第3話 通称ボンベイ

金山竜司。

32歳。運動能力と経験値が良い塩梅の、ベテラン賞金稼ぎだ。

金山は、新米の真田遥を助手席に乗せ、後部席には馬場貞人の寝息を聴きながら、ハンドルを握っていた。

立場的には後部席でふんぞり返っているのは、金山のはずだ。しかも車内スピーカーからは、遥の趣味の軽いポップスが流れている。

「おい、新米」

「真田です。何ですか?」

「運転代われよ」

「だから私ペーパードライバーなんですよ」

「慣れろよ」

「公道じゃ無理です。事故っても知りませんよ?」

「くそ。ボンベイは寝てるしよ」

「昨日は娘さんと遅くまでゲームしてたらしいですから」

それを聞いた金山は怪訝そうに遥の方を余所見した。しかし、すぐに合点がいった様に前を向く。

「ああ、なんか最近噂になってたな。娘か。養子貰ったんだっけ」

今ではすっかり事務所の噂だ。あの馬場貞人に子供が出来たという話は、皆が知っている。

「私会いました。可愛い女子高生でしたね。お友達も来てて、一緒に遊んだんですよ」

遥が言うと、今度こそ金山は手を打つが如く納得した。

「ふぅん、なるほど、そういうことか」

「何ですか?」

「察しろよ。ウマい商売だそりゃ」

「商売?」

「わからねぇかなー。新米、お前本当にお嬢さんだな」

「真田です」

3人は車で、郊外の住宅地に入って行く。

農地との境辺りにある、建設業者の資材置き場に車を乗り入れる。

資材置き場は閑散としており、まるで空き地だ。ここが今でも使われているのかは疑問である。

真ん中に、プレハブの管理小屋があった。

「ここか」

金山はサイドブレーキを引いて、車を降りる。

「ねぇー金山さん、何がうまい商売なんですか?」

「しつけぇんだよお前は」

遥も助手席から降りるが、それより先に後部席から、むっくり起き上がった貞人が降りて来た。

「よく寝たか?ボンベイ」

「うん、ありがとう」

欠伸もせずに貞人は答える。

「ここに居るってタレコミがあった」

と、金山は宣うが、貞人は両手をポケットに突っ込んだまま、

「またガセじゃないのか?」

と、今度こそ欠伸をする。

「でも、その台詞は誰か居るフラグですよ」

遥は舌舐めずりする。

「そうとも。9回目の正直よ」

金山は遥とボンベイに言いつつ、管理小屋から目を離さない。

金山は拳銃SIGを抜くと、スライドを少し引いて薬室に弾が入っているか確認し、撃鉄を起こす。

遥もそれを見、ハッとして、自分も拳銃グロックを抜く。

3人は、管理小屋に入ることにする。

遥、金山、貞人の順だ。

最後尾の貞人は、両手をポケットから出しこそしたが、それだけだ。手ぶらで控えている。

「銃は?」

金山が声を潜めて問うても、

「2人も抜いてれば十分だろ」

と、突っ立っている。そして徐ろに、

「俺は裏へ回るよ」

と言って、横手へ回る。

単純な鍵を壊して、遥と金山は中へ。

2人は油断なく互いの死角をカバーし合い、銃口を左右に振り向ける。

しかし、誰も居ない。

ヤニで黄ばんだカーテンの隙間から僅かに射す陽光が、舞い上がった埃を煌めかせ、管理小屋の中の物を薄暗がりの中に浮かび上がらせている。

「空振りか」

「まだ分かりませんよ」

埃のたまった事務机の下や、ゴキブリすら居ない給湯室を覗く。

「居ませんねぇ」

遥が拳銃をホルスターに戻しかけた時、

「おい」

金山が衝立の奥、応接用スペースを銃口で指す。

ビニールのソファーの奥に、クシャクシャになった布がある。よく見れば寝袋だ。

傍にヨーグルトの空の器と、ペットボトルが転がっている。どちらも、この小屋からは浮くほど、新しい。

「居る」

「または、居た」

たまたま留守なのだとしたら、直様車に取って返して、張り込むのが良い。

それならば、早い方が良いだろう。

「車に戻るぞ」

2人が外へ出たところで、道の向こうから、痩せた男がシャツコートともガウンともつかないボロを着て、スーパーの袋を下げて歩いて来た。

「あ」

遥が慌てて上着の裾を跳ね上げて拳銃を抜く。

金山は、落ち着いてそれを手で制し、

「花木さんですか?」

と、男に問うた。

