第7話 第一章 二重因子編 -運命の申子-

またこの夢.......。


カプセルの中で、拘束されたかのように身体が身動き一つできない。


手足は鎖で縛られていて、培養液のようなものに浸っている私は、意識が定まらずにいた。


目の前には、いつものように兄様とよく似た姿をした1人の男性の姿があり、カプセルに手をつけながら私を愛いつくしむように見つめている。


「もうすぐだ.......。もうすぐ君に会いにいける.......」


相手の声に反応したいが、声を発することができない。私に会いに来るとは、どういう事なのかわからない。


目の前に私は存在しているのに、まるでそこに居ないかのような言い回しに聞こえる。


もしかしたら夢の中での私は、消えかけているのかもしれない。


前よりも夢を見られる時間が少なくなっているというのも事実ではあるが、何よりも前までは繊細に起きてからどんな夢を見たか思い出せていたのに、今では意識をしても起きてからの記憶が残されていない。


あんな話をされた後だ。


きっとこんな精神状態では、見てしまう夢も幻想に程近い話をされても仕方ない。


兄様の側から離れていくのが、怖いから夢の中で似た存在を求めてしまうのだろう。


もう意識を取り戻す時間なのかと、急激な眠気と共に目の前で私を求める男性が手の届かない場所に遠ざかっていく感覚。


「必ず迎えに行くからな。いい子で待ってるんだよ?」


その言葉を聞き取ることで何かの達成感を得たのか、安心をしながら深い眠りについてしまった。




目を覚ますと、暖かなベッドに身を包んでいた。


あれからどうなってしまったのかと考えに耽けていたが、思考が回るようになった瞬間にバッと起き上がって周りを見渡す。


確か、私は監禁されていて気を失う前に......。


自分の姿を確認すると予想通りというべきか、想像をしたくはなかった通りに何も着ていない産まれたばかりの赤子状態で困惑をしてしまう。


そして暖かな毛布に包まれているのは、自分だけではなく隣にも誰かが眠っている為、一気に顔を青ざめてしまう。


私をさらった仮面の男は、私を女の子だと思っていた。そしてやたら柔肌について熱く語っていた彼だ。


もしかしたら男と、気づかれてもあまり気にせずに身体を弄んだ可能性も低くない。


身体に異常はないかと調べながらも最悪のケースも踏まえて調べたくはないが、大股を広げながら男とはいえ守ってきた大事な部分におそるおそる指を近づけていく。


仮面の男だって私が男だとわかれば興味を失くして何もしなかった可能性もある。


だが......。


もしも本当に入れられていたらと悪寒が走る。しかし調べなければ今後の自分の価値観にも関わる。


極度の緊張と共に指を動物でいう尻尾が、生えている穴に入れようと試みようとしている。


「何をしている? カグヤは新しい性癖にでも目覚めたのか?」


私が大股を広げながら、その様子を見つめている兄様の姿が目の前にあり、一瞬の内に場が凍りつくように世界が止まって思えた。


今、兄様の目の前でしようとしていた行為。そして隣で眠っていたのが仮面の男ではなく、兄様であったこと。


「あ、兄様...これは違うのです......。これはその.......」


「俺は別になんとも思ってはいないぞ? 弟がまた一歩、大人に近づいたことに寧ろ感動を覚えているくらいだ」


一人で頷きながらも記念にと小型端末を開いて、私の姿を撮影する兄様の姿に辱めを受けながら、赤くなる顔と衝動を抑えきれずに平手打ちをしてしまう。


「兄様の...馬鹿ァ!!!」


毛布を身体に巻いて部屋を飛び出して行くカグヤの姿を見て、我が弟ながら立派に育ったと一人納得する姿を見せるシキ。


「兄妹のイチャイチャはどうでもいいから、縄を解いてくれないかな? 僕もカグヤちゃんの裸を覗きたいし」


宙にギシギシと音を立てながら、ぶら下げられて縛られた元仮面の男の姿がそこにはあり、カグヤの裸を見れなかった事に絶望の一点張りといった感じで浮かない表情をしている。


