第12話 第一章 二重因子編 -舞い踊る巫女-

巨大な生物兵器との戦闘が始まって数時間が経過した。


巨大な生物兵器の進撃を塞き止めるのが、手一杯の地上軍に対策を何度となく試みる兄様達であったが、防衛が手薄になる隙を見逃さないようにイヅナさんが攻め込んでは、徐々に戦力を割かれていくのを余儀なくされていた。


変態さんがイヅナさんまで辿り着くも、私たちの前に現れた彼は既にボロボロで戦う力すら残されていなかった。


イヅナさんとの交渉をしようにも彼女の固い信念の前に阻まれてしまう。


戦うつもりはないらしく、何もしないという約束を取り付ける条件で、私の隣に腰掛けて経緯を観測したいと、変態さんが申し出た。


最初は兄様の策略かとも思ったが、変態さんは戦うことに疲れたと私の目の前で横になりながら欠伸を浮かべて、兄様達を高みの見物のように苦労している姿を見ているだけで、特に何をすることもないようだ。


「イヅナちゃん!」


ルリさんの声と共に肩を負傷を負っていた彼女が出血している部分を押さえながら、イヅナさんの前に現れる。


どうやら変態さん同様に戦う力など残されていないらしく、膝をついて持っていたXUNISを落としてしまう。


「隊長、いいのですか? 地上の指揮を放置してまで、自分の欲望のまま、私に会いに来ても何も解決しない事ぐらいわかってますよね?」


負傷した彼女に追い討ちをかけるように勢いよく、回し蹴りを腹部に直撃させると生物兵器上の表面のギリギリの地点まで吹き飛んでいく。


「かはっ.......」


口から大量に出血してしまうルリさんをただ見ているしか出来ない。


そのまま負傷している彼女に向かうイヅナさんを止めようと、閉じ込められた状態を脱出しようとするが、魔力を奪われる一方で抜け出せそうにもない。


「イヅナさん! あなたはソレでいいんですか!? この数日間、見せてくれた表情も行動も偽りだったんですか!?」


イヅナさんを止めようと、呼びかけた私の声に振り返ると今までにない程の殺意に満ちた横目で、こちらを睨みかける彼女の顔に一瞬、恐怖を覚えてしまう。


「君に言ったよね? 私は自分の意志でここにいるって。私はこの次元にカグヤという存在を監視し、連れ帰る為に今ここにいる」


倒れているルリさんの負傷した肩を強く踏みつけながら、痛みに嘆く彼女をゴミのように力を入れて、本気である事を確認させようとしているのか、息を飲んでその光景を見て絶望の表情を浮かべてしまう。


「私は君に取り入る為なら何だってした。この身体も君が、勝手に信じ込むように受け渡した。それを無駄には出来ないでしょ?」


イヅナさんに持ち上げられて、私の目の前に連れてこられたルリさんは、苦痛の表情で精一杯の笑顔で振舞って見せる姿に胸の奥から痛みが込み上げてくる。


「待っててね。姫ちゃんを助けるって、お兄さんと約束したから絶対助けるよ.......」


血塗れの指で私の閉じ込められたコアに触れて、安心させようと笑顔を絶やさない彼女の顔にその手に触れようと、糸を振り解こうとしながら、その手に必死の思いで合わせようとする。


