第5話

  再誕 ⑤


 魔王城には異形の軍勢が待ち構えて居た。

 その名はフリークス。

 魔族とも魔物とも違う存在であり、生命の循環から外れた異分子である。

 そんな異形達に対し、ヴィル達は全く怯むこと無く、戦いを挑んでいく。

 さらにその頃、上空に飛ばされたドワーフのギート達は魔導士シーレイによる浮遊術が解け、魔王城へと墜落していくのだった。

 地面にてギチギチと鋭い歯を打ち鳴らす異形(フリークス)が、相対的にすさまじい速度で近づいて来る。

 その外見は個体ごとに異なっており、共通しているのは白い体に赤い眼だけだ。

 ギート達は落下の最中にもかかわらず、冷静に渾身の魔力を下方に向け展開していった。

 そして着地と同時に、その魔力を炸裂させるのであった。

 生じた衝撃波により、異形達は成すすべも無く肉片と白い血をまき散らしながら吹き飛んで行った。

「シーレイよ。そなたの犠牲、無駄にはせんぞッ!かつての敵ながら、あっぱれじゃった!」

 そう叫び、ギートは戦斧を怯んだ異形達に打ちつけるのだった。

 さらに部下のドワーフや、狂戦士ローの配下の騎士達も次々に群がる異形達を屠(ほふ)っていった。

 出だしとしては最高と言えただろう。

「背を向けるなッ!二人一組で後ろをかばい合い、戦えいッ!」

 ギートに言われるまでも無く、ドワーフや騎士達はそうしていた。

 とはいえ、あまりの混戦に孤立する者も出始め、ギートはそんな者のもとへ、いち早く駆けつけ、共に戦うのだった。

 そして、ドワーフや騎士達は雄叫びをあげながら、斧と剣を振るうのだった。

 

 一方、竜ティアとマニマニは、それぞれ黒と赤のレーザーを放ち、異形達を焼いていった。

 二人の体は限界であったが、最後の気力を振り絞っているのであった。

 すると、地上の異形達から反撃の魔弾が放たれていった。

 ティアとマニマニは回避行動に移るも、その魔弾の数は膨大であり、いつまでも避け続けられない事が目に見えていた。

『ヴィル!お前達はこのまま魔王のもとへとッ!』

 と狂戦士ローが叫んだ。

『分かった。後は任せるッ!トゥセ、アーゼ、モロン、カシム、ケシャ。こっちに移ってくれ!』

 そのヴィルの言葉に、マニマニに乗っていたトゥセ達はティアの背に移動した。

「じゃあな・・・・・・」

 そう別れの予感を湛(たた)えさせながら、狂戦士ローは竜マニマニと共に、魔王城の表面に高速移動するのだった。

 竜マニマニの激突により、異形達は再び吹き飛ばされていった。

 さらに、降り立ったローや騎士達の参戦で、異形達は上空のティア達を攻撃する余裕を失った。

 狂戦士ローは壮絶な笑みを浮かべ、異形達に魔刃を振るっていた。

 今、最後の戦いが幕を開けたのだ。


 竜ティアとヴィル達は着実に魔王城の中枢へと着実に近づいていた。

 魔王城はティアから逃げるように空中を移動しているため、すぐに辿り着くというわけにはいかないのだった。

 飛行型の異形(フリークス)が途中、襲いかかって来るが、ダーク・エルフのトゥセのカードにより、次々と撃退されていた。

 魔王城の中心である闇の塔がはっきりと見えてきたその時、不死王の声が響いた。

『これ以上、行かせはしない』

 霊気がヴィル達を包むと共に、突如、空中に半透明なる巨大な手が出現した。

 その手は竜ティアの数倍もあり、ティアを握り潰さんと迫って来た。

 この時、トゥセは竜ティアより飛び出しており、地面に降り立とうとしていた。

 彼の目指す先は、地上に佇む不死王アーバインであった。

 不死王アーバインの鍛え上げられた長躯(ちょうく)がそびえる。

 魔王の配下たる最強の敵に、トゥセは果敢に立ち向かうのだった。

 トゥセは落下しながら高速でカードを次々と不死王アーバイン目がけ、撃ちだしていった。

 しかし、それらのカードが不死王に届く事は無かった。

 カードは不死王アーバインにまさに命中せんとするその時、突如として停止し、灰と化して散っていった。

 一方、霊なる巨大な手は竜ティアを覆わんとしていた。

 その時、格闘家のアーゼが全身の魔力を解放し、跳躍し、思い切り巨大な手を殴りつけた。

「オオオオオオッッッ!」

 アーゼは自身の体を遙かに凌駕(りょうが)する大きさの霊なる手を、弾き飛ばすのだった。

「団長!ここは、俺とトゥセで食い止めます!」

 ティアの背に着地したアーゼはそう告げ、怯んだ霊なる巨大な手に飛びかかっていった。

「任せたぞッ!お前らッ!」

 ヴィルは永遠の別れを予感しながら、そう叫ぶ事しか出来なかった。

 その声は地上のトゥセにも届いていた。

 トゥセはニヤリとして、カードを放っていった。

 だが、それらのカードは不死王アーバインの前では、灰に帰(き)すだけだった。

 しかも、アーバインは先程より一歩たりとも動いていなかった。

 歴然たる実力差が、そこには存在した。

 それでもトゥセはひたすらに、カードを放ち続けるのだった。

 全ての攻撃を無効化し、アーバインは冷たくトゥセを見据えた。

『無駄だと言う事が分からんのか?どうせ、以前のようにカードが尽きるだけだ』

 との不死王の言葉に対し、トゥセは不敵な笑みを見せ、空中にカードを召喚するのだった。

 これにより、トゥセの魔力が尽きない限り、カードを無限に生み出せる事となる。

 実質的に弾切れが無くなったのだ。

 これに対し、不死王アーバインは興味深(きょうみぶか)げに目を細めた。

『ほう・・・・・・。カードの召喚術を身に付けたか。だてに再戦を臨んでは居ないわけだ』

 不死王アーバインは微動だにせず、尊大に告げるのだった。

「あったり前だ!まず、テメーをそこから一歩でも動かしてやるぜッ!」

 そう高らかに叫び、トゥセは神速でカードを放つのだった。

 次の瞬間、不死王アーバインの頬をトゥセのカードがかすっていった。

 このカードはそのまま背後の建物を次々と貫通していき、一つの塔に突き刺さり、灰と化して消えていった。

 アーバインの頬からは一筋の血が伝っていた。

『なる程。どうやら、あなどっていたようだな』

流れる血を指ですくい、アーバインはそう口にした。

そして、彼は一歩、大きく前に踏み出すのだった。

 一方、アーゼの格闘技が霊なる巨大な手に炸裂し、アーゼの波動を受け巨大な手は虚空に散っていった。

 さらに、アーゼは華麗に着地を決め、アーバインに拳を向けた。

『ほう、我が霊手をも砕くか。面白い。少しは本気を出せそうだ』

 そう呟き、不死王アーバインは絶対なる守備と攻撃を兼ね備えた《無極の構え》を示すのであった。

 対して、トゥセとアーゼは怖れる事なく、同時に攻撃を仕掛けるのだった。


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