第8話

  再誕 ⑧


 一方で、団長ヴィルと不死王レヴィストルは周囲の高層-建造物を破壊しながら、戦いを続けていた。

彼らの剣がぶつかり合うたびに、熱と衝撃波が発生し、辺りの全てを溶かし、砕いた。

 そして現在、ヴィルとレヴィストルは三角柱なる高層建造物の壁面にて、高速で移動を行っていた。

 彼らは今、完全に重力を克服しているかのように壁面を駆け、剣撃を放ち合うのだった。

 それと共に、破壊の嵐が通り過ぎ、後には砕けたガラス片が降り注いだ。

 竜ティアと小人族のモロンは、少し離れた位置からヴィルとレヴィストルによる死を振りまく決闘を見届けようとしていた。

 しかし、戦いは突如として終わりを迎えた。

 ヴィルの体に異変が訪れたのだ。

 度重なる《共神》の副作用が、ついにヴィルの体に限界をもたらしたのだ。

 全身から血を流しながら、ヴィルは糸の切れた人形のように、地表へと落下していった。

 それを壁面に掴まりながら、レヴィストルはつまらなそうに見下ろしていた。

『お互い、不本意な終わり方だったな。だが、手は抜かないぜ。それが剣士というものだろう?』

 と呟き、レヴィストルは最大級の魔力を魔剣にこめ、力なく落ちるヴィルに向かい、一気に放った。

 死の一撃がヴィルに迫る。

 その剣撃はさながら雷龍の如くに、ヴィルを喰らわんとした。

「駄目ッ!」

 ティアの悲痛な声が響く。

 次の瞬間、天をも轟(とどろ)かす衝撃波が吹き荒れた。

 高層(こうそう)建造物(けんぞうぶつ)群は次々とドミノ倒しに崩れていき、嵐はティア達にも達した。

「ッ・・・・・・」

 ティアは結界を張り、押し寄せる灼熱を何とか防いだ。

 気づけば、衝撃の中心部はクレーターのようになっており、虫一匹、生きていないのが分かった。

「そんな」

 ティアは両膝を地につけ、虚ろに呟いた。

「団長・・・・・・?」

 モロンは現実を受け入れられないかに、声を漏らした。

 しかし、崩壊した瓦礫の最上部に佇むレヴィストルの反応は違った。

「・・・・・・何者だ?」

 その響きには、弱冠の戸惑いが混じっていた。

 ティアが顔を上げると、一人の男が空から降りてきた。

 その端正な顔立ちの美男子は、気絶するヴィルを抱えていた。

「何とか間に合いましたね」

 男は優しく微笑み、ティアとモロンに言うのだった。

「シオネス、あなた・・・・・・」

 思わず、ティアは彼の名を口にした。

 彼こそ、剣聖シオンの息子にしてヒヨコ豆-団の一員であるシオネスだった。

「シオネス、それに団長!」

 そう言い、モロンは駆け寄った。

 対して、シオネスはヴィルをソッと地面に下ろし、モロンに頷いた後、レヴィストルに向き直った。

「悪いが、不死王。お前の相手は僕だ」

 それに対し、レヴィストルは苛立たしげに答えた。

『お前ごときに、俺の相手が務まるとでも?』

 すると、レヴィストルの背後より声が掛けられた。

『あまり、その子の実力を甘く見ない方が良い。その子は剣聖シオンの息子であり、聖女ミリトと同じく、騎士王アルカインの血脈をひいている、剣帝シオネスなのだから』

 そこには、小人族の女魔術師であるユークが浮遊していた。

彼女はかつて剣聖シオンのギルドに所属していた強者である。そして、彼女はシオネスを魔法でこの場に連れてきたのである。

『なる程・・・・・・。で、お前も俺と死(し)合(あ)うのか?お前も並の者では無いのだろう?二対一ならば、丁度いいやも知れない』

 しかし、その不死王の言葉にユークはフッと笑みを見せた。

『冗談。私には別の仕事がある』

 そう言い残し、ユークはティア達のもとへ時空転移した。

『治療をする。ティア、あなたとヴィルを』

 ユークの言葉に、ティアは黙って従った。

『それは看過できないなッッッ!』

 と言い放ち、レヴィストルは瞬間移動にも等しい速さで、ユークに迫った。

 しかし、それをシオネスがたやすく剣で阻んだ。

 ここに至り、レヴィストルはシオネスの実力を認め、獰猛(どうもう)な笑みを見せた。

『なる程、これは良い練習台になりそうだッ!』

「練習台?あんたは、ここで死ぬんだよ」

 そう冷たく告げ、シオネスは二刀目を抜剣した。

 刹那、抜剣技が発動し、真空の刃がレヴィストルを襲った。

 とっさにレヴィストルは大きく跳躍して避けるも、一瞬でも遅れていれば体は両断されかねなかった。

 シオネスの一撃により倒壊した高層建造物は、さらに崩れていった。

 一方、レヴィストルは緩やかに落下しながら、震える程の魔力を高めた。

