第21話 第二章 未来烙印編 -再開の恩師-
Aランク相当の試験に、苦戦を強いられると思われていた身なりの小さな二人の女の子。
ターレットは見事に難なくといった様子で、次々と破壊されていく中で難関の場面に突き当たっていた。
死角がほぼ無い状況に立たされながらも戦略家のシアは、落ち着きを見せながらも念入りに策を練っていた。
「フィアが一撃も受けない自信があるなら、容易に突破可能だけど流石にアンタが一流の魔導師でもアレは辛いかな......」
地理をスキャンしながらも顎に手を当てる。
シアもこの配置に頭を抱えているのがわかるが、難題とされているのはターレットが目標を視認してからの撃ち出す速度。
馬鹿な私でもわかるが、前衛に控えたターレットの後ろに置かれた民間人のダミー。
その後ろには更にターレットといった構成が、とても突破しにくい。
民間人ダミーは、たとえターレットの攻撃といえども減点の対象で実技試験では、合格点でもその後の入隊試験などに大きく関わる。
完璧主義者のシアが、まずそれを許さないだろうと考えながらも空から篭れ射る日差しを見つめる。
散乱した鏡の破片。
ホログラムといえども現実味のあるその反射した光が、一層暗い瓦礫越しに隠れる私たちを照らし続けている。
鏡......?
「シア。考えてるところ悪いんだけど、私の話を聞いてくれる?」
真剣に考えていたシアも、少しでも戦略の伸びが欲しいように小さく頷きながら私に目線を向ける。
私の中でのこの状況を打破する策を耳元で伝える。
少し考えるようにシアの表情が難しくなるが、決心を固めるような強い顔をこちらに再び見せ付ける。
「時間も決められているし、おそらくここが最後の難関であることに変わりはない。やりましょう」
互いに額を合わせながら、作戦の無事を祈るように二手に分かれる。
「シアが信じてくれたんだ。私、馬鹿だし取り柄なんて一つしかない。だから今を全力で走らないと......あの人に追いつけないから」
脚部に魔力を集中させながら、シアの合図を待つ。
私に取り柄があるとしたらそれはーーー
「ただ、全力で走ること!!!」
シアから送られる合図と共に全力で、ターレットに突っ込んでいく。
前衛に佇む二つのターレット。
視認などさせる前に私の全力で破壊してみせる。
「せいやぁぁぁぁ!!!」
加速された脚から放たれる蹴りは、ターレットのカメラを抉るように奥にいたターレットを巻き込んで瓦礫の中へと倒れこんでいく。
「インクルシオ・ミラージュドリーム展開」
シアからのバックアップ。
自身の姿を分身させての四方向に自分を含めた幻影を配置する。
熱源センサーが積まれていなければ、時間は稼げるが___
最新式のターレットといわんばかりに数秒もしない内に迷うことなく、本体に向き直しては射撃の発射態勢に移る。
「掛かった。やっぱりこの魔法の対処はプログラムされてないみたいね?」
発射された射撃に焦りの一つも感じさせない程、冷静に他の分身と位置を入れ替えながら直撃をさけていく。
試験とはいえ、動体視力で対応できる攻撃ならばフィアの分身で防げる。
かといって保てて、それも数秒。
寸分経たずして、私も残されたターレットに向かって加速をかける。
「こっちを見ろぉ!」
回し蹴りのように宙を舞いながら背部の装甲面に向けて、打ち込んでいく一撃。
ターレットを破壊までとはいかないが、シアからの目を離すこじ付けになった。
「クロスオーバーで行くよ? フィアは全力を打ち込めばいい」
シアの言葉に頷くと状態を起こして態勢を整えるターレットを前に深呼吸をして意識を集中させる。
目標はただ一点突破を目指すのみ。
「アームドバインド解除、ウイング展開ドライブぜんかぁぁぁぁいっ!!!」
両脚に装着された武装具の重りをパージさせては、魔力の粒子でできた加速能力を上げる羽根を羽ばたかせながら正面のターレットを蹴り上げる。
