芝庭事件、三

 その異質な現象を警察はすぐにHADによるものだと判断した。それ以外ありえなかったのだ。霞ヶ丘かすみがおか中学校三年C組の空間だけが、まるで何十年もタイムスリップをしたように、教室内にあったありとあらゆる物が「老朽化」していたのだから。

 生徒の遺族達は悲しみに暮れるどころの騒ぎではなかった。彼らの家に戻ってきたのは朽ち果てたミイラであり、酷いものでは白骨化した遺体すらあった。受け止めようなどありはしない。そのあまりの悲惨さに、遺族は悲しみ方すら忘れてしまった程だった。警察はこの前代未聞の凶悪事件の解決の糸口として、辛うじて残った遺品や遺体の歯型から、その日登校していたにも関わらず遺体のなかった唯一の生徒・芝庭真生しばにわ まことを割り出し、あくまで行方不明者として捜索することを決定した。

 それから三日もかかることなく、芝庭真生は意外なほど簡単に、彼の自宅付近のゲームセンターで発見された。その時の彼の「保護」にあたったのは、S県警の鈴木健四郎巡査(51)と、小林真也巡査(33)の2名だった。決して彼らは油断していたわけではなかった。しかし彼らがその少年に話しかけ、芝庭真言であることを確認しパトカーに乗せた直後、奇妙なことに芝庭は今まさに乗ったばかりのパトカーから降りて街の中へと消えていった。

 残されたパトカーの中には、二人の巡査のミイラが横たわっていた。

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