西塔暦

 西塔暦さいとう こよみは幼い頃からHADを発症させていたが、周囲がそれに気づくのはかなり遅かった。家族も学校もたまたま暦が感受性の豊かな子供なのだと考え、暦は他の人も自分のように他人の心がわかるのだと思っていた。だがやはり成長するにつれて明らかな周囲とのズレが少女には生じ始めてくる。内に秘めた感情をことごとく見抜いてくる暦を、友人も大人たちも特別な目で見るようになり、その「特別な目で見られている」ということは自ずと暦へと伝わるようになった。しかし暦のHADは、ただ彼女と距離を置いておけば心を読まれるような具体的な害がなく、あの芝庭真生程の危険もないとみなされたため、両親を含む大人たちは「保護」よりも彼女のHADがなるべく早く安定化するのを待つことにした。暦もまた、強く感じるのは激しい衝動であることや、人が内に秘めるのは大概が後ろめたいものであることを、小学校高学年になる頃にはそのHADの不安定化と共に知るようになっていたので、周囲が自分と距離をとってくれるたほうが、彼女自身のためにも良いことだった。

 ただ耐えるだけだった。周囲にとっても少女自身にとっても、その時が来ればそれは終わるはずのことだった。決して西塔暦は「保護」の対象となるようなHADではなかったのだから。

 HADとして「保護」の対象となる少年少女にはいくつかの条件がある。先天的な要因としては、単純にそのHADの作用が大きい場合である。例えば同じ未来予知のHADであっても、今から食べるアイスキャンディの棒に当たりが書かれているかどうかしか分からない人間がいる一方で、半年後の米国の大統領選の結果さえも知ることのできる人間もいる。後者のケースでは彼の保有するHADが社会的に与える影響の大きさを鑑みて、その患者を「保護」という名目で政府の認可の下、地方自治体の管理下に置くのである。そして後天的な要素としては、患者自身がHADを保有することを苦痛に感じ社会的な生活に支障をきたしている場合が当てはまる。例えば、自分の身に降りかかる不幸を事前に予知することで、日々の生活を送ることに疲弊してしまうような、精神的に繊細なHADの人間であるならば、その場合もまた「要保護」の対象として見なされることになるのだ。つまり、おみくじで大凶を、あるいは立て続けに凶を引くような、そんな「引きのなさ」が保護の対象になるか否かの違いになるのである。

 ただ耐えるだけだった。その時が来ればそれは終わるはずだったのだから。

 しかし、西塔暦は二度目の凶を引いた。

 人が孤独に耐えるには何かを消費していかなければならない。ある者は孤独をやり過ごすために思い出を、ある者は麻痺させるために自信を消費する。大の大人ならば金を消費することで紛らわせることも可能だろう。だが、西塔暦はそうするにはあまりにも幼く、持たざるものだった。思春期にさしかかる中、そのHADによって早熟させられた暦だったが、自分の運命を理性として受け入れることはできても、その心はどうしようもなく人に飢えていた。

「……おじちゃん、何してるの?」

 暦がその男と心を通わせるようになったのは、小学校5年の夏休みに入る少し前のことだった。夏には十分に突入し、地面が反射した熱気で人の正気を煮立たせるような炎天下の日だった。そんな平日の昼間から、熱気とは裏腹に、冷却されたような虚ろな表情で公園のベンチに座っているその男に暦が進んで声をかけたのは、男から醸し出している孤独が少女のHADを通して共感されたからだろう。

