第29話 第二章 未来烙印編 -Escalation Speed-
次元を超えて現れる魔族に平和を取り戻した世界は、各地に対策本部を立てるが、巧みな敵の心理を読む力に苦戦を強いられていた。
首脳都市を狙った進撃に優秀な魔導師が死守をしていた中、事情を知る私たちは、いち早く次元から送り込まれる親玉の元へ向かっていた部隊との合流を果たそうとヘリを移動している最中だった。
「本当にいいの? その髪型気に入ってたんでしょ?」
「いいんだよ。戦いが終わった後でもまた伸ばせるからーーー」
フィアのたくし上げた長い髪を切ってほしいという頼みにナイフを持ちながら、躊躇いを隠せずにいた。
昔から私の後を追いかけてきた妹が、自分から一人立ちしようとしている姿に自分が、如何に甘く見てきたのかと胸の中で深く反省をする。
私と決別を表すようにすんなりと切ることのできたその髪は、風と共にヘリから流れるように宙に待っていく。
「お二人さん。そろそろ目標地点ですぜ? 英雄の教え子の力、楽しみにしてるぜ」
ヘリのパイロットの掛け声に頷くと、髪型を少しでもと整えてハッチが開く瞬間を待つ。
「シア、必ず生き残ろう。約束だよ?」
「生意気。フィアには、まだまだ抜かれるつもりはないからーーー」
フィアの額に凸ピンをすると、互いに笑顔を見せながら、目の前に広がる青空が開くハッチの入り口へと移動する。
「初出撃だよ。ランスロット、今度は一緒に何処までも走ろう!」
『Oh year My master』
「トリスタン。まだまだ未熟な私に勇気をーーー」
『Don´t worry. I belive master』
互いの相棒に期待を込めて、迎えた敵陣の真上に到達したと合図が送られるのを確認して、降下モーションに入る。
「ブレイブ1、2出撃します!!!」
「グッドラック! リトルヒーロー!!!」
ヘリのパイロットから声援を受け取ると、飛び降りるように高い空から地上に向けて降下していく。
「トリスタン...」
「ランスロット...」
「「デバイス・オン!!!」」
『Get set』
XUNISから放たれる光の空間の中で、それぞれの武装と装甲を身に着けると地上に叩きつけるような轟音と共に周りの視線を一点に集める。
敵の数は約3000といったところだろうか、二人で対処するには多すぎる数ではあるがーーー。
「まずは前衛部の除去をやるよ? シアはバックアップよろしくね?」
「バックアップだけでいいの? 修行明けからいきなり強気ね?」
トリスタンの砲身を構えながら、敵に向けて一発の弾丸を撃ち込む。
直撃した魔族の体は弾け飛ぶように散弾となって、含まれた魔力の鉱石を広げるように敵を次々と凍らせていく。
「別にいいよ。ゆっくりしててもいいから、修行の成果も確認したいところだったんだーーー」
魔族から一斉に放たれた魔力砲撃を手のひらで受け止めたフィアの姿を見ながら、余裕を浮かべた表情でこちらを見つめてくる相手に甘えるようにゆっくりと固定射撃の態勢を取る。
「じゃあ、行ってくるね?」
受け止めたとされる魔力を収束し出すように、一つの小さな固体として凝縮していく。
受け止めたのではなく、魔力を圧縮していたのだとその時に気づいた。
『Absorption Type A Ready』
ランスロットの掛け声と共に凝縮した魔力を取り込むように胸の魔力コアと調和していく。身体から蒼いオーラを発光させながら、一瞬の内に敵陣のど真ん中に移動すると共に雷の如く、辺りを中心に十メートル程の竜巻を起こして見せていた。
「あれがフィアの新しい魔法......」
弱さを克服する力。それは善も悪も受け入れる心の形。
それがあの戦闘技法だという事なのだろう。私の援護射撃に合わせて、敵を次々と薙ぎ払っては、以前のような隙はない程の無駄のない動きで次々と魔族の身体を真っ二つにするような突きをしていた。
八極拳と思われる打撃に自分の速さを乗せて、ただ通り抜ける雷の如く相手に捉えられない動きを見せているだけなのだ。