「あぁ、すまないが暫くはそこでそのままで居てくれ。お前のパーソナルデータを入力する為にジッとしていてもらわなければならない」


ベッドから起き上がると、着替えを始めるシキの姿にやれやれといった表情をしてみせる元仮面の男。


「本当に僕を君たちの仲間にしようとしているのかい? 些か、信じがたいのだけど?」


端末に向かい合うシキの姿を見ながら、忠告を送るように信用する相手を間違えていないかという風な質問でもあったが、顔を合わせる事もなく第三の新型XUNIS紫電しでんのデータを次々と入力していく。


「意見は聞いていない。お前は俺とのゲームに負けた。それだけで所有権は俺にある。逃げたければ逃げてもいいが。

そんなロープ程度で、お前を長い時間拘束できるとも思ってない。何故、逃げ出さないんだ? ”アマツ”君...それとも仮面の男がいいか?」


相手の名を呼んでみせるシキにため息をつくと、拘束を解いて床に音を立てないようにつま先立ちで降り立つアマツ。


「バレてるなら尚の事、引き下がれないだろう? それに君に協力する理由が僕にはあるからね」


端末に向かい合うシキの後ろに立ちながら、紫電のデータを見つめてあまりにも自分には向かなさそうな武器の形状に、感心のない表情を浮かべて部屋の中を物色し始める。


カグヤの下着だと思われる布を手に至福の表情を浮かべながら、自分の好きなタイプの紐物を見つけると、頭から被りながら勝利のポーズを取っている。


その姿を横目で見ながら呆れ果てるシキだが、紫電の適応者がこんなにも簡単に見つかった事を単なる偶然とは思えないといった様子で、入力に抜けがないかを念入りに確認している。


「ねぇねぇ。お兄さんも隙だらけで信用してくれてるのはありがたいのだけど、無用心すぎるとも僕は思うなぁ。」


天井に向かって人差し指を向けるアマツ。


一点に集中しながら電流を指を向けた先に放つと、屋根裏で何者かが奇声をあげてその場に倒れこんだ音が響き渡る。


「安心しろ。見立てはそんなに変わらないが、外部からは映像に誤差があってな。俺が作業している画面を覗き込もうとすると、入力された文字がランダムで入れ替わるようになっているから心配はない」


「へぇー。じゃあ僕の端末にもそれ施してよ! カグヤちゃんのエッチな画像とかアダルトチャンネルも見放題だし、最高だね!!!」


アマツと顔を合わせるシキはやれやれといった様に、相手の被っていたカグヤの下着を外して、席を立ち上がると窓際まで移動していく。


「カグヤがいるという理由だけで、お前は本当に残ってくれるのか? 命が掛かった戦場に居たいわけでもないだろう?」


窓際から見つめるシキの姿に外から吹く風に流されてきた花びらを1枚、拾い上げて隣へと移動しようとするアマツ。


「カグヤちゃんは好きだけど、僕は君にも興味がある。僕に勝ったからには、それなりの未来を創造する力を持っていると思っている。それに君の盾にもなるつもりでもある。カグヤちゃんは僕の話だけでアレだけ動揺した。

悔しいけど、君たちの兄妹愛は本物さ。僕が命を張ってでも二人の未来を守ってみせる。...って感じの台詞をカグヤちゃんの為に用意してたんだけど、どうだったかな? ちょっとだけ格好良かったでしょ?」


無邪気で悪意を感じない子供のような満面の笑みを浮かべているアマツの姿にフッと笑いながら、互いにカグヤを守ろうという意味を込めてだろうか。


カグヤの下着を持った手で、握手を求めるシキの姿に応じるアマツ。


「さっきは言い過ぎたでしょうか。それに兄様も不安がる私を慰めようと隣にいてくれたのかもしれませんし.......。とにかく謝って誤解を解かなくては」


部屋を出たは良いが行く宛てもないまま服を着ながら、浮遊魔法で自室の窓が見える位置で停滞していたが、自分の下着で組み合う二人の男性を見つけては、白目になりながらその光景に頭が真っ白になっていた。


