第5話 第一章 二重因子編 -囚われた姫君-

重苦しくも負傷した姿に身を包む参謀が並ぶ、作戦室内では次の襲撃がいつ行われるかも知れないという会議が始まる直前である。


残った兵力ではどうしようもない事が、明白になっている状況で浮かぶ案はなく、だからといって離脱するにも拠点に逃げ圧した民を抱えての移動となれば、次の襲撃に備えるには難しいだろう。


策士や参謀の意見が飛び交う中で、我こそはと指揮官自らが席を立ちながら咳き込む。


「我々に残された希望は、月からここへ移送されてきた二人の兵士です。彼らとの連携で民を優先的に敵の届かぬ第三都心。つまりは東アジア方面へと逃げることが成すべきことではないでしょうか?」


緊迫した説得の中で飛び交う野次にも冷静に口論を重ねながら、指揮官の意図する作戦がなかなか浮かばず時間だけが過ぎていく。


意見が纏まらずに長い沈黙の後、大臣が指揮官の言葉で思い出したように口を開く。


「そういえば話に出た例の二人はどうしたのかね? この部屋に向かっているとは聞いているのだが......」


隣の席同士が顔を見つめ合わせる中で、ドアの向こうから聞こえてくる声に全員が耳を傾ける。


「やめてください! こんなところ誰かに見られてもしたら、変な誤解を招きかねません」


「カグヤの柔肌に傷がつくようなことがあれば、俺はこの上ない劣情感に陥ることは避けられんのだ。頼むからジッとしていてくれないか?」


痴話喧嘩のような内容でとても信じがたいが、すぐ其処にいると思われる英雄というには程遠い会話が聞こえ、異名を持つとされる華の無い姿がドアの奥には広がっていた。


どう見ても美男子が、今にも泣きそうにしている美少女の衣類を強引に脱がして、嫌がるその姿を楽しんでいる悪魔のような光景。


生物兵器をいとも容易く駆逐した兄弟で、こんなにも血の繋がりを超えた関係まで発展しているとは誰も思わないだろう。


ドアをそっと閉じて指揮官が咳込むと、発案した作戦の変更を提案しながらも話は流れていく。


「兄様もこの様な面前で、私の柔肌など確認する暇があるのであれば、開発中のXUNISに力を注いでください! まったく嘆かわしいです。私を失望させないでください」


相手を振り払いながら、XUNISを纏っていたレオタードのような姿になる。


会議質のドアを開きながら、兄様に向けてのダメ出しをするように人指し指を立てると、忠告をする素振りをして部屋に入室しようとする。


「待て。これより先は、お偉い方が集う場所だ。その姿ではカグヤの愛おしさが伝わらないであろう。俺が作り出した新たなドレスに身を包んでこそ、気品のある弟として兄も誇れるのではないか!」


魔法式を展開してみせる兄様の姿を目に入れる暇もなく、ドアを開いた部屋に居合わせた方々に無礼がないようにと髪の乱れを直す。


時は既に遅く部屋に入った瞬間、身に纏っていた衣装が変更されていくが緊張の余り、髪を直すことで手一杯だったようで身丈を見ることなく挨拶をしようと、目が合った指揮官を中心に、敬礼をして兵士として敬意を表明しようとする。


「失礼します。月面都市より応援にきました。特殊XUNIS部隊アドヴェント所属のカグヤです。本日は陰ながら支援の方を務めさせてもらいましたが、到着が遅れて申し訳ございませんでした。

我々も結成されてから日も浅く、新型のXUNISのテストも間もないものでしたので、如何なる処分も受ける所存です」


深々と頭を下げながら、一礼をすると一同が一瞬で静かになるのに気づき、兄様の姿を横目で、確認すると何かに納得したかのように首を立てに振っていることに気づく。


「あの...皆様、どうかなさいましたでしょうか.......?」


違和感を感じながらも顔を上げて、一同が顔を背ける素振りに更に疑念は増える一方、指揮官と思われる男性がこちらに近づいてくる。


「指揮官様でありますか? 私の発言に問題がありましたでしょうか?」


相手を上目遣いで見ると、首を傾げながらも辺りの反応を気にしているのか、胸の前で手を組みながら謝罪の意味を込めて、涙ぐんだ目で指揮官に目を向ける。


「カグヤ君だったな。とりあえず服を着てくれないだろうか? 話はそれからだ。」


.......服?


