第26話 第二章 未来烙印編 -雷獣と結ばれた運命-後編
雷鳴轟く戦火に去らされた街並に豪雨が重なり、崩れ落ちたビルの瓦礫が大きな音を立てながら地面に叩きつけられている。
目の前に立ち塞がるのは、魔族を切り裂いた血しぶきに全身を赤く塗らした妹の姿。
「フィア......」
距離が離れている影響もあり、スコープ越しにでしか確認が出来ないが、私には分かる。
アレは共に努力し、夢を追い続けた妹の姿。
黒いオーラを纏いながら、カグラさんと相対している。
互いに何かを話しているが、通信が割れていて上手く聞き取れない。
自分も近づいて確認しなくてはいけないと、トリスタンを待機状態にして足を使って移動を始める。
あの姿はまるで、昔見た神獣と呼ばれる一角の雷獣の姿そのもの。
本で読んだ知識でも映像で確認した物でもない。この胸に呼び合う何かを感じる。
鼓動が高鳴る先には、妹の姿が居て、今まで感じた事のない恐怖に私の心も押し潰されそうになっている。
なんとしても妹を。フィアを止めなくてはーーー。
吹き荒れる豪雨が視界を遮る中で、変わり果てた師弟の姿を見つめていた。
血塗れになっていた体が雨に打たれて、黒いオーラと共にくっきりとした相手の状態を確認する。
まるで昔の自分を見ているようで、その姿から目を逸らしたいとも思ってしまった。
「カグラさん。私は絶大な力を手に入れました。この力で、貴女のような人助けをしてみせます。ですからーーー」
フィアが目の前から消えると同時に太刀を後ろ方向に向けて、打ち込まれる打撃を受け止める。
重い一撃にそのまま地上まで押し付けられて、尾を器用に私の脚に巻きつけながら、壁に向けて投げつけられる。
「ですから、カグラさんはもう要らないです。今の私は、カグラさんより強い。貴女の動きは手に取るように分かりますので、降伏する事をオススメしますよ?」
打ち付けられる直前に足元に魔力を込めながら、壁に足をつけてゆっくり地上に降りてみせると笑顔で相手に近づいていく。
「それでも私はフィアの師範のつもりだよ? それにその程度で私を超したと思われるのも不服だよ」
対する相手に太刀、小太刀を向けるとその姿は嘲笑うようにフィアの笑い声が響き渡る。
「私が負けると思ってるの? ムカつく...イラつくんだよ! そんな態度取れる立場にあると思ってるの!?!?」
勢いに任せた突撃に身体を捻りながら、相手の攻撃を避けながらのカウンターのようにフィアの体に浅い傷を残して鞘に刀を納める。
髪を分けて、視界が見やすくなるように調整しながら余裕の表情をしてみせる。
「ねっ? まだフィアは私を超えれてないんだよ?」
ワラワラと相手の身震いを見ながら、ゆっくりと相手の頭を撫でて、目線を合わせようとしている。
手を振りほどく動作をしながら、軽く私の頬を爪が掠めるが、表情を崩さずに相手を見つめ続けていた。
「ふざけないで! 真面目に戦いなさいよ!!!」
「まだ本気は出せないよ。稽古もまだ中途半端だし、それに私が本気を出したら、フィアが怪我しちゃうから出来れば、このまま元に戻ってほしいんだけど...ダメかな?」
笑顔を崩さないように訴えかけてはみるが、相手も憎しみに支配されているのかもしれないと、これ以上の交渉で失敗した場合も考えながら話を進めていく。
黒く染まりきった相手に声は、届いているのかわからない。
しかし話で解決出来るならと、憎しみに燃えた黒いオーラに染まった相手に触れながら、拒絶されていると分かる程の激痛を手に感じながらも訴えかけることを絶えず続けている。
「ーーー触らないでください。いつもそうやって、哀れみの目を向けて...そんなに私が弱い事が楽しいですか? 本気を出す程の価値もないと過小評価しますか?
