第18話 第一章 二重因子 エピローグ -受け継がれる意志-

あれから二年の月日が経った.......。


あの戦いを最後として世界は、平和の一歩を辿っている。


別世界からの侵略から、復興をするまでに一年。


新たな世界平和を掲げる条約の制定に一年と、時間は私たちを待ってはくれなかった。


アドヴェントは事実上の解散となり、それぞれの進路を進んでいく。


最後の戦いに姿を見せることのなかったアマツさんは、私たちに何も言わずに部隊を跡にしていた。


兄様に聞いた話によると、孤児院の先生となって子供達の教育に明け暮れているらしいが、相変わらず女性に対するセクハラは続いているらしい。


それでも、着いてきてくれている子供達の為に誠心誠意との事だが、アマツさんが真面目に働いているというだけでも進展はあったんだと思う。


最後の最後まで私を信じて、共に戦ってくれたルリさんは戦技教導官から、戦技指揮官となって各世界を渡っては外交の架け橋、たまに衝突する場面には両成敗といった荒行をしていると聞く。


指揮官が前に立って、交渉という名の武力行使を行うと聞いただけでもハラハラする内容だが、持ち前の魅力と元気で何とかやっている。


休みの日には、私とも休暇を楽しむが、年上とも思えない程、昔となんら変わりのない姿でいてくれている。


離れて仕事をしている兄様は、XUNIS研究チームの所長まで昇りつめて、月に一度のXUNISの点検の為に顔を合わせている。


毎度会う度に噂されてはいるが、性別が変わっても兄様は兄様といったように過保護的なまでのセクハラは続いている。


パーソナルデータの書き換えに伴う身体の変化や、魔力の増加を大いに喜ぶ姿は健在で、XUNISを展開した時の衣装も私に合わせて変えてくるが、稀に趣味趣向を加えたデザインもあるので、兄様との日常会話には愛想が尽きない。


そして最後まで私の傍にいてくれたイヅナはーーー。


「何してるの? 新しい子達が待ってるんだから早くしてください」


「わかってるよ。それにまた身長に差が、広がったからってピリピリしないで?」


顔を真っ赤にしながら、右ストレートを打ち込んでくる彼女。


あれから、私と共に戦技教導官入りを果たしたイヅナは、それぞれに監督者となりながらも数人の人数を一度に扱う日々に明け暮れている。


暴力的な部分も変わっていないが、この二年間を共に過ごした日々の長い人物でもある。


互いに戦技を教え子たちに見せ付ける度に、加減の利かない攻撃ばかり仕掛けてくる彼女には手を焼いている。


イヅナ曰く、戦いは遊びじゃないという事を根付かせて訓練に当たらせた方が、戦場での生存本能が働くという主旨らしいが。


日頃の八つ当たりをしているようにしか見えない。


今日も新たな新人を迎えての模擬戦闘がある。


どんな重い一撃が飛んでくるのかと、不安でならないが、毎日を充実して過ごしている。


集まった新人を前にいつもの様に渇を入れようと、イヅナが前に立って大きく息を吸う。


「いい? 私が教える訓練は常に前線に出て戦う者の身として、命を粗末にしない戦いに仕上げていくのが目的だから気合を入れてね?」


新人達から大きな返事が返ってくるのを確認すると、自分に言い聞かせようとしているのか頷いて納得をしている。


「で、ではみんなはストレッチを行ってから、またここに集合を___」


「カグラさん? 貴女も貴女の教育方針を言わないと新人が、どんな想いで着いてきてほしいか、わからないでしょう?」


珍しく『さん』付けで呼んだと思えば、面前に立つのが苦手なのをいい事に早速、意地悪を仕掛けてくる彼女がこちらを見て妖しく微笑んでいた。


いつもの事ながら、私に見栄を張りたいらしいが、私が教え子に言いたい事は一つしかない。


嫌々ながらも私を見つめる新人達の前に立つ。


「私から皆さんに教える事は、何時も冷静に自分の身を守る為の力。そして互いに助け合い生き残る為の調和です。みんなは独りじゃない。どんな時でもみんなを支えてくれる味方は側にいる。それだけは覚えてね?」


笑顔で教え子に教育方針を打ち明けると、イヅナの時よりも大きな返事と、拍手が湧き起こる。


反応に困ったが、何も凄い事は言ってないと自負しながらも苦笑いで、拍手を抑える手の動きを見せながらもそれぞれに散らばって、準備運動を開始していく。


一人一人に後ろから話しかけながら、調子と力を入れていきたいスタイルを聞いて回るが、それぞれに思いがあるらしく方針はバラバラだが、全員に共通していた事は生き残るという心強い考えだった。


