第13話 第一章 二重因子編 -片想いの信頼-
生物兵器の殲滅から夜が明けた次の日。
重体のルリさんの容態が悪化を期している中で、医師も欠損した部分が多いと半ば諦めに更けていた中での兄様の提案により、イヅナさんとの身体融合の際に起きた絶大的な治癒力を活かせないかという話になった。
イヅナさん同様に消える心配も懸念される中で、デバッグとして兄様が直属で完治した後も状態が維持できるようにと、サポートを行う条件を付けたしながら行ったハーモニクスの調和。
身体はルリさんをベースにしているとはいえ、イヅナさんの時とは違い、胸の発達や色々な部分が大人の女性ともあり、意識しないようにはしているが、どうしても気になって仕方がない。
あの戦いの後にイヅナさんは、裏切りの容疑から監視の行き通った監獄に閉じ込められている。
シンクロする前に受けた傷や、折れた骨は治っていて生活に支障はないだろうが、一人にさせておくのが可哀想だった。
隙を付いて何とか兄様の目を逃れて、イヅナさんが閉じ込められている監視所まで辿り着く事に成功した。
警戒されているのか、セキュリティーの赤外線が滞なく施されているのを確認すると、赤外線に触れないように赤いレーザー線を避けながら、イヅナさんが閉じ込められた部屋に近づく。
「あとちょっとーーー」
細い赤外線を搔い潜ると、身体に似合ったサイズの出口を見つめてはそこにダイブする。
難なく通り抜けたと着地する予定だったが、普段の身体とは違い、急かしてしまった影響もあり、ルリさんの発達した豊満な胸にセンサーが触れてしまい、警報が鳴り響いてしまう。
隠れる場所もない事から、イヅナさんの部屋に押しかけては着替え中だった相手の素肌を丸出しにしている彼女を見つめて、どうしていいか分からずにあたふたとし始める。
傾れ込んでくる監視官が迫る中でゆっくりと彼女がこちらに近づく。
「ーーーこっちに来てください」
イヅナに手を引かれると、ベッドの下に人が隠れるスペースがあると説明される。
すかさず下に潜り込むと、部屋に押しかけてきた監視員に何事もなかったように対応するイヅナさんの姿を覗くようにゆっくりと、足元から状況を把握しようとしている。
部屋内のチェックをせずに出て行こうとする監視員に胸を撫で下ろすと、ベッドの下から出て相手に向けてお礼を言おうとするが、首を傾げるように疑いの目を向けられている。
「隊長...ですよね......? 今日は、やけに静かで落ち着いていませんか?」
一周しながら私の姿を見つめるイヅナさんに、バレないように作り笑いでなんとか誤魔化そうとする。
「まぁ、いいです。それより隊長ともあろう人が何で、コッソリ忍び込むような真似をしたのですか?」
「えっと、それはそのーーー」
今は私がルリさんの姿をしているとはいえ、その事実をイヅナに伝えれば、アレからそれほどまで時間も経っていないのを想定して、この早期に浮気をしているような印象を相手に植えつけてしまう可能性もある事から何とか事情を取り付けようとする。
彼女には悪いが、今回だけは噓をつくことを避けられないのを強いられる。
「上の許可取るのが面倒でイヅナちゃんに会いに来ちゃったんだ。イヅナちゃんの生着替えも見れたからラッキーだったかな......」
半ば、変態さんのような卑猥な表現になってしまったかもしれないが、ルリさんとの会話が少ないこともあり、イヅナに対する言葉遣いに気をつけた発言をしてみる。
「ーーーそうですか。なら、ちょうどいいですので座ってください」
ベッドを指差して演技が成功したと取っていいのかわからないが、誘導された位置に座ると、隣にちょこんとイヅナも腰かけて、しばらくの間の沈黙しながら床を見つめている彼女の口が開くのを待つ。
「隊長は、カグヤの事をどう思っていますか?」
「え?」
突然の質問に戸惑いながらも話題に出された自分を、どう答えでいいかをわからずにルリさんなら何と言うのかを必死に考え始める。
「知っての通り、私は隊長たちを裏切った張本人で、隊長や多くの方に迷惑をかけました。そんな私でもカグヤは面と向き合ってくれた。