私の服装が気に入らなかったのだろうかなどとも思考を重ねながら、自らの姿を思い返しても違和感など無く、先程の戦闘で生物兵器の返り血でも浴びた痕が残っていたのだろうかと姿を確認しようとする。


「困るよ。奴らを撃退した君たちでも流石に下着姿で徘徊されては......」


相手の言葉通り、自分を包んでいた戦闘服は消失していて、水色のキャミソールとそれに担う下着姿で立たされている。


兄様が先程使った魔法の誤作動で、この姿になったと後ろから説明が入る。


「ご来場の皆様! どうぞ御覧ください。我が愛おしくも、敬愛すべき弟のカグヤにございます!!!」


指揮官を退けて私の肩を抑えながらも面前に放り出すと、全身を見せびらかすように包み隠さず晒されていく。


両手を上で組まされて、顔を赤くする暇もなく込み上げる感情を抑え切れずに声を上げながら、辺り一帯に魔力を暴発させるように衝撃を飛ばし始める。


「あ、兄様の馬鹿ァ!!!」


兄様の握る手を振り払いながら、部屋を飛び出していく。


その姿にやれやれといった雰囲気で周りの反応をを伺う様にシキが集まった首脳の前に立つ。


「特殊部隊隊長シキ。只今をもって貴君らの護衛及び解放戦線に向かう所存であります。就きましては、弟のカグヤ共々に御指示を何なりとお申し付けください」


大統領自ら、出向くようにシキの前に立つ。


「先ずは礼を言わせて貰いたい。ありがとう。弟君の戦果も評価に値するが、着目すべきは君だ。この機といわんばかりの賊の侵入にいち早く対処するとは......」


「私も閣下達の最終防衛ラインとして出向いただけであり、賊の侵入はついでに過ぎませんでしたので、感謝の言葉はカグヤに差し上げてください」


交戦中、拠点内に入り込んだ賊の正体はわからず、暗殺や窃盗の類の侵入にしては不振な点が多い為、話すことは何もなかった。


未だに潜伏している可能性も鑑みて、これからの議題も含め、話し合おうと席に座るシキを見ながら、それぞれに情報を端末に映し出して状況の把握をする。


「さてお待たせしましたね。早速、議題の方へ移りましょうか?」


先程とは、打って変わっての雰囲気に一同が息を吞む。


知将で名の知れた円卓の騎士の巧みな考察と今後の経緯などを説明され、状況の吞み込みの速さに的確な助言を加えながら、シキ自身の作戦をこれまでの予定へと組み込んでいく。