意見を聞いて周る途中に緊急の連絡が、小型端末に鳴り響いている事に気がつく。


「イヅナ。ここは任せていい? モニタリングも開放していいから、みんなにちゃんと説明してね?」


「わかりました。教え子に恥ずかしい姿だけは見せないようにーーー」


顔を向き合わせて話をつけると、急いで転送ポートのある特設室に向かっていく。


豪雨と荒波の中で客船が難破したという内容。


避難に遅れた客船内の捜索が命じられた仕事だが思ったよりも浸水は進んでいるようだ。


「ブレイズ1出撃します」


転送される先は雲の上で、下は厚い雲に覆われている。


「エクセリウス、まずは客船上空の雲から対処するよ? デバイス・オン!!!」


新調されたフォルムに身体に合った武装を纏いながらも赤い光と共に雲を払って、空から客船のいる地点を確認する。


「こちら管制塔。ブレイズ1応答されたし」


「こちらブレイズ1。状況を情報提示を要求します」


管制塔の指示を仰ぎながらも客船の上空を晴々とした青空に変えていく。


「逃げ遅れたのは、子ども二人だけだ。実力は噂で聞いている。期待しているぞ?」


「ブレイズ1了解。これより潜行して内部の調査に向かいます」


客船の下部まで水中に潜りながらも全面に魔力フィールドを形成して水を弾く。


中に入ると既に逃げ遅れた何人かの死体が浮いている。


目も当てている暇はない。


豪雨を止めたとしても沈みかけた船の中では、子供達が危ないと感じながらも探索を続ける。


「逃げ遅れた子! いたら返事して! 助けにきたんだよ?」


大声で聞いて周るが一向に返事はない。


中枢区画から下にはいない事を確認した後にハッチを突き破って再び、外側からは見えない位置に飛び出す。


甲板に落ちないように必死に掴まっている子供が今にも手を放しかけていた。


「よく頑張ったね? もう安心だからーーー」


ゆっくりと、下から掬い上げるように抱きかかえる。


金髪の長い髪の小さな女の子で、助けられた事が信じられないといったように泣き出してしまったその子を連れて、上空に待機させていた魔導師に子供を預ける。


「残ったのはブリッジと、最悪の場合だと機関室と電力室かな」


ブリッジのガラスを蹴飛ばして中に入るが、誰もいない。


駆動部位を艦首に設置してある設計の船なので、岩場に激突すれば難破するのは納得いくが、そのようなところに主要な機関を置くことには問題があると、内心考えながらも中へと入っていく。


煙と放電による荒々しい現場の中で倒れている一人の女の子を見つける。


「大丈夫!?」


先程救った女の子と似た顔をした金髪の少女で息はしているが、危険な状態で間違いないだろう。


早く連れ出さないといけない状況だが、更に爆発で入ってきた通路は塞がれてしまう。


不安がる女の子を壁に寄り添わせると、周りに魔力障壁を張り巡らせる。


「お姉ちゃん...?」


「大丈夫だから。そこで待ってて?」


頭を撫でて笑顔を見せると、女の子の不安そうな顔も解れたように笑顔で頷いて返事を返してもらえた。


刀を抜くと、真上に刀を向けて刃先に魔力を込め始める。


「アサルトバスター収束。シュート!!!」


魔力砲撃をいくつも重ねて、分厚い装甲を撃ち抜いていく。


空の光を確認すると同時に女の子を抱いて飛び上がる。


間一髪といわんばかりに脱出後に船は、大爆発を起こして海の藻屑となっていくのが見える。


「危なかったね? 怪我はない?」


助かった女の子は気絶していたようだが、嬉しそうなその寝顔を横目に救助の部隊に合流する。


身元はすぐ確認する事が出来た。


ホッと胸を撫で下ろすと、イヅナに連絡を入れて、教え子達の反応を聞いてみようと小型端末から、彼女の端末に連絡を入れる。


どうやら好評だったらしく、トレーニングに気合が入ったという。


通話が終わり、全員を集めようとするイヅナ。


「イヅナ教導官! カグラ教導官はいつ頃にお戻りになるのですか!? 僕、聞きたいことがいっぱいあります!!!」


「私も!」


次々とカグラの救出劇を見てから、学び舎としての芽を出した新人が教育をしてくれる教育者に興味を持ち出したように質問を投げかけようとしている。


「なんでカグラ教導官は、あんなに凄いんでしょうか?」


一人の新人が、イヅナに問いを投げかける。


「それはですね。彼女は私達の希望、そしてエースだからです」


カグラには、あまり見せない満面の笑みを浮かべながら映像に映る彼女を見つめる。


二年の月日が流れた今も。


私達は不屈の心を持っています。


これからもずっと......。

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