「おじちゃんじゃぁないよ……。」

 男は二十前にしては面構えが幼く、十代半にも見える容貌だったので、暦の警戒心も薄かった。

「あ、ごめん。ぢゃあお兄さん、何してるの?学校は?」

 こんな子供に気を使われている自分に男は自嘲気味に苦笑した。

「学校は、ぃ行ってない……。」

「ふぅ~ん?」

 この年の子供にとって、人間の行動とは学校に行くか会社に行くかのどちらかしかない。暦は学校や家の中ではカテゴライズできないその男にほんの少し興味を抱いた。

「き君もどうなの?小学生でしょ?学校ぃ行かなくていいのかい?」

 明らかに自分より年下の暦に対して、男は目も合わさずに聞き返した。

「え?わたし?……わたしはぁ、今日は行きたくなかったの」

「ハッ、行きたくないって、だダメじゃない」

「いいじゃん。わたしはいいの、いいって言われてるから。ママにも先生にも」

「へえ……。」

 最初は、些細な好奇心程度のものだったのかもしれない。ただ野良猫を可愛がる程度の気持ちで近づいたのだろう。それくらいに、HADという特殊な存在であっても暦は人に対してはまだ無垢だった。何より、人の心が読めるといっても、深い内面までには相手に触れるなどして自分から意識的に働きかけない限り読むことはできなかった上、まだ暦のHADは人の思考をはっきりと読み取るまでに不安定化してはいなかった。

 出会って間もなく夏休みに入った暦は、ちょくちょくその男の住む団地の近所にあるイチゴ公園(公園の真ん中にあるジャングルジム状の遊具がイチゴに似ていたため近所の住民にそう呼ばれていた)で会うようになっていた。

 暦の家族もクラスメイトも、少女のHADを知った人々は彼女を恐れて警戒していた。そして、その「恐れ」という原初的な感情が特に敏感に感じ取ることができたため、それがより一層の少女と周囲との壁になっていたのである。だが暦の存在を知らない人間にとっては、暦はただ普通の小学生の少女であり、そして自分にそうして接してくれる人間がまだいることが暦にはとても嬉しく、つい無警戒にその男に拠り所を求めてしまったのだ。

「……結構あってるのに、俺、き君のこと、全然知らないな……。」

「私も知らないよ?」

 暦は紙パックのカフェオレをストローですすりながら、伺うように首をかしげて男を眺めた。男は暦に見られるたびに目をそらし、話すときも暦と絶対に目を合わそうとはしなかった。

「でも、こ暦ちゃん、まるで俺の心を見通してるみたなことを言うじゃない」

「そうかな?そんなことないよ。サッシがいいだけだって、ママも言ってたし」

 暦は慌てながらカフェオレの紙パックを折りたたんだ。少し中に入っていたのか、ストローの口から音を立ててカフェオレの飛沫ひまつが飛び散った。

「お兄さんの顔見てたら誰でもわかるよ、だってなんか寂しそうな顔してるんだもん」

「そなんだ……。でも、ここの間、心に、ぁ穴があいてるなんて言われた時はびっくりした」

「それあれっ、アニメで言ってたセリフ。お兄さんもそんな感じだったからまねしてみただけだよ」

「じ、じゃあ、そその穴は……まだ空いてる?」

 男がそう訊くと、暦は改めて深く彼を眺めた。暦の方を見ていないはずの男だったが、射すくめられたように息が詰まった。

「少し、小さくなったかな」

「そうなんだ……。」

 男は少女の言うことを信じた。事実、自分の暦といることで彼の一部は癒され始めていたからだ。この少女との出会いは自分にとってきっと、ただの偶然ではない特別な意味を持っているのだと男は考えるようになった。

 暦が公園で会うようになったその男、名は守谷卓郎といった。二十歳はたちになったばかりだったが、長年の登校拒否のせいか表情に乏しく、感情を表出するために使われなかったその顔には、年相応の陰影が刻まれていなかった。守谷の父親も祖母も彼の感情を読み取ることができず、親戚には「まるで能面みたいな子だよ」と話しさえしていた。しかし、この少女はそんな自分の心を見てくれているという思いが、殊更ことさら守谷にとって暦を特別なものにしていた。事実、暦は普通とは違う少女だったのだが。

