第19話 第二章 未来烙印編 プロローグ

暗い船の中で私は彷徨った。


「お姉ちゃん...。どこにいるの......?」


聞こえるのは、ギシギシと今にも沈みそうになっている船が軋む音。


誰にも見向きもされないまま、姉妹二人で取り残され、沈みそうになるこの船の中で光を求めて歩き続けていた。


姉は言った。


「私が助けを呼んでくるから、貴女はここで待っていなさい」


その言葉を頼りに私は暗闇の中、待ち続ける。


何分、何時間と過ぎただろうか。


姉は、一向に戻る気配もない。


救助されたか、もしくはすぐそこまで迫った水の中で朽ちてしまったか。


普段からネガティブな考えを持たない私でも今回は、プラス思考とまではいかず、吹き込む冷たい風に身を震わせていた。


「私もこのままじゃ。でもお姉ちゃんを待たないと...。でも......」


助かる保障などない。


あたかも姉とは違い、私は魔法の勉強もしていない劣等生。


優秀な姉と比べられるのが嫌で逃げ出した魔法に今更、救いを求めようなどおこがましい。


最後でもいい。


もう一度だけ綺麗な空を見たい。


そう思いながら、冷えた身体を横着かせて眠りの世界に誘われる。


爆発音と共に煙が私の残り少ない命を削ろうとしている。


息が詰まり、辺りは放電による火花で満ちている。


時期に船も沈むならば、どちらにしても死は免れない。


やりたいこともまだ沢山あったのに。


薄れいく意識の中、自然と口が開いた。


「死にたくないよぉ......」


涙と共にそんな台詞が零れた。


何もない空っぽな私でも神様がいるなら、一生でもいい。


この願いを聞き届けてほしい。


そんな時に聞こえた女の人の声。


「大丈夫!?」


視界はボヤけていたが、はっきりと聞こえたその声に応えるように声を振り絞る。


「お姉ちゃん...?」


優しく私を慰めてくれたその人に問いかけるも首を横に振られる。


壁にそっと優しく上体を起こしてくれたその人の目は、私に諦めるなと告げていた。


「大丈夫だから。そこで待ってて?」


暖かな手で頭を撫でてくれた。


その笑顔に私も応えようと、今できる最高の表情を相手に見せる。


その先は、よく覚えていない。


覚えているのは、暗い船の中から助け出してくれたその人の顔と、日差しが降り注ぐ綺麗な空。


気がついた時には、病室の中で隣で姉が眠っていた。


安心で揺らいだのだろうか。


いとしない内に涙が次々と溢れ出てくる。


生きている嬉しさにこんなにも感動しているのかな?


止まらない涙に衝動が抑えきれない。


その日、私はいっぱい泣いた。


救ってくれたあの人のような強い人間になりたい。


その想いを胸に疎かにしていた魔法を姉に教わりながら、手に入れた魔力素質を伸ばした。


私たち、姉妹に残された時間は少ない。


一年という短い期間の間しか、孤児として認められない見習い魔導師として必死に勉強と実技を重ねた。


そして迎えた約束の一年。


私は、あの時の弱い私じゃない。


誰にも負けない速さが、私にはあるのだから......。

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