第24話 第二章 未来烙印編 -初恋の兄-

その日の朝は、すんなりと目を覚ます事が出来た。


起き上がった先には、既に朝ご飯の準備をしていたカグラさんの姿を追うように後ろに目を擦りながら移動していくと、こちらに気づいたように振り返りながら、ゆっくりと抱き上げた相手に寄り掛かりながら洗面器のある場所の前で降ろされる。


目の前には、髪の毛がボサボサになっていた自分がいた。カグラさんの綺麗な手入れもあってか、欠伸をしている間に髪の形が整っていた。


眠い目を擦りながらも歯を磨いていると、いつの間にか隣に並ぶようにフィアの姿があり、朝が弱い私と違ってしっかりしていた妹は、手を握って料理が並ぶテーブルの前まで私を誘導する。


「フィアもおはよう。ルリさんは後で起こすから、クーデリアを連れてきてくれるかな?」


カグラさんの言葉に頷くと、二人で階段を下りながら厚い扉を互いに力を振り絞って開けて、暗い部屋の中に入っていく。


「くっくっくっ。馬鹿な下僕共よ。今日もワシの餌となる為に来たかーーー」


背後に回って、朝の弱い私を狙ってか牙を立てようと迫る相手に懐中電灯をモロに目元に翳して弱々しい声と共に、床に倒れこむ相手を引きずりながら食卓に戻ろうとする。


席に着いて、並べられたベーコンとスクランブルエッグが挟まれた食パンを口に頬張りながら、何気ない会話と共に有意義なひと時を過ごす。


半分寝ていたせいもあり、口に付いたソースを拭かれたりとカグラさんに甘えっ放しな面もあるが、相手の言葉もあり、素直に感謝の言葉を伝えるだけで頑なに拒む事をしなかった。


「さて、今日の予定なんだけど。みんなのXUNISを作ってくれている技師に会いに行こうと思います。無礼講な相手だから、セクハラを受けた場合は即座に私に報告してくれていいからね?」


手をパンっと叩いて、笑顔を見せているカグラさんだが、説明を終えると頭を抱えるようにため息をついている姿を隠れながらしていた。


朝食を終えて食器を片付けようとしている相手の袖を引いて見上げる。


「技師さんに会うのが嫌なのですか?」


片付けている食器の半分を一緒に運びながら、クーデリアから何かを吹き込まれているフィアを横目で見ながら、踏み台に登ってカグラさんの横で洗い物を始める。


暫くの間、回答に悩んでいたように難しい顔で時より、ため息をついている相手に無理に答えなくてもいいと付け加えると、目の前の洗い物が無くなって、踏み台から降りる。


クーデリア達と合流すると、相手らを連れて部屋の隅まで移動する。


「いい? カグラさんがさっき話してた技師さんについて悩んでるみたいだから、何をされても報告は無しでお願いね?」


「ふっ、ワシもそこまで冷徹ではないがーーー。そうさのぅ...貴様の血を毎朝分けてくれると約束するなら是非もなぃアアアアアア!?!?!!!!」


スタンドライトにクーデリアの頭を押し付けながら、妙に考え込むフィアを見つめて首を傾げている。


「カグラさんにも苦手な人がいるなら、その人はカグラさんの師か、それ以上に強いかもしれないって事だよね?」


フィアの悪い癖がまた出てしまったようだ。強い相手を見つけると、目をキラキラしながら強くなる秘訣などを聞き出すという興味本心が滲み出る習性が話した私の目の前まで、顔を近づけて目を輝かせている。


「先に言っとくけど、もしカグラさんが本気で嫌がるような人なら、手を退いてXUNISだけ貰って帰ること! 長居をしたら、還って困らせてしまうかもしれないんだからーーー」


「わ、我が下僕よ.......。これ以上は...原型を留めてられぬかもしれぬ.......。てか、熱い!!! 助けてください! 何でもしますから!!!」


押さえていた手を離すと、ダンボールの中に戻るように蓋を閉じて安心するような声を上げている。


「準備はいいかな? そろそろ出かけようと思うんだけどーーー」


小型端末から普段着を私たち二人、共に着替えると振り返り様に返事をしようとするが、我が目を疑う光景を見てしまう。


目の前にはカグラさんと思わしき、宇宙服に体を包んだ完全防備の巨人が立っていて、それ程までに嫌がる相手だと一瞬で察しがついた。


フィアと目を合わせて、互いに頷くとダンボールを持ち上げた宇宙服に着いて行くように魔法陣の中に入りながら、場所を移そうとする相手に触れて移動していく。




着いた先は巨大な高層ビルの並ぶ都市で、私たちはその内の一軒のビルの中に転移してきたようだ。


「ようこそ。我が、世界最大XUNIS研究施設へ。予約していた妹様でございますね?」


「違います」


即答で否定するカグラさんから、湧き上がる殺意を内に秘めたように受け付けの執事らしきお爺さんが笑いながら、案内をするように中へ移動していく。


巨大なコンピューターと並べられた資料と設計図を元に大量のXUNISが量産されている光景をガラス越しで見ながら、一番奥にある社長室と書かれた部屋の中へ入っていく。


「着いたか。 意外と早かったな。それに周りの子達は連れて来ないかと思ったぞ?」


外を見つめていた男性が振り返るようにこちらに視線を移す。凛々しく向けられる笑顔が素敵な男性で、見つめられた瞬間に芽生えた事のない心が射抜かれた感覚に、ふと後ろを向いて高揚しているであろう赤い顔を隠すように宇宙服の相手に顔を埋めてしまう。