男は、俯いた顔を上げ、少し驚いた様子は見せたものの、そのまま2人の方へと歩いて来た。

「はい、そうです」

花木と呼ばれた男は、木瓜っとした馬面で、無精髭とクシャクシャの髪には、いかにも逃亡者といった趣がある。

「良かった。探していたんですよ」

「保釈金協会の方ですか?」

「はい、保釈金協会代理で、ニコマル金融の金山と、真田です」

「なるほど。いやぁ、見つかっちゃいましたか」

金山と花木の、何とも間延びしたやり取りに、遥の構えた拳銃の銃口が思わず下がりそうになってしまう。

花木は長い逃亡ですっかりやつれ、目が落ち窪んでいる。こんな生活をしているくらいなら、刑務所に入るのとどちらがマシか考えたくもなるというものだ。

「さあ。行こうか」

「荷物を、取って来ていいですか?」

花木はオドオドと問う。痩せた男が背中を丸めると、ここまで惨めな姿になるものか。

「ダメだ。だが、こいつに取りに行かせる」

金山が答え、遥をまさに顎で使う。

「おい」

「はーい」

遥が拳銃を下ろし、またホルスターに仕舞うかと思った時、遥は管理小屋の方へ向きかけ、その視界の端で、見た。

金山が懐に手を突っ込んで、ショルダーホルスターから拳銃を抜くのを。

晴天に耳を劈く銃声。

花木が土煙を上げて、転がった。

砂袋の様な、無機質な転がり方からして、倒れる前に絶命していただろう。

「危ねぇ」

金山は、倒れ伏した花木に拳銃を向け、ジリジリと近寄る。遥は、花木の側に落ちている38口径の回転式拳銃を認めて初めて、何が起きたのか理解した。

花木が、隠し持った拳銃を抜いたのだ。

金山はそれに即座に対応した、というわけだ。

金山は、花木の拳銃を遥の方へ蹴って、花木の腹を軽く蹴る。反応は無い。

「やたらと銃を抜くのは良くないが、それでも油断しねぇこった」

金山は拳銃を胸の前で構えたまま、屈んで花木の脈を取る。

「こういうことがあるからな」

「はい」

遥は、もし自分が金山の立ち位置に居たら撃たれていたかも知れないと考え、身震いする。

乾いた地面にトロトロと這う花木の血の色の黒いこと。

「どした?」

裏からひょっこり貞人がやって来た。

「居たが、抜いたんで、撃った」

金山が簡潔に言う。

「そうか」

「サツを呼ぶかね」

「だな」

携帯端末で警察を呼び、待つことになった。

「裏で何してたんだ?」

タバコを咥えた金山が、貞人に問う。

「裏から逃げられない様にそっちに居たんだよ。忘れるな」

「それにしても、話し声がしたらこっち来るだろ、普通」

「いや、大きな猫が居たから」

金山のタバコの灰がポロリと落ちる。

「ねこぉ?」

そこで遥が、

「マジですか?裏に?」

と、猫に食いついた。

「猫だ。銃声で逃げたが」

「なんだー」

「太った三毛でな」

「カワイイーっ。見たかったなぁ」

2人がやおら猫の話題で盛り上がってしまう。

「お前らな、女学生じゃねェんだぞ!」

金山がタバコを地面で踏みにじりながら、眉間の皺を深くする。

「怒るなよ」

「そうですよ」

2人は唇を「ε」の字に尖らせる。

「まったくバカタレどもが」

昼間だが焼酎を煽りたくなる気持ちがした金山は、もう1本タバコを咥えて火を点けた。


「私は犬派かな」

信田千香子は主張する。

「犬は忠義があるじゃない?そこが好き」

女子高生の休み時間の会話としては、実にテンプレートな話題だ。

「りのちゃんは?」

「そ、そんなこと話してる余裕無いっ」

しかし、今は休み時間ではなかった。

放課後の部活動の最中である。

今日はプールが借りられない日なので、ダンス室の端で筋トレに励む水泳部の面々。

体幹を鍛える為に、右掌と左爪先だけでプッシュアップの姿勢をとっている。左腕と右脚はピンと伸ばし、その姿勢で、残り45秒を耐えねばならない。

多々良莉乃と信田千香子は、互いに励まし合いながら、全身を襲う痛みに顔を歪ませ、汗を床に垂らしている。

「りのちゃんは、猫派?」

「わかったよ、猫でいいっ!」

「猫の、どこが、好き?」

「うるせー!」

「余裕無いなぁ」

千香子も歯を食いしばっているが、顔に笑みを絶やさない。

「楽しま、ないと、ね」

「無理無理っ」

「ハスミンは、2セットで、ヘバっちゃったし」

