第7話
再誕 ⑦
カシムと茶猫のケシャは不死王テレ・ネアの古代精霊魔法をひたすらに避け続けていた。
それは薄氷を踏むような道程であり、一歩でも間違えれば即座に死が訪れた。
二人は怯むこと無く不死王テレ・ネアに果敢に立ち向かってはいたが、悲しいかな、絶対的に攻撃力が不足していた。
テレ・ネアの周囲には強固な結界が張り巡らされており、カシムとケシャの放つ波動は全く内側に届かないのであった。
一方で、触れたら死を意味する滅びの魔法が、カシムとケシャに襲いかかる。
どうみても、二人には勝ち目は無かった。
しかし、それでも構わないと、カシム達は思っていた。
時間稼ぎで十分なのである。
ヴィルとティアが魔王アセルミアのもとへと辿り着くまで、不死王を足止め出来れば、それで良いのだ。
とはいえ、どうしても切望してしまう。
(せめて、もう少しこちらに火力があれば・・・・・・)
と。
一方で、不死王テレ・ネアはカシム達の意図に気付き、つまらなそうに舌打ちをした。
『下らない。これなら戦う必要すら無いわね』
と、テレ・ネアは地面に降り立ち、呟いた。
もはや、テレ・ネアはカシム達の攻撃を避ける素振(そぶ)りすら見せなかった。
そして、不死王テレ・ネアがカシム達を無視し魔王のもとへと飛び立とうとしたとき、地響きがなった。
遠方より何かが迫って来るのだ。
それは三つ首なる羽の生えた犬型の巨獣と、上に乗る一人の大男だった。
「あれはッ」
カシムは思わず目を見開いた。
『ポポン・・・・・・』
また、茶猫のケシャは喜びの表情を見せた。
その大男の名はポポン。
ヒヨコ豆-団の一員であり、聖女ミリトの義理の弟である。
「はいよぅ!はいらぁッ!たらっしゃあッッッ!」
と叫びながら、ポポンは不死王テレ・ネアに対し巨獣ごと体当たりを試みた。
しかし次の瞬間、見えない何かが巨獣を遙か上空へと吹き飛ばしていった。
もちろん、不死王テレ・ネアの魔術である。
『ガウーーーーーーーッッッ!』
との巨獣の悲痛な声が遠ざかっていった。
『下らない・・・・・・』
そうテレ・ネアは、吐き捨てるかに言った。
しかし、彼女の背後からは、何と丸太を手にしたポポンが迫っていた。
飛んでいったのは巨獣だけであり、ポポンは隠れるよう上手く攻撃を避けていたのだ。
「ドッセェェェェェェイッ!」
と叫びながら、ポポンは愛用の武器である丸太をテレ・ネアに向け振るった。
その刹那、魔法による反射が起き、ポポンの体は今度こそ丸太と共に吹っ飛んで、建物に激突した。
『それで奇襲のつもり・・・・・・』
そう言いかけ、テレ・ネアは驚愕した。
彼女を包む絶対であるはずの結界に、微かではあるがヒビが入っていたのだ。
『まさか、お前なの?その丸太は・・・・・・、まさか神話級の武具だと言うの?』
とのテレ・ネアに対し、起き上がったポポンはキッパリと首を横に振った。
「いいや、違うさ。これは・・・・・・ただの丸太だ!」
ポポンは妙に誇らしそうに、それでいて高らかに告げるのだった。
一方、テレ・ネアは不快を露にしていた。
『ただの丸太・・・・・・。そう、確かにそのようね。だとすると、お前は虚無の力を有しているというの?その究極とも言える力を』
とのテレ・ネアの言葉に、ポポンは首をキョトンと傾げた。
しかし、ポポンは頭をブルブルと振り、口を開いた。
「そんな事より、よくも友であるケルベロ君を吹き飛ばしてくれたなッ!珍しく俺は今、怒っているんだぞッ!」
ポポンはテレ・ネアに丸太を突きつけ、叫ぶのだった。
ちなみに、ポポンはケルベロに乗って魔王城まで飛んで来たのである。
『やれやれ・・・・・・少しは退屈しないで済みそうね』
と、妖艶な笑みを浮かべ、不死王テレ・ネアは周囲を埋め尽くす程の色とりどりなる魔弾を延々と放っていくのであった。
・・・・・・・・・・
一方で、狂戦士ローとドワーフのギート達は群がり襲いかかる異形(フリークス)の軍勢に対し、死闘を繰り広げていた。
しかし、物量差の壁は厳然とそびえ、一人、また一人と部下達が命を散らしていった。
『鳴けッ、魔刃よッ!』
全身から血をこぼしながらローは異形達を一刀両断していった。
だが、何もかもが限界だった。
それなのに倒しても倒しても、次なる軍勢が現れるのである。
しかもその時、さらなる脅威が上空から出現した。
それはトゥセとアーゼと戦っていたはずの不死王アーバインであった。
彼が下方に腕を突き出すや、霊体なる巨大な手が湧出し、狂戦士ローを押し潰さんと迫った。
「クッ」
ローはとっさに横に回避行動を取り、躱すも、隣で戦っている部下達は嫌な音をたてて潰れていった。
「不死王アーバインッ・・・・・・」
ローは怒りで奥歯を噛みしめた。
それに対し、不死王は空中で涼やかな顔にて返した。
『あのカード使いと格闘家。瓦礫のどこかに埋もれてしまった。次はお前達に相手(あいて)願おう』
その言葉にローは愕然とした。
どう考えても、それはトゥセとアーゼの事であった。
ヒヨコ豆-団の中でも、ヴィルの右腕と左腕と言える二人が、これ程の短時間で敗れ去った事を意味する。
ドワーフのギートも呆然とし、しかし取り直したように叫んだ。
「嘘をつけッ!あ奴らが負けるはずなどあるものかッ!降りてこい、この卑怯者めッ!」
叫ばねば、ギートは最低限の冷静さを保っていられなかった。
『ならば降りよう』
次の瞬間、いつの間にかギートの背後にて不死王アーバインが構えを成していた。
刹那、死の波動がギートに叩き込まれんとした。
ギートはとっさに斧で不死王の掌底を防ぐも衝撃までは殺しきれず、吹き飛ばされ、空中で血を吐いた。
さらに、不死王は容赦なく霊なる手をギートに向け放った。
これを避ける事は、着地し体勢と整えたばかりのギートには不可能だった。
今、ギートの眼前には霊体なる巨大な手が迫っていた。
しかし、その霊なる手を狂戦士ローの魔刃がギリギリの所で防いでいた。
魔刃に斬り裂かれ、霊なる手は消滅していった。
「すまんッ」
ギートはローに声を発した。
対して、ローは険しい顔のまま無言で頷いた。
すると、不死王アーバインは自身の手を鋭く見据えた。
その手からは黒い血が伝っていた。
霊体の手が斬られた事によるフィード・バック(はね返り)が起きたのだ。
とはいえ、通常の攻撃を霊体の手が受けようと、不死王アーバインにダメージがいく事は無い。
『その呪われし刃の力か。厄介だな・・・・・・。まぁいい。ならば、直接に拳を叩き込むまでだ』
と告げ、不死王アーバインは先程トゥセとアーゼを打ち倒した《静と動の構え》を、再び示すのだった。
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