第4話 第一章 二重因子編 -地球に降り立つ紅き剣-
月面の生物兵器騒動から二ヶ月の月日が流れた......。
地球では日夜、限り少ない国の礎ともいえる拠点が甲虫型の生物兵器の襲撃を受けている。
一日に一ヶ国と徐々に制圧域は広がり、残された拠点は東アジア、アメリカ大陸、インドネシアと地球の三割程しか残されていない。
そして今日もまた一国と、生物兵器に落とされていく姿を眺めるしか出来ない民や軍人を背に建物や食料は底を尽きかけていた。
指揮を取る軍隊をモノともせず、戦力不足といわんばかりの抵抗しか見せることが出来ない。
やがては、地球上の民全てが集結したこの砦も陥落を迎えようとしている。
この国の命を任された指揮官も大きな態度もここでは通用しない。
生き残る為には力が必要なのだ。
「えぇい! 救援はまだなのか!?」
「到着まで14:00とのことですが、我が軍はもう持ちそうにありません......」
圧倒的な力量に絶望する軍人と、責任を負われる軍師の姿がそこにはあり、半ば諦めかけているその姿に追い討ちをかけるようにまた一人、一人と兵士が失われていく。
「もはやこれまでか......」
本拠点までの距離と残った戦力ではどうすることもできない。
最後に残された手段といえば、この責任を逃れる為の自爆工作。
国の大使や
残された自分には罪を背負う覚悟などない。
ならばせめてと指揮官が自ら、決断の意を見せ付けるように民諸共、基地を爆破するボタンに指が向かう。
「視界良好。落下位置問題なし。いつでも行けます」
「悪いな。地球降下後に向かう初めての戦場がこんなに粗末で。不出来な兄を許してほしい」
「いえ、兄様のせいではありませんし。地球の重力にも慣れるいい機会だと、寧ろ感謝しています」
今にも攻め落とされそうな本拠点を前に空から、見下ろすように空挺の中で兄様と私は、互いに無事に帰還する為の祈りをXUNISに捧げる。
この行為に意味はないのだが、命を預けるXUNISは兄が設計し、私が調整を施した。
二人で組み上げてきた作品なのだ。
そして私は兄を信じ、兄は私を信じてくれる。
「大丈夫さ。カグヤなら、俺に頼らずとも一人で羽ばたけるのを俺は知っている」
「兄様.......」
兄様と見つめ合いながら、そっと頬に触れた相手の手に自分の手を重ねる。
パイロットが、やれやれというように咳き込んで空気の流れを変える。
「お熱いところすいませんが、予定を早くして来た意味が無くなってしまいますので、そろそろお願いできますかな?」
パイロットの言葉に我を思い出したかのような慌てを見せながら、落下に向けての準備に取り掛かる。
目標は敵中央。
「兄様行ってきます! パイロットさんもここまでありがとうございました。帰還まで御武運を.......」
空挺から飛び降りて、拠点に雪崩れ込む生物兵器の中へと落下していく。
怖くはなかった。兄と自分で作り上げたこの緋天があるから。
「入電入りました! 月面軍特殊兵器殲滅部隊
「双刻の守手? 月面の奴らをたった二人で殲滅しきったという奴らが応援だと!?」
指揮官と共に全勢力の兵士が空を見上げる。目線の先には、紅く輝く刀を持つ人物の影。
誰もが目を疑うかのようなスピードで地上に落下していく。
全兵士に通達される増援の連絡は士気を高め、落ちてくるその人物に寛大な歓声が鳴り響く。
「緋天いくよ? デバイス・オン!!!」
『Set up.』
空間に干渉されないフィールドを自分の周りに形成し、緋天を扱う為の部位パーツを両手、両足、背中と宙を舞いながら身体に取り付けていく。
腕力と防御力を高める部位パーツと、移動力を高めるスラスターをそれぞれに纏いながらも企画通りに地上にゆっくりと降り立つ。
兄様の開発した人間が視覚できないシステムのおかげで難なく、生物兵器に発見されずに中央に辿り着くが、群れの中に一人の人間が混じるという事は、突撃してくる奴らも素通りというわけにいかないだろう。
直撃は免れない。
「ブレイズ
緋天の攻撃用武装の太刀と小太刀を構えながら、向かってくる甲虫型を真っ二つにしてみせる。
力を入れなくても熱量と、魔力を帯びた刃先の前に見事な切れ味で、相手は地へと崩れ落ちる。
二ヶ月前のあの時なら、この状況に意識を保ってられなかっただろう。
だけど.......。
身軽な身体を駆使した向かってくる相手に斬りかかり、沈黙させていくという反復行動。
勿論の事ながら生物兵器とはいえ、敵も全く対応しない訳でもないらしい。
集団の輪を外れる味方を認識するように辺り一帯に包囲網を敷いて、生体反応はいないかと検討し始める。
熱源でしか確認できない今の状況ではこちらに分がある。