2人の横には、汗塗れになった鈴木蓮水の亡骸が横たわっている。何とか息はしている様だが、脹脛が痙攣している。。

キャプテンの残り時間のカウントが、聞こえてからが長い。この手のトレーニングにはよくあることだ。

体幹トレーニングをそのまま5セットこなし、最後にエアロビクスを30分やり、今日の筋力トレーニングは終わりとなった。

エアロビクスは侮れない。彼女らの肉体を容赦無く破壊する筋力トレーニングの、最強のラスボスとして待ち受けるのが、エアロビクスだ。

千香子、莉乃、蓮水の3人は、ゾンビの様に学校を後にする。

「筋トレだけは好きになれないなー」

莉乃は二の腕を揉みながら、そう漏らす。

「だねー」

千香子は一緒に莉乃の二の腕を揉む。

「やめれ」

「ケチ」

「信田さん、私の二の腕を揉んでも良いよ?」

蓮水が遠山の金さんばりに腕捲りするも、

「ハスミン細いから揉み甲斐が無いんだよね」

と一蹴されてしまう。

蓮水の涙が夕焼けに煌めくのを横目に、千香子は、

「でも、今日も鍛えたねっ。れべるあっぷ!」

と、晴れ晴れとした顔でシャドーボクシングする。

「ちかちーはタフだな。細っこいくせに」

「気の持ちようだよー。辛いことは無視するに限るっ」

「痛いのは無視できないって」

「できるよ。コツがあるの」

「コツ?」

「うん、自分の体だと思わないようにするんだよ」

「なにそれ?どういうこと?」

「痛いところを、自分の体だと思わないようにするの。自分の体じゃないって」

「サッパリわからん」

莉乃は片眉を吊り上げる。

「自己暗示、みたいなもの?」

と蓮水。

「そうかな。そうかも」

千香子は笑って答える。

莉乃と蓮水の頭を掠めたのは、まず千香子は変わり者だという感想だが、千香子のこれまでの境遇を考えると、何とも言えない気持ちになる。

自らを客観視出来なければ乗り切れない辛さというものがあるのだ。

自分達と変わらない子供であるにも関わらず、千香子という娘の強さの片鱗を垣間見た気がした。

「自己暗示が通じないくらい痛い時は?」

莉乃が問う。

「その時は、泣いちゃうかな」

答えた千香子の笑みが陰ったのは、背負った夕陽のせいだろうか。

その後、莉乃と蓮水の提案でマクドナルドに寄ることになった千香子は、遠慮しているのにハッピーセットを無理矢理2人から奢られて、大いに困った。

だが、2人からのそこはかとない労りを感じ、2人から口に詰め込まれるポテトも苦にならなかった。

普通はこんな放課後ハイライトがあると、帰宅後の夕飯が進まないなどということがあるが、千香子には心配無用である。

貞人の作った、肉野菜炒めと油揚げの味噌汁も、一度も口が留守にならない勢いで食べる。

「学校はどうだった?」

貞人はいつも、この切り出し方だ。

「今日は筋トレの日だったから疲れたよー」

筋トレの後は無限に腹が減る。だから、マクドナルドの後でもこれだけ食べられる。

「そうか」

「にいちゃんは?」

貞人は、タレを滴らせたホエー豚とキャベツを箸で摘まんだまま少し考え、

「んー。大きな猫を見たよ」

と答えた。

「へぇー。どんなだった?」

「よく肥えた三毛でな」

「可愛い。モフモフしたい」

「猫が好きか?」

「好きだけど、どちらかと言うと、犬派」

「そうか」

「にいちゃんは?猫派?」

「どっちも好きだよ」

「それなし。どっちか」

「うぅむ」

貞人はまた箸が止まる。いい歳なのに舐り箸で思案している様子はなかなかに可愛い、と千香子は思った。

「犬と猫、両方が崖から落ちそうになってたら、どっちを助ける?」

と意地悪なことを訊いてみる。

「両方は助けられないわけか?」

「うん、どっちか」

「と言うか、それは犬派と猫派関係無いんじゃないか?」

「細かいこと言ってないで。ほら、2匹が落ちかけてるよ。どっちを助ける?」

「何とも残酷だな」

「どっち?」

「逆に、千香子は猫を見捨てるのか?その状況で」

「うん、犬を助ける」

「猫が可哀想だろ」

「猫は大丈夫。あいつら身軽だから、自分で着地できるし」

「何だよそれ。ズルいな」

「猫は強いの。一人で平気ってタイプ」

