第28話 第二章 未来烙印編 -仮面のその先へ-
フィアとクーデリアの一件から明けた次の日。
お兄さんの治療の下、完治とはいかないが動ける程度まで落ち着いた二人を集めてのミーティングにて、今後の取り組みについて話し合っていた。
「新人の子達が私たちと対等になるまで、訓練すべきだと思います。このままでは、また暴走を止める為に被害が免れないのもわかりますよね?」
イヅナさんが先立って意見を述べながら、私たちを睨み付けて戦力不足であることを訴えかけるように議題の纏め役をしていたお兄さんに向けて話をする。
「イヅナちゃん抑えて、抑えて。でも私も同意見なんだ。軽はずみに動かれても却って、こっちの連携にも響くから同等をいかなくてもせめて私たちのフォーメーションを覚えてもらうだけでも違うと思うんだーーー」
イヅナさんを抱きかかえながら、ムスッとしていた彼女を宥めるルリさんも真剣な顔になって、お兄さんの方を向く。
「カグラ、お前はどうだ? 何か言いたいなら今の内だぞ?」
「私はーーー」
口を篭らせていたカグラさんも悩むように私たちを見つめては、困ったように頬を搔いている。
「えっと~。私は今のままでもいいと思うんだ。今すぐ、この子達を一流に仕上げても特に意味はないし、それに進む道に関係ない力なら無理に覚えさせてもまだ子供なんだから、ただの暴力として行使しちゃう未来もあるんじゃないかな?」
シラユキさんを見つめるカグラさんは答えを求めていたのだろうか。その目線にフッと嘲笑うように全員の前に立つ。
「お父様は甘いですね。その結果が私の来た理由だと頭でわかっている癖にーーー」
「シラユキが私の娘だっていうのは、まだ納得していないつもりだよ。それに私は貴女の知る”私”にはならないつもりだからーーー」
笑顔でシラユキを見つめるカグラから目線をズラして、会議室から出て行こうとする相手を追うように父親と呼ばれていた恩師も心配そうに付いて行こうとしていた。
決定権はお兄さんに託された訳だがーーー。
「俺は、カグラの意見に反対だ。確かにお前達はまだ若すぎる。だが、逆を言えば今から鍛えれば、カグラ以上にも輝く事ができる。弱い部分も心と共に成長していけば、誰にも迷惑を掛けずに間違った道を進むこともないだろう」
意外といったような反応をするルリさんとイヅナさんを横目にお兄さんの強化プランを耳に入れる。
初めての時のようにそれぞれに監督役を付けて取り込む内容で、私の担当はイヅナさんのようだ。
それぞれにシアにはお兄さん。クーデリアさんにはカグラさんとルリさんといったメンバーでも合宿で、私はイヅナさんの他に一人参加すると跡付けで説明を受ける。
「それでは、コーチと話し合いながら準備を始めてくれ」
イヅナさんが部屋を出て行こうとしていたのを見て、後を追うように移動するが嫌われているのか不機嫌そうな顔をしている相手に声を掛けられずにいた。
「別に私は貴女が嫌いなのではないです。カグラの件もありますが、それ以上に問題が発生した為、完全防備で挑まないと無事では済まないですよ?」
その言葉の意味を壮絶に過酷な訓練とその時は勘違いしていたのかもしれない。
それぞれが強化プランに従って、師の元で一ヶ月という期間の内に自分を磨く為もあり、私は標高の高い山の頂上へと足を運んでいた。
「遅いですよ? これしきでヘバっていては、これから起こる試練に耐えられませんよ?」
イヅナさんは私の倍の荷物を抱えながら、数百メートルは離れた地点で通信で呼びかけてくる。上に進むに連れて、温度も低下して今はマイナスという点火の下で、凍えそうになる風が吹き抜ける度に膝を着いてしまいそうになる。
足元が覚束ない状態で雲の中を抜けると、山頂と思われる光の満ちた場所でイヅナさんともう一人の師と思われる人物がこちらを見つめている。
ゆっくりと最後まで辿り着けるように無理のない足腰で、頂上へと到達すると尻餅をついて、空気量の少ない場所で落ち着くまで暫くの時間を要する事となった。
「情けないです。過去のカグヤでもこれだけ貧弱では...いや貧弱でしたね.......。それより、貴方もちゃんと修行をしてくれるつもりで来たのですよね?」
「勿論さ。今は観音のような広い心を持っているから昔の僕と思わないでほしいな」
優しい声に手を差し伸ばしてくれたその手を取ると、ゆっくり立ち上がって疲れもあるだろうと先に寝床の説明などを受けながら、疑心暗鬼の目を向けるイヅナさんの視線が男性の背中を常に捉えていた。
ある程度の話を聞いた上で、振り返った男性を見ながら笑顔を絶やさない姿に感動を覚える。これほど酸素の濃度が薄い空間で、躓きそうになる私を抱えるなどの動きを見せても辛い表情を見せない。
「ここまでで何か質問はあるかな? あっ、そうだ。紹介がまだだったね。僕はアマツ。カグラさんとは昔、同じ部隊で戦った仲さ」
アマツと名乗る相手を見ながら、尊敬の眼差しを向けていたが、イヅナさんはその場を離れて宿舎の方へと向かっていく。
