第27話 第二章 未来烙印編 -王の風格と恋心-
気づいた時は、治療施設のような薬品の香りに溢れた部屋で、体を縛るように固定されていた。
隣には同様にカグラさんが眠っていて、どうしてこうなってしまっていたのかと記憶を辿ろうとしても白いモヤモヤが、頭に引っかかって思い出せないでいた。
暫くの間の時を天井を見上げながら、意識を彷徨らせていたのだろう。
いつの間にか、隣に見知らぬ女の子が立っている事に気づかなかった。
「フィアさん、御機嫌よう。私はシラユキと言います。このような処置を取らせてもらったのには理由が、いくつか御座いますが、今はお眠り戴けると幸いです。何せ、この時代の皆様にお話を全て理解してもらう為には、フィアさんの存在も含めてお父様の未来が掛かっているのでーーー」
小さい成りをしているのに目つきや態度は、同じ位の年齢とはいえないぐらいしっかりとしていた。
その子の名前、そしてこの時代の人間ではない事、それに私が寝ている間に何があったか等を事細かに説明した後に拘束を解いて、手を引かれながらシアやクーデリアさんの待つ部屋まで連れて行かれる。
「この馬鹿! また無茶して、カグラさんに迷惑かけて、アンタは夢を捨てて両親の背中を追うつもりなの!?」
入った瞬間に私の左頬を強く叩く手のひらが、シアから放たれる。余りに唐突な行動に尻餅を着いて叩かれた頬を押さえながら、相手の顔に目を向ける。
本気で怒った時にシアが見せる右足がカクカクとする動きを伺えたのが、分かるとゆっくりと立ち上がっては、一礼をしながら申し訳ないという言葉を口に出来なかった。
その時はシラユキさんの言葉を鵜吞みにする事が出来なかった。自分の中におぞましい存在が眠っている事にーーー。
「みんな、あんまりフィアを虐めちゃダメだよ?」
私の寝ていた部屋から、シラユキさんに支えられながら言葉を投げかけるカグラさんが出てくると、私の頭の撫でながら全員の前に立って息を整えていた。
「みんなも知ってると思うけど、異世界の侵略というには未知数な存在の魔族と呼ばれる存在をこれから相手する事になると思う。詳細は兄様も情報不足という事だけど、この子...シラユキちゃんが未来から持ってきたというデータを元に今後の策を練ろうと思うの。
その為には、みんなを完璧に仕上げる必要があるの。今後の課題が増えるし、訓練は精神的に影響が出ると思う。それでもいいという考えの人は着いてきて、もし嫌なら無理強いはしないから安心して。選ぶのは任せるからーーー」
カグラさんの言葉に全員が各々の事情と向き合っていたんだと思う。特に真面目な表情をしていたクーデリアさんを見ながら、その姿は普段の上位主という存在とは掛け離れていた筈だったが、ふざけた様子もない凛々しい顔になっていた。
会話が終わるとカグラさんは、お兄さんの所に向かうようで、付き添いでシラユキさんとシアが付いていった為、部屋の中には私とクーデリアさんが残る事になった。
クーデリアさんは依然と凛々しい表情で、何か考え込んでいるように身動き一つせずに椅子に座りながら手を組んで顎の下に置いている。
「クーデリアさん。何か飲み物は要りませんか?」
自販機の前に立ちながら相手の方を向いて、首を傾げてみせる。
「.......お前の血が良い」
「またまたクーデリアさんは~。らしくない姿でしたが、やっぱりいつものクーデリアさんで安心しましたよーーー」
自販機に向かい合うと後ろから感じる殺気に身体を捻りながら、クーデリアさんの手刀を間一髪といった様に回避する。
本気で私の心臓を狙ってきていた。
それに今のクーデリアさんは、何か雰囲気が違がっーーー。
「我は本気だ。カグラさんを傷つけようとした貴様を許す事は出来ない」
相手の手が私の両腕を押さえつけてきた。力強く、抵抗する事も間々ならない自分を殺気立った目で睨みつけてくるクーデリアさんに恐怖し、そして反撃をするように脇に蹴りを入れてしまう。
よろけた相手から空かさず離れると、感覚が薄くなっていた右腕と左脚を気にしながら再び、獲物に目を向けるように懐目掛けて突進をするクーデリアさんを障壁で受け止めながら、壁を貫いて外に出てしまう。
「ぐっ......クーデリアさんは本気で私をーーー」
「頑丈だな。闇に吞まれる程度の貧弱な奴と思っていたが、訓練での結果が少しは出ていたようだが.......」
外はあの日のような豪雨で互いに衣服はズブ濡れになりながらも向かい合い、そして息を切らしていた。
「早く変身しろ。化け物の姿でないと我には勝てぬぞ? それともお友達ごっこを続けたまま死にたいか?」
クーデリアさんはXUNISを起動させると、迷いなく私の喉を狙うように大きく振りながら、外したのを見越すと連続でナイフで突きかかってくる。
「やめっ...やめてクーデリアさん......。私たちが戦う理由なんてーーー」
「うるさい! カグラさんの敵は我の敵! ブリテンの誓いと共に我はカグラさんと契約をしたのだ!!!」
身体中に切り傷を負いながらも反撃に出ることも出来ずに後退りをして、相手から距離を取ろうとする。
「クーデリアさん。いいえ、アーサー王。何故そこまで、カグラさんに拘るんですか? 命の恩人だから? それともカグラさんが好きだからですか?」
「貴様には関係ない! さっさとあの姿になって戦え!!!」