私の標的だった彼が、一番に私を恨んでいるのは、あの禍々しい姿を見て理解できました。それでも裏切り者の私に生きる価値をくれたのです。
今まで男なんてただの獣でしかないと、あの方を除いて思ってきましたが、初めて私の心に癒しの場所と呼ばれる物を作ってくれた。
感謝とは裏腹に彼の事を考えると、胸を締め付けられるような辛い気持ちになってしまいます。
彼に触れられた時にだけ、この有耶無耶が無くなって本当の意味で解放された気分になるのです。私の生活に彼は欠かせないといっても過言ではない位、カグヤの存在は私の中では大きい。故に私は思うのです.......」
イヅナが抱いている私への気持ちを確認すると、話している彼女の顔が恥ずかしさからか、動揺はしていないものの頬を赤らめている辺りから、その話に偽りがない事は伺える。
相手の頭を撫でながら、話の続きを聞こうと自分の胸にイヅナの顔を寄せながら落ち着かせようとしている。
「私は彼を常に手元に置くために更なる調教、もしくは五体不満足といった感じに顔と胴体を残して私から逃げられないようにしようと思いますが、隊長の意見を聞かせてもらえないでしょうか?」
「う、うん???」
心温まる話から、一気に冷めてしまう程の狂気に満ちた発言に汗をかきながら、相手を見据えては本当に悩んでいるのか顔を隠して、今更といった恥かしさを見せているように顔を揺らして耳まで赤くしている。
「え、えっとね。イヅナちゃんは、姫ちゃんの事が好きなんだよね? だったら彼を信じて常に側に居てあげたらいいんじゃないかな?」
自分の身を案じるように提案を述べると、ゆっくりと立ち上がりながら監獄である部屋に魔力を込めた蹴りを繰り出し始める。
「待っててくださいね。今、会いに行くから。そして手足をもぎ取って、私から離れないように持ち歩けるようにしますからーーー」
監獄が破られるほどの強い打撃に監視役も気づいたのか、再び警報が鳴り響きながら部屋を壊そうとしているイヅナさんを止めようとする。
大の大人3人掛かりでも止まる気配はなく、穴が空くと同時にセンサーを搔い潜り、拠点内に戻ろうとしているイヅナさんを追いかけながらも邪魔といわんばかりに壁に穴を開けて、一方通行に進んでいくことが止められない。
気づくと拠点そのものが、生物兵器に襲われているかのようなダメージを受けている。
騒ぎに気づいたのか兄様が、イヅナさんの前に立ち塞がるように現れる。
「フィードバックか。カグヤの事以外、考えられなくなるほどの影響がシンクロで生まれるようだ」
蒼天をイヅナに構えると、全身を凍りつかせるように氷結の魔法で動きを封じ込めると、私の方に近づきながら額に銃口を突きつけられる。
「カグヤ、お前は早く調整室に戻れ。隊長殿の治癒は済んでいるだろう? 早くソイツから離れてくれ。処分するーーー」
「あ、兄様! 処分だなんて酷いです! ルリさんは、まだ精神的にも回復していないのですから放っておけません!!!」
目付きが鋭くなった兄様を見ながら、こうなってしまうと手の付けようがないという事も知っている為、若干だが目を潤わせてしまう。
「その姿で、その声で俺に反抗しないでくれないか? カグヤが中にいるとはいえ、引き金を引いてしまうかもしれない」
兄様は本気らしく、ここで退いてしまってはルリさんの命はないと、気をしっかり持ちながら相手に強く向き合う。
「兄様の頼みでもこれだけは譲れません! ルリさんが回復するまでは、私は共にいると決めたのです!!!」
緋天を取り出して、蒼天を弾くと相手に太刀を構えながらルリの魔力が加わり、一層激しいオーラを放ち始める。
「ーーーわかった。明日の夜明けまで待つが、それ以降は強制的にでもその女と引き剝がすからな?」
蒼天をしまうと氷付けにされたイヅナさんのカウンセリングを行うと、意識を失った彼女を抱えて私に背を向ける兄様を見つめる。
感謝を込める意味で一礼をしながら、相手の姿を見送るとイヅナさんの壊した壁を補修するように再生魔法を使い、空いた穴を埋めていく。