「もうやめてください!!! ルリさんはイヅナさんに関係ない! 私を捕らえたならもう十分でしょ!?」


「そうだね。もうこの人には用はない。処分するーーー」


処分という言葉を聞くと、何を意味しているかを想像する間もなく、目の前で深手を負った彼女の胸を後ろから手刀で貫く。


飛び散る血が私の視界を取っていた表面を赤く染める。目の前に付いた血を目の前に胸の奥で脈打っていた何か弾ける音がした。


そこから意識は定かではない。


身体が急激に熱くなると、同時に囲っていた糸ごと、取りまく全てを吹き飛ばす魔力波動が圧力に耐え切れずに飛び散っていく。


「くっ、何が起きてるの? 申子の力だろうと私はアレを超えて、あの方に認めて貰わなくてはいけないの!」


カグヤが黒いオーラに覆われると同時に、姿を変えるように装着していた戦闘服の形状を変化させて、獣のような鋭い牙を剝き出した見た目になっていく。


その姿は憎しみに覆われた野獣のようにイヅナに向けた殺意のみが向けられている。


意識も定かではないルリをその場に捨て去ると、疾風を構えて迎撃態勢になるイヅナを見据えたのか、四足歩行の形を取るように静かに体勢を整えている。


吹き抜ける風に髪をなびかせるイヅナの揺れがなくなった瞬間、互いの中心で一撃を交じ合わせる。


力負けを感じさせながらも隙をついて、尾で相手の腹部を吹き飛ばして、腹を押さえ込むイヅナを追い込むように鋭利な爪で身体を引き裂こうと連続で切り裂こうとしている。


「くっ。なんて重い一撃なの!! あの時とは全然違う......くっ!?」


疾風を押し返されるイヅナに暇を与えず、尾を相手の首に巻きつけて、生物兵器の上を引きずるように移動し始める。


高速で動き回りながらの急停止した勢いで地表にイヅナの体を叩きつけると、華奢きゃしゃな彼女から骨が折れる音が響き渡り、苦悶の表情を浮かべる相手の横腹に嚙み付くと、肉片を引き千切るように血が溢れ返るように飛び散り始める。


「や、やめて。姫ちゃん......。イヅナちゃんが死んじゃーーー」


ルリの声は届く筈もなく、イヅナの首に尾を巻きつけたまま、目の前まで体を持ち上げる。


殺意に満ちたカグヤの目線とイヅナの朦朧とした目線が合うように近づけながら、戦闘服を引き裂いて、獣のように発達した牙で破いていく。


爪のように変化した手で装甲を殴りつけるように壊しながら、相手を守る衣を全て剝ぎ取ると雄たけびを上げながら、イヅナの胸に浮かび上がらせた魔力の結晶体。


つまりは魔力の源ともいえる物を尾を突き刺して吸収していく。


「くっ...あっ......あぁぁぁぁぁっ!!!」


魔力が凄い速度で吸収する感触に耐え切れなかったように、下着を濡らしながら漏らしてしまうイヅナの姿がそこにはあり、痛みと魂を抜かれるような感覚に身体を跳ねさせている。


「あれが、お兄さんが隠していたカグヤちゃんの本当の姿なんだね。イヅナちゃんには悪いけど、今のうちにーーー」


ルリを抱えながら、生物兵器から飛び降りるアマツの姿を見据えたのか後を追うようにカグヤもイヅナを放置して地上へと向かう。


「無残な姿だな。ポンコツでも使いようがあると思っていたが、残念だ」


イヅナの目の前に現れる一人の男。


「主...様、も、もう一度チャンスをーーー」


「壊れた玩具に用はない」


イヅナの髪を掴むと痛がる彼女を無視しながら、全長200mはあるだろうという高さの生物兵器から落とすように放り投げる。


落下していくイヅナを見据えた男は、生物兵器に進軍を命令しながら消え去っていく。


イヅナも死を覚悟をしたのか、地表には目を向けず、仰向きになりながら地上に打ち付けられるのを待つ。


「これが運命だったんだ。どうせ私は、主の役にも立てない玩具に過ぎなかった......」


空に手を伸ばして羽ばたく鳥を見つめては、生まれ変わるなら自由に飛びまわれる鳥になりたいと、悟ったように目を閉じる。


「勝手に死なれては困る。お前には、この兵器を止める架け橋になってもらわねば」


私を優しく受け止めてくれた目の前の男性を薄れゆく意識の中で見つめる。


「だからお前はアイツの為に生きろ」


地表にお姫様抱っこで降り立つシキの姿を見つめると、先程投げ捨てた男の顔がフィードバックしたのか類似する二人を重ね合わせるように涙を流しながら相手を抱きしめる彼女をあやすように治癒魔法をかけながら、ゆっくりと地上に降ろす。


