第32話 第二章 未来烙印編 -不屈の心はいつも其処にある-
私は『強くなった』筈だった。
しかし、それは人智を超えているかもしれないカグラさんの前では、子供がナイフを手にした程度の力として処理されてしまう程にちっぽけな違いに過ぎなかった。
目を覚ました私の目の前には、哀しそうな顔で私の回復を待っていた師の姿があった。
違う存在なのは解っていた筈なのに、目の前にいる『この世界』のカグラさんを直視出来ずにただ悲壮感に締め付けられるように涙が溢れ返る。
優しく抱擁してくれた相手に言葉を返せず、ただ泣き叫んで自分の無力さに嘆いていた。
そんな私を慰めてくれた相手の言葉を聞きながら、泣き疲れたように再び眠りへとついてしまう。
それから暫くして、目を覚ますと目の前にカグラさんはいなかった。
面会に来たルリさんによると終審刑、つまりは永遠に監獄のような場所にリミッターという私達、魔導師には息が詰まる拘束具を着けられたカグラさんが事の解決、もしくは一生、陽を浴びる事のない檻の中という極刑に規せられていた。
魔族の進撃は止まらず、重大な戦力を失った私達の砦となる此処もすぐ其処まで敵が迫っているという。
私を除いた面々も万全ではない状態で死守に向かっているという話をルリさんの口から伝えられた時に、今の私にも何か出来ないのかと考えた。
しかし思ったように身体は動いてくれない。まるで自分で自分を抑えつけるように鉛のような重さと、無理にでも動こうとする魔力が一切働かない。
地響きのように天井から、塵のような砂が降り注ぐ。
「ここもマズい。フィアの移動を他の者に任せるから、もう少しだけ此処で待ってて。私も前線に加わらなければならないの。カグラの分までーーー」
ルリさんが病室から出て行くと数分足らずに辺りの天井が崩れ落ちて、空から篭れ射る日差しが、私の顔を照らす。
空では砲撃が飛び交っていて、助けに来れるといった状態ではない。
病室の入り口も瓦礫に塞がれて、その奥から聞こえる誰かの声に答える事も出来ない。
時間が経つに連れて、私の回りに配置していた心拍数、酸素供給をしていた装置は瓦礫の下敷きになっていく。
私は残った魔力で瓦礫から自分を守る障壁を展開するので、やっとだったのもあり、空から降り立つ黒い物体。
魔族の存在を横目で見ながら、迫る脅威に対処出来るわけもなく、ただ死を待つしか出来ない。
カグラさんは助けに来ない。
あの時とは全く、状況も環境も違う。
淵迫る中で思い出すのは、カグラさんが最後に見せた哀しい顔。
諦めたくないーーー。
私は、まだ『此処』にいる。
こんなところで死にたくない。
私はーーー。
「私は、もう一度あの人と一緒に空へ...未来を掴み取るんだ!」
胸に秘めた想いを目の前にいた魔族にぶつけるよう、雷鳴と共に衝撃波のように相手を吹き飛ばすと降り立ったニルヴァーナに跨って地上に駆け上がる。
「お姉ちゃん達は?」
辺りを見渡すと混戦した砲撃が、飛び交っているのとは別に魔力色が姉だと思わせる弾丸が後方から撃ち出されるのを確認出来た。
そして目の前に広がるは、防御を最大まで強化した障壁に守られた魔族の大群。
姿も変わっていて、普通の魔族とは別の動きが鈍いタイプのようにも見えた。
「ニルヴァーナ、私のXUNISを」
ランスロットを呼び寄せるように、遠吠えをすると転移してきた髪飾り型の待機状態のXUNISを手に取る。
「ランスロット、デバイス・オン!!!」
眩い光に包まると同時に身体にアーマーを纏うと、フォルムが前に比べて、重量感に満ちてる仕様に変わっていた。
それ程までに重く感じる事はなく、寧ろ軽すぎた旧型とは違って、凄く身体に馴染むように見据えた先には大量の魔族とやり合うには十分なくらいのテストといった位にも思えた。
「ニルヴァーナ、一緒に行くよ? Absorption Type A Ready」
ニルヴァーナの遠吠えと共に、身体に宿した雷のように高速の動きで防御を司る魔族を拳で軽く吹き飛ばすと、衝撃の余りにそのまま風穴を空ける形になった。
「これならっ、いけるッ!!!」
前面の防御を固めた魔族部隊を次々と、打撃で障壁の上から叩きつけていく。
拳で薄い板を割るような感覚で、XUNISの強化に伴う力の上昇を感じ取れた。身体も軽く、溜めていた感情を吐き出すには至高の場ともいえるだろう。
Absorptionを解いて、残った魔族に目を向ける。
知性はあるのか、一時的に混乱に陥った敵に向けての魔力砲撃が後方から放たれた事によって、自然に数がどんどん減らされていく。
打つ手がないといったように後退する魔族を、後ろに控えていたニルヴァーナが次々と切り裂いて消滅させていく。
「フィア!!!」
戦場の真ん中に佇む私に近づいてくる姉を見ながら、名前を口にしようとした瞬間に頬を強く叩かれて、押さえる間もなくシアに抱きしめられる。
「この馬鹿ッ! また一人で無茶しようとして!」
「ーーーごめん。でもカグラさんと約束したから」
シアを自分の身から離すと、広がる空に手を翳して拳を握る。
「カグラさんを取り戻す。今度こそ絶対に」
あの黒く染まってしまった彼女もきっと、拳を重ねれば分かり合える筈。
捕えられたカグラさんの力は借りる事は出来ないが、私には仲間がいる。
その日、結成された精鋭部隊『アドヴェント』は、私達の絆と恩師を救うという目的の基、侵略し続ける魔族を振り払う狼煙として、相対する敵の大将が見ているであろう空に向けて、一筋の魔力砲撃を放つのであった。
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