第44話 エピローグ
世界規模で行われた遠くない未来のカグラによって引き起こされた魔族大戦もようやく終結を迎えた。
残された人口の数は、地球全体の三割近くの犠牲で済んだとシキが解析してみせたが、救えなかった人数をそう簡単に納得出来るわけもなく、都市全土も壊滅的である。
アマツの抱えた孤児院の子供達や途中で回収出来た人間が、全員生き残ってくれた事が唯一の救いだったのかもしれない。
騒動の終わりを知らせる為に全国に向けて、電波を発信するが信じ難い者もそう少なくはない。
未だに地下で生活している人達を救助する名目で、カグラ達は部隊として支援物資を各地に届けていた。
ー騒動から三年後ー
世界が落ち着きと再建に満ち溢れていた中で、カグラとイヅナは昔からの夢を叶えるように小さな教会で、誓いを果たすように結ばれていた。
最初は、ルリやクーデリアと対立をするようにイヅナが身勝手ながらも強行の意志を示していたが、カグラ本人の説得により、何とか了承を得ること出来たのだ。
どちらが新郎なのかと尋ねられると、ウエディングドレスに興味がないというイヅナの意見から、カグラ本人が着る事になったわけだがーーー。
「イヅナ、その格好じゃ学生と間違えられるよ?」
「正装の筈ですが。何処かおかしいでしょうか?」
衣装を用意したシキに勧められたと言っていたが、その姿は中学生のような容姿に見合った学生服そのものだった。
イヅナ自身は余り気にしていないようだが、むっーっと頭を悩ませていたカグラのデバイスから、データを移植させる事を決意すると体格に合わせて改善させる。
「これでいいかな。私の昔のお下がりだけど、イヅナに似合うと思う」
「カグラが良いと言うなら咎めません。私は今日から、カグラの物なのですから」
イヅナに着せた黒いドレスでは、少し背伸びと言う人もいるだろうが、彼女も女の子なのだとカグラは素っ気ない態度をしていた相手をそっとお姫様抱っこする。
そのまま全員の待つ教会の中へと入っていく。
流石にカグラが抱き上げている事に恥ずかしさが少しはあるのか、身動き一つせずに神父(シキ)の前で、ゆっくりとイヅナを降ろす。
「双方の意志を確認する。カグラ、イヅナをこの先ずっと愛する事を誓うか? 俺が恋しくなったら、いつでも帰ってくるんだぞ? 兄は常にお前を監視しているのだから、体調不良となれば仕事を放り投げてでも看病にーーー」
「誓います。兄様、儀の最中です。殴られない内に終わらせてくださいね?」
子犬が主人に悲しい目を向けるようにシキが、カグラに対する世話好きな部分を見せていると、イヅナが神父の脛を蹴りながら拳を握りしめていた。
「あー、イヅナはどうだ? クーデリアとお似合いだと思うが、カグラと結婚したいかー?」
棒読みでやる気のない神父と、周りから野次が飛び交う中、聞かれた本人も殺意の目を向けているのかと思えば、耳まで真っ赤になる程にイヅナは静かに下を向いていた。
「もしかして、イヅナちゃんって本番に弱いタイプ?」
「ふっふっふ。所詮はイヅナちゃんは子猫という事です! 眷属よ、今こそ我が繁栄の為に尽力を!」
目の前で見ていたルリとクーデリアが更にプレッシャーを掛けると、やれやれといったように、その様子に一同が見入っていたのだろう。
暫くの間、沈黙を保っていたイヅナの口が少しずつ開いていく。
「本当に私でいいのでしょうか? 私はカグラに何かをしてあげられるのか心配になってきました。た、確かに一番にカグラを思っています。昔は飼い主のような親近感でしたが、今はーーー」
「......兄様。式を中断します。後処理はお願いします」
イヅナの様子を見つめていたカグラもため息をついて、シキの姿を見て微笑む。
その後に指を鳴らすと、空間に裂け目が発生して、中からシラユキが姿を現すとイヅナを連れて、その中へとカグラは入っていく。
全員に申し訳ないと手を縦に向け、シラユキの作ってくれた道を通って、過去の時間軸にタイムリープする。
場所は同じ教会で、夕暮れ時の心地の良い風が吹き抜けていた。
「ありがとう、シラユキ。こんな事で呼びたてしちゃって、ごめんね?」
「いいのです。私はお父様に救われ、その上で消える筈だった命を皆さんの歴史を見守る観測者と成れただけでも幸せ者ですので、いつでも呼んでくださいな」