ナイフから形状を剣に変形させた相手の斬撃を受け止める為のXUNISが私にはない。それに相手の言う化け物という言葉の意味がわからない。
「あくまで我を愚弄するならーーー」
目を金色に塗り替えると、身体の装備を鎧染みた姿に変えながら剣を大きく振りかぶる。
命の危機を感じた瞬間に胸が熱くなる。この症状を何処かで味わったような気がしたが、目の前まで迫った剣を自然に弾いたところで私は暗い闇に意識を奪われてしまう。
「出てきたか化け物。それが貴様の本性だ。我と同じ、本質は全て無の何もない獣よ!!!」
黒い鎧に身を包んだフィアが、クーデリアに向けて咆哮を上げながら尾を突きたて、回し蹴りと共に首に巻きつけようとしていた。
「グルルァァァァァァァァア!!!」
剣で尾ごと、冷静に蹴りを受け止めると同時に体を突き出して相手をよろけさせようとするクーデリアにフェイントを入れるよう、フィアの突きたてた尾の先を尖らせては肩に突き刺して、そのまま剣を蹴り上げる。
剣は濡れた床を滑るように遠くまで離れてしまい、クーデリアは壁に打ち付けられるように背中を強打しながら、口から血を吐いてしまう。
「ウヲォォォォォォォオ!!!」
カグラとの戦いで見せた黒い魔力を砲撃に変えての照射魔法を何度も放たれながら、クーデリアは次第に鎧で受け止めきれずにXUNISが強制的に解除されてしまう。
「貴様に...貴様には分から...ぬ......。深い眠りから目覚めた我は、アーサー王としてではなく化け物として祀られ、忌み嫌われ、そして血を吸わねば死ぬ.......。
それを誰が信じようか。カグラさん、彼女だけが我に希望をくれたのだ。暗い貧困街で我は、しがない生活者と共に普通の小さい子として一緒に暮らす事を誇りと名誉を捨て選んだ。だが、実際はただのモルモットだった。
我をブリテンの王としてではなく、吸血鬼として研究する為に暮らしていた環境を全て壊して、我は鹵獲された施設で地獄のような拷問を受けながら、奴らは平気で我に食事として人間を食わせたのだ。わかるか、この苦しみが?」
剣を拾おうと、壁からゆっくりと移動しながら、虚ろな目で震える足元を確認していく。
剣に近づく相手を後ろから蹴り飛ばし、雄叫びを上げながら足を尾で巻きつけると、何度も地面に叩きつけていく。
抗えない運命を過去と照らし合わせながら、次第にクーデリアも意識を失いかけようとしている。
ただ目の前の剣に手を伸ばすことしか出来ない自分が、国を救えなかった過去の自分と共に脳裏に浮かんだ笑顔の素敵なカグラの顔が輝いて見えた。
「フォートレス起動。アクティブレール砲発射と同時に拡散弾を頭上に配置後にカウント5でデリートします」
『Get ride.』
フィアに八方からの実弾射撃が振りかかる。堪らずに全身を覆うようにオーラが収束すると、頭上から雨のような魔力弾が次いで次第にアーマーの黒い霧が無くなっていく。
「チェックーーー」
『Get set. strike banker Go.』
懐に潜り込む銀髪の少女の腕から放たれたパイルバンカーで、衝撃を与えて露出した魔力コアを握る。
「アーサー王。最後は貴方にお願いしたいのですが?」
「無論、機を逃すつもりはないーーー」
相手の行動に勘付いたように剣を拾い上げながら、フィアの腹部分に突き立てている。
「天地冥王の力、今こそ解き放つ。受けるがいいーーー」
剣に収束されていく魔力が宙を覆っていた雲を除けて、光射す空から受けた日差しにて金色に変わる。
「祖は、エクス...カリバァァァァァァアーーー!!!」
相手を吞みこむ光と共に放たれた魔力砲撃にて、鎧は剝がれ姿は元の少女へと戻っていく。
撃ちきったクーデリアもそのまま倒れ込んでしまい、その顔を上から見下ろすシラユキの姿に目線を移す。
「カグラさんからの伝言です。『クーデリア。あとでお仕置きといいたいけど......』」
「私を心配して手加減してくれたんだよね? それにあの時、激突した魔力砲撃もクーデリアが相殺してくれなかったら、きっと私がフィアを殺していたかもしれない」
クーデリアを包む暖かい感触と優しい声と共に抱き上げてくれた相手の顔を見つめながら、溜めていた気持ちが一気に溢れ還るように涙を流してしまう小さな男の子を胸に寄せるように寝かしつけていた。
「ごめんな...さい......。お姉ちゃんが好きだから...僕...僕......」
「いいんだよ。ありがとう。私もクーデリアが好きだからーーー」
射し込む光に泣きじゃくるクーデリアを抱えながら、カグヤは思う。
あの時に救った小さな命は、淀んだ心に自分の存在を否定し、誰も信じられない虚ろな目をしていた。
しかし、今ここにいるのは私を信じて同じ事に向き合おうとしている少女に対して、過去の自分と決別する為に選んだ道を示そうとしている。
ならば私もこの子に応えなければいけない。正しい道を選んでくれたクーデリアに。
「あーぁ。またライバル増えちゃったんじゃないの? イヅナちゃん大丈夫?」
「問題ありません。たかが子どもに負ける程、私とカグラの絆は劣ってませんのでーーー」
ガラス越しに見つめるルリとイヅナの姿を背に二人は、口付けを交わしていた。
カグラにクーデリアを異性としての気持ちを抱いていたかは、定かではない。
ただその光景をその場にいた全員が優しく見守っていた。
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