第6話
再誕 ⑥
トゥセとアーゼが不死王アーバインに対し、無謀なる死闘を挑んでいる時、ヴィルは竜ティアの背に乗り、魔王城の中心部へと入った。
眼下には居住区が広がり、奇妙なる高層の建物が所狭しに突き出ていた。
それらの高層の建物は、綺麗に四角柱で出来ており、壁面には無数の窓ガラスが規則正しく組みこまれていた。
それが何なのか、この時代の人々には分からないだろうが、古代の叡智を覗う事は出来ただろう。
一つの高層なる建物、時計台の如きその上から異様なるオーラが発された。
そこには目隠しをした女性、不死王テレ・ネアが待ち構えて居た。
人外の昏い美貌を湛える彼女は、艶然たる笑みを浮かべ、ヴィル達を見据えていた。
「あれは・・・・・・」
仙人術の使い手なるカシムは、表情を険しくした。
『不死王テレ・ネア。不死王アーバインに続き二人目』
そう茶猫のケシャも身を震わせ、呟くのだった。
すると、不死王テレ・ネアは紅の唇を開いた。
『中々にしぶといわね。虫のよう。魔法でひねり潰したくなる』
そして、テレ・ネアは竜ティアに向け、その手をかざした。
「ティアッ!」
ヴィルが叫ぶまで無く、ティアは横に回避行動をとっていた。
次の瞬間、テレネアの手の平から不可視の波動が放たれ、その波動はティアの一瞬前に居た空間を通り過ぎ、背後の高層建造物にぶつかった。
すると、その高層なる建物は突如として粘土のように歪み出し、その全体で螺旋を描き出した。
数百メートルなる巨大な建造物が一瞬にして、前衛的な芸術品の如くにねじれてしまったのだ。
これこそが不死王にして魔導王なるテレ・ネアの底知れぬ実力であった。
しかし、魔王のもとへ辿り着くには、彼女を食い止めねばならない。
「ここは私達でやりますッ!」
そうカシムは叫び、浮遊術でテレ・ネアへと向かった。
『じゃあ、私も行って来ます』
茶猫のケシャも、同じく浮遊術でそれに続くのだった。
「すまないッ・・・・・・」
ヴィルは断腸の想いで、遠ざかる二人を見送るしかなかった。
再びヴィルは予感した。
もはや、二人と会う事は今生において無いであろうと。
それでも前を進むしかないのだ。
一方、不死王テレ・ネアは自身に立ち向かって来る二人に不満そうな顔を見せた。
『ああ、お前達では役不足だというのが分からないの?私はね、私はカインズの末裔なるヴィル・ザ・ハーケンスとの手合わせを臨(のぞ)んで、ひたすらに望んでいたのよ』
そう謳(うた)うように告げながら、テレ・ネアは術式を一瞬で構築した。
すると、どこからともなく無数の白球が出現した。
薄い笑みを浮かべるテレ・ネアが指を綺麗に鳴らすや、全ての白球からこれまた無数の棘が生じ、次々と伸び、枝分かれし、カシムとケシャを貫かんと襲った。
カシムとケシャの魔力と生命力を探知し、自動的に追尾してくるその攻撃を避けるすべなど、本来あるはずも無かった。
しかし、カシムとケシャは己(おの)が存在を希薄にし、自動追尾をなるべく無効化し、かつ、自動回避を行(おこな)い、空中を埋め尽さんとする数多の棘をかいくぐっていくのだった。
これには、不死王テレ・ネアも驚きを禁じ得なかった。
『なる程。気の流れを読む自動回避か。面白いわ。でも・・・・・・避けようが無い時、どうするのかしら?』
その嘲笑うような不死王の声色と共に、周囲の空間は歪み出し、魔術なる星空が瞬きだした。
さらに、突如として小さな精霊達が現れ、テレ・ネアを中心に舞い踊りだした。
『何あれ?』
『あれを殺すの?』
『埋め尽くすの?』
『燃やすの?』
『砕くの?』
『滅すの?』
召喚された精霊達は口々に言うのだった。
しかし、テレ・ネアは人差し指をチッチと振り、彼らに応えた。
『その全てを与えましょう』
不死王たる主の言葉に、精霊達は狂喜し、色とりどりの光を発しながら星空を飛び交うのだった。
『六なる精霊の力、見せてあげるわ』