「そうかも知れんが」

「こっちのことなんか忘れて、勝手にどっかほっつき歩いて、不意に戻って来てさ。普段冷たいクセに、たまに戯れてくるのが可愛いくて。猫ってヤダヤダ」

千香子の言葉には何処かトゲがある。

「何だよ」

「なにが?」

「いや、何でもない」

千香子の言いたいことは、何となく解る。

「猫も、色々あるんだよ」

と、貞人は擁護する。

「そうかもね」

千香子はこの会話を面白がっている様だ。お椀に残った米粒を綺麗に啄み、

「まあ、猫も、好きかな」

と笑った。


真田遥は、いつもの様に朝一番で出勤すると、タンブラーにコーヒーの粉を入れて給湯室へ向かう。

朝に飲む一杯のコーヒーは、遥のガソリンだ。

給湯室で思わぬ人物と出会った。換気扇が回っている音がしていたので、誰か居るとは思ったが、

「まさか馬場さんだとは」

と驚く。

馬場貞人は換気扇の下で煙草を吸っていた。

「ざぃまァす」

「おはよう」

「今日、早いですね」

「たまにはな」

壁には禁煙のマーク。

「煙草、吸うんですね」

「たまにな」

「社長に怒られますよ?」

イザドラ大社長は愛煙家のくせに、社内禁煙を掲げている。非常階段と社長室は別だが。

「怒られるのは、いつものことだよ」

貞人は深々と濃い煙を吸い、吐く。遥は煙草を吸わないが、貞人が吸う煙草は実に美味そうだ。

遥はタンブラーに湯を注ぐ。

「いつもスーツですよね」

「そう」

「どうしてです?みんなみたいに動きやすい格好の方がいいんじゃ」

皆大体、ザックリしたデニムパンツとブルゾンだ。隠し持った拳銃の存在を悟られない服装である。オシャレではないが、実用的なファッションと言えよう。

「真っ当に見えるからな」

「なるほど。都市迷彩ってわけですね。あ、いえ、馬場さんがまともじゃないって言ってるわけじゃなくて」

「どうかな。真面な人間ではないかも」

馬場は灰皿替わりのグラスに灰を落とす。グラスの水で灰がジュっと音を立てる。

「私も、そうかも知れません」

「そうかい」

「笑われるかも知れませんけど、私、銃が撃ちたくて、この世界に入りました」

「軍人でも警官でも、撃てるだろう」

「あー、実は私、警官崩れなんですよね。でもまぁ、こっちの方が撃つ機会が多そうだなーと」

「それは、確かに」

「ええ」

沈黙。貞人は短くなった煙草を、惜しそうに最後まで吸う。

「人を撃つのは気分が良いか?」

鼻から煙を吐きながら、問う。

「正直、良いです。相手は悪者ですしね」

「そう」

「異常ですかね?」

「ここでは、違うだろう。それに……」

「それに?」

「サイコパスは目的の為に殺す。殺しはあくまで手段に過ぎない」

「へえー」

「デーヴ・グロスマンの著書の中に、『戦争中毒』の話がある。戦闘中のドーパミンの分泌で、戦闘酔いを起こすことはよくある話だそうだ。それは普通のことだよ」

「所謂コンバット・ハイですね」

「そう」

「人殺しを快楽と感じることが、正常なんですか?」

「正常だよ」

「逆に人殺しを何とも思わない人間こそ、異常だと?」

「人を人と思ってない奴。そうだな」

「馬場さんは?」

「俺か」

「人を撃ったりするの好きですか?」

「撃たずに済むのが一番かな」

「そうですか」

「ただ、殺したい奴は、いるな」

「え?」

「いや、何でもない」

貞人は煙草をグラスに落として、火を消す。

「馬場さん、何故この仕事を?」

貞人は灰と吸殻の混じった水を三角コーナーに捨てる。

「こういうことしか、やってこなかったから」

軽く濯いだ灰皿代わりのグラスで、そのまま水道水を飲む貞人。

遥は少しギョッとする。

「コーヒー冷めるぞ」

グラスを軽く洗った貞人は、濡れた手を拭きもせず、ポケットに突っ込んで、行ってしまった。

遥はコーヒーを啜りつつ、馬場貞人という男について考えた。

背広こそ着ているものの、かなり粗野な男らしい。どういう所で過ごすと、灰皿替わりのコップで水が飲めるのか。

妙な男だった。


昼休み。

クラスメイトと弁当を食べていた千香子は、食べる前に手を合わせて「いただきます」と言うことを友人に突っ込まれて、驚いた。

食べる前には「いただきます」は、普通だ。