「俺にもしもの事があったら、カグヤを慰めてやってくれ。ただし変な事をした場合は消し炭にするからな?」


「もしもはないし、死んだ後に消し炭にされるシステムなんてXUNISに積まないでくれよ?」


二人で笑いながらカグヤの下着を握り合う光景。その姿を後ろから見つめているカグヤがいるとも解らずに。


「やっぱり兄様は変態です......」


顔を真っ赤にしながら、これ以上辱めを受けない為にと今日は部屋に戻らないことを決意する。


本拠点から離れた花畑に移動すると、吹き荒れる花びらを身体中に受けながらも囲まれた色鮮やかな花の中に倒んでいく。


「兄様なんて嫌いです。なんで、私が嫌がる事しかできないのですか.......」


花の香りに包まれながら、ゆっくりと目を瞑る。花の蜜を集めようとする蜂の羽ばたく音、空を自由に飛び回る鳥の鳴き声。


どれも月にはない自然環境の中にある平穏そのもの。そして、それらを包み込む日差しの暖かさに私は嫌な事も全てを心の中で自然に解決するまでのひと時を安らいでいた。


先程の出来事が、まるで小さな問題のようで、このままで居られるならどんなに幸せかと、仰向きになりながら空を見上げている。


太陽の日差しが眩しい。太陽に手を翳して、光を遮断するように影を作り、このまま眠っていられたら、どれだけいいだろうと静かに心を落ち着かせている。


「そんな幻想を抱いていられたら、この世界は破滅の一歩を辿らないんだよ?」


一瞬の出来事であった。警戒心を解いていたとはいえ、相手が近づいてくることに気がつかなかった。


見知らぬ声に即座に起き上がろうとするが、鎖のようなもので身体が縛られて固定されていることに気がつく。


「この子だよね? 運命の申子って」


「そうだ。あの方は申子様を持ち帰ることを期待されている」


運命の申子?