「お熱い中で悪いんだけど、カグヤちゃん止めるの手伝ってくれないかなぁ? 僕も結構、丸腰で辛いんだけど」


力任せに振るう暴走したカグヤを難なく、交わすアマツが横を通りすぎると、二人を見つめながら、シキの姿に舌打ちする変態王子。


「じゃあサクっと終わらせて、僕もイヅナちゃんのちっちゃい胸を拝ませてもらおうかな!」


真正面からの攻撃を弾き返すように掌底で両手を弾き、そのまま腹部に肘打ちを当てると崩れ落ちるように倒れこむカグヤを抱き抱える。


「それで、あの怪物はどうするの?」


巨大な生物兵器を見ながら、シキの隣に移動すると顎に手を当てて、策略を練ろうとするが鋭い目でカグヤをの額に手を当てて何かの術式を施していく。


「カグヤのリミッターは外れている。これを組み直す時間はない。残されたもう一つの能力を使う為に悪いが無理にでも起きてもらう」


ハーモニクスと書かれた術式で、カグヤを媒体に他の者が調和を奏でるシンクロをするという魔法と、場にいる全員に説明をする。


不完全な面もある為、シンクロをした者は身体の再構築されない危険性があると、強力であるが故、対価があると口々に言い放つ。


説明を受けたアマツですらも精神はカグヤの中に残るとはいえ、肉体の再構築されない可能性があるという内容に口を塞いでしまう。


「それは...私みたいな信用を失った人の成り損ないでも構わないよね......?」


シキの袖を引いたイヅナがゆっくりと立ち上がる。フラフラな状態でカグヤの顔を見つめて、激痛に顔を歪ませながら、アマツからカグヤを受け取るように抱きしめる。


「可能だ。だが、お前がカグヤの精神に飲まれない保障はない。既に心理状態が不安定では栄養になって消えるようなものだ」


その説明に少しの笑みをこぼすと、シキとアマツに見えるように顔を上げて、今までに見せたことのない顔をしてみせるイヅナの姿がそこにはある。


「構わないです。私に残された償いをこの子に任せられるならーーー」


どうすればいいかを聞くようにカグヤを膝に寝せながら、シキに目線を移しながら説明を受ける。


シンクロにはカグヤの意識が回復する必要があると、その間をシキとアマツで埋めるといった作戦を組む。


「カグヤが起き次第に手順通りにな?」


「イヅナちゃん。絶対帰ってくるんだよ? 今のイヅナちゃんの居場所はココだからね?」


顔を見つめ合いながら、頷き合うと時間稼ぎの為に生物兵器に向かう二人を背に先程まで私に殺意を向けていた人間がこの話に乗ってくれるかという心配をし始める。


目線をカグヤに移し変えるイヅナの姿に追い討ちをかけるかのように、戦場で散った兵士のXUNISが近場に落下する。


砂埃と飛び散った血が地表を赤く染める。


本来ならこうなっていた命に未練はないと、カグヤを起こそうと頬を軽く叩き始める。


「イヅナ...さん.......?」


目を開けて相手を見つめると、嬉しさの余りか涙を流してしまう彼女の顔をそっと触れて慰めようとする。


「そうだよ。でも、これからいなくなるの。隊長にも謝りたかったけど、時間がないから手短に済ませるね?」


何かに勘付いたようにイヅナさんを振り払って、相手から距離を置く。


「イヅナさんは本当にそれでいいの? 本当にこんな人生で終わっていいと思ってるの!?」


「私には君のように求められる肉親も仲間もいない。私が消えても誰も悲しまない。信じていた人に裏切られたんだから後悔はない」


俯きながら苦笑いを浮かべると、悪いことをしたと反省の意味を込めて、取られていた緋天と疾風を手渡される。


「ごめんなさい。君には謝っても許されないのを知っている。けどこの世界を守れるなら私なんていなくなっても構わないと思っている」


その発言に胸に秘めていた想いが爆発するかのように、相手の頬を軽く平手打ちすると、何故叩かれたかわからないといった表情を浮かべる相手を抱き寄せる。


「居場所がほしいなら、私がイヅナさんの居場所になる! だから二度と『私なんて』って言わないで!!!」


抱き寄せる力が折れた骨に響いたように苦痛の表情を浮かべるイヅナさんだが、相手が認めない限り離さないと強く抱きしめながら、言い訳を口にしようとした彼女の口を塞ぐように唇を重ねる。


重ねられた唇は、初めて分かり合えたあの夜と同じ柔らかな感触と共に相手の心に響いたのを実感するかのような、彼女から求められているという感覚にゆっくりと口を離して見つめ合う。