そう千香子は思ってきた。わざわざ思うことすら無かった。当たり前のことだからだ。

「言わないの?」

「言わないわけじゃないけど、自由に食べていい時は、言ってないこと多いかなぁ」

確かに、周りの子を見回してみても、弁当や菓子パンを食べる前に唱えている者は居ない。

不思議なものだ。小学校や中学校、施設では当たり前のことだったのに。

「私が変なのかなぁ?」

「いや、それは言うべきことだから、いいんだよ」

そう言ってくれる友人も、そう言いながらも「いただきます」していない。

「あとさ」

別の友人が切り出す。

「千香子ちゃんって、プリンのフタ開ける時、『コンニチワー』って言うよね。プリンに向かって、ちっちゃい声で」

と笑う。

「あれ可愛いっ」

「わかるーっ」

友人らが囃し立てる。

千香子は恥ずかしくなって、弁当の残りを男子ばりに掻き込んで、ペットボトルのアイスティーをグビグビ飲む。

ふとした時に性格というのは出るもので、千香子にとって食事というのは、それだけ魂が躍る物なのだ。

そうでなくても「いただきます」は言って然るべきものだろう。と、千香子は思う。

食べ物があるということは有難いことなのだ。

友人らの様子に、どうも小首を傾げる千香子であった。

「ってことがあってさ」

と、放課後、市民プールの更衣室で、千香子は多々良莉乃と鈴木蓮水にボヤく。

莉乃と蓮水は、うんうん、と聞いていたが、途中、「あれ?」という顔をした。

莉乃は、

「んー、でも確かに、弁当食べる時、『いただきます』言ってるかと考えると、自信が無いな」

と、意外に小さいブラジャーを外しつつ、眉根に皺を寄せる。

「多々良さんは大丈夫。大きな声で言ってる。毎日隣の教室まで聞こえて来るから」

蓮水は、意外に大きいブラジャーを外しつつ、教えてやる。

「言ってる?良かったー」

「でも私は本当に怪しいかも。クラスでは一人で食べてるし」

莉乃と蓮水は2人して、うんうん考え込む。

「いや、別に人それぞれだから良いんだけどさ、なんか気になって」

と、千香子は2人より神妙な顔で、大きくも小さくもないブラジャーを外す。

「そういや、ちかちー、ピザが届いた時に、『イラッシャイマセー』って言ってたよな。ピザに向かって」

莉乃が手を打つ。

「あれは可愛かったよな」

「確かに、あれには悶絶しました」

蓮水はウットリしながら同意する。

「え?うそ?そんなこと言った?」

千香子は、またも赤面する。

「ちかちーの良いところだと思うけどね。何に対しても素直なところは」

莉乃はフォローするでもなく、そう漏らす。水着の裾を引っ張って直し、胸の位置も直す。

「私もそう思う」

蓮水も頷く。

「うーむ」

と唸る千香子は、2人から遅れて更衣室を出る。

「はーい、じゃあまず500流してー」

キャプテンの指示で、体操からウォームアップへ。

千香子は泳ぎつつ、自問した。

私は変わっているのだろうか?

泳ぎで言うなら、千香子の得意とする泳ぎはバタフライだ。そう速いわけではないが、100mは自由形と同じタイムが出せる。

脚の強い莉乃は平泳ぎが得意だが、彼女からは「バタフライだけ異様に速いよなー、ちかちーは」と、褒めたのか何なのか分からない褒め方をされたものだ。

確かに、バタフライが得意な選手というのは多くない。大体が自由形か平泳ぎだ。

バタフライだってコツさえつかめば簡単なのに。水面に出た両手を、水面ギリギリで前方へ持って行き、水を切る様に入水して、後は水を掴んで思い切り押す。それだけだ。

人と違うことを悪いことだとは思わないが、それでも人から変わってると指摘されると妙な気持ちがする。

人によっては、それを誇らしく思うこともあるだろう。

しかし、千香子はそれをどう受け取って良いか分からない。

何しろ初めて言われたのだ。


「にぃちゃん」

「うん?」

「私って、変わってる?」

夕飯の席で、オリーブオイルを塗した焼き茄子のサラダをボウルごと食べていた千香子が、不意に顔を上げた。このサラダを千香子は気に入っており、よくリクエストするのだが、いつもおかわりを要求して来る為、今日はホーローのボウルごと出してやったのだ。