そう言い残すと再び、次元の裂け目から時間軸の監視へと戻っていく。
シラユキの命は、未来のカグラが消える直前に権限を持ち主に戻した結果ともいえる。
それ以来、大掛かりな事件が起きる度に先の未来から予報のようにシキに詳細を送るという役割を仰せつかる事に本人も使命感を得ているのだろう。
「さてと......」
イヅナは目を回しながら、前日の夕方に戻った事に気づいていないようで、未だにガタガタと震えて爆発寸前といった様子。
見兼ねたようにカグラは、イヅナの手を引いて教会の外へ連れ出すと芝生の茂る丘へと相手を連れ込む。
ウエディングドレスから、いつもの戦闘服へと姿を変えると無防備のイヅナの額に向けて、デコピンを強めにバチンと打ち込む。
「いっっっ!?」
額を押さえながら泣きそうになっていたイヅナに、追撃といわんばかりに肌が露わになっている部分にデコピンを何度も打ち込もうとカグラは、寄っては打ってを繰り返し続ける。
「な、何をするんですか!?」
やっと正気に戻ったように蹴りで、カグラの腕を受け止める動作をしていた。
「イヅナにアドバイスをあげよう。そのドレスで蹴り上げはしない方がいいかな」
カグラが指摘した意味。
それは、関節を上に向ける程に着ているドレスの性質から下着を隠せず、履いている物がどんなものだか、しっかりと相手に見えてしまうというものだ。
「み、見ちゃ駄目です!!!」
言っている意味を理解したように回し蹴りで、カグラと距離を得るように蹴り飛ばした相手に見られないようにしっかりと、生地を押さえながら赤面をしていたイヅナだったが、普段通りに戻った事がわかった。
困った顔をしながら、イヅナに近づいていくカグラに身構えた小さな子猫の腕を引いて、ゆっくりと唇を重ね合わせる。
昔に戻ったように協力していた合宿の頃を思い出させる。
あの頃に比べて、二人の間にどれだけの愛が育まれたか。
「でも私達も重大な事の前は、いつもこんな事ばっかりでしたね......」
カグラから離れて、背中を向けていたイヅナは沈んでいく太陽を見つめていた。
初めて出会った時の事、二人で試練を乗り越えた事、裏切った先に和解を求めた事、道を外した時に路線を戻した事。
それからも裏からサポートしてくれていたイヅナに仲間以上の感情が生まれていた事は、頬を赤く染めながらも振り返って、カグラを見つめてくれていた彼女の目を見て、理解出来ていた。
「さっきの答えね。私なんかじゃないよ。私はイヅナじゃなきゃ駄目なんだ。だから、これからも一緒に歩んでいこう」
「ーーーはい」
二人は手を繋ぎ、煌めく空を見つめる。
小さな頃に家族と見上げた星空と似た輝きをしていたその空に願った事を今更ながら、思い出すのだった。
「私ね。小さな頃、お父さんとお母さんが羨ましかったんだ。私達が宝物だって言うのに、それ以上に仲良しで。だから家族ってものが欲しいって流れ星に願ったの」
「願いなんて、とっくに叶っていたじゃないですか。私に限らず、みんなが家族です。そんなカグラが昔は私も羨ましかったのですよ?」
懐から小さな小箱をカグラは取り出す。
中身を開けて、イヅナの左手の薬指にはめ込んで、本当の意味で結婚を果たした事を証明してみせる。
「ううん。私にとっての特別は、いなかったから願いは今、叶ったんだよ?」
残った指輪を相手に渡すと、左手を差し出して微笑んでみせる。
小さな声で「馬鹿...」と呟いたイヅナもしっかりと奥まで、はめ込んだ薬指の指輪を見て、赤く顔を染めていた。
「でも子どもは作れないですからねーーー」
「それでも私は構わないよ。それにもしかしたら、また流れ星が叶えてくれるかもしれないからね?」
静かな風に髪を揺らしながら、芝生に座り込んで目線を合わせたカグヤも幸せそうにイヅナを見つめていた。
イヅナもそう願いたいように隣に寄り添いながら、彼女自身から愛を伝えたかったのだろう。
二人の口付けに祝福を送るように無数の流星が流れる。
幸せな未来が到来(アドベント)する事を。
流星のアドヴェント ~魔装少女の回旋曲~ 兎城宮ゆの @yuno_ushiromiya
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