第30話 第二章 未来烙印編 -親子の絆-
私がこの時代に来る少し前の話です。
私の父は魔法技師である兄のシキ叔父様の研究で、神を称えたと云われる神殿に調査で私も含め、父のカグラも息が詰まりそうな張り詰めた現場に向かったのです。
そこは言葉通りに神がこの世に近寄る最先端といった場所で、私も胸が引き裂かれそうなくらいに現実には無い恐怖を感じ取っていたのです。
問題が起きたのは研究チームの一人が見つけた一体の巨人の石像が元でした。
記述になかったその巨人を解明しようと研究チームが持ち運ぼうとした時に事件が起きました。
魔導師の一人が何かに取り憑かれるようにその巨人に触れた瞬間に膨大な闇が、湧き上がると同時に触れた魔導師を吞み込みました。
巨人の姿は無くなり、吞み込まれた魔導師は人柄が変わったように私達に向けて、ある言葉を放ちながら、聖地に立ち入った人間に攻撃を仕掛けてきたのです。
『眠りを妨げし、モルガナの子らよ。神罰を持って文明を破壊せん』
その言葉に危険を感じたのか、シキ叔父様と父は私を含めた全ての調査団に撤退を命じたのです。
その時の私は、父なら悪魔だろうと神だろうと薙ぎ払うだけの力を持ち合わせていると、遠くで見つめながら信じていました。
結果は五分と五分といった様子でしたが、乗っ取られた魔導師にガタがきていたのでしょう。
操る魔力に耐え切れずに父とシキ叔父様が勝ったのです。
しかし、互いに負傷した身であった為に魔導師を包んでいた闇の警戒を怠ったのでしょう。
魔導師を吞み込んだ闇は次の礎として、父の身体を乗っ取ろうとしました。
父といえども魔力も使い果たし、意識を保つのが精一杯のようで、神殿に隠された他の巨人石像を掘り起こす為に、意思とは無関係の魔力砲撃で五つの巨人を目覚めさせる事となりました。
五つの石像から湧き上がる闇は、父の精神を蝕むように真っ黒に染め上げて、辺り一帯が憎しみ、悲しみ、怒りといった負で覆いつくされたのです。
父は変わり果てた姿で、シキ叔父様を含めた私達を見下すような目をしていました。
そして脅威となるであろう人材を父の記憶から読み取った闇は、まだ未熟であった頃の若き戦士を狩る為、この時代に狙いを定めて現れたのです。
「それが魔族の正体であり、観測班が捕らえた黒いカグラの正体ーーー」
シキが呟いた結論。それはシラユキと呼ばれる少女が何故、この時代にやってきた意味を捉えたのだろう。
そして、もう一つの結論にも至っていたように全員が顔を伏せていく。
「つまり姫ちゃんは、パワーアップした未来の姫ちゃんに関わる事は出来ずに止める手段は今のところ解決策はないという事だよね?」
おもむろに呟いたルリの一言の意味。
この時代のカグラは、未来から来たカグラに手を出せないというのが全員の脳を悩ませているのだろうが、本人は何故周りが頭を抱えているのかという事わかっていない様子だった。
「えっと......私ってそんなに面倒かな?」
わかっていないように頭を搔きながら、アハハと苦笑していたカグラの襟をイヅナが掴み掛かる。
「この世で喧嘩をしたら十本の指に入る貴女が何故、自覚をしていないのですか? 殴りますよ?」
「タイムパラドックスが起こる可能性も含め、お父様のような化け物染みた性能を誇る力を持ち合わせているのは、今のところいませんからね」
シラユキもカグラを見つめながら、呆れたように手を額に付けている。
「カグラ、お前はとりあえず待機しておけ。前線を支える双子の援護に向かうメンバーを選定して随時、送り込むつもりだがーーー」
「ーーーッ!?」
シキが前線の指揮として、情報源をまとめ始めようとした瞬間に何かを感じたようにカグラが身体を抱え込むと青ざめた表情で、口を押さえて込み上げる何かを堪えようとしていた。
「.......未来のお父様が来たみたいです。私も現場に向かわせてください」
シラユキがカグラを見つめながら、前線で戦うシアとフィアの援護に向かうと宣言して、空間移動に使われる装置に向かっていく。
「ぼ、僕も行きます!」
クーデリアが空かさず手を上げて申告をするが、意見は通るわけもなくシキに肩を掴まれて首を横に振られる。
シラユキを向かわせるのも難しい決断だが、未来の力を持つとされるシラユキ以外に対抗手段が浮かばない事もあり、カグラ共々に了承をするように移動しようとしている相手に頷いてみせる。
「未来の私がどうなってるかはわからないけど、今はアナタに頼るしかないみたいだね。本当にごめんなさい。私が無力だったからーーー」
シラユキに近づいて、目線を合わせるカグラの口に人指し指を当てる相手は、真剣な表情で父と呼んだ存在に首を横に振る。
「お父様は昔から優しいのですね。だから脆く、傷つきやすい。でもだから、私は幸せだったのかもしれないです」
カグラから指を離すと目を閉じて、空間転移をする準備を整える。
「約束だよ!? シアとフィアと一緒に戻ってくるって!」
転移していくシラユキにかけた親としての言葉だったつもりだったのだろう。
何も出来ない自分にもどかしさを覚えてしまったのだろうか、胸の前で祈る事しか出来なかった。
カグラの目には遠からずに見えた未来に対する不安が、渦巻いていたのかもしれない。
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