近代的学生

近代的男子

 黒谷くろたに闇夜は、高校二年生になって初めての夏を迎えた。


 とはいっても親しい友人関係を持とうとしない闇夜は小中学生時代から例年に漏れず、気兼ねのない日常を過ごす予定しかなかった。


 そのような要因など明白なもの。年相応にない振る舞いが闇夜との付き合い難さを認識させるのだろう。


 ホームルーム前の賑わいだ空間の一部を切り取ったかのように、まるでそこだけがガラパゴス諸島かのように、闇夜の座る席の周辺だけ知人友人クラスメイトがいない。厳密には、いることにはいるが、背を向けている、あるいは無関心、意識の外という状態だ。


 そんな状態で何をするというわけでもなく、闇夜は鞄から教科書やノートを探り、次の授業、今日の授業の支度、確認を繰り返すばかり。


 談笑が響くこの教室の中においては可笑しい光景だ。


 周囲からしてみてもその異質さは際立っていた。


 大体、闇夜などという名前も実に可笑しい。


 隣の席の女子だって夢見と書いて「ドリーマー」。前の席の男子だって英雄と書いて「ジャスティス」と読ませる気の利いた名前の多いこの環境の中に、闇夜と書いて「やみよ」としか読ませないのだからなんてつまらない名前なのだろうと思われても仕方がない。たまに女の子の名前と勘違いされることもしばしばある。


 しかし、名は体を表すとはよくいったもので、闇夜は文字通り闇夜の如く物静かな気質で、付き合いが少ないものの、周囲から一目置かれる存在ではあった。


 幼少期こそ、手足の生えた漬物石のような扱いだったが、今では動かないガーゴイルのように思う者もいるほどだ。


 学生としての彼は、実に勤勉なもので、素行にも不良と呼ばれる要素など一切見られていないし、学業面で見てもまるでその学校全体の学力を掌握しているかのように平均よりやや上の好成績を残している。


 それでも尚、担任をしたことがある教師からはそれが実力の全てとは思われてはいない。本気を出したら学年と言わず、学校内でも、もっと上の進学校であってもトップ争いしていてもおかしくはないと口頭で言われたくらいだ。


 つまらない名前の上に、生き様までつまらない男だなんて口々に愚痴を漏らすクラスメイトはそう少なくはない。


 何にせよ、黒谷闇夜という生徒は誰とも関わることもなければ、関わろうともしないし、関わりたいと思うような人間もそうはいない、そんな奇特な存在だった。


 だったが、残念なことに、目をつけられてしまった。


 いや、元より一目置かれてはいたのだが、丁度夏前の抜き打ちテストが一つの引き金となっていた。


 別段、その抜き打ちで闇夜は高得点をとったわけでもなく、例の如く平均点よりやや高めだったわけだが、数の神秘というべきか、上と下での差が歴然としていて、実際のところ、平均といいつつも平均点の上限を上げていたのはクラスの優等生の何人か程度で、実際に平均点を取れた生徒は少数派だった。


 その中で平均よりやや上を取ってしまったからこそ、どういう思惑や意図があったのかなかったのか、闇夜は目立ってしまったというわけだ。

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