「兄様。早くXUNISを渡して仕事に戻ってください。用件はそれだけなのですからーーー」


「おやおや。五ヶ月ぶりの兄妹の再会がそんなに嫌だったかい? その物騒な姿も可愛いカグラには似合わない。私対策に内部からブロッキングしているようだが?」


目の前の男性は、カグラさんの兄のような口ぶりでフフッと笑った後に執事を下がらせると、小型端末を弄りながら宇宙服だった相手を一瞬で水着姿に替えてしまう。


「.......」


表情は最悪といった感じで、その姿を見ながら目の前の男性はスタイルを確認するように近づいて、メジャーを取り出して腹部のサイズを測ろうとしている。


「カグラは本当に体調管理が完璧だが、また胸が大きくなっ.......」


「兄様。それ以上、私に関わろうものなら首の一本は跳ねますよ?」


言い終わると同時にXUNISを起動させて、太刀を相手の喉元を狙って振り始めるカグラさんに私たち姉妹と、落とされたダンボールのクーデリアは震えるようにその光景に驚いていた。


これがカグラさんの嫌がっていた相手の姿といわんばかりに笑顔で、人生と名の付いた本で刃先を受け止めている男性。


「君たちが新しくカグラの指揮下に就いた子達だね? 俺はシキ。そこにいる物騒な物を振り回す彼女の兄だ。以後お見知り置きをーーー」


冷静に震える私たちに自己紹介をするシキさんの姿も凄いが、今まで見せた事のない不快な表情をしているカグラさんの姿も目を疑ってしまう。


「今日は新型XUNISのテストと、君たち三人のXUNISの教授がメインとなる。カグラは、別室にて実験を行うので俺が面倒を見ることになる」


それぞれ自己紹介後に各XUNISの置かれた部屋へと案内される。


クーデリア、フィアとXUNISの説明と受け取りを終えた後の私の番となる。


「最後はシアちゃんなんだが。たぶん実技のテストが必要になると思うから、俺自らが一緒に演習に入るが、問題はないか?」


相手に見つめられながら、頭を撫でられると聞こえそうになる程の心臓が高鳴っている鼓動を抑えて頷く。


「XUNISの名は”トリスタン”。見ての通り、大口径アンチマテリアルライフルなんだが、君の能力も聞いての製作で一番手間が掛かった。精密射撃も勿論だが、一番重要なのは、この銃にはカートリッジが存在しない。あとはわかるか?」


「私の投影魔術で弾を装填するのが重要視されるという事ですね」


正解といったように笑顔を見せた相手に満面の笑みで答えると、大きさから分かる重量に驚きながらもなんとか持ち上げようとする私を支えるシキさんの手に赤くなった顔を隠すように振り払って独り手にトリスタンを抱える形になる。