何の話をしているのだろうか。フードを被った人物が3人、目の前に立っている。


「でも簡単すぎて逆に面白くない。あの人に相応しいかを試したい」


「おい。命令は生きたまま持ち帰る事だぞ?」


一番、身長が高い男の声が小柄な女の声に歯止めをしているが、無言で監視をしている中央の男が抜かりなく見ている為、この鎖を解いてからの行動に問題が出てしまう。


「生きたまま...ね?」


フードを纏った小柄な女性が近づいてくると、鎖を解除して身動きを取らせるように仕向けてくる。


「動いていいよ? 簡単にやられちゃ面白くない。せめて三分は楽しませて」


両手にナイフを構える小柄な女性。


「ま、待ってください!私はアナタ方と争う理由がありませんし、それに運命の申子って何の事ですか!?」


「いいから...構えろって言ってるのです!」


私の言葉を面倒な質問と捉えたのか、小柄な女性は目の前まで飛脚して私の首筋に向け、ナイフを大きく振りかざす。


それに対応しようと、緋天を即座に展開させて小太刀で受け止めてみせるが、女性とは思えない程の力に少し押され気味になってしまう。


「話を聞いてください! 質問に答えてくれなければ私は争えません...よっ!!!」


反対の太刀で相手のナイフを弾き飛ばすと、構えを解いて再び訴えかけてみようとする。


「君、本気出してないよね? 私は命令は嫌いだけど、君みたいな甘ちゃんはもっと嫌いなんだよ...」


相手を怒らせてしまったらしく、先程とはまるで別格の殺意を感じる。


間合いを測る女性の動きは、まるで獲物を狩ろうとする狼のような目をしている。


「他は手を出さないで。こいつは私が食いちぎる。命は助けるけど、腕の一本や二本は折らせてもらう」


「構わんが負けるような事態になれば、お前の汚名も免れない事を忘れるなよ?」


フードを被った二人組が後方に下がると、人避けのフィールドを展開する。魔力に寄る衝突が起きても兄様に位置を知らせない配慮だろう。


「私はこういう子が嫌いなの。自分の存在価値も見出せない、ただ吞気に平然と過ごしてる人間が.......」


フードの男との会話を小柄な女性は行いながらも着々と、刀の長さと見合った間合いを取りに来ているのは明白。


やらなきゃやられる.......。


「わかってるなら素直に自分の心配をしてね? 私を無傷に相手出来ると思ってるならその考えは甘い」


相手の突進するような真っ直ぐなダッシュに戸惑いながらも小太刀とナイフを再び交じり合わせる。


これ程までにストレートで向かってくる相手に恐怖心を植えつけられながらも、動体視力で追えるギリギリの連続の突きに受けきるのが手一杯だった。


小柄な成りをしているのに戦い慣れをしていた彼女に少しでも攻撃から目を離して、表情を確認しようとする間を見透かされるように何箇所か肌をかすめて、傷を貰ってしまう。


「軟弱。人の顔色を伺う暇があるなんて、余程ナメられているのか、それともこの状況下で余裕を保ってられる馬鹿なのか」


ナイフと小太刀が、擦り切る音と共に鎌鼬のような物が、空気を切り裂くように向かってくるのがわかった。


私の頬や胸にそれぞれナイフで抉るような衝撃が伝わると、風圧で身体ごと宙に飛ばされて、瞬く間に地面へと打ち付けられてしまう。


「何...今の......」


起き上がると衝撃を受けた部分から、血が流れて零れ落ちるように花を赤く染め上げている。


軽い切り傷だが、相手が本気を出していなかったとしたら今ので私は死んでいた。


「わかった? 次は腕を切り落とすつもりでいくから、本気を出してね?」


このままではやられる.......。


状況を鵜吞みにするように、こちらもナメて掛かる事なく対応しようと構えを取る。


「やっとやる気になった? でも君に私の風が捉えられる?」


「次の一撃で終わるのは貴女です。その技はもう使わない方がいいとオススメします」


深呼吸をして、目を瞑るように魔力を研ぎ澄ますように太刀と小太刀を擦り合わせて刃に熱を纏わせる。


先程とは打って変わって、真剣な表情に相手も気づいたのだろうか。


「『技を使うな』なんて聞いて『わかりました』って言う馬鹿がいるとお思いで?」


同じ間合いとパターンで、私に向かおうとする小柄な女性。


「君にこの技が見切れるわけがない。 終わるのは君の方だよ!」


同じ要領で、ナイフを振りかざす相手に同じように小太刀で受け返してみせる。


「これで終わり!落ちr......」


「緋天、イグニッション・ブースター展開」


『All right.』


小太刀で相手のナイフを押さえ込みながら、反対の手で業火を相手に放つ。


「目晦まし、もしくは火傷が狙い? 残念だけど、このコートはその程度の火力で燃えたりしない」


業火に包まれている相手は、モノような口ぶりで反対の手に持ったナイフで腹部に刺し込もうと一気に突きつけてくるが、力を込めているが届かないという動きで表情を歪めている。


「貴女の技は風を応用した空気を切る能力、もしくはナイフに何か仕掛けがあると読みました。実際に私の緋天から放たれた火に対して衝撃が発動できないのは、私が貴女の技を発動できない状態にしているから。

そして、この業火はただ相手の動きを止める為の技ではないですよ?」


ナイフを押さえていた小太刀で弾き返してみせると、出来上がった隙に小太刀を逆方向へと向けて相手の胸に太刀を収めた手のひらを向ける。


「イグニッション・バースト」


『Ignition Burst Full charge.』


「ファイヤッ!!!」


小太刀の先と手のひらから、極大のブーストを点火させるような火炎砲撃を双方に放つ。


先程の業火とは比べ物にならない程の火力と熱量に耐え切れず、コートを燃やし尽くして後ろにいたフードを被った二人も巻き込む形で放たれた砲撃は、一瞬にして周りを焼け野原にする程の熱さを秘めていた。