「変わってる、かもな」

「えー?にぃちゃんまでそんなこと言う」

唇を尖らせたかと思ったら、ボウルを抱えたまま、傍の皿のミートローフを口に運ぶ千香子。

貞人のミートローフは豚の挽肉に豆腐を混ぜたヘルシーな物。

しかし、決め手は牛脂で作ったグレイビーソースだ。これが美味い。

せっかくヘルシーに作ったミートローフも、千香子はこのソースを鬼の様にかけるので、ヘルシーな意味が無い。

「美味しー!」

「変わってるって言われたのか?」

「え?あ、うん。そう」

「誰に?」

「んー、みんな、かな。色んな人に、色んなことを、色んなタイミングで、言われた」

千香子がイジメられているわけではないと知って、貞人は内心で胸を撫で下ろしたが、箸が止まってしまう。

「何を言われたか知らんが、誰でも変わった所はある。気にするな」

「にぃちゃんにも、あるの?変わったところ」

「あると言われてる」

「誰に?」

「みんなだ」

「普通に見えるけどなぁ。いっつもスーツだし。休みの日は無地のTシャツとジーパンだし」

「服装は関係無い」

「どんな所が変わってるの?」

「言うほどのことじゃない」

「私も言うから。私の変わってるところ」

「ほう」

千香子は、食べ物に関する自分のあれこれを語った。語り終わる頃にはボウルのサラダは空になっていた。

「なるほどな」

「変わってるかな?」

「今まで食べたもので、一番不味かったのは何だ?」

「え?何だろ。腐ったおでんかな」

「腐ってたのか」

「いけるかなーと思ったんだけど、ダメだった。臭くてさ」

「腹壊すぞ」

「一晩、お腹痛くてのたうち回ったよ」

「でも、臭くても食べた。それくらい腹が減ってたんだろ?」

「うん」

「そういう思いをしてるんだ。食べ物に感謝していい。当然だ」

「そっか」

「うん」

「にぃちゃんが食べたもので、一番不味かったのは?」

「思い出したくもないね」

「なになにー?」

「バッタとコオロギ。あとは、サワガニかな」

「うげっ。何それ。食べ物じゃないよ」

「本当にな」

「にぃちゃんも、食べ物に感謝してる?」

「してる。だが、自分で作る。基本的に」

「なんで?」

「人様の世話になりたくないんだ」

「何それ」

「俺はそうしなきゃいけないんだよ」

「よく分かんない」

「分からなくて良い」

「それが、にぃちゃんの変わってるところ?」

「そうだな」

「変なのー」

「人から見ればそうでも、自分の中にキチンとロジックがあれば良い」

「つまり?」

「変なら変なりの根拠があれば良い。それを自分で知っていることが大事だ」

「変なりの、根拠かぁ」


金山竜司は自分の上司に管を巻いていた。

「変ですよ、ボンベイってヤツは」

「ああ、変わってるよな」

応えているのは社長のイザドラ・ハッチェンだ。

居酒屋の座敷で、ホッケを肴に大吟醸をやっているところだった。

居酒屋の大将は、店と一緒にこの土地に根を張っている昭和人で、祖父の代から居酒屋稼業をやっている。今時、酒を出す店でレジの横に銃を隠していないというのは、珍しい。

「猫だぜ、猫」

「動物好きだからな、あいつ」

「どうなってんすか」

「昔からそうだ。敵のゲリラに追われてる最中、通りがかった川岸に居たマレーバクを観察してたこともある」

「変わってるなぁ」

二人の話をずっと聞いていた真田遥は、水っぽくなったカシスオレンジを啜りつつ、

「金山さん」

と切り出した。

「ウマい商売、ってどういうことですか?」

「あ?」

「この前言ってたじゃないですかー。ボンベイさん、馬場さんの娘さんの話をした時。それを聞いた金山さん、『ウマい商売』だって」

金山は酒で覚束ない頭で思考を巡らせ、

「ああ、言ったな」

と手を打った。

「どういう意味ですか?」

「その子の友達も居たってんで、閃いたんだよ」

と金山が言うと、イザドラもわけ知り顔で、

「私も、思ったな。それ」

と呟いて杯を干した。

2人は顔を見合わせ、頷き合う。

「売春の斡旋だろ?」

「ええ」

と二人。

遥はカシオレを噴きそうになった。

「ええーっ⁉︎何ですかそれ!」

イザドラが答えて曰く、

「いや、あいつがガキを養うなんて理由があるとしか思えん」

金山曰く、

「しかも女子高生だろ。商売以外に理由が無い」

児童売春組織の元締め。それが馬場貞人の正体だと言う。いや、この場合は副業としてやっているのだろうか。

遥はマドラーで2人をビシッと指しながら、

「でも!仲良さそうでしたよ!」

と指摘する。

「そりゃ仲はそれなりに良いだろうよ」

と、金山は吐き捨てる。

聞いていたイザドラは徐ろに箸を取る。

「私は密かに引き取った経緯を聞いたが、どうも俄には信じられん」

イザドラはホッケを啄ばんで、日本酒を干す。

「どんな経緯ですか?」

「それはこの場じゃ言えんが、兎も角、立派なストーリーはあるらしい」

ホッケの骨を舌で唇から押し出して摘む。そいつを取り皿の上に並べる。

「ほら、やっぱり事情があるんですよ」

「事情はわかるが、感情がわからんね。あいつが子供好きとは思えん。むしろ嫌ってると言って良い」

「そうなんですか?」

「うん。そういう奴がどうして子供を育てたがるんだ?私にはわからんね」

「社長は、子供欲しくないんですか?」

「何で私の話になるんだよ」

「俺も聞きてぇな」

金山が身を乗り出す。

「そもそも社長、結婚はまだっすか?」

「うるせぇぞ金山。お前だって独身だろ」

遥が残ったカシオレを干して、

「てか、彼氏居ないんですか?」

と、問うた。

5年前のイザドラなら遥の前歯を叩き折り、ケツにこの一升瓶を突っ込んでやるところだが、何しろイザドラももうじき三十路。怒りの発露は、頬を少し引きつらせるだけで済んだ。