 守谷は思う、この少女は自分の心を見てくれている。自分のことを見てくれない父や祖母と違い、彼女だけは自分を見てくれているのだと。


「かカードゲーム好きならそう言ってくくれればいいのに」

 その日、暦は守谷の住む団地を訪れていた。ただ数日の付き合いで警戒心を解いたわけではないが、思春期に差し掛かる子供というのは、往々にして自分の成熟に疑いを抱かない。ましてや、人の心を読み取れるというHADだった暦には、より強い自負心があったに違いない。古い団地の、いくら塗料で上塗りしてもその前時代性を隠しえないそのドアに対しても、暦は何の気後れなく入室していった。

「だって、いっつもひとりでいるお兄さんが『ウィザード・キングダム』のカード持ってるなんて思わないもん」

「……あ、そ、そうなんだ。てか、自分だっていっつも一人じゃないか」

 守谷は後ろ向きで座りながら玄関で靴を脱ぐ暦の小さな背中をじっくりと眺めながら言う。

「わたしはカードゲームが好きっていうか、カードが好きなの」

「カードが?」

「知らないの?ウィザキンのカードのデザインは、全部スタン・コーフィーていう人がやってるの、現代アートの人っ」

 いつもに増して子供っぽい笑顔で暦は振り向き、守谷はやはり慌ててそれから目をそらす。

「へぇ……。で、ゲ、ゲームはやらないんだ?」

「う、うん。ゲームはね、なんかつまんなくって……」

 そこまで言うと、暦は部屋の中の悪臭に気づいた。それは多分、水周りから来ている独特の悪臭だった。それだけではない、守谷に促されながら廊下の奥へ奥へと行けば行くほど、彼の家のものはただ乱雑に置かれていて、室内を中心になって片付ける人間が存在しないような印象を、まだ十一歳だった少女でも感じ取ることができた。ちらりと見えた手洗い場からは、ゴミなのか大量の布切れなのか洗濯物かわからないものが顔を覗かせている。

「ああ、うち、は母親がいないから……。」

 不安そうに見渡す暦に守谷が言う。暦のクラスにも母子家庭の同級生はいたが、「母親がいない」という言葉に少しの引っ掛かりを覚えた。

「そなんだ……。」

 守谷が目指そうとしている部屋は、一層暗みが深まっていて、それはまるで森の奥にある井戸だった。慌てた暦は守谷の心を読もうとする。だが、彼の心の中はぽっかりと穴があいていて、そしてその穴は段々と広がり暦を飲み込んでくるかのようだった。あたかも彼が部屋そのものであるかのように。二人の距離は先ほどと変わらないにもかかわらず、それはひどく近いものに暦は感じた。

「カードって何枚くらい持ってる?」と、暦が言う。

 しかし、闇の一部に染まりつつある守谷は何も答えなかった。

「……帰ろ……かな」

 急に、暦は冷水を流し込まれたように体を緊張させ守谷にそうに言った。それまでは何の怖れもなく守谷を見ていた暦の瞳は、今までは捉えどころを失って泳いでいた。

「……どうして?」

 自分に対して初めて怯えた声を上げた少女に対して、守谷の言葉には心の乱れが生じた。自室のふすまに手をかけたまま、硬直したように背中越しに暦に話しかける。

「うん、夏休みの宿題……やってなかったかなぁって、思って……。」

「………学校、ぃ行ってないのに?」

 守谷が振り向いた。

 元々、守谷は人と目を合わせて話すことができなかったので、今も暦を見ずにその横のを見つめながら暦に話している。しかしそれが暦にとってより一層の不安感を煽った。恐ろしいものに出くわした子供が、逃げも足掻きもせずに、ただ耳を塞いでうずくまるように、暦はHADを守谷に対して使うことさえも恐れた。時間が経つほどに暗闇に慣れていく筈なのに、少しづつ暦の感覚は薄らいでいき、逆に暦の視界はより一層暗闇で遮られ始めた。

「……帰る、ね?」

 暦が言う。

「か、カードは?」

 守谷が目を合わせずに言う。

「……いい」

 暦も守谷と目を合わせることなく、ゆっくりときびすを返し玄関に向かおうとしたが、その暦の腕が、なんの加減もない手に掴まれた。暦は声を上げようとしたが、恐怖で逆に空気を飲み込んだ。