『見せよう、最上なる王の一撃をッ!』

 天地が鳴動し、レヴィストルの究極-剣技が今、構築されていった。

 これに対し、シオネスは柔和な微笑みを浮かべた。

「行こう、ターニャ。共に」

 そう最愛の者の名を口にし、シオネスは力を解放していった。

 炎の精霊ターニャが出現し、シオネスに優しく答える。

『ええ、共に・・・・・・』

精霊と化したターニャの加護がシオネスに掛かり、今、シオネスの髪と瞳は純なる朱に染まった。

 不死鳥の如き炎をその身と双剣に纏い、シオネスは最上級-剣技双滅炎を発動した。

 そして、不死王レヴィストルと剣帝シオネスによる至高の剣技が炸裂し合うのだった。


 ・・・・・・・・・・


 その頃、ダーク・エルフのトゥセと格闘家のアーゼは不死王アーバインの一撃により瓦礫の下に閉じ込められていた。

 幸い、二人の周囲にはわずかな空間が存在し、押し潰される事は無かったが、外に出る事は叶わなかった

 さらに、アーゼは右腕を不死王の攻撃により失っており、気絶していた。

 トゥセは暗闇の中、布でアーゼの血止めをしていた。

「クソッ・・・・・・見えなかった。二方向から同時に攻撃を仕掛けたってのに。それも、たった一撃でッ」

 トゥセは布を縛りながら、悔しさを滲ませた。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・血は止まったみたいだけど、どうやって、ここを出る?もう俺達2人にはあまり力が残されていない。瓦礫をどけるのに無理に力を使っちまうと、奴に一撃を喰らわす事が出来なくなっちまう」

 トゥセは焦燥の中、唇を噛んだ。

 その時だった。

 突如として、瓦礫に魔導の扉が浮かんだのだった。

 さらに扉は開き、中から一人の猫人族と見える可憐な女が出てきた。

 首から上は猫に似たそれでもやはりヒトの顔、下は人間、そんな愛くるしい彼女こそヒヨコ豆-団の一員であるリーゼであった。

「リーゼ、お前・・・・・・」

 トゥセは目を瞬かせた。

 あまりに唐突な再会であった。

「はぁ・・・・・・生きてて良かった」

 リーゼはホッとして言うのだった。

 すると、トゥセが口を開いた。

「そりゃ、こっちの台詞だ。っていうか、今まで」

「私の話は長くなるから。それより、早く逃げよう。道を作ったから。トゥセもアーゼも十分、戦ったんでしょ?」

 しかし、トゥセは首を横に振った。

 それに対し、リーゼは悲痛な表情を浮かべた。

「なんでッ!あんな化け物相手じゃ、本当に死んじゃうよッ」

 思わず、リーゼは声を荒げた。

 すると、トゥセはアーゼの左腕を掴み、彼を背負い答えた。

「死なばもろともさ。奴を倒しさえ出来ればそれで良い」

その時、トゥセの頬にピシャリという音が響いた。

 リーゼの平手が、トゥセを打ったのだ。

 見れば、リーゼの両目は涙で潤んでいた。

「嫌なんだよ・・・・・・。もう、誰かが死ぬのはッ。ニョモちゃんも、レククも、ガインも・・・・・・。仲間が居なくなるのは嫌なんだよッ!」

 そのリーゼの想いを受け、トゥセは悲しげに目を閉じた。

 しかし、首を横に振り、ソッと目を開き、切なげに答えるのだった。

「すまねぇな、いつも。俺は馬鹿だからさ。心配ばっか掛けちまって。分かるよ。俺だって、お前に死んで欲しく無いからよ。だからさ、お前はどっかで隠れててくれ。な」

 そう寂しげに言い残し、トゥセはアーゼを引きずるように連れ、扉をくぐっていった。

 残されたリーゼは力なく両膝をついた。

「馬鹿ッ・・・・・・馬鹿トゥセッ!・・・・・・バカぁ。私の気持ちも知らないで」

 涙をポロポロとこぼしながら、リーゼはか細く声を振るわせるのだった。


トゥセは扉の内に続く回廊を進んでいた。

「おい」

 と、トゥセの背から相棒の声が掛けられた。

「起きてたのか、相棒?」

 そうトゥセはアーゼに尋ねた。

「途中からな」

「そっか」

 トゥセは素っ気なく答えるのだった。

 しかし、その瞳の奥には涙が滲んでいるのだった。

 アーゼが続けて問う。

「いいのか、あんな別れで?」

「さぁな。いつだって、後悔ばかりさ」

 うそぶく様(よう)に言うトゥセの声は、微かに別れの哀しみに震えていた。

「お前は本当にバカだ」

「違いない」

 そうトゥセは苦笑(くしょう)混(ま)じりに答え、アーゼと共に回廊を進み続けるのだった。


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