相手の過去話に夢中になっていて気がつかなかったが、辺りの集落にも人が修行の為に訪れているようで遠くから、魔力の気配を感じ、そちらに目を向けている間に頭の上にはアマツさんの手のひらがある。
「じゃあ、僕の修行の一環として視力強化から始めようか?」
「は、はい!!!」
カグラさんと共に異世界からの侵略を防いだ人物ともあり、期待の眼差しで後を着いていくと、茂みのような草むらに入り込んで私たちの宿舎を見張るように遠くから双眼鏡を覗き込むアマツさんの姿に合わせて、自分も双眼鏡を覗き込む。
「あの...これってもしかして.......」
「来い! 来い!!!」
気合を込めた声と共にイヅナさんが露天風呂に入ろうと裸姿で入室してくるのが見える。きめ細かな肌を舐め回すように見つめる隣の師を見つめながら、イヅナさんの言っていた修行よりも過酷と言った意味が理解できた。
「キタァァァァァァァア!!!」
イヅナの全身が見えた瞬間に雄叫びを上げるアマツさんを残して、山から見える風景を堪能しようと頂上から辺り一帯を見渡しながら、温かいお茶を口に運ぶ。
「シアはどうしてるかな? クーデリアさんもーーー」
自分の修行とはいえ、離れ離れになった事に少しの孤独を感じながらも時が進んで、陽が暮れたのを確認して、宿舎に戻っていく。
「おかえり。夜ご飯の準備できてるよ?」
とても大丈夫な状態ともいえない程、殴られた痕と出血したと思われる包帯が巻かれていて、それでも笑顔でいる相手に恐怖を覚えながらもイヅナさんと共に迎えてくれたアマツさんに案内を受けて、リビングへと向かっていく。
「今日はイヅナちゃんの作った珍味フルコースだ! 存分に味わってくれ!!! 僕はカップヌードルで済ませるけどーーー」
目の前に広がるバイオテクノロジーのような紫色の物体が並べられた食卓に着かされると逃げるようにアマツさんは自室へと戻っていく。
イヅナさんの突き刺さるような視線を受けながら、食べ終わるまで見張りをしているかのような先輩を前にして、恐る恐る箸を進めようとするが、一口を口の中に勇気を振り絞って放り込んだ瞬間にこの世の理が脳裏を過ぎる。
まるで世界は銀河に比べてちっぽけで、人の存在は一つの固体の怨みや憎しみなど小さな問題で、その中で運命の人を見つける事はこの世の奇跡でもあり、何故こんな事を考えている私が存在しているのかも不明と頭が混乱しては、震える右手を押さえつけながら、青ざめた表情でイヅナを見つめる。
「お、美味しいです.......」
笑顔が強張っていて、必死な想いが通じたのか目の前にあった料理を下げるように配慮してくれた。
「あ、貴女は料理作れますか?」
イヅナさんが恥ずかしそうにモジモジとした表情で、私を見ながら質問を問いかける。
「あ、えっと...人並みには作れると思います」
私の手を引いてエプロンを差し出しながら、キッチンへと移動する。
「私に料理を教えてくれますか? 戦う事以外、不器用でカグラに頼りきりだったので卵焼きすら作れないのですーーー」
初めて見せた相手の表情に可愛いと思ってしまう程のギャップの差が同姓という枠を超えて、唾を吞んでグッと堪えるのが必死である。
それからは毎日のように簡単な料理から、慣れてきた相手に合わせて調味料が複雑な料理を教え込みながら、私の修行は進んでいく。
「フィアちゃんの特性は全ての空気中の性質。つまりは大気に満ちた魔法力を利用した体質な事なんだ。心を無にして、一つ一つの感情を浮かべてごらんーーー」
楽しい、嬉しい、悲しい、怒りといった感情の制御を魔力色とした訓練は坦々と、アマツさんの指導の下で身に着ける事が出来た。
「感情を取り乱さないで、無の自分で相手の心を捉えるの。善も悪もない。そこにある相手に打ち込む一撃は、抉りを入れるような突破力。明鏡止水の心でありのままの自分を受け入れるのーーー」
イヅナさんとの模擬戦で、自分の動きを活かした戦い方をする上での指導を受けながら、自分に必要な戦闘技法を身につけていく。
二人の力により、修行をする前と比べて数段と違った結果を得ることが出来たと思う。最後の模擬戦で、イヅナさんには敵わないものの、アマツさんには一本を取る事に成功できた。
「おめでとう。僕から教える事はもうないかな。最後にその発達途中の胸を揉ませてもらう事は出来るかな?」
「締め上げますよ?」
笑顔を見せながら、性格までイヅナさんに似てしまったといわんばかりに恐怖するアマツさんといつものように楽しいひと時は長く続かずに最終日にイヅナさんと共に下山することになった私は、深々としたお辞儀と共に教えてもらった教訓を人助けに役立てると師に誓う。
向かう先は、陽の光が輝く明日への道。
未来は必ず変えてみせると胸に深い志を。そして拳は助けを求めている人の為に。
先の事は分からないが修行で得た力は、私の迷っていた心の霧を払って、恩師に報えるだけの気持ちを持たせてくれたのだろう。
その時の私はそう強く思っていた。
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