「じジュースぃ入れようか、ね?まだ、いいいじゃん、ね?」

 守谷の手が暦を掴んだことで、暦には守谷の心が大量に流入してきた。だが、それは具体的な言葉ではなかった。漠然としたイメージ、しかしそれは、暦の胸を引き裂きそうなほどに切迫した感情だった。

「やだっ、はなして!」

 無理に振りほどこうとしたのは痛かったからではない。その流れ込んでくる感情が、あまりにも少女にとって理解し得ぬものだったからだ。心の奥底に空いた、深くて黒い穴から這い上がってくる恐怖と怒り、そんなものがなぜ人間の中から出てくるのか、そしてなぜその感情が自分に向けられるのか、暦には全く分からなかった。

 手羽先の関節をむしった時のような、独特の不快な音が暦の肩の中で響いた。守谷に腕を掴まれた暦は、そのまま振り回され半開きの麩に叩きつけられたのである。投げ出された暦は、縁から外れた麩と一緒に守谷の部屋の中へ倒れ込んだ。麩を下敷きにして倒れ込んだ部屋からは、すえた独特の、恐らく何年も溜め込んだのであろう悪臭が充満していた。

 二人共、息を荒くして無言だった。それぞれが別の理由で追い詰められていた。各々が別の方向を見ていた。だがそれでも、先に動いたのは暦だった。 

 唯一見える希望へ、部屋の入り口からまっすぐに伸びる廊下から見える玄関の光、直ぐに立ち上がった暦はそれを目指して駆け出した。自信はあった。以前に体育の授業でやったバスケットボールと同じだった。暦の目線の先に玄関があることが分かった守谷は、少女を部屋から出さないよう立ち塞がろうとしたが、暦はこの危機的状況において自分のHADを最大限に利用し、立ちふさがる自分よりもはるかに大きな壁の合間を器用にすり抜けたのである。

 守谷を抜けた後、ただ真っすぐに暦は玄関を目指した。だが……、

「ちょっ、あいてよっ、ねぇ!」

 玄関が開かなかった。古い団地で立て付けが悪かったので、鍵が固まっていたのだ。そうとは知らず、暦はただドアノブをガチャガチャと力の限り回しては、ノブごと引っこ抜くようにそこを引っ張ったが、もちろん扉は開かない。その焦りのせいで、暦は後ろの影が迫っていることに気づかなかった。

「うぐぅん!」

 背後から、腕で口ごと顔の半分を抑えられた。

 子供であることなどお構いなしに腕で顔面を絞めつけられ、その痛みで暦はパニックに陥った。

 こうなってはHADなど何も役に立たなかった。暦は大の男に体重を浴びせかけられながら廊下に倒れこみ、守谷は暦に馬乗り状に覆い被さった。髪を引っ張られ頭を廊下に打ち付けられ、暦は痛みと衝撃と恐怖で呼吸をするように悲鳴をあげ続ける。体を近づければ近づけるほど、暦のHADは効力を増すせいで、暦の中では自分と守谷の感情がい交ぜになり、それが濁流だくりゅうになって荒れ狂う。自分の恐怖なのか男のものなのか、少女はぎょがたい負の感情の渦の中で、今まさに屠殺とさつされようとする鶏のように体中を跳ね回した。だが、その抵抗というよりも、苦痛にのたうちまわる暦の様子でさらに焦った守谷は、混乱のあまり暦の首を絞め始めた。

 暦は泣いていた、守谷も泣いていた。普通の少女ならば、いや少女であろうとなかろうと、このような状況で泣く男など到底理解できない。今まさに殺されかけているのは自分の方なのだから。しかし、暦には明確なビジョンが、薄れゆく意識とは逆に、鮮明に見えてきいていた。