これだけの威力に任せた砲撃に耐え切れる訳がないと、緋天に熱暴走を押さえる為に内部の熱を排出させる。


「その隙は大きいぞ?」


気を抜いたわけではなかった。焼け野原になった辺りの煙に紛れて先程、話していた大男が突っ切ってくる事に気づかなかった。


男は大きな斧を構えながら、一気に私の頭上へと振りかざしてみせる。


「くっ......」


なんとか二刀で受け止めて見せるが、熱を排出している瞬間だけあって減退は免れずに力比べで膝を地面につけてしまう。


「手を出すなと言った。私はまだ負けてはいないのに...」


「悪いがこちらにも退けない事情があるのだよ。それに申子の剣は現在弱体化している。傷をつけず、連れて行くなら好機ではないか?」


確かに今の状態では長くは保てない。


魔力はセーブしたつもりだが、緋天が復帰するまで丸腰であることも問題視されている事に一早く察知したのだろう。


刀で押さえつけている為、身体を狙っての蹴りに耐え切れずに地面に倒れこんでしまう。


「このまま拘束しろ。あの御方もお待ちになっている」


「.......仕方ない。あまり好きではないが、命令なら仕方あるまい」


男に抱かれながら、女性の元へと連れて行かれる。


もう太刀打ちできる程の力は残されていない。


大人しく拘束される直前に睨みつけてきた小柄な女性と目を合わせる。


「 君を試す為に技を隠していたにすぎない。次は絶対負けないから」


言葉を返す気力すら失われる程の身体の痛みと、魔力消費による精神の不安定な状況から意識を保つのがやっとである。


「本当にソックリだな。あの培養液の中に入ったあの御方の妹に」


妹という言葉に耳を傾けながら、培養液という言葉も気になってしまう。


夢に出てきた風景が頭に浮かぶが、そんな事を考える暇を与えないように意識を奪われていく。


鎖の締め付けが強くなり、残っていた魔力も鎖を通して奪われていく。


薄れいく意識の中で肌にめり込むように身体に巻きつく鎖に抵抗するように身体を発火させてみるが、あまり効果はないようで虚しくも魔力切れになってしまう。


「黙ってついてこないなら、君が如何にあの御方のお気に入りでも最低の処置を取らなければならない」


注射器を腕に押し付けられて、中に入れられていた薬を細胞に流し込まれていく。


身体の火照りと脱水症状のように渇きが、脳震盪で思考する力が失われてしまう。


徐々に目の前が、真っ白になっていく。


大男の拳に懐を殴られて、そのまま意識を失ってしまう。


「それ以上、俺の弟をイジメないでくれないか?」


長距離からの射撃と、共にカグヤを持つ男の腕に着弾した瞬間に男の腕が氷付けにされていく。


「例の男か。こんな忙しい時に」


カグヤを地面に落としながら、警戒態勢を取ってみせる三人に微笑み、次々と視野外からの砲撃を放っていくシキ。


弾道は四方八方から次々と放たれているようで、位置を特定するのは不可能と判断したのか回収を諦めるように、それぞれ散開を余儀なくされたのか合図と共に散っていく。


「ちぇー。紫電のテストもできると思ったんだけどなぁ.......」


崖をよじ登りながら、姿を現すアマツと飛翔魔法で駆け上がるシキ。


言葉通りに紫電のテストを行う為にカグヤの元へ向かって練習試合を頼む予定だったが、シキがカグヤの異常に気づいて、一早く狙撃を行ったという流れであった。


「おやおや? カグヤちゃんが在られもない姿で寝そべっている。服も破れているし汗だくで、とても放送ができない姿だね! これは風邪を引いちゃうかもしれないねぇ。近くにお医者さんは居ないかな? 居ないなら僕が脱ぎ脱ぎさせてあげるけど!!!」


カグヤの姿を見ながら、イヤらしい目で仰向きにしてみせると破けた服をマジマジと眺め、堪能に浸っても鼻の下を伸ばしている。


「テストは中止だ。カグヤの容態を確認することを優先とする。お前はここで素振りでもしてろ」


カグヤを抱き上げると、アマツを残すと拠点に戻ろうと飛翔魔法で部屋の中に戻ろうとしていくシキ。


「素振りっていうけど、これ結構素振りする価値ないよね?」


紫電を見つめながら、呆然と立ち往生で置いていかれるが何をするわけでもなく、ただその場から部屋に戻る手段を考えようにも崖を降った先には奈落の海が待ち構えている為、とりあえずとカグヤが倒れていた場所に横になってみせるアマツ。


「ここにカグヤちゃんが眠っていて、僕は同じ場所でカグヤちゃんの温もりが微かに残っているここを死守しよう! そしてカグヤちゃんの汗の香り!!!]


土についた微かなカグヤの汗の匂いに興奮しながら悶絶をしている彼は、たぶん幸せだったに違いない。

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