第12話

  再誕 ⑫


「散ったか・・・・・・不死王レヴィストルよ」

魔王アセルミアはヴィルの猛攻を軽くあしらいながら、呟いた。すると、アセルミアの死角からティアの魔弾が迫った。

 対し、アセルミアは身を低くしてそれを躱し、反撃に大量の刃をヴィルとティアに向けて放った。

 ヴィルは剣技・護衛陣で、ティアは結界で魔王の刃を防いでいくも、すぐに防御は打ち破られ、回避行動に移らねばならなくなった。

 執拗に追尾してくる無数の魔刃、それらをヴィルとティアは互いに交差するように動き、それぞれの背後に迫る魔刃を攻撃していくのだった。

 その巧みな連携により、魔刃の数は激減していった。

 これを見て、魔王アセルミアは何の動揺も無く、再び体内から新たな魔刃を出現させるのだった。


 ・・・・・・・・・・

 一方で狂戦士ローとドワーフのギートは、不死なるゼアを相手にしていた。今、ゼアは何百体にも分身し、高笑いをあげながら、ロー達に魔弾を放ってきていた。

 それに対し、ローは魔刃で次々と魔弾を弾き、さらにゼアの一体に肉薄して斬り裂くも手応えを感じていなかった。

『ハハッ。駄目、駄目。その程度の呪詛じゃ僕を殺せないよ。僕は呪いの塊だからね』

 そう告げ、ゼアはローに迫った。

「クッ」

 とっさにローはゼアを切断するも、ゼアの手がローの腕に触れた。次の瞬間、無数の呪詛がローの体に流れこんでいった。

 さしものローもこれを喰らい、脊髄反射的な絶叫をあげるのだった。

 刹那、ギートが斧でゼアの腕と体を吹き飛ばしていった。

 これにより、ローは解放されたが、彼の肉体と精神は呪詛により激しく蝕まれていた。

 しかも、ギートが倒したのはゼアの一体に過ぎず、未だ何百体ものゼアが奇妙に揺らめいていた。

 そんな中、竜マニマニがレーザーをゼアに向けて放ち、ローに近寄った。

『マニュッ!』

 心配そうにするマニマニに、ローは答える事が出来なかった。

 すると、突如として大量のゼアがマニマニめがけて襲いかかってきた。ゼアはマニマニのあちこちに取り付き、呪詛を流しこみだした。これにマニマニは悲痛な声をあげるのだった。

「オオオオオオッ!」

 ドワーフのギートは次々と群がるゼアを打ち砕いていくも、多勢に無勢であり、ついにはマニマニはローの隣で動かなくなった。

 憤怒するギートは鬼神のごとくにゼアを粉砕していく。

 しかし、相手をする気が失せたのか、ゼア達は影の中に吸いこまれるように消えていった。

「このッッ!貴様、出てこいッ!正々堂々と勝負をしろッ!」

 と、血の涙を流しながらギートは叫んだ。

 すると、ゼア達は地面から浮かび上がってきた。

『言っておくけど、戦いに礼儀なんてありはしない。こそこそと戦うのが僕のやり方なんだ。でも良いよ。そんなに言うのなら、きちんと相手をしてあげるよ。君くらいなら、問題ない』

 そして、嫌な笑い声をたて、ゼア達は一斉にギートに襲いかかった。ギートは斧で次々にゼアを打ち倒していくも、次第に手を足を掴まれ、呪詛を流されるのだった。

「ガァァァァッッッ!」

 全身に発狂する程の痛みが走るも、ギートはゼアに対する攻撃の手を緩めなかった。たとえ、それが全く通じなかったとしても、それでも、それでもとギートは腕を振るい続けるのだった。