周りも気がつくまで時間がかかったようだが、いつの間にか作戦に異論が出ないように完璧とも思える進行にシキの持つ環境に移し変える空間感応能力に驚きを隠せずにいた。


シキがカグヤの機嫌をとる時に用いる技術も、自分の世界に相手を引き込む能力の一端ともいえるのがわかる。


他に意見が出ないように詰めながら、自らの作戦に問題がないことを辺りに知らしめる事で、安全策であると同時に賛同を得ていく。


その姿は孔明のような巧みであるが故、世界の状況が安定に向かった場合に紛争を起そうものならば、敵に回した時の恐怖を与えられずにはいられない。


「さて、議題もここまで。私はカグヤを迎えに行くのでこれにて失礼させてもらいます」


一礼と共に『互いの御武運を』と微笑んでみせる。それが忠告でもあり、戦争をさせない為の優しい脅しでもあった。


シキの退出後に戦略に問題がないかと一同が作戦を見直し始めるが、これといってケチを付ける部分も見つからず、指令官も塞ぎ込むような文句も出ない。


「円卓の騎士様は考えが一味違いますな。故に柔軟に事を運ぶ姿もまた凛々しくしていらっしゃる」


「ですが、この作戦では民にも危険が及ぶのではないか?」


「いやよく見てみろ。この陣営は鉄壁と呼ぶに相応しい」


「どういうことだ?」


「我々の名を汚さぬという点ではよく出来過ぎている......」


「しかし、あと一人を円卓の騎士様はどうやって揃えるつもりなのだ? この作戦には最低三人が陣を囲うような形で護衛が必要だ」


「彼に目星があると?」


退出後に意見が飛び交う中、シキはドアの前で腕を組みながらも微笑んでいる。


しばらくは部屋の前で様子を聞いていたが、結論が出そうになると兵士を呼んでカグヤが向かったとされる客室まで案内するようにと指示をする。


あんな事があった後だ。きっと口も聞いてもらえないだろうと、考え込みながらも廊下を進むと客室と思われる部屋の前で兵士が止まる。


「こちらにございます」


「あぁ。ありがとう」


兵士に敬礼をすると、肩に触れて耳元に顔を寄せて小さな声で呟く。


「生きろよ?」


その言葉はどれくらい嬉しかったのだろうか?


兵士は円卓の騎士と呼ばれた、この国を救って一時の平穏をもたらした英雄の言葉に命の心配してもらえた事に涙を浮かべてしまう。


「こ、光栄にございます! 円卓の騎士様!」


目の前で感動をして見せる兵士の姿を見ながら、微笑んで部屋の中へと入っていく。


思った通りカグヤの姿はないようで、窓が開いたままになっている。


シキの到着に感づいての家出だろうかと少し考え込む。


「可愛いな、カグヤは」


我ながらいい弟を持ったと一人でに納得してしまう。


姿を他の者に見られたくないのも彼の一端でもある為、監視カメラの外から送られた荷物の確認と開発中のXUNISの調整を踏まえて、カグヤの秘蔵写真をモニターに映しながら幸福の表情を浮かべているのだ。


「三人目をここの兵から選出しなければならないな。時間も限られている。明日辺りに兵士を全員収集してもらわねばな。」




会議室での一見もあり、部屋に戻れずにいた私は汗を流そうと大浴場へと移ったわけだが、どうにも視線が気になってしょうがない。


周りには同姓、つまりは男性の兵士や民間人が多い。見た目の影響もあり、男湯に女の子が紛れ込んだと誤解されているようなものだ。


本当は浴場に浸かりたかったが、髪を洗い終わった後からずっとサウナの中で、引きこもりながら汗を流していた。


「紅き女神様ではございませんか? 先程は救ってくれてありがとうございます」


身体がガッチリとした男性が中に入ってくるのを見つめると、隣に腰掛けながら話しかけられる。


「いえ、私たちがもっと早く到着していれば被害がここまで出なかったかもしれないのに.......」


相手に目線を合わせながら、到着時間よりも早く着いたとしても対応に追われて救えた命も見過ごしてしまった点も踏まえて、申し訳なさそうに頭を下げる。


髪に付いていた水滴が雫となって床に落ちるのを眺めながら、自分が不出来で兄様の到着が間に合わなければ、死んでいたかもしれない事もあり、感謝されるのは私ではないと相手に言い出そうとするが、言葉に詰まって静かな時が流れる。


「カグヤ様...でしたか? 我々も陛下の盾となり矛として、戦場に出向いているのです。命が尽きようとも主君が護れるのであれば、安いと考えるのはダメでしょうか?」


「それは.......! いえ私も同じ考えなのかもしれません。私が軍に入る前、友達を救おうと必死に自らが盾となりました。結果は私以外の命が消えて取り残された事で自暴自棄にも似た衝動に駆られました。だから何も言い返せません」


相手の考えを否定できずに自分自身と重ねてしまった。私は何も出来なかった人間で、この人達にアドバイスできるような立場にない事から塞ぎ込んでしまった。


「カグヤ様は、我らを救ってくれたじゃないですか。空から舞い降りた姿に兵士達も勝利を手にしたような喜びをあげていましたし、何よりも敵陣の真ん中に乗り出す勇気を私は誇ってもいいと思います」


