・
「痛ッ・・・・・!!」
急いでその場を去ろうとした腰が、何かにぶつかる。
途端、ぶつかった机の引き出しが開き、中から現れたのは―
整然と並べられた、薬品と思しきサンプルの数々だった。
(せめてこれだけでも・・・・・!!)
金になりそうなモノならなんでも良かった。
しかし、そう思って手にした一握りは、儚く手を滑って机の上で割れる。
<警告>
<警報>
<警告>
<警報>
<侵入者>
<汚染>
<侵入者>
<汚染>
「汚染警報・・・・・!?」
―零したらまずいやつだったのか!?
―じゃあなんでこんなトコに仕舞うんだよ畜生!!
・・・・・そして、彼は気づく。
その、「零してはいけないもの」の雫が、自分の顔にかかっている。
それを、無意識に手で拭っていた。
<隔壁閉鎖>
<隔壁閉鎖>
強化ガラス製の隔壁が即座に閉まる。
―しまっ、出れな・・・・・!?
その時、男は身体の異変に気づいた。
頬と左手の甲。
初めはただのかゆみ。
ところが徐々に痛みに変わる。
その二箇所を起点として、身体のあちこちがむくんでくる。
「・・・・・?―!――!!」
途端、形容しがたい痛みが全身から湧き上がる。
「ああアアぁぁあァァ!?出して!出してくれ!!」
必死にガラスを叩き、殴り、体当たりをする。
だが割れない。
当然だ。
簡単に割れては隔壁の意味がない。
痛みは次第に激しくなり、もはやじっと立つこともできなくなった。
「ー― ̄‐__= ̄‐ー―ー ̄‐ ̄≡_―!!」
言葉にならない悲鳴。
全身の痛みを誤魔化そうとのたうち回り、暴れ回る。
その度に手が、足が何かのボタンに当たり、引き出しに当たり、機械に当たり、器具に当たり、中身が飛び散り、それでもア暴れ回ル。
当然身体の痛ミガ消えるわケはナクムしロ際限なク高マリ、細胞ガ腐って痛イ頭が痛イ腹ガ痛イ痛イイタイイタイ怖イイタイコワイイタイコワイシニタクナイイタイコワイシニタクナイイタイコワイシニタクナイダイコ滕クイシニタクナイイタイコバイシニダクナイヤイ滸ワイシニタクナイ巍ィコワイシ邇ァタクナイイタイコワイ鵺ヒィニタク毋ハイァ斷ァイコワイシ黹ゥタクナイイ儺ガイ戀ン龢スィシ貳ャ蛻鬮ヒ痿ゥヤ臺シ胰ザ砣ァ蘓クィ歸ャ燾ワ--------------------------
愚かな男は、ここで一つの人生を終えた。
そして、これが全ての始まりだった。
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