第9話
るのだった。
そして、ヴィルとティアは頷き合い、魔王城の中枢である《深淵の塔》へと突入するのだった。
・・・・・・・・・・
妖艶なる不死王テレ・ネアは無数の魔弾に加え、立体交差するレーザーを打ちだしていた。
乱れ飛ぶ6色の魔弾とレーザーの光が空間を彩り、美しき死を周囲に振りまいていた。
一方で、それに対抗するポポンは汗をまきちらしながら、丸太で魔弾を次々と弾いていった。
「フンヌゥゥゥッッッ!ドッセェェェェイッ!」
ポポンの必死な形相は、どうもテレ・ネアの美的感覚と合わなかったようで、彼女は一刻も早く自らの視界から彼を消滅させようとしていた。
とはいえ、カシムと茶猫のケシャの補助(サポート)もあり不死王はポポンを殺しきる事が出来ていなかった。
テレ・ネアは舌打ちをし、まんべんなく放たれる魔弾群を揺らめかせ、ポポンに集中させた。
「ヌグゥゥゥッ!」
さしものポポンも押し寄せる美麗なる魔弾群(まだんぐん)に焦りを見せた。
テレ・ネアは詠唱を高め、一気にけりをつけようとした。
精霊による音魔法を紡ぐ彼女は、今、指揮者であり謳い手であると言えただろう。
テレ・ネアは一人で多重詠唱を行(おこな)っており、さながらにコーラスのように謳(うた)は鳴り響いた。
その時、カシムと茶猫のケシャの姿が煙のように消えた。
彼らは魔弾の隙間をかいくぐり、テレ・ネアに迫っていた。
ポポンに攻撃が集中していたため、不死王に隙が出来ていたのだ。
そして、カシムとケシャは不死王テレ・ネアにそれぞれ波動を叩きこむのだった。
すると、テレ・ネアの魔術が一瞬、解除された。
『なッ!』
テレ・ネアが驚愕の声をあげた時には、ポポンの丸太が豪速で迫っていた。
それをテレ・ネアはとっさに両腕で防ぐも、衝撃で後方に飛ばされた。
しかし、彼女はその勢いを利用し、華麗に一つの高層-建造物の瓦礫の上に降り立った。
テレ・ネアは無言で眼下のポポン達を睨み据えた。
その両腕は深く傷ついていたが、自動回復の力で瞬く間に再生していった。
これこそ彼女が不死王と呼ばれる所以(ゆえん)の一つであっただろう。
『そう・・・・・・そうなのね。私の魔導制御を崩したのね。なる程、なる程。素晴らしい。なら、お礼に見せましょう。《天魔》なる力を』
そう告げ、不死王テレ・ネアは天に向けその右手を高々と掲げた。
刹那、膨大な魔力が天に渦巻き、邪悪なる波動がテレ・ネアに収束せんとしていた。
「ウォォォォォッ!」
ポポンは沸き立つ恐怖を叫ぶ事で抑え、テレ・ネアに突進していった。
この機を逃せば、絶対なる死が自分達を襲う事を本能で理解していたのだ。
しかし、ゴウッと振り下ろされた丸太はテレ・ネアの細い腕と手で易々と掴まれていた。
いや、それは本当にテレ・ネアと呼んでよいかはばかられた。
そこには白き人型の異形が存在した。
大理石の如くに硬質化しそれでいて柔らかさも見せる表皮、刃物のように鋭利な羽に、頭上に浮かぶ歪んだ輪、さながらその姿は白き堕天使とでも言って差し支えは無いだろう。
不死王なる堕天使は邪悪な笑みを浮かべ、見えざる何かを軽く放った。
それは恐るべき速度でポポンに襲いかかり、彼の右腕をもぎ取っていった。
さらに、その何かは綺麗な曲線(カーブ)を描き、カシムに迫った。
とっさにカシムは結界を張るも、その攻撃は易々と結界を切断し、カシムの腹部を抉るのであった。
その何かは大きく楕円を軌道し、テレ・ネアのもとへと戻って行った。
このわずかな時間で、ポポンとカシムは戦闘に著しく支障が出るであろう傷を負ってしまった。
そんな二人に対しテレ・ネアはフフッとあざ笑い、放った何か、それは光輪(チャクラム)と呼ばれる武器であるのだが、を指でクルクルと回していた。
『お前ッッッ!』
激昂した茶猫のケシャは力を解放し、その姿を変えていった。
今、ケシャは人型と化しており、耳や尻尾などを除き、人間の女性に非常に近い姿形をしていた。
『アハッ!猫が猫人になったァッ!』
テレ・ネアはさぞ可笑(おか)し気(げ)に声をあげた。
『許さないッ!』
ケシャは魔力を全開にして、テレ・ネアに迫った。
そして、ケシャとテレ・ネアの肉弾戦が始まった。
しかし、テレ・ネアは余裕を崩さなかった。
『アハハッ。猫パンチ、かわいーッ!』
テレ・ネアはケシャの拳を躱しながら言うのだった。
逆にテレ・ネアの蹴りがケシャに炸裂し、ケシャは建物に直撃した。
さらに、テレ・ネアは魔力をケシャに向かい放っていった。
魔力が直撃しその建物が爆発する頃には、ケシャは瞬間移動しており、テレ・ネアの背後に迫っていた。
ケシャの蹴りがテレ・ネアの首に叩きこまれようとするも、それは残像であった。
テレ・ネアはケシャの背後で笑みを浮かべており、次の瞬間、反撃が始まった。
最初の一撃は何とか躱すも、分身するテレ・ネアの多方向からの攻撃に、ケシャは成すすべも無く宙を舞っていった。
しかし、ケシャは瞬間移動を行い、追撃を避け、致命傷だけは避けていった。
とはいえ、ケシャの限界も近かった。
元々、変化できる時間は限られている上に、肉体への負荷も大きいのだった。
その上、敵の攻撃をモロに喰らっては、体が保つはずも無かった。
どれ程に姿を変えようと、ケシャは小さな茶猫なのだから。
「ケシャッ・・・・・・」
脇腹の傷を魔力の糸で縫い付けたカシムは、激痛で顔をしかめながらもケシャの身を案じた。
「グッ・・・・・・ウゥ・・・・・・」
一方で、ポポンは切断された右腕をきつく縛り血止めをしていた。
『ハァァァァァァッッッッ!』
ケシャは流星の如きオーラを次々と不死王テレ・ネアに向けて放っていった。
しかし、その直後、まるで時空転移(ワープ)したかにテレ・ネアはケシャの眼前に迫っていた。
『終わりよ』
その刹那、ケシャの心臓部をテレ・ネアの魔力が無慈悲に貫いた。
空中のケシャの体は力を失い、糸の切れた人形のように、ゆっくりと地に落ちていった。
「アアアアアアアッッッ!」
半狂乱となったカシムは何の策も無くも、不死王テレ・ネアに襲いかかった。
カシムは次々に掌底をテレ・ネアに放っていくも、そのことごとく全てをテレ・ネアは手で易々と受け止めていた。
『飽きたわ』
次の瞬間、テレ・ネアの両腕は刃と化し、カシムの左腕と右足を切断していった。
「このォォォォォォッッッ!」
ポポンは雄叫(おたけ)びをあげ、テレ・ネアに突進するも、放たれた波動を喰らい、歩道橋に激突するのだった。
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