「直接射撃のレクチャーをするから、残りの二人は控え室で待っていてくれ」


私とシキさんを残して出て行く二人を見ながら、部屋の構想を自然の広がる空間へと変更してみせる相手を見つめて撃ち方の講義が始まる。


説明内容を熟知して、いざ的を撃ち抜こうとするが、ぎこちない操作に上手く照準を視野に入れられずにいた。


「肩でトリスタンを抱えて、効き目でスコープを覗くんだ。体は楽にしていい。力むと返って怪我をする結果に繋がるからな」


言われた通り体勢を整えてゆっくりと、目標を視野に捉えて引き金を振り絞ろうとする。


「心を無にしろ。敵に当てるのではなく。屑篭に丸めた紙を入れるような感覚でいい」


「わかりました......」


吹き抜ける風が吹き抜けて、木から散って落ちる葉が床に着いたと共にトリガーを引いて目標に射撃を行う。


撃ち込まれた弾丸は、一直線に目標を貫いて実験は成功というように構想が元の部屋に戻ると、ホッと安心するように胸を撫で下ろす。


「上出来だ。流石、カグラが見込んだ子なだけはある」


トリスタンを抱き上げる私を持ち上げて、二人の待つ控え室に連れて行かれると、実験を終えたカグラさんと鉢合わせになってしまう。


「兄様、トリスタンはどうでしたか?」


「優秀な子だよ。私でも扱いに困った代物をこうも簡単に使ってみせるのだからーーー」


ゆっくりと私を降ろしてXUNISを待機状態のペンダントに変えると、シキさんから首を通して着けられる。


「トリスタン...これからもよろしくね?」


『All ready.My master』


応答したトリスタンを撫でながら微笑んでみせると、戦闘服の調整に入ると実験室に戻るシキさんを見送り、胸の高鳴りを抑えて、待ち合わせの控え室で全員で会話をしていた。


内容はうろ覚えで、渡されたトリスタンを眺めては、シキさんを思い出しては満足気に浸っている。


「シキさん遅いですね? 差し入れに珈琲でも持っていった方がいいですか?」


「いいの。一度、没頭したら止まらないのが、いつもの事だから」


フィアの提案にそんな事しなくていいと、手を横に振っていたカグラさんの意見を聞くべきだったのかもしれなかったが、私の耳にはフィアの提案が正しいと認識してしまうように無意識な何かが動けと指示をしていた。


「私、シキさんに差し入れを入れてきます!」


積極的に動いた私に驚いただろうか、珈琲を自販機にて購入すると、シキさんのいる部屋に入っていく。


カグラさんの言うように調整に真剣な表情を向けていた。そっと近づいて声を掛けないように珈琲だけ置いて帰ろうとしたが、ゆっくり近づく私に気づいたように振り返って、凛々しい表情を見せてくる相手に表情を隠すように前屈みになってしまう。


「俺に差し入れを持ってきてくれたのか? ありがとう。カグラから止められたりしなかったか?」


「いえ、それに私が持っていきたいと思ったのでーーー」


珈琲を差し出しながら、赤くなった顔でゆっくりと相手を潤んだ目で見つめる。


カグラさんの兄という事は歳も離れているという事も分かっていたし、叶わない恋心だというのもわかっていた。


それでも胸の鼓動は抑えきれずに立っている世界が、並行ではないかのような感覚で相手の目の前でフラフラとしてしまう。


目が虚ろになり、心臓が飛び出てしまう程、高鳴って立っている事が出来なくなってしまう。


気絶する前に相手から、差し伸ばされた手に握られたのは覚えていたが、その先が頭に残されていない。


気づいた時には、カグラさん達と住んでいた家で眠っていた。


起き上がると、真夜中のようで周りで全員が横になっている。ただ一人を除いてーーー。


眠っていない主はリビングで月を眺めていた。


「あっ、起きた? 兄様から抱かれて持って来られた時は驚いたよ。兄様に聞いても何もしてないって言うし、状態をチェックしても異常はないから本当に心配したんだよ?」


「ごめんなさい...私......」


手を握られると首を横に振って笑顔を見せてくれた相手に申し訳ない顔をしてしまう。


カグラさんのお兄さんに恋をしてしまったなんて事は言えず、本人にもプライベートもあるだろうと、口に出して告白する事も出来ない。


特に年齢が離れすぎているのが問題である。


「兄様が起きたら連絡をしてくれって言ってたけど、今なら起きてると思うし、話してみる?」


カグラさんは気づいていたのかは分からないが、表情を読み取るような顔をしながら、シキさんに連絡を取ろうとする。


「ーーーカグラか? という事は彼女が起きたのだな」


「はい。本当にご迷惑をお掛けしました......」


深々と頭を下げながら、謝罪をしてみせると、カグラさんに抱かれて二人の会話を聞く事しか出来なかった。


「それにしても異常な数値の魔力値だったから本当に心配したぞ。呼吸も荒ぶっていたので安定させようと粘膜同士の接触で解決したが、本当に死んでしまうかと最悪を考えた」


「兄様? 粘膜同士の接触の話は聞いていませんよ?」


シキさんに介護を受けた話だろうか、その話を耳に傾けながら合わせ辛い顔をゆっくりと上げる。


「あぁ。口付けで魔力の安定を図っただけだが?」


「口付けッ---!?」


その話を聞いて、またしても胸が熱くなってしまい、顔に出る前にとカグラさんの手を解いて、外の砂浜へと向かう。


「兄様! そういう事は互いに了承を得ないといけないものです! シアちゃんがショックを受けてしまうかもしれないではないですか!!?」


「カグラには学生時代までの間していた事だが?」


「ッーーー!? 兄様の馬鹿、女の敵!!!」


通信を乱暴に切るカグラさんは、心配で私の後を追いかけてくる。


「ごめんね。私の兄様は、あんな調子だから跡継ぎも残す相手もいないから、私ばかりにセクハラ紛いな事をする人なんだけど、悪気はないの。それだけは分かって?」


振り返る私は、その言葉を聞いて自然と涙が零れ落ちてしまった。


不可抗力の介護にもシキさん程の魅力に溢れた方に相手がいない事に本気で嬉しい気持ちを見せてしまったんだと思う。


反って心配をかけたかもしれなかったカグラさんに精一杯の笑顔を見せようとするが、どうしても嬉し涙が勝ってしまい、溢れる涙を拭き取る事しか出来ない。


こんな気持ちも初めてで、どうしていいのかが分からない。


ただ、その日はカグラさんが泣き止むまで側で抱きしめてくれていた。

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