第25話 第二章 未来烙印編 -雷獣と結ばれた運命-前編

吹き抜ける嵐のある日。


私達は、カグラさんのお兄様から頂いたXUNISの調整と訓練に明け暮れていた。


「またクイックターンが遅れてるよ! しっかりと力をコントロールしないと、前線には出せないからね?」


カグラさんの掛け声と共に立ち上がる事すら難しい、私の両脚のXUNIS、名を”ランスロット”という暴れ馬を制御出来ずにいた。


魔力制御が不安定すぎる点と、空間を蹴るという特殊な移動方法に苦戦を強いられていた。


「くぅ...なんでいうこと利いてくれないの......?」


何度も壁に激突や地面に顔を打ち付ける等の哀れな姿を周りに見せつけながら、着地からの振り返り加速の練習に打ち込んでいた。


一週間という日が流れた今でもXUNISに馴染めないでいた私にカグラさんもルリさんも付き添いという形で、面倒を見てくれたがどうしても振り返る度に勢いを抑えきれずにその場に転んでしまう。


本来持っていたXUNISとは、別で互いに意思の疎通出来ていない面もあり、XUNIS側が制御を怠らないのに私がソレについていけてない。


「今日はここまで。シアとクーデリアは先に戻ってていいよ」


床に顔を着けながら、息切れをしている私を気遣ってか、ゆっくりと膝を着いて背中を擦ってもらう。


「カグラさん。私に何が足りないんですか?」


自分でも相手に尋ねるのはいけない事だとわかっていたが、答えがどうしても見つからないでいた。


仰向けになりながら、呼吸が落ち着くのを待ち続けていたが、カグラさんから答えは教えてもらえずに困った顔をしている相手に謝ることしか出来なかった。


その日の晩ご飯後も練習に明け暮れていたが、どうしても制御が上手くいかずに身体中に痣を増やして、元いた家に辿り着いてはお風呂に傷を痛めながら、そのまま就寝するのが最近の日課になりつつある。


シアも練習を遅くまでしているようで、私よりも遅くに帰ってきては、朝早くにも練習に出ている。


本人は隠しているようだが、肩には青ざめる程のトリスタンを抱えた痕と指には肉刺を作っては潰しての繰り返しで、朝食を取る時に包帯で手を隠している様子を見ながら、毎日の練習に打ち込むというハードスケジュールを全うしている。


今日も練習に更け込むものと思い、準備運動をしていた私達に見知らぬ女の子から連絡が舞い込む。


「今日の練習は中止。全員、出撃態勢に入ってもらえるかな?」


「何かあったんですか?」


状況の提示を求めながら、集まったシアとクーデリアさんと共にカグラさんとルリさんの深刻な表情を見つめる。


「本来は連れて行く事にちょっと躊躇いはあるけど、今は猫の手も借りたい状況だからアナタ達にお願いしたいの」


「場所はここから北西に1000kmの地点。今の嵐の原因となっているかもしれない魔族の討伐に私達も召集されたの。ルリさんと私は、現場の掃討をするから、アナタ達は逃げ遅れた民間人の避難を誘導してあげて」


互いに顔を合わせると、リミッターを外して戦闘態勢に移行している姿を見ながら、私達もとコンディションの確認を行いながら、現場に向かうカグラさん達に着いて行こうとする。


「転移魔法は使えないから、此処から加速して現場に向かわなきゃいけないの。クーデリアは私が受け持つから、フィアがシアを連れて行ってもらえないかな?」


「わかりました」


カグラさんを見つめながら、移動程度ならと加速魔法を展開しながら、射出口に脚を着けると、シアを背中に抱えて準備を急がせる。


「ふ、ふん。我が眷属に下僕共よ。臆するな我に続いて未帰還者無く、この戦を...にゃああああああああああ!!?」


目の前に落ちた雷に頭を抱えるクーデリアさんに緊張感をいくらか解いてもらった事もあり、XUNISとの魔力循環が上手くいっている。


「ブレイズ1、3出撃します。続いてビギニング1、2、3も同時に出ますので現場指揮に行動を委ねます」


「I have control. カグラも久しぶりの出撃なんだから調子に乗らないでくださいよ?」


指揮をしていた女の子と面識があるのだろうか、色々と馴れ馴れしく話す姿を耳にしながら嵐の中、カグラさん、ルリさんと続いて私達も射出されると同時に水面に脚を浸けて、水上バイクのようにそのまま加速して跡を追うように走り出す。


「シア、ごめんね? 私が移動しか出来ないばっかりに雨を防いで貰っちゃって」


「気にしてないから。集中しないと今度は沈没するよ?」


カグラさん達に合わせて海を移動していくと、嵐の中心となっている街が見えてくる。


竜巻の中から次々と、魔族らしき黒い物体が飛び交っているのが確認できた。


特徴は全体に身体が黒く、目がギョロっと飛び出たような魚のように気色悪く、笑っているのか怒っているのかわからない形相をしていた。


「ブレイズ1、これより戦線に参加します。ビギニング3を遊撃に廻すので、地上部隊には下がるように指揮をよろしくお願いします」


カグラさんとクーデリアさんの組が先導して、魔族の出てくる竜巻の前で身構える。


「ふっふっふ。魔族程度が我に勝てる訳なかろうて! ひれ伏せ愚民共!!!」


クーデリアさんが、カグラさんの頭の踏みつけて魔族の元へ飛び込むと、XUNISのナイフのような物で突き刺しながら転々と、切り裂いて廻っては楽しそうな表情をしながら次々と、異名の姿を持った飛行体を落としていく。