全てとはいかなかったが、壁の影響で崩れるまでは至らないところまで直し終わると、魔力を使い切った疲れを隠し切れずにルリさんの安心して寝れる
自室に戻っていく。
ベッドに座りながら、最新の注意を払いつつも完全に状態を維持して本人が還ってこれるように、ハーモニクスを解除する。
幸いな事にルリさんが完全な状態で分離できた事と、傷が埋まっている事を確認してゆっくりと枕に頭を寝かしつける。
無事な姿を横で見つめると眠気に誘われるように隣に倒れて込んで、そのまま眠りについてしまう。
次に目が覚めたのは、月明かりに照らされたルリさんに頭を撫でられた感触を実感した時であった。
見上げたルリさんは、もう大丈夫といった姿で微笑みながらこちらを見つめている。
イヅナさんのようなフィードバックの影響もないらしく至って平常心だと語ってくれた。
「よかったです。ルリさんまで暴走されたら、兄様に何と言い訳をしていいかわからなかったのでーーー」
「ありがとうね。姫ちゃんが私の為にお兄さんから、庇ってくれてたのはちゃんと見てたよ? 本当に嬉しかった......」
ゆっくりと立ち上がると、見舞いの為に用意されていた林檎を手に取りながら、ナイフで器用に兎の形に切ってお皿に並べる。
その林檎をまだ起き上がる事の出来ない疲労だとわかっていたように、口元まで近づけてくる相手に応えるように口を開けるが、咬む力も無いようで入れられた林檎を口から落としてしまう。
「姫ちゃんは私の治癒と壁を直すのに力を使っちゃったもんね。特別にお姉さんが食べさせてあげようーーー」
ルリさんは口に林檎を入れて、中で林檎を細かくしていくと私に顔を近づけながら、抵抗される間もなく唇を重ねて直接、林檎を流していく相手に戸惑いながらも受け入れるように物を飲み込み。
「まだ食べられるかな? 林檎、これくらい余っているけど......」
お皿に乗った断片の林檎は八つ。
本来ならルリさんに食べさせる側なのだが、顔を赤くしている相手に恥をかかせる訳にもいかずに小さく頷きながら、残り全てを口移しで食べさせてもらった。
林檎の甘い味とルリさんの唾液と、柔らかな唇の感触が食べ終わった今でも残っている。
少しの沈黙が続きながら、ふとルリさんが立ち上がる。個室に備え付けられたシャワーを浴びに行ったようで、胸を高鳴らせて相手が戻ってくるのを待つ。
シャワーから帰った相手は、下着姿に透けて見えるロングのガウンといった大胆な姿で戻ると、髪を乾かす魔法をかけながらゆっくりとその姿を見せ付けて、いつかのようにしなやかな髪をなびかせている。
髪を乾かし終えると、こちらに近づきながら私を見つめながら息遣いを荒くしている。
「ルリさん、もしかしてシンクロのフィードバックをーーー?」
私と唇を重ねた影響で、イヅナと同じ影響を受けているのだとしたら、自分にも否があると受け入れる覚悟で目の前で見つめる相手に意志を伝えようと目を閉じて楽な姿勢を取る。
その姿を見て納得したのか、隣に横になるルリさんのと向き合うように身体を正面にする。
今にも欲情を爆発させそうな相手を目の前に、どうしていいかはわからなかったが、ゆっくりと頬に触れて微笑んでみせると潤んだ相手の瞳を見ては『大丈夫ですよ』と囁いてみせて、額を合わせながら少しは楽になるようにと火照りきった相手の身体の体温を自分の身に移していく。
「私はーーー」
相手の唐突な口付けに最初は驚くも、次第に相手に身を任せるようにされるがままになる。
数分も経たない内に私の身体を突き飛ばすと、自分の身体から突き放すルリさんに呆気を取られてしまう。
「私は...こんなことで姫ちゃんに本当の気持ちを言えないまま、その場の雰囲気に吞まれたくないーーー」
身体を震わせながら、抑え込むように両腕を抱えている姿を見ているが、近づくと逆にルリさんに負担をかけてしまうと申し訳ない表情をしてしまう。
「もう一度、私とシンクロしてくれないかな? そうすればちょっとは変わるかもしれない......」
相手の意見を信じるようにハーモニクスを同調させながら、相手の身体を光の粒子に変換しながら私の胸に溶け込ませると、姿をルリさんと同化して影響がないかを確認する。