「オメェをカノジョにしてやろーか?」

こういう冗談で済ませる度量を身につけられた、この大社長。

「うわ、社長、そっちなんですか?」

「マジな話、私はバイだ」

「両刀!カッコいい!」

燥ぐ遥を無視して、イザドラは一升瓶から一合升の中のコップに酒を注ぐ。

「こんな仕事してるこんな私だけどな、子供は欲しいと思うんだ」

金山と遥は意外そうに、と言うか、余りにも想定外の返答に、硬直した。

「本当ですか?社長」

と神妙な顔の遥。

「それでもコールド・ブラッドと呼ばれた殺し屋かよ」

と金山。

「こう見えて私は子供好きなんだぞ。5人姉弟の長女だったから、子供の面倒を見るのは嫌いじゃないしな」

「5人姉弟、だった?」

「色々あって家族とは10年ほど会ってない。連絡も、もう取ってないしな」

「深くは聞かないでおきます」

「俺も家族とは会ってねぇな」

イザドラや金山ですら、こういう過去がある。

ボンベイという男は、どうだろうか。と、遥は思う。

周りからここまで悪し様に言われる、あの男。

いつも暗い色のスーツ姿で、中肉中背。

どう見ても普通の男だが、あれが人殺しの顔だろうか。

的確な仕事をする職人か、自らの記録に挑み続ける運動選手の様に見える。眼鏡をかけさせれば、博覧強記の文豪に見えなくもない。

そういう意味では並の人間ではないかも知れないが、少なくとも奸悪なる鉄砲撃ちには見えない。

いたいけな子供に売春をさせて、稼ぎを掠め取っている様にも見えないし、どちらかと言うと塾の先生然とした容姿だ。

馬場貞人は、正体の見えない人物である。

「馬場さん、殺したい人が居るらしいですよ」

遥は給湯室でのことを、2人に語った。

「そりゃ誰だって殺したい野郎の1人や2人は居るだろうよ」

とイザドラ。

「その通りだ。社長なんて10本の指じゃ足りんぜ」

と金山。

「そんなもんですかね」

遥はどうも腑に落ちない。

あの時の馬場の顔は、誰かが憎いとか、恨んでいるとか、そういう感情の発露とは思えなかった。

何処か、行くべき所に行こうとしている男の顔だ。

何か、やるべきことがある。そんな顔だ。

遥にはあるか?やるべきことが。

「すみませんっ、カシオレ下さいっ」

タダ酒は飲まねば損というものである。


その週、遥は何件か案件を受け持っていたが、そのうちの一件が動いた。

ある捕縛対象が、馴染みの店に現れたという報せを受け、現場に急行した。午後20時を回っていた。

繁華街の片隅にある飲み屋。

雑居ビルの一階にある大衆居酒屋で、何組かの客が酒を飲み交わしている。まだ混んでいない時間帯だ。

遥の他に、郷崎と金山が車で見張り、他部署からの応援で戸部という男が加わっていた。

戸部は松山オフィスの所属で、たまたまこちらに来ていたので参画してくれている。

常に苦虫を噛んだ様な顔つきをした中年で、白髪が混じり始めた頭を染めもせず、草臥れたバーバリーのコートを羽織っている。先の戦争にも何らかの形で関わっていたのは、その風格からも窺い知れる。よく見ると首に傷跡があり、白兵戦の経験があることが分かる。

只者ではない。

戸部に対して郷崎と金山がキッチリと敬語を使っていたことからも、そういう男なのだろう。

初対面だが、正直ちょっとカッコいいかも、と思う遥であった。

戸部は店内で一人、カウンターで飲みながら、捕縛対象を見張っている。

捕縛対象はまだ若者で、名を斎藤と言った。今時の遊び慣れた人間ならではの風体をしており、似たり寄ったりの格好をした仲間達と騒いでいる。男が4人。そういう輩と好んで寝たがる、露出の高いファッションをしたオンナも2人ばかり居る。

強盗をやって捕まり、保釈金を借りてそのまま逃亡。こういう斎藤の様な連中が居るから、この商売はいつも潤っている。

ありがたいことだ。

しかし、ここで捕物を演じては怪我人が出てしまうかも知れないので、飲み会がバラけたら対象の後をつけて、人気の無い所、またはヤサを突き止めてから、御用、という寸法だ。

