近代的対面
闇夜が後頭部の鈍痛に、ようやく息を吹き返す。
夕方近くだったように思えたが、辺りは妙に暗く、周囲を見回して分かることは、そこが何処かの倉庫のような場所だというくらい。やけに埃とガソリンの匂いが鼻につき、長いこと放置されていた場所だということが容易に想像できた。
椅子に座っていることにまでは気付けたが、ロープで身体ごと締め付けられていたことに少し遅れて気付いたせいで、闇夜は立ち上がろうとするも大して身動きをとれず、ガタンと椅子を鳴らしただけで終えた。
そんな闇に慣れない視界で他に目に付くものといえば、同級生かつクラスメイトの白夜月光の仁王立ちくらいだろうか。
驚きもせず、動揺もすることなく、闇夜が呆けていると月光が言葉を強く刺しこんできた。
「ごきげんよう、闇夜さん」
「ごきげんよう、月光さん」
呂律の十分に回った流暢な言葉を交わし合う。それはあまりにも自然で、不自然だった。
闇夜と月光はお互い初対面から一年と数か月ばかし。これが初めてのコンタクトだった。
月光に至っては、闇夜の声を聞いたのも初めてだったかもしれない。
「ずいぶんと、余裕にすましていますのね」
「余裕に見えるというのなら、あなたがそれだけの余裕を与えてくれた、と解釈していいのかな」
「気味の悪い男」
「鈍器による後頭部殴打、そして拉致監禁。あからさまな傷害罪その他諸々を気負った状態で冷静に話せるあなたも十分気味が悪い、に該当すると思うのだけれど、いかがだろうか」
「思ったより饒舌で驚きましたわ」
「思ったより行動力があってこちらも驚きだよ」
「あなた、ご自分の置かれた状況というのを分かって?」
「そうだな。殴られて拉致られてロープでグルグル巻きという状況なのは分かるよ。最近やった抜き打ちテストで好成績とれなかった腹いせといったところだろうか」
「口を開くたびに憎たらしいのね」
「愛い言葉が聞けると思っているのなら、この状況を分かっていないのはあなただろう」
「そろそろお黙りなさいな」
倉庫の薄闇の中、月光の手の中で何かが音を立てて光る。手の中に収まり、弾けるような音を立てて光るもの。それが護身用のスタンガンだと気付くのは割とすぐだった。
暗がりで見えない表情はおそらく鬼の形相のようだと少なからずとも月光だけはそう思っていたことだろう。
「これからあなたを痛めつけて差し上げますわ」
スタンガンの電圧を上げ、月光は闇夜ににじり寄る。
「痛めつけて、痛めつけて、痛めつけて。私に逆らえないよう調教しますの。さしずめ、あなたは私の下僕となりますのよ」
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