第82☆リトマス氏~シナリオ界でもキャラ立てが重要~
シナリオの世界では一切の抽象表現、文学的表現が取り除かれるため、キャラが今何を想い、行動しているのか、単体ではわからない。
なぜなら、一人もじもじしている娘がいたとして。その娘が「何か言いたいことがある」もしくは「なにかを我慢している」あるいは「好きな人に遭遇してときめいている」のか、小説ならそう書けばいいのだが、シナリオではそれができない。
だから、その娘がどう思っているのか、なぜそんなにもじもじしているのか、誰かが聞いてあげなくてはならない。いきなり娘が独白を始めてしまうのは劇がかっていて妙であるし、ギャグマンガみたいである。
そこで親友のA子を登場させ「あら? あんたどうしたの?? そんなに我慢してないで……トイレ空いたわよ」などと言わせれば、娘は赤面して「違うわよ! 今日先輩の誕生日だから、あたしをプレゼントするの!」などと言って色付きリップをA子に借りてぐりぐり唇に塗りつけるなど、納得のいくリアクションがとれるし、状況が視聴者に理解できる(内容は昔のラブコメみたいだが……)。
このとき、娘がアルカリ性なのか酸性なのか中性なのか、A子というリトマスを用いて、目に見えるようにする。A子のような人物をシナリオ界ではリトマス氏と呼んでいる。
そうだな……教科書にあった例文を脚色するならば。
れい:むっつりとして押し黙ってる人がいて、周りは「怒ってるのかな?」「何か嫌な事でも」「心配事を抱えているのか」「奥さんとうまくいってないのか」「虫の居所が悪いのか」などと、まあ、思わなくっても思っていてもいいのだが、ここにリトマス氏を投入すると、
リトマス氏「そんなに殺気をかもして、どうしたんだい?」
男「腹具合が悪いんだよ」
と、その事情がわかるわけである。
これを小説に取り込むならば、まず当たり前のように作者には語りたいことがあるわけで、それをただとうとうと語り始めるのでは、全体のリズム的にうまくないとき、登場人物リトマス氏を登場させ、あるいはその場に居合わせたキャラクターにリトマス氏の役目を負ってもらって、「今、まさに、語りたいこと」を気の利いた司会者のように「質問」させてしまうのである。
これで、話が自然に流れていく。無意識に行う作者さんもあろうが、意識的に用いることで技術力のレベルアップを感じ取れるであろう。
そんな感じです。
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