両手を男らしい力強さで握られながら見つめられると、真剣な表情で頷いて見せる。


私はこの拠点を救った英雄で、弱気になってるところを周りに見せれば今後不安に満ちる可能性も無くはないと、この人は言いたいのだと理解する。


「すいません。弱気になってしまって......」


座席から立ち上がると、身体に巻いていたタオルを持ち上げて相手に向きかえる。


一礼をして室内から脱衣所に向かいながら、身体を拭いて下着を纏う。


服装を通っていた学校に近い制服姿に変更した瞬間にゴトッと物音を耳にする。


思わず身構えてしまうが音のした方に向かうと、一本の珈琲牛乳が置かれていた。


「差し入れかな?」


辺りに人の気配はなく、持ち上げた瓶にも違和感はない。何の疑いも持つわけでもなく、そのまま珈琲牛乳を口に含むと異常なまでの薬の味に直ぐ様、瓶を投げ捨てる。


意識が遠退いてしまうが、肌を持ち合わせのボールペンで刺そうとするが、何者かに手を掴まれてしまい、そのまま眠りに落ちてしまう。


「物騒だなぁ。綺麗な肌に傷が付くところだったよ」


持ち上げられるとその先は覚えていない。目が覚めた時に兄様が、目の前で過保護な一面を見せてくれると心の底から願った。




作業に明け暮れながらもシキのXUNISの調整作業は続く。


いつもなら隣に居てくれるカグヤがいないことが、若干悲しいようで度々、戻ってきてないかと振り返ってみせる。


カグヤの姿は、夜になっても確認できない。


「おかしい。いくら怒っているとはいえ、夜には必ず連絡を入れるカグヤから連絡がないとは.......」


何かあったに違いないと、作業を中断して部屋を出ようとする。


突然の事だった。いきなり部屋の明かりが全て消えると、背後に何者かが廻り込んだ気配がする。


冷静に蒼天を起動させながら、銃口を相手の額に当てる。


「何者だ?」


銃口を向けられた速さに一瞬だけ驚いて見せるもフフッと笑いながら、相手に不気味な感覚を覚える。


「撃たないでくれよ? 撃てば君の愛しいカグヤちゃんがどうなるか、わかるよね?」


背後に現れた相手は男のようで小型端末を取り出し、映像を映し出す。


その中には身体を縛られ、口封じをされて趣向なのだろうが夏用のセーラー服に身を包んで、椅子に座らされている弱りきったカグヤの姿がある。


その姿を確認するとシキは顔色を変えず、相手に銃口を強く押し付ける。


「俺にカグヤの姿を見せれば動揺するとでも思ったか? 悪いがその程度では脅しにはならないぞ」


その言葉に笑いがこみ上げたのか、愉快という反応を見せる男。


「わかってないなぁ、円卓の騎士様は。カグヤちゃんが今どんな状態にあるか全然わかっていない」


その言葉通りに何かのスイッチの取り出すと、カチッと鳴る音と共にカグヤの縛りつけられている椅子に目で見える程の電流がほとばしる様子が映り込む。


弟が苦しむ姿を確認すると流石に心配を見せるような様子を引き金に力を入れている事を察したのか、被っていた道化のお面で表情が読み取れない。


恐らくは笑いを我慢しているのだろうと、思わせるかのような体の捻りをする。


「さぁ。どうする? カグヤちゃんは、僕の意のままだ。君と別れた後に汚してしまうかもしれないよ?」


「そんな事をしてみろ。お前を死ぬより辛い思いをさせてやる」


冷静で策士の名で売れたシキの姿は、ただ怒りにまみれた1人の兄として殺意のオーラを放ち続けている。


「僕とゲームをしよう。ルールは簡単さ。僕と鬼ごっこをして君が鬼である僕を捕まえたら勝ち。もしも見つけられなかった場合はカグヤちゃんは僕の物。見つけたら返してあげる。簡単かつ良心的なルールだねぇ、うん」