「グラヴィティーバインド解除、テスラモーメント出力最大」
シアも同様の枷ともいえる自らを縛っていた魔力を解放していく。
打ち上げられたターレットに魔力でできた剣を投影という形で何本も作り出しては、宙を駆け上がり、打ち上げられたターレットに次々と刺し込んでいく。
ターレットも完全に破壊されてはいないというような動きを見せ付けるように出力を上げた射撃を撃つが、今の私たちに当てれるという程の万全な状態のAIではないようだ。
「これで決める!」
片足に魔力を集中させて地上に落ちてくるターレットに構えを取る。
「「ツヴァイ・リム・ディヴィジョン!」」
シアによる空からの魔力砲撃による落下速度の速さと、肉体強化による突き上げた脚にターレットを突き刺す。
「跳んでけぇ!!!」
突き刺したターレットを全力で地面に叩きつけると、シアに向けて蹴り返していく。
「熱くなりすぎ......」
華麗に交わした後の大口径のロケットランチャーによる射撃により、粉々に散ったターレットを背に地上に降り立つシア。
「やったよシア! 私たち、試験に合格できたんだ!」
嬉しさの余り、シアに近づいては押し倒すように勢いのある抱きつきをしてしまう。
「まだ終わってないっての。この馬鹿」
シアも口では罵倒するが、満足気な表情でフフッと笑っている。
Cランクの私たちにできる全力をぶつけることが出来た愉悦にしばらくの間、床に寝転んでいたいたが、ふと起き上がるシアを横目に首を傾げる。
「時間っ! この馬鹿、ゴールしてないじゃない!!!」
私の頭が叩かれると同時に残り時間を見るとゴールに辿りつくには厳しい時間。
「ど、どうしよう!?」
あたふたと慌てだす私を捕まえながら、抱かれるように腕の中に入り込むシアは、フワっと柔らかい身体を私に持たせるように腕を首の後ろに回す。
「走りなさい」
笑顔ではあったが、相当怒っているのだと思う。
シアを抱きながらゴールのある目的地に走り出すが、魔力も残り少ない。
「止まれなくなるけど許してね?」
一直線の路面にさらに加速をかけての移動により、なんとか時間ギリギリにゴールラインを突破する。
「ちょ、ちょっと前! 前!!!」
目の前には路面がないただの壁。
そして加速を止める手段がない。
「骨折で済むことを願おう」
引きつった顔でシアを見つめると、相手の表情も引きつっている。
双子として生きてきた中で命の危機を感じた瞬間でもある。
「Aアンチ、Mマジック、Eエリア設定。 ホールディングネットとダメージカットバインドかな」
壁にぶつかる直前に展開された衝撃を受け止めるような柔らかい網と、完全に動きを止める蜘蛛の巣のようなネットに捕縛される。
怪我はなく、なんとか生き延びることはできた。
「頑張るのは大事だけど、命は大切にしてね?」
「は、はい。ありがとうございま......」
目の前に降り立ったのは、あの絶望的な沈没していく船から救い出してくれた優しげな瞳をした魔導師。
お礼が言いたくてもこの一年間ずっと会えないまま、自分の生活に必死だった。
しかし、一度も忘れたことはない。
私に生きるのを諦めない心を教えてくれたのは、他でもないこの人。
「あの時以来だね。二人とも強くなったね? ちゃんとモニターで見てたよ」
私とシアを抱き寄せるように迎えてくれたその人は、何も言わずに努力した成果を認めてくれた。
それがどんなに嬉しかったことだろう。
恩も返せてないし、あの時のお礼もまだ言えてないのに自然と泣いてしまった。
シアも声を抑えながら泣いていた。
私たちを救ってくれたこの人の役に立ちたい。
私たちはその時、そう願ったのだった。
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