そして、不死王テレ・ネアの無差別的な最上級魔法が星空に構築されていくのであった。
・・・・・・・・・・
ヴィル達はついに魔王城の中枢部へと降りたっていた。
ティアは竜形態から人型形態へと、建物の中でも戦いやすいように、その姿を変えていた。
元々、竜形態の姿からもその美しさは覗えたが、人型となる事でその類いまれなる美貌がよりはっきりと見て取れた。
「ヴィル。モロン。行きましょう」
ティアはその長く艶やかな炎髪をなびかせながら、痛みを押さえ言うのだった。
しかし、彼らを遮る大きな影があった。
『残念だが・・・・・・ここは通行止めさ』
との声が段差の上から掛けられた。
見上げれば、そこには大剣を軽々と手にした眼帯の男が座り込んでいた。
「不死王レヴィストル・・・・・・」
ヴィルは彼(か)の名(な)を呟いた。
その言葉を聞き、レヴィストルは面倒(めんどう)気(げ)に立ち上がった。
すると、その存在感が一気に増し、歴戦の勇士たるヴィル達ですら一瞬、気圧されそうになった。
『不死王か。実に仰々しい呼び名だな。下らない。単に大陸の四分の一を手にし、そして敗れただけだって言うのにな』
などと自嘲気味にレヴィストルは言うのだった。
「そこをどいてくれ」
と言うヴィルをレヴィストルは鼻で笑った。
『無理だな。俺は女神が大嫌いなんだ。あいつらの望むままの世界が続くくらいなら、いっそ魔王に世界をくれてやった方がマシさ』
そして、不死王レヴィストルは悠久の時を共にした魔剣を構えるのだった。
『お前を見ると思い出す。俺達3人を倒しながら最も気弱でそして、最も戦を望まなかった王、カインズを』
さらにレヴィストルは続けた。
『しかし、それも必然か。お前はカインズの末裔なのだから。ヴィル・ザ・ハーケンス。本来ならば亜大陸ランドシンの王を名乗ってもおかしくない血と器と力を有していながらも、一介の冒険者を甘んじ演じ続ける。惜しいな。いやしかし、だからこそあいつの血をひいていると言える。あの甘ったれのカインズの血をな・・・・・・』
と告げる不死王からは、どこか追憶を懐かしむ様相が覗えた。
しかし、ふいに顔を激しくしかめた。
『あいつの魂は今、何をしている?女神の創りし天上の世界にて戯れているのか?女神の相手を毎晩しているのか?この世界がどんどんと狂っていくのを極楽なる箱庭で、のんびりと観賞しているのか?まぁ、何だって良いさ。あいつは俺達に勝ち、神性水晶(クリスタル)を手にした。だが・・・・・・俺達は冥府より蘇った。蘇ったのだッ!今こそ再戦の時だ。だが、俺としてはまだ戦いの勘が戻りきっていない。故に、ヴィル・ザ・ハーケンス。カインズとの死合(しあ)いの前哨戦として、お前と戦ってやろうッ!』
そう言い放ち、レヴィストルは大剣をヴィルに突きつけた。
対して、ヴィルは父の形見なる愛剣を引き抜くのだった。
「ティア、モロン・・・・・・少し、下がっていてくれ」
とのヴィルの鬼気(きき)迫(せま)る言葉に、ティアとモロンは素直に距離を取るのだった。
これより近づくだけで存在が蒸発する程の死闘が幕を開けるのである。
『その背中に付けてる霊剣は飾りか?』
と、レヴィストルは挑発をするも、ヴィルは応じなかった。
「お前は霊剣を抜くべき相手ではない」
そのヴィルの言葉に、レヴィストルは獰猛(どうもう)な笑みを浮かべた。
『言うねぇ・・・・・・まぁ、いいさ。お互いにこれは前哨戦なんだからな。俺はカインズ、お前は魔王アセルミア、そういう事だ。とはいえ、全てにおいて勝つのは俺だッ!』
そう王の貪欲さを湛えながら吼え、レヴィストルはヴィルに斬りかかった。
神速で迫る大剣を、ヴィルは何とか己(おの)が剣で受けるのだった。
次の瞬間、両者の波動が吹き荒れ、周囲の空間を焼き尽くしていくのであった。
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