イヅナさんは嬉しそうな顔で涙を流し始めると、覚悟を決めたように私の唇に人差し指を立てる。


「君に消される程、私は甘ちゃんじゃないからね。絶対、ココに帰ってくる」


「イヅナさん。絶対だよ? 約束を破ったら許さないからね?」


生意気と額をデコピンされると、痛さに頭を抱えてうな垂れる姿を見据えて、疾風を私から奪い取るように展開させると、手を差し伸べるイヅナさん。


その手を受け取るように緋天を展開させながら横に並ぶと、ハーモニクスを同調させるように強く手を握る。


「行くよ? イヅナさん」


『Harmonics Drive Stundby. Pattern Select Ver.Iduna 』


イヅナさんの姿が光の粒子に変わると、私の胸に溶け込むように身体と一体化していく。


姿形が彼女のように縮んでいきながら、自分の身体とは思えない程に身のこなしが軽くなるのを感じると目を見開いて、緋天と疾風の武器素体が合体して大薙となり、小さな体に余る程の大きさに手に取った瞬間、どれ程までに強くなったかを実感する。


すぐそこまでに迫った生物兵器を見上げると、身体を一回転させながら宙を舞って大薙を大きく振る。


大きな風の斬撃が衝撃波となって、並み大抵の攻撃に動じなかった生物兵器が、十歩下がるように吹き飛んでいく姿を見ると、辺りにいた兵士に希望を与えたかのような歓声が湧きあがる事に生物兵器を見据えながら少しだけ微笑んでみせる。


「どうしたの? これで引いたりしないよね?」


心がイヅナさんと通っているかのような感触に嬉しくなってしまい、衝撃波を何度も放ちながら、生物兵器を徐々に拠点から遠ざけていく。


防衛機能を最大にしたのか、硬そうな甲羅部分を前に突き出してこちらへ突撃を試みる生物兵器に、大薙を背中に背負いながら迎え撃つ体勢を取ってみせる。


助走をつけながら、向かってくる生物兵器に身体を捻った回転を加えながら、甲羅に向けて強烈な蹴りを撃ち込む。


甲羅に直撃した部分を中心にヒビが広がりながら、そのままコアを剝き出しにした状態で逃げようとする相手に、追い討ちをかけるように竜巻で相手の動きを封じ込める。


跳躍すると共に踵落としを相手の中枢へと撃ち込んでコアを完全に破壊する。


「覇王断空脚......」


心に浮かんだフレーズと共に生物兵器は塵になって消えていき、辺りを取り巻いていた緊張感と殺伐感が、一気に吹き飛ぶと一帯が歓声の渦が巻き起こる。


空の暗雲が消え去り、一筋の光が差し込むと緋天と疾風の組み合わせを解除する。


「怖くないよ。私は君、君は私なんだからーーー」


身体から光を放つと、結びついたリボンが解けるように二つに分かれる。


向かい合うその表情に曇りはなく、見詰め合う瞳はまた出会えた嬉しさに溢れている。


「約束だったから.......。今日から私の帰る所は、君になってね」


「イヅナさんの居場所は私だけじゃないよ。ルリさんも兄様も変態さんもイヅナさんの帰る場所だから、一緒に生きよう」


相手の手を握ると、赤らめた相手に目線を合わせるように膝を少し折りたたみ。


「勘違いしないでね? 君は私の標的ターゲットなんだからーーー」


「わかってるよ、イヅナさん......」


顔を横に向けながら、照れ隠しをする相手の頬を正面に向けさせて、深く交じわせるように唇を重ねる。


「あれれ? 女の子同士のキスならお兄さん怒ったりしないの? 意外だねぇ。もしかして同性愛が好きなのかなぁ?」


アマツが口付けを交わす二人を見つめるシキを見ながら、煽るようにプププッと笑うように下から覗き込んでいる。


「カグヤが望む愛に俺は文句はない。それに俺も疲れた。とやかく言う元気もない」


壁に腰掛けながら幸せそうな、カグヤを見つめてはフッと笑いながら拠点の中に入っていくシキ。


「それもそうだね。僕もふざけて関与するつもりはないさ」


光が二人を祝福するように降り注ぐスポットライトのように輝いている。


誓いを胸にイヅナは、新たな居場所を手に入れたのであった。

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