第40話 第二章 未来烙印編 -決戦の火蓋-
雲を抜けた先は晴々とした景色が広がっているのだろう。
決戦を控えた今日は、風も吹かずにただただ決戦を前に静かな時間だけが過ぎていた。
彼女が何者であろうと考える必要はない。
私は、姉を...シアを取り戻すだけの話ーーー。
「フィア、そろそろ時間だけど準備はいい?」
「大丈夫です。私より、カグラさんは自分の心配をしてください。それでなければ、全力で偽物を倒す事は出来ません」
投げかける言葉は少なくていい。心配される気持ちも要らない。
今、この時まで二人で一つだった片割れを取り戻す為。私には他には何もない。
愛も友情も何も要らない。ただ一人の家族をこの手に掴む事ーーー。
それ以外は敵でいい。それが私の本心だったーーー。
「高度2000m地点まで接近。そろそろ奴らに気づかれるかもしれないから、通信は此処まで」
ルリさんの通信を最後に現地点までの降下を待つだけとなる。
静かにただ聞こえてくる爆撃音に耳を伏せながら、弾丸のような方舟に身を任せる事にした。
ーーー
魔族の多く羽ばたいた上空に教え子を乗せた方舟は私よりも高く、打ち上がっていた。
私も後を追う準備を整え終えていた。
長時間の飛行を想定した魔力を含めた電池のようなタンクを二つ積んだ重量感のある装備に加えて、今回は背中にクーデリアを抱え込む事になっている。
それもあってか、クーデリア自身も光を想定したマントからサングラスと、一級品のヤクザのような格好を強いられていた。
「ふ、ふむ! わ、妾に相応しい格好とはいかぬが、世界の危機を守る為に已む無しだな!」
「ふふっ。別に見栄は張らなくていいんだよ?」
分かり辛いが、顔を赤くしてポカポカと背中を叩く姿に微笑む。
そのやり取りに嫉妬した様子で、ハーモニクスでシンクロしたイヅナが胸の当たりにくすぐったい揺さぶりを掛けてきていた。
「浮気は絶対に許しませんからーーー」
プイっと拗ねたように声を出していた彼女も万全といった様子を伝えているのだろう。湧き上がる魔力が今にも発散したくて、ウズウズしているのが分かる。
「調子は良いようだな。最終決戦といった装備で他がヤケになってしまった作戦だが、アマツは此処を動けない。だが、俺も順次戦線に参加するつもりだ。戦力の出し惜しみはしないが万が一、お前が落とされたら世界は終わる。頑張れという言葉は、慰めに過ぎないので、この言葉を送る。『必ず、帰ってこい』」
そう言ったシキ兄様は、私の額に軽い口付けをした。クーデリアと共に私の意識を乗っ取った拳が、兄に向かっていく光景もいつかは懐かしいと感じるのだろう。
未来はまだ視えてはいないのだからーーー。
「そろそろ時間だ。健闘を祈る」
敬礼を向けた兄様に同じく敬礼で返す一同と共に発進までのシーケンスが開始される。
「みんな、ありがとう。私は絶対に諦めない。彼女もそしてシラユキの事も。だからお願い。私に力を!」
カウントダウンと共に魔力で放出される加速ブースターにも点火された勢いのある音が鳴り響く。
正面に衝撃に備える魔力障壁を展開しながら、空へと猛スピードで飛び上がると待ち構えていた魔族の前衛部隊と遭遇する。
「有象無象が束になっても我が聖剣の前には無力である!」
クーデリアが背中から立ち上がると、古来より唯一無二の光り輝く聖剣を構えながら、通り過ぎ際に次々と剣撃を飛ばしながら魔族を薙ぎ払っていく。
「祖は、天地鳴動の剣。今此処に姿を現さん。受けるがいいーーー」
聖剣から夥しい光に釣られるように正面に束になるように集まり出した魔族に対して、放出された魔力が私から極大の一撃を放とうと吸い上げていた。
「エクス...カリバァァァアーーー!!!」
圧倒的な魔力砲撃のように放たれた剣撃に正面から敵陣までの退路が作られた。
その中を突き抜けるように加速していくと、控えていた大量の意識を魔族に奪われた魔導師達がこちらに攻撃を加えようとしていた。
どうやら高出力の魔力砲撃が、感じられないところを見ると世界各地のエースは乗っ取られていないのだと、攻撃を障壁で守りつつも反撃の出来ないこちらの体力を削るように徐々に逃げ道を減らそうと、いつの間にか魔族が囲うように集まりかけていた。