なら、私の本気を見せます。それでアナタに証明してみせますので、カグラさんも手加減しないでくださいーーー」
私から距離を置いて溜まりきった黒いオーラを収束し始める相手に、応えるように全てのリミッターを順に解除していく。
「エクセリウス、モードをアルテミスに変更。魔力回路エンゲージーーー」
『Artemis mode. Drive Ignition.』
「バレル展開。魔力を全て一点集中で撃ち込むよ」
『All right. Dividing Breaker standby ready.』
XUNISから紅い閃光と共に空間に飛び散った魔力を収束するよう、胸のコアを剝き出しにしながら自分の魔力と練り合わせて、一つの大きな塊を作り出す。
辺りにいた魔導師各員を撤退させて、迎え撃とうとする相手を見据えて発射タイミングを見計らう。
「消し飛べぇえええええええええ!!!」
フィアから放たれた禍々しい砲撃に合わせて太刀を抜くと魔力を分散させるように一刀の先端で受け止めようとする。
相手の砲撃で散った魔力の塊に取り込むように太刀に魔力を収束させると、肥大化した魔力の塊を次いで太刀の目の前に移動させる。
「ディバイディング・ブレイカァアアアアアアアーーー!!!」
溜めた魔力を一気に放出するように目の前の相手に膨大な魔力の収束砲撃を繰り出す。
受け止めようとしているようだが、この砲撃には相手の魔力が含まれている。
よってーーー。
「なに...これ......。 発動しない!? 私を護る力が機能してない!!!」
「これでお終いだよーーー」
魔力砲撃に吞まれた相手の抵抗が無くなったのを見計らって、太刀で武装面を全て切り落とすように切り裂くと鞘に収めた音と同時にフィアを守っていたオーラごと、魔力を弾き飛ばす。
戦意喪失した相手に歩み寄ると、XUNISを解除して普段着の姿になりながら、ゆっくりとフィアを抱きしめる。
凍るような冷たさをしていた相手を包み込むと、心に触れようとハーモニクス魔法を展開させようとする。
相手を自分の心に移し変えようとした瞬間にゾクッとした感覚に陥る。
流れ込んできたのは負の感情。
それも尋常な量じゃない。何百年、何千年といった年月を集約した激しい殺意と、人間に対しての激しい怒りと憎しみが私を逆に侵しつくそうとしている。
私の心の奥に仕舞っていた闇を呼び起こそうとしているのか、相手を癒すつもりが、今は意識を保つので精一杯である。
「我が眷属...お姉ちゃん! だ、大丈夫なの!?」
心配でクーデリアが近づいてくるも鋭い形相をしてしまったのだろうか、相手を見つめた瞬間に足を止めて震えながら怯えていた。
「クー...デリア......。シアちゃんと一緒にココを...ぐっ!!! 離れなさいーーー」
胸を押えながら、苦しくなった呼吸を整えようとしているが、宙にいたルリさんを見つめて合図を送り、海の方へと移動を開始する。
絶えず私に語りかけてくる声の主はフィアのものではない。
渦巻く感情は、私のコアまで侵食して身体を乗っ取ろうとしているのが、手に取るように分かった。
「私をいくら支配しようと、アナタは私に成る事は出来ないんだよ?」
身体の右半分の感覚がない。意識も限界が近いのか視界を失いかけている。
心に訴えかけるも侵食は止まらずに刻々と、私を蝕む黒いオーラに遂に尽き果てて、海へと落下していく。
衣服が海の水を吸ってドンドン重くなりながら、底へと誘われていく。
(私の心が吞まれる前に抑え付けられて良かったーーー)
沈んでいく身体が闇に吞まれた瞬間に私の意識は途絶えた。
カグラのサルベージ作業の為、海中を操作し始めて一時間と経っていた。
一向に沈んだカグラは発見されずに場の空気が重くなる。
「捜索班! 一人を捜すのにどれだけ時間を掛けるつもりですか!!!」
「イヅナちゃん落ち着いて。確かに急かすのも分かるけど、捜索班に当たってもしょうがないでしょ?」
暴力的な発言をフォローするようにルリがイヅナを抱き上げてる。
嫌々と暴れるイヅナを見ていたクーデリアとシアだったが、場所を移動するように港へと足を運ぼうとしていた。
「カグラお姉ちゃんとフィアお姉ちゃん生きてるよね......?」
泣きそうになりながら、シアを見つめるクーデリアが同意を求めていた。
その言葉を聞き入れていないように海を見つめながら、胸を抱えていたシアは何かを感じ取っていた。
「ーーー来る」
目の前に現れたスフィア型の球体から、カグラと共に銀髪で見た目が、シア達と大して差がない女の子が姿を現す。
「お父様。貴方に死なれては困ります」
目の前にいたシアとクーデリアに目を移す女の子。
透き通った肌に身長と一致しない胸の大きさと目つきを見せていた。
「クーデリアさんとシアさんですね? お父様がお世話になっていますーーー」
大きなスカート型のXUNISの装甲を持ち上げながら、令嬢のような振る舞いをしていた女の子を前にシアがクーデリアを引いて、カグラに近づいて胸に耳をつける。
「生きてるーーー」
クーデリアも同じように胸に耳を当てながら、生きている事を喜ぶように堪えていた涙を流し始める。
「シアさん、アナタにしかお父様を救う事が出来ません。やり方は解らずとも理解はしている筈です」
「わかりました。やってみます」
何の躊躇いもなく、カグラの胸に手を当てると自然と何をすればいいのかが、わかったようにフィアとの分離に成功をさせる。
「やりましたよ! シアちゃん凄いです!!! ---あっ。ふ、ふん。下僕の分際でよくやったと褒めてやろう」
ルリ達に伝えると急いで走り出していくクーデリアを横目にシアが問いかける。
「アナタは何者なんですか? どうして私にこんな事が可能だと......?」
「私は”シラユキ”。未来からやってきました。そして、カグラの娘でもあります」
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