ふざけているのか、自分の考えたルールに納得する素振りを見せる相手に冷静さを取り戻す為に一呼吸をするシキ。


「制限時間と開始時間は?」


銃口を下ろして蒼天をしまうと、相手のルールに基づいた方が賢明と判断したように表情を元に戻してみせる。


「話がわかるっていいねぇ。僕は君の事が好きになれそうだよ」


冷静な表情を崩さず、相手の言葉に取り乱しをしない構えのシキを見ながら、冗談を言う事に対して反応してほしいと、やれやれといった様子を見せつける。


「制限時間は明日の陽が暮れるまで。スタートは僕の最初のお題を出てからだよ」


その言葉を聞くと今の時間を確認して見せるが、くだらないという風にシキはフッと鼻で笑ってみせる。


「時間が勿体ないとは思わないか? 明日の明朝まで区切ってくれて構わない」


その発言に鳩が豆鉄砲をくらったというように硬直を見せる仮面の男。


攻めているのはカグヤを人質に取っているこちら側なのに、この男は逆に制約を短くしてみせる事によってゲームを短縮しようとしている。


正気の沙汰とは思えない発言に高笑いをしてみせる仮面の男。


「君、面白いこと言うね。用意した問題20個近くあったんだけど僕も鬼じゃない。今回は10個に.......」


「20近くで構わない。さっさと終わらせよう」


何を言っているのか理解に苦しむように、後ずさりをする仮面の男に追い討ちをかけるかのような一言を投げかける。


「もしも俺がゲームで負けたら命をかけてもいい。その代わり俺が勝利した場合、お前の命を俺がもらう」


「な、何を言ってるんだ! 君はルールを短くした上に自分を追い込んでいるんだぞ!?」


「それがどうした?」


「.......っ!?」


その瞳に曇りはないといった様子で、相手を見据える姿は円卓の騎士と呼ばれる由縁でもある騎士道精神。


ペースを完全に掴むシキの姿に混乱を隠し切れない仮面の男は、再び高笑いをしながら冷静を貫く相手に指を向ける。


「いいよ、君! 最高にクレイジーだ。でもルールの変更は認めないから覚悟するんだよ?」


笑い疲れたように一呼吸をする仮面の男は、窓際まで移動しながら月明かりに身を包み。


「お題を出す前に1つ教えろ。何故こんなことをする? カグヤが狙いなら俺に関わる必要はない筈だが」


その発言に不適な笑いを浮かべながら、カグヤの映像を見せて首を傾げる。


「君は可愛い女の子をどう思っている?」


「......可愛い女の子?」


「そうさ!僕は世界中の女の子を手駒にするのが夢なのさ!イケメンに淘汰されない世界が僕の目標!!! そして君のようなイケメンにはわからないだろう!? 可愛い妹を持っている君には!」


本音で語る仮面の男の世界にため息をつきながら、付け加えるように相手を見て額に手を当てる。


「あのな、カグヤは......」


「カグヤちゃんのような純白の柔肌、そして豊満でなくともその姿で男を魅了するスタイルと美しい表情。君の妹にしておくのは勿体ない。僕の趣味に着せ替えて、毎日『お兄ちゃん♪』って呼んでもらいながら一緒にお風呂に入る!」


その言葉にやれやれといった感じを見せるシキの姿に苛立った姿を見せる仮面の男。


「とにかく。君みたいな兄には、ちゃんとした妹のありがたみを知らしめる必要があるのさ!!!」


「早く始めるぞ。時間が無駄になってしまう」


仮面の男の話を聞こうともしない姿勢に苛立ったのか、床を強く何度も踏んでいる。


「わかった。最初の問題は超簡単さ。この拠点にある木の下にあるものを探し出せ。特徴は白いからわかりやすいだろう」


「木の下?白い?それだけか?」


首を傾げるシキにわかっていないと判断したように仮面の男は、その場で身体を一回転しながら喜びの動きをしてみせる。


「次の問題は、そこについているから早く解いてみせるんだよ?じゃあスタート!!!」


その言葉を残すと、窓を飛び越して十五メートルはあるだろうという高さを落下していく。


姿が無くなるのを確認するとベッドに腰掛けて考え込むような仕草を取るシキ。


「これは以外と早く終わりそうだな」


夜の月を見上げながら、優しく吹く風を浴びてゆっくりと立ち上がる。


カグヤと仲直りをする手間が省けたと思いながらも部屋を後にする際に昔、弟と似た遊びをしていたなと懐かしい記憶に浸ったシキの目には、殺意似た狂気が浮かび出ているようだった。

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