「大丈夫みたいだね。本当にごめんなさいね。これじゃあ、またお兄さんに怒られるのが目に見えちゃうなぁ」
苦笑いをするように私の中で小さく笑うルリさん。
この状態を解除すれば、また襲い掛かるかもしれないという不安があるのだと察する。
「お兄さんが私を嫌いな理由ってきっとイヅナちゃんと違って、大人らしくないからかもしれないって思うの。
イヅナちゃんはあの歳で落ち着いているし、何よりも姫ちゃんを誰よりも感謝しているから、私の付け入る隙なんて無いんだよね。悲しいけど姫ちゃんにお似合いなのはイヅナちゃんで、私が敵うわけがなかったんだ...アハハ......」
相手の話を聞きながら、少し悩み込むも空を見上げて呟く。
「ちょっと付き合ってもらえますか?」
窓を開けると飛翔魔法で空に飛び上がり、一気に雲の上まで高速で移動すると月明かりな綺麗な星空を見て胸に手を置く。
「ルリさんは素敵な方です。イヅナさんと比べる必要なんてないんですよ。兄様もきっとそんなに悪い人だと思っていない筈です」
「でも姫ちゃんの気持ちはどうなるの? お兄さんから守ってくれるのは嬉しいけど、イヅナちゃんに対してもそんなに優しくしたらーーー」
遊覧飛行で雲の上を直線的に飛び回りながら、心地のよい風に浸ると緋天を抜いて首筋に刃先を向ける。
「イヅナさんはそんな事で妬いたりしないです。それと約束です。今後、そんな悲しい顔を見せたら、兄様に代わって私が弱気なルリさんを成敗します。
私はルリさんを裏切ったりしないです。ルリさんが本当に幸せになる瞬間までこの約束は絶対破ったりしないって私も誓います。
今は一心一体ですが、もし約束を破ったと思ったらいつでも後ろから撃ってください。ルリさんならきっと幸せになれます。私が保証しますから、いつでもルリさんは凛々しくいてください.......」
刀を降ろすと、ゆっくり地上に向かうように落下するスピードを調整しながら相手の答えを待つ。
悩んでいるというよりも、小さく嬉しさのあまり涙を流しているのか、呻き声に似た泣き声を心の中で感じ取ると遊覧飛行を続けながら、相手が答えを口にしなくてもいいと思ってしまう。
今は、このまま星空の綺麗な空の下で彼女との飛行を楽しむのも悪くないと思った。
拠点近くまで戻ると兄が、待っていたという風にこちらを見上げている。
兄様のいる庭園へと降りると、シンクロを解除して夜明けと同時に約束を果たせた事を見せ付ける。
何も言わずに兄様はルリさんの目の前に近づくと、顔を伏せている相手の顔に手を近づける。
「お前のXUNISが完成した。名を”天帝”という。基本スペックを合わせるのに苦労したが、仕上がったから持ってきたが不要か?」
顔を上げて、兄様を見つめるルリさんは驚いた表情を向ける。渡された天帝を受け取ると、一筋の涙を流して見せるがすぐに手で拭き取る。
「お兄さん、ありがとうございます。これで私もちゃんとした意味で戦える気がしますーーー」
天帝を展開してみせるルリさん。魔法砲撃に特化した魔法杖と、空戦の為に用意された最新型の羽根をイメージした姿に私も見入ってしまう。
「うん、いい感じだよ。流石お兄さんの作ったXUNISですね。何よりも身体が軽いから戦いやすい」
「そうか。詳しい事は追々データを送っておく。あとお兄さんはもうやめてくれ。俺の方が年下だぞ?」
ため息をつくと背を向けながら兄様は、私の手を引いて拠点の中へと入っていこうとする。
「ありがとう。シキーーー」
初めての兄様の名を呼んだルリさんは少し恥じらいに溢れていたが、その言葉を確認すると、小さく笑う仕草をする兄様を見て、私も嬉しさのあまり兄様の腕に抱きついてみせる。
「兄様、今日は私と久しぶりに練習試合をしませんか?」
精一杯の感謝を込めた兄様に対する思いつきだが、勿論といわんばかりの笑顔に新しい力を堪能するルリさんを見つめて、また一歩チームワークの広がりに心を落ち着かせるのであった。
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