T市新S地区

 東京都のT市内の新S地区は、元々高度経済成長期に巨大都市計画が進行していたが、市の財政難によって土地だけを確保した状態で長いこと放置されていた。発展する予定だったので大きな駅が作られたが、道路を通す予定の橋桁はしげたも建設途中で放置され、さらにその周辺もビルが並んでいたが、経済成長の後退後は維持するだけで市の財政を圧迫するものとなっていた。近代的な駅は最低限のメンテナンスのために常に埃っぽく全体的に薄汚れ、立ち退きだけを済ませた周辺の集合団地はフェンスで囲われ有刺鉄線が張られ、まるでそこに住んでいた人々の生活を無理やり止めたように残り、生い茂った雑草だけがその時間の経過を教えていた。その新S地区に国の政策によって「学校」が建てられることになったのが今から10年ほど前の話である。しかしそれは郊外ならではの大学などではなく中高一貫校だった。そして人が集まってくる予定のない土地に建てられるその学校はおおよそ常識的な学校ではなかった。総敷地面積は1800㎡以上あり、加えて外周は刑務所を思わせるよううら高く重厚な壁に囲まれ、警備もそこと同等以上の設備が用意されていた。しかし異様なことに、一旦壁を越えてしまえばそこは完全な学校で、放置された駅とは打って変わって、その学校には公立校とは思えないほどの予算が費やされ維持されていた。モダニズム建築を思わせる校舎、整備された人工芝のグランド、庭園、屋内プール、さらには校舎から離れた場所には学生寮も存在した。あまりにも整いすぎた施設は、逆に何ごとかをここから出さないようにするための細心の現れとさえ思われた。

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