「眷属よ! キャッチじゃキャッチ!!!」


カグラさんに向けてのメッセージだろうが、別の方向を向いていた彼女はスルーするように、そのまま落下していくクーデリアさんを見つめていく。


地上に到達した私達も各々の行動を開始するように、シアと二手に分かれて移動を開始する。


「ビギニング1。目標地点に向けて狙撃を開始します。前線の魔導士さんに伝達をよろしくお願いします」


言い終えると、即座に長距離弾道を魔族に次々と命中させながら、ポイント絞って狙撃地点を移動していく。


ルリさんも後方支援として竜巻本体に攻撃を加えながら、除々に数を減らしているようだ。


「私も何かしないと......」


地上を動き廻っては、逃げ遅れた人が魔族の巣とも云える竜巻の中に連れて行かれないように民間人を見つけては、抱き上げると同時に追い付かれない速度で移動しながら、シェルターの中へと避難させていく。


出来るだけ戦闘を避けて、民間人の救助をしてきたが、周りで戦っている仲間を見て見ぬフリをしている自分に言い聞かせながら、渡り走ってきたが、いつの間にか後ろを魔族が付いてきた事に気づく。


何をするわけでもなく、ただ後ろを付いて廻っているだけで何もせずに確認された民間人を次々と助けて回っていた。


「AからEエリアまでの救助活動終わりました。続いてFエリアに向かいます」


指揮官への連絡を終えると、子どもの泣き声が聞こえた。


報告に上がっていた人数とは一致しなかったが、指揮官に連絡せずに現場に向かう事を決意する。


瓦礫に覆われた暗い路地裏のような場所から、泣き声が聞こえる。


そういえばと、後ろを徘徊していた魔族が居なくなっている事に途中で気づくが、仲間の誰かが倒してくれたのだと思いながら、不穏に満ち溢れる裏路地の中に入っていく。


泣き声のする方へ向かうにつれて、霧が濃くなっていくのがわかった。


「この霧...吸いすぎると意識が......」


口をハンカチで塞ぎながら、先に進むと魔族に襲われかけている小さな女の子を見つける。


「いけない!!」


塞いでいた口を開いては、女の子の元に加速して実践で果たせなかったクイックターンを瞬時にこなして、魔族から離そうとそのまま加速しようとする。


「もう大丈夫だから安心して?」


「うっ...うっ...ふっ、ふふふ......」


突然笑い出す女の子を見ながら、裏路地を抜けると首を傾げると、視界が元に戻り始めると同時に抱えたソレが女の子ではなく、小型魔族である事に気がつく。


慌てて放り投げようとするが、投げようとした腕が魔族の広げた大きな口に飲み込まれていく。


「えっ......?」


魔族の見せた笑顔と同時に肩までの右腕が食いちぎられて、一瞬にして血が雨と混じり合いながら、周りを赤一色で塗り上げるようなっ水溜りが出来上がる。


「あっ...あっ......何、コレ。私...腕......」


動揺して腕を抱えながら、朦朧とする意識の中で先程まで後ろに着いてきていた魔族が目の前に現れると同時に小型の魔族を体内に取り込んで、私の食いちぎった腕を堪能すると相手の右腕が、人間の腕のように生え変わる。


このままでは、私が相手に飲まれてしまうという恐怖心を感じさせる暇もなく、状態を低くしながら再び大きな口を広げて、今度は胴体を狙っての飛び込んでくる。


「こんな...ところで......」


相手の口を塞ぐようにXUNIS部分の脚で蹴り込んで相手を押し返すが、笑顔を向け続けながら再び狙いをつけて、同じ部位の脚の状態を変化させている。


間合いを測りながら、先程の数倍は速い動きで小刻みに動いて同じように胴体を狙っての突撃を試みているようだ。


「死ねるかぁあああああ!!!」


相手に合わせて左脚大きく振りかぶる。相手の嚙み付きの勢いに押されるが受け止める事に成功した事に安堵しすぎた。


一瞬の内にXUNISの着いていない股近くまで食い千切られ、そのまま地面に倒れ込む形になってしまう。


「ウギャギャギャギャーーー」


再び、私の脚を取り込んだ相手は同じ様に人間のように脚を変化させながら、嬉しそうに雄叫びを上げていた。


このままじゃ私は......。


最悪の結果を考えながら、遠退く意識が消える瞬間に胸が凄く熱くなった。


全身が燃え上がるような熱さで満ちている。


目の前が真っ暗になり、脳裏に走る声が次第に鮮明になっていく。


...せ.....ろせ......殺セ......殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セーーー。


言葉が頭を犯すようにその思念に従うように身を委ねた。


眩い光が発されたところまでは覚えている。


そこから先は、深い眠りに誘われて目を開けていられなかった。




「こちらブレイズ1、通信が乱れてよく聞こえないよ! イヅナ、何があったの!?」


宙で構えていたカグラの元に届いた通信には、ビギニング2。つまりはフィアについて何かを伝えようとしていた指揮官であるイヅナに何度も通信で聞き出そうとするが、突如起こった嵐の停止と関係付けているのか、不穏な雲行きと共にフィアとも通信が取れない事から状況が掴めずにいた。


「フィア......。もしかしてーーー」


大きな音と共に建物が五本も次々と激突して倒れ掛かる様子が、目に映っていた。


宙に投げ込まれる魔族を黒い影が、五体を引き裂くようにバラバラにして、カグラの前に降り立つ。


それはフィアだった魔力反応にカグラのプレゼントした髪飾りをつけた獣姿に成ってしまった猛獣の姿。


「ウウッ、ウオォォォォォォォオ!!!」


響き渡る雄叫びに衝撃波のような風が吹き抜ける。


その姿を知るカグヤの目には、過去のトラウマが脳裏に浮かんだ。


雷鳴響き渡る空の下、避けられない運命を感じるカグラの姿がそこにはあった。

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