 しかし、とうとう限界が訪れ、全身を呪詛で黒焦げにしながら、ギートはゆっくりと崩れ落ちるのだった。

『ハハハッ、不死なる者に敵うものかッ!』

 とのゼアの嘲笑が響く。

「なら・・・・・・試してみるか?」

 そう、かすれたローの声が掛けられた。

 見れば今、ローとマニマニの魔力が融合し、高まっていた。

『どんな凄い攻撃も僕の霊体を貫く事は出来ない』

「貫くんじゃ無い。消滅させるんだ」

 と言い放ち、ローは魔力をさらに解放していった。そして、ローはマニマニを撫でながら言うのだった。

「マニマニ・・・・・・ごめんな、ジイジも一緒だからな」

『マニュ・・・・・・ジイジ、好き。いっしょ』

 気づけば周囲一体は激しく鳴動をし出していた。

 これにはさしものゼアも焦燥を滲(にじ)ませた。

『ハ・・・・・・アハハ。こんなの付き合ってられるか』

 そう言い残し、ゼアはその姿を地面に消そうとした。

 しかし、ゼア達は体が動かなくなるのを感じていた。

 今、ゼア達は魔力により拘束されていたのだった。

『なんだ、これ。まさか』

 すると、ギートの微かな笑い声がした。瀕死の中、ギートは最後の力を振り絞り、命削りし魔力を通しゼア達を麻痺させたのだ。

「今じゃ・・・・・・やれ。ロー」

「すまないッ・・・・・・。やるぞ、マニマニッ!」

『マニュ』

 そして、マニマニとローの最後の一撃が放たれた。

 共鳴した巨大なレーザーがゼア達を一瞬にして焼き尽くしていく。

『アァァッァッ!クソッ、ドワーフじゃ無くて、あいつらを先に殺しておけばッ・・・・・・ッ!』

 ゼアの断末魔が虚空に響く。

 そんな中、ローとマニマニは力なく共に倒れ逝くのであった。

 さらに、ゼアが完全に消滅したのを見届け、ギートは達成の笑みを湛(たた)え、永遠の眠りにつくのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 その頃、不死王テレ・ネアは明らかな苛立ちを抱(いだ)いていた。

 彼女は合理主義者であり、逃げる事を是(ぜ)としていたが、今、立ちはだかるポポンに対しては、背を向ける事を良しとは出来なかった。

『消えろよッ!私の前から消滅しろよッッッ!』

 感情的に叫び、テレ・ネアは三種の精霊の力を合わせ、極大魔法をポポンに放った。

 しかし、ポポンはその攻撃を自動回避するのだった。瀕死のカシムはポポンに自動回避の力を付加させていた。

 結果、ポポンは空中のテレ・ネアに迫り、二連の蹴りを叩きこんだ。

 これにより、テレ・ネアの首と腹部がヒビ割れていく。

 だが、それだけであり決定打にはなりはしない。

 一方、ポポンは今の攻撃の代償として、両足を失うのだった。

 光と化して消えていく両足。ポポンは体勢を崩し、成すすべも無く落下して行く。

 この時、テレ・ネアは勝利を確信した。だが、そういう時に限り、意図せぬ事態が起こるのである。

 突如、足を無くしたはずのポポンの体が、何かの力で浮遊し出したのだ。さらに、ポポンはテレ・ネアに向かい上昇していく。対し、テレ・ネアは忌まわしげに顔を歪める。

 その時、彼女は気づいた。下方で倒れこむカシムが最後の力を振り絞り、ポポンに浮遊術を掛けている事を。

『大人しく、死んでいろッ!』

 テレ・ネアは容赦なく、光輪をカシムに向けて神速で飛ばした。刹那、カシムの頭蓋を光輪は貫通し、脳漿(のうしょう)が巻き散る。

 しかし、命の灯が消えようと、カシムは尽きなかった。

 カシムは残る魔力を予め自動化しており、死してなおポポンの体をテレ・ネアのもとへと飛ばすのであった。

『このッ!』

 さらなる光輪をテレ・ネアはポポンに放つ。それはポポンの左胸に吸込まれていった。心臓を破壊されるも、ポポンは気合いで意識を保っていた。

「ヌオオオオオオッッッッ!」

 咆哮し、ポポンは思い切り、テレ・ネアの額を頭(ず)突(つ)いた。

 次の瞬間、テレ・ネアの頭部はあまりにあっけなく砕け散っていった。今ここに二体目の不死王が死を迎えたのだ。

 しかし同時に、ポポンの首から上も光となりて消え去っていくのだった。


 戦闘が終わり、静寂が辺りに満ちた。

 さらに突如として雪が降り出す中、一匹の巨大な犬がよろつきながら歩いて来た。この犬こそポポンが最初に乗っていた子であり、ケルベロ君とポポンは呼んでいた。

 実はケルベロはポポンが戦闘で受ける魔力的なダメージを代わりに引き受けており、その為に深く傷ついていたのだ。

 そして、ケルベロは一生懸命、傷ついた体を引きずりながらポポンを探した。しかし、見つかったのはポポンの悲しき姿だった。

胴体のみとなったポポンの死体をケルベロは見て、キョトンとした。しかし、物言えぬポポンを見て、全てを理解し涙を零すのであった。

 ケルベロの悲哀なる遠吠えが何度も響く。しかし、答える者は誰も居ない。

 空間の欠片なる雪は激しさを増す。世界の終焉が近づいているのだ。それを知ってか知らずか、ケルベロはポポンの傍に身を寄せて、地上に帰るための翼をしまい、うずくまるのだった。

 ここがケルベロの終着点なのだ。

 ケシャ、カシム、ポポン、ケルベロ、それに今まで散っていった全ての者達を雪は等しく包んでいった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る