「面倒になってきた......」
敵の数に適度な疲れを見せるように立ち止まりながら、発光する身体を休ませていた。
敵の数も半数も除去出来てはいない。後衛に控えた大型も含め、フィアだけで対処できるとは到底思ってはいない。
私もサボっていたわけではないが、数が多い為に力を貯蔵する余裕もなくなってしまった。
「モード反転。ミドルレンジでいくよ」
『Shot range Mode Access』
トリスタンを対物ライフルから、拳銃に変えるとフィアの近くまで走って移動していく。
傷だらけで身体中から擦り傷のような痕が残っているフィアを見ながら、迫る魔族に連射するように弾丸を撃ち込んで、熱暴走で魔力を噴出する相手の隣まで近寄る。
「最初の意気込みはどうしたの?」
まだまだ残っている魔族を前にフィアの顔を見ながら、寄ろうとする魔族に射撃をしていると、熱の排出を終わらせた相手が私の肩を掴んで後ろに下げるように前に立つ。
「シアには黙ってたけど、私もっと速く走れるようになったんだよ?」
つい最近まで知っていた妹とは思えない程に背中が広く感じる。何をするにしても私に頼りっきりだったフィアとの距離を感じながらも小さく頷く。
耳鳴りのような鐘の音が響き渡るような気がした。フィアの周りに残留した魔力が渦を巻いて収束していく。
「私はここに顕現する。祖は雷の主、我と共に刃向かう敵をなぎ払えーーー」
空がいきなり雷鳴を帯びた雲行きに覆われると、舞い降りた雷と共に大人の体格の二倍はあるだろうという大きさの碧色の狼のような機械獣が姿を現す。
「”雷神獣ニルヴァーナ”、駆け抜ける!!!」
機械獣に跨ると、手を着いて魔力を注ぎ始めるフィアを背に自らの闇と向き合う事を選んだ妹を見ながら、自分の中にも眠る存在を受け入れなければと自負してしまう。
全身から魔力で構築されたサーベルを展開すると、前面に魔力障壁を張りながら一直線に突撃していく。
先程のフィアよりも速く、そして鋭い刃の前に掃除機のように磁気を帯びた電流を地上に流して、寄らずとも磁石のように敵が引き寄せられる為、実質跨っているだけなのだろう。
魔力を注いでいるフィアも疲れを見せる事無く、あれだけの大群がほぼ何もせず轢かれるだけで、反撃に出ようとする魔族もいたが仲間内で相打ちする程、目で追えていないのだろう。
「シア、行くよ!!!」
残像と共に私の腕を担ぎ上げて、ニルヴァーナの背中に跨らせると一直線に次元の裂け目に向かって直進をしていく。
トリスタンを対物ライフルに戻すと、私が目で追える速さで移動するニルヴァーナに合わせながら次元を凍結させる魔力弾を構える。
「目標確認。ブレイブ1、これより裂け目に向けて有効弾による射撃を開始します。近隣の魔導師は退避してください」
引き金を振り絞って、周りの撤退を確認すると同時に弾丸を撃ち込もうとする。
「イグニッション・バーストーーー」
黒い炎を次元の裂け目の前に配置されると、凍結弾では消滅しきれない程の火炎と共に中から一人の人物が姿を現す。
「ーーーあれがシラユキさんの言っていた」
「そうみたいだね。この距離からでもわかる威圧感とこの魔力量.......」
全身を黒い羽衣に身を包んだ色白とした肌と、どこか懐かしさを感じさせるその瞳は私達の知っている恩師によく似た姿をした人物。
「久しぶりね。何年ぶりに会えたのかしら?」
クスっと微笑み対面する相手の表情はまるで悪魔染みていた。それでいて私達を見下ろすように馬鹿にしているような目で、見つめている相手にそれぞれに構えを取る。
「久しぶりに稽古をつけてあげる。死んじゃったらごめんね?」
投げかけた言葉と裏腹に容赦をする気がないといった狂気に満ちたその顔は、私達の知る彼女ではなかった。
口調、見た目は違えど目の前の敵はこの世界でもっとも優しさと強さを兼ね備えていた人物。
未来から来たカグラさんの姿であった。
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