「私の通る道には必ず熱を帯びた道が出来上がる。それを確認していては、速さでこちらが殲滅する方が早い」
背中のスラスターを全開に吹かしながら、次々と甲虫型の生物兵器を切り刻んでいき、発見されるまでに三割近くの敵を絶やすことに成功した。
あと七割をどうするか.......。
このまま倒し続けても囲まれてしまう危険性もある為、離脱する事が困難になってしまう。
一息と高台に飛び上がり、兄様に通信を入れて辺り一帯の兵を退かせる手筈を取ろうとする。
「兄様、広域魔法を使用します。許可コードを送ってもらえますでしょうか?」
「許可する。ただしレベル1までの魔法のみだ。レベル2からの魔法は、まだ緋天の調整が終わっていない」
「わかりました。感謝します」
通信を切ると同時に地上に降りて、緋天の刃先に熱を込めながら地面を抉るように拠点から離れると、広大な荒野まで駆けながら移動していく。
熱を探知したように一列になって、生物兵器がこちらに向かってくる。
敵がAIの動きなら当然ともいえる単純な作戦だが、緋天にはそれが一番効率がいい。
「ここで焼き払うよ緋天。オーバードライブ・プログラム起動」
緋天の小太刀と太刀を擦り合わせて摩擦熱を発生させると、高温で刃先を赤く染め上げた二刀を構えながら、太刀を地面に突き刺して小太刀を突撃してくる生物兵器の群れに向けると、刃先に魔力を集中させる。
放出距離と残り魔力を考えながら、撃たなくてはいけないのも欠点ではあるが、今はこれが最適かつ効果的である。
『Bright stream ready.』
「ブライト・ストリーム! いっけぇぇぇぇぇ!!!」
『Fire.』
赤い閃光と共に刃先から放たれる熱量のある魔力砲撃が、生物兵器を飲み込むように砲撃の中で、形を崩壊させながら爆発していく。
緋天が熱暴走しないギリギリまで一直線に向かう砲撃を放ち続けるが、まだ緋天とのシンクロが上手くいっていないのもあり、制御と安定しない魔力の消費が先に自分の体に限界を告げている。
砲撃を放ち続けて、十秒間の時を経ただろう。視認できる生物兵器を葬ったようだ。
砲撃を止めて、膝を着きながら辺りに熱源反応がないかと確認をする。
どうやら殲滅に成功したようで拠点に目を向けると、上空から見下ろした軍勢の生物兵器は見る影もない。
「よかっ...た......」
緋天で体を支えなければ倒れてしまう程、疲労で息切れをしている。
兄様に連絡をしなくてはいけないのに、こんな状態では意識を保つことが限界である。
しっかりしなくては。ゆっくりと身を起こして、虚ろな目で通信機を手に取るが、太陽の光を過ぎる大きな影がいきなり私の影と重なる。
「え......?」
目の前には、あれだけの熱を浴びながらも逃れた半壊の生物兵器の姿がある。
半壊とはいえど、弱っている私に残された魔力相手には十分なくらいの損害で済んでいるようだ。
意識がはっきりしていれば、これぐらいの状態でも生物兵器など問題ではないのだが、緋天で消費した魔力が過度を超えている影響もあってか、体を支えるだけの力も残されていない。
こんなところで、兄様との約束も潰えてしまうのかと、後悔しながらも私に抵抗する気も起こさせないように身体を押し倒して、ゆっくりと捕食する口を開いていく。
「兄様ごめんなさい......」
死を覚悟して、何度となく兄に許しを請う事も叶わずして、目の前の生物兵器はいきなり身体を弾け飛ばして跡形も無くなってしまう。
「俺は謝るような悪い事をされた覚えはないが?」
顔を覗き込むように私の顔を見つめてくる兄様の姿が目に入る。
拠点側に残された生物兵器を一掃した後、魔力切れになると予想して合流をしたのだ。
流石、私の兄様といったように何事もなく手を差し伸べてくれる。
その手を握りながら立ち上がろうとするが、力が入らずにまた膝を着いてしまう。
「兄様すいません...今、暫しお待ちを......」
「この国の者と、一早く情報の共有をしなくてはならない。悪いが我慢してくれ」
私の身体を抱き上げて、いつものように清ました顔で拠点へと走りだす兄様。
「お、降ろしてください! それにお姫様抱っこって.......」
暴れるだけの力もなく、無抵抗に兄様に抱かれながら刻々と兵の間を通りすぎていく。
兵士が見つめながら、感謝と勝利を納めた私達にエールが送られる。
「見ろよ、アレ。流石、噂通りの二方だぜ」
「あぁ。あれが”円卓の騎士”様と”紅き女神”様だな」
次から魔力切れにならないように注意しないといけない。私は胸に決意しながら今は兄に抱かれる中で辱めを受けている。
今は赤く火照った顔を隠すので精一杯であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます