#002 初対面の話
前回までのあらすじ。
俺は、美しい彼女と少し変な出会い方をした。
☆☆☆
「………………えっと、見てました?」
彼女は恥ずかしそうにそう言った。おそらく、俺に涙を流していたところを見られたかどうかだろう。
そんなに名前も知らない、目をうるうるさせた状態の彼女に嘘をつくのは申し訳ない気分になる。
「見てましたよ」
「やっぱり!見てたんですね!………………最低」
「なんでそうなるの!?」
やや可愛らしい声の彼女にそっぽを向かれてしまった。
「ごめんって!桜が見たくてたまたまここに寄ってみたら君がいて、それで見てしまったというか………」
「………………桜が見たくてきたんですか?あなた、ここを知ってたんですか?」
「ええ、まあ」
「そっか………………知っている人が私の他にもいたんですね」
俺も思ったよ。こんな誰も来ないようなところをなぜ彼女が知っているのだろうか。まあ、俺も人のことは言えないが。
「この桜の木のことを知ってたのも何かの縁ですかね?」
「そうかもしれないですね。あ、俺、高野勇吾です。高校1年生です」
「あ、同学年だったんですね。私、櫻野咲です」
櫻野咲………………か。彼女に似合っている名前だ。
名前を聞いたところで、彼女…………じゃなかった。櫻野さんがなんで涙を流していたのかを聞いてみようじゃないか。
「えっと…………櫻野さん」
「咲でいいよ」
「あ、え?ああ…………えっと、咲さん」
「酢酸に聞こえる!」
「え!?じゃあ…………咲?」
「なに?」
うっ!出会って10分も経ってない女子のことを名前で呼ぶのってこんなに恥ずかしいのか!?
だが、こんな恥ずかしさに負けていては聞きたいことも聞けない。俺はどうにか耐えることにし、聞きたいことを聞く。
「どうして泣いていたの?」
「………………!?」
咲は急に顔を真っ赤にし、両手で顔を隠した。相当恥ずかしかったのだろう。
その後、咲は人差し指と中指の間隔を開け、目だけが見えるようにした。
「教えたくない」
…………なるほど。相当だなこりゃ。聞かない方がいいな。
「分かったよ。もう聞かないよ」
「そうしてくれると助かる」
泣いている理由なんて、ぶっちゃけ聞かなくてもいいんだけどね。何かあったのかどうか心配になるだけなんだよね。
聞くことを止めた俺は、ふと空を見ると、既に真っ暗になっていることに気がつく。
この公園の周りには建物が少なく、星がよく見える。だが、それ故に明かりも少なく、公園にある外灯だけが唯一の光。その光だけが、俺と咲を照らす唯一の光でもある。
「そろそろ暗くなってきたし、俺は帰るよ。櫻野…………じゃなくて、咲は帰らないの?」
「私はもう少しここにいる」
「そっか。咲は女の子なんだから遅くまではいちゃダメだよ」
「分かってる。………………なんか、勇吾はお兄ちゃんみたいだね」
「え!?」
「面倒見がいいっていうか…………なんていうか、そんな感じ!」
「ああ、ありがとう」
それは褒め言葉なのだろうか。お兄ちゃんってのはどうなんだろうか。まあ、弟みたいって言われるよりはマシか。
俺には中2の妹がいるし、お兄ちゃんであることは間違いないが、それを初対面の女子に見抜かれるとはどうなのだろう。俺はそんなにお兄ちゃんをやれているのだろうか。
とにかく、もう遅くなっているので、俺は先に帰ることにした。自転車のカギを開け、俺はペダルにまたがる。
「乗ってく?」
「いいよ。歩いて帰れる距離だもん。10分もかからないし」
「そっか。じゃあね」
「うん。またね、勇吾」
…………ん?またね?またねってことは、また会えるのか?
そんな変な疑問を抱きながら細い道を通り、家までと帰っていく。
☆☆☆
side:櫻野咲
見えなくなった。それは、勇吾が帰っていったことを示す。そのことをホッとしている私もいれば、勇吾に驚いた私もいた。
高野勇吾。なんで彼は桜の木のことを知っているんだろう。ここに遊びに来る人なんてほとんどいないのに………………
………………まさか、8年前くらいによく遊びに来ていた3人組の中にいた人かな?それだったら納得なんだけど…………どうだろ?
ああ!!疑問が残るって嫌だな!聞いておけばよかった。
そう心の中で叫びながら綺麗で美しい桜の木を見つめていた。
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