障壁に干渉して何体かの侵入を許しつつも攻撃がクーデリアに被弾しないように逃げる事で手一杯である。
「眷属...カグラさんは僕を降ろしてください! このままだと二人ともやられてしまう!」
「大丈夫だよ。もうすぐ、もうすぐだから......」
目標の地点までの間と、足部分に取り付けられた魔力を遮断するコンテナを上空に放つと、ホーミングミサイルのように魔力を感知する物体に対して、空間ごと球体のような物に閉じ込める事に成功するが、圧倒的な数に脚部に取り付けられたコンテナを全て使用しても追いつかなかった。
まるで蟻の巣の中のように渦巻く、魔族と乗っ取られた魔導師の攻撃は止む事はない。
だが、意地でも辿り着かなくてはならない。
「僕がもう一度、聖剣を撃ちます。それでこの状況は何とかなりますからーーー」
その言葉が何を意味しているかは本人が一番しているだろう。わずか12歳の少年が人殺しをしようとしている。
私を庇って、罪を背負おうとしているのだ。剣を空に向けようとした彼に私は、急に飛ぶことを辞めて宙から急降下するようにクーデリアの行動を止めようとする。
「クーデリアが人殺しをする必要なんてない。私が何とかする......」
怒った顔を感じ取ったのか、口ごもりをしながら悔しそうに大人しく背中にしっかりと掴まった彼に応えるべく、急降下した私を追う敵に二本ある内の一本のタンクを外して、中央に集まる様子を確認した上でそこに魔力弾を撃ち込む。
広がる魔力の霧のようなものに乗っ取られていた魔導師達は次々と、苦しみながら落下していく。
魔力酔いを引き起こし、人間の限界値で自滅させようと目論んだ結果が成功したようだ。数の減った状況を利用しながら、目標地点の敵陣の真下まで辿り着く。
「眷属、いやカグラよ。準備はよいか?」
「勿論だよ、騎士王様」
足場を魔力で構成した後に互いの剣を方舟に向けて構える。
それぞれが、身構えている最中に宙を見上げると目標地点まで一直線に向かうフィア達の乗った兄が開発した宇宙艇のように行きのみを想定した弾丸のような方舟が、敵本拠地に届くのを肉眼で確認を取る。
聖剣から光を放ったクーデリアに合わせて、こちらもエクセリウスに散っていった魔力を辺りから収集しつつも巨大な砲撃を放つ準備を整える。
その姿に勿論の事ながら、自らを盾にする防御に特化した魔族が列を組んで方舟の前に立ち塞がっていた。
「これが私達の希望の一手、コンビーネーションAtoZ! ディバイディングーーー」
「エクスーーー」
「「ブレイカー(カリバー)!!!」」
互いに放たれた魔力砲撃は、敵本拠地を目掛けて飛んでいく。
立ち塞がる魔族も本隊ごとに到達させると思ったのだろうが、頭上から近づいてきた宇宙艇から一人の少女が飛び降りた事に気づく暇もなかったのだろう。
白銀の髪をなびかせながら、宙を自らのXUNISを足場に軽々しく落下速度を落としつつ、方舟の前にたどり着いたその子は未来からの使者でもあり、私の自慢の娘でもあるシラユキ本人だった。
「来て!!!」
シラユキが手を翳すと空間に裂け目が生じて、私達から放たれた砲撃を反射角のように彼女の目の前から現れては、魔族の包囲網を抜いて方舟の特殊な防御膜を越えて、装甲を貫く事に成功する。
そしてーーー。
「雷神招来、ニルヴァーナ!!!」
続いて到達した宇宙艇からフィアが方舟外部に取り付いて、内部へと進撃を始める。
その様子を確認すると、希望の光が見えたのか普段は笑う事のないクーデリアも微笑んでいた。
戦況は変わらないに等しいが、フィアがきっとやってくれると信じて、今はこの戦線を維持しなければならない。
「さてと、もうちょっとだけ頑張ろうか!」
シラユキに合流するようにクーデリアを背中に乗せて、再び飛び上がると残った魔族からの集中砲撃を受ける。
ある程度の砲撃はシラユキが抑えるように空間に穴を開けて、跳ね返してみせるが魔力にも限度はある。
魔族に取り憑かれた人達も捌かなければならないこの現状を覆す為にも全ての期待がフィアに掛かっている。
だが彼女を、姉を救いたいというフィアの願いを叶える為に今はーーー。
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