 ――捨てないで……

 頭の中に響いたそれは、目の前の男の声ではなかった。声というよりも、むしろ色や触覚、匂いに近かった。その強烈なイメージあてられ暦はひたすらに涙を流し始める。大人しくなった暦から、守谷がグレーのワンピースをめくり下着を剥ぎ取り始めても、男をただ見つめながら絶えることなくその目からは涙が溢れていた。そして興奮のあまり放心状態になった守谷に、あらわになった胸に顔を押し付けられたその時、暦の意識は守谷の過去へと飛び、完全に男の中へ入り込んでいった。

 最初に見えたのは、逆光の中、天井にぶら下がっている女性だった。暦には、夢を見ている人間がその中で起こっている出来事の前提を既に知っているように、それが守谷の母親なのだいうことが理解できた。そこからスライド写真の中を移動していくように、暦は守谷の中を旅していく。浮気を重ね母の自殺の原因を作り、さらには自分に何の注意も払わない父親、死んだ母の悪口を言う祖母、母の自殺を目撃したことにより患った吃音きつおん癖を笑うクラスメイト達、世界が自分から隔絶かくぜつされていく。その冷たく目に見えないにも関わらず、具体的な硬さを持った暗い壁が、さらに自分を圧迫してきている。

 暗い壁に覆い隠されていた空間を手探りで進んでいると、突然、暦は暖かく柔らかいものに触れた。暗闇の中、その暖かく柔らかいものは少しづつ発光し始め、輪郭も浮き上がってくる。それが守谷の母であることがわかったが、そのビジョンは何かと重なってぼやけていた。光が強まりさらにその輪郭が一定の線を得たとき、その姿が暦にとって非常に見覚えのあるものだとわかった。

 気がつくと暦は病院にいた。暦が目覚めると暦の母がその手を取り大声を上げて泣き叫んだ。暦も泣いた。悲しかったからではない。HADを通して、ほんの少し前にそれを失った男と過去を共有し、今は自分がそれを持っていることを知ったからだった。

 守谷卓郎は、その後すぐに団地のベランダから投身自殺を図った。刑事たちが任意同行を求めた矢先だった。半身不随を患ったものの辛うじて生き延びた守谷に、暦の両親は何が何でも罪を償わせようとした。だが、より一層周囲と壁を作り塞ぎ込んでいき、裁判に乗り気ではない暦の様子から、両親はこの子には復讐ではなく心の治療が必要なのだと考えるようになった。しかし、暦の苦しみは、普通の暴行の被害者のそれとは全く異質のものだった。

 もちろん暦は憎かった。子供である自分に対して下卑な欲望を向け、そして自分を汚した守谷に激しい嫌悪感と憎しみを持っていた。だが同時に、暦は守谷の苦しみの全ても共有してしまっていたのだ。幼き日に母の自殺を目撃し、全ての情愛から隔絶され続けた彼の人生の苦しみを。西塔暦の悲劇はまさにそこにあった。

 彼女は、世界で最も殺したいほどに憎んでいる男を、世界で最も理解してしまったのである。両親よりもクラスメイトよりも、誰よりも深く。憎しむ事で拒絶し、理解することで受け入れる、この二つの矛盾する感情を同時に抱え込まなければいけなくなった暦には、どんなカウンセリングも、またどんな両親の苦心も守谷の父親の謝罪も通用しなかった。それは大凡おおよそ、十代の少女が抱え込めるものでは到底なかった。さらに、街中に飛び交う些細な感情の中に、守谷が自分に向けたのと同じものを感じる度、彼女は人間との距離を嫌悪感を持ってより一層置くようにもなっていった。少女の心は不安定になり自傷を繰り返し、人との交流の一切を、家族との会話をすらをも拒むようになった。自分を両親が手に負えなくなっていると分かった暦は、自分で新設されたこの学校に入学することを決意した。彼女がその旨を伝えたとき、両親が偽りでなく、本当に喜んでくれたのがせめてもの救いだった。それがその時の彼女にできる、最大限の親孝行だったからだ。

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