ちなみに、貞人も来ているのだが、例によって裏口を見張っている。どんな時でも裏口を固めるのは基本だ。

貞人は路地裏で酔っ払いに扮して座り込み、水の入ったワンカップを手に、じっと控えている。

裏路地でボーっと立っているのは、逆に目立つ。こうした繁華街では、酔っ払いのふりが良い。

酔っ払いを狙った物盗り、通称マグロ狩りに遭っても良い様に、念の為、財布とピストルは近くの空のビール樽の山の中に隠してある。

さて、遥の腕時計が23時を回ろうかという頃、対象である斎藤と一行が動いた。

会計をして店を出、店の前で梯子酒の相談を始めた。

『カラオケかスナックかという話をしている』

と、戸部のヤニで嗄れた声が、無線から聴こえてくる。

遥、金山、郷崎の3人は、車の中で額を突き合わせ、役割を分担する。

尾行に効果的な人数は、7人と言われる。頭数が足りないが、やるしか無い。

貞人にも連絡するも、貞人は意外な回答を寄越した。

『時間がかかり過ぎだ。ここで押さえよう』

23時近くとは言え、繁華街なのでまだ人通りがある。ここで捕物をやるにはリスクが高い。

「無茶言うな。予定通り後をつけてから、タイミングを見てからでも良いだろう」

郷崎が無線に向かって言う。

『俺に任せろ。俺が角から出て来たら、エンジンをかけといてくれ。戸部さんも外へ。車の側から援護して欲しい』

貞人の声はあくまで冷静だ。

『了解』

戸部の返答。こうなれば貞人に従うしか無い。

誰が指揮官というわけではない。状況に臨機応変に対応する。

斎藤らが移動を始めるかと言う時に、角から貞人が姿を現した。

まだ酔っ払いに扮しており、千鳥足で、斎藤ら6人の輪の中へノロノロと歩み寄る。

やおら、貞人はゲエっと吐瀉した。

斎藤の横に居た女のヒールに、ゲロが飛び散る。

「おい!汚ねぇな!」

と叫んだのは女だ。

男らも怒鳴る。もう1人の女は、ウケるウケると可笑しそうに笑っている。

斎藤をはじめとする男らが、有無を言わせず貞人を囲もうとした時、貞人が弾かれた様に飛びかかった。

近くに居た男の鼻柱に右の拳を叩き込む。

右足で踏み込み、その足が着地する直前に繰り出される、全体重が乗った高速の右拳。

空手では、刻み突きと呼ばれるパンチだ。

横から見ていた遥は、その軌道に鎌首をもたげたコブラが獲物に噛みつく動きを想起させた。

そのコブラが牙から毒を噴いたり踊ったりする暇が有るか無しかという間に、男らの内3人が倒れた。

遥からはよく見えなかったが、同じ様に鋭いパンチないしはキックが、男らの痛い所にぶち込まれたに違いない。

もしかしたら貞人の初手を見てビビり、ものの2秒で土下座したとも考えられるが、そこまで利口そうにも見えない。

第一あんなに血反吐を吐いているのは、貞人の拳足がヒットしたからだろう。

残った男と斎藤が、貞人の速さに驚きつつも身構えようとした時、横合いから戸部が警棒で殴りかかった。その後ろには車から飛び出して来た郷崎が続く。2人が手にした警棒は金属製の折り畳みバトンで、グリップの尻にガラスブレイカーが付いた警察官仕様だ。

その間、女1人が果敢にも貞人にバッグで殴りかかったが(ヒールを汚されたのが余程ムカついたのだろう)、かわいそうにも貞人の拳で前歯を2本ほど失うことになった。

前歯が落ちたゲロ溜まりに、その女が顔から倒れたところで、残った女1人は走り去った。

斎藤の逃亡を幇助した罪に問えるかも知れないが、面倒なので追う者は居なかった。

あっという間に皆んな平らになり、「マル犯、シンカク」と車中の無線から貞人の声が聴こえた。

マル犯とは犯人のことを指し、シンカクは身確。身柄確保のことで、何れも警察無線用語だ。

犯人を捕まえた、という意味だが、それは見ていれば分かったし、見逃すはずも無い。

遥には銃を使わない捕物は新鮮であったが、これはなかなか真似できない。

遥は運転席でハンドルを握ったまま、エンジン音を聴いていた。

あっという間に人集りも霧消し、車から金山が降りた。

男らを俯せにさせて、後手にナイロンカフをかけている郷崎と戸部を手伝うのかと思ったが、ワンカップの瓶に入った水で口を濯ぐ貞人に詰め寄った。

「結果的には良かったけどよ、何でこんな所でやることにしたんだ?」

金山は穏やかな口調に努めている様だが、いつも悪いその目つきが、より悪くなっていた。

「家庭の事情で、24時までに帰りたかったんだ。すまん」

貞人は左手にしたサブマリーナーで時間を確認する。

「娘か」

「うん」

「その為に他人の命を危険に晒したのかよ」

「俺に言わせりゃ、いつでもどこでも、危険はある」

「詭弁だな」

「金山」

「何だ」

「お前、人を殺す資格があるのか?」

「何だよそれ」

「生殺与奪の権利が、お前にはあるのか?」

「しらねぇよ」

「……」

「意味がわからん。お前のワガママとどう関係があるんだよ?」

「ワガママ?」

「お前が早く帰りたいばかりに、周りを危険に晒したことだよ」

「上手くやったろう」

「たまたまだろ」

金山が言い終わる前に、大きな鉄板が倒れる様な音が鳴り響いた。

銃声だ。

一瞬前、貞人が背広の裾を跳ね上げ、後腰にクロスドローに差した回転式拳銃を抜いていた。

腰を落とし、捻り、手首を返す。最小の動きでのファスト・ドロウ。

回転式拳銃の利点は、操作がダイレクトに反映されること。熟練者ならば、撃つと決めた時に撃てる、最速の飛び道具だ。

しかも、貞人の回転式拳銃は.357マグナムを装填している。初速も、かなり速い。

最速で相手をあの世に送る、特急拳銃。

発射時のコントロールは難しいが、貞人は射撃の名手だ。

地面にうつ伏せになった斎藤の顔が、スイカを落とした様にくしゃりと割れて、鼻から蛇口を捻った様に血が流れ出して来た。

仲間らが声を挙げるより早く、貞人は左手で左脇のショルダーホルスターからもう一丁の回転式拳銃を抜いて、斎藤の仲間達に発砲した。

右手の回転式拳銃は3インチ銃身、左手は4インチ銃身。鋭い音を立てて、無抵抗の若者達を次々に射殺してしまった。

足元で昏倒している女は残したが、クルリと手の上で回った回転式拳銃がストンストンとそれぞれのホルスターに戻った瞬間、ふと思い出した様に、右手でまた左脇の4インチをゆっくりと抜き、足元に向けて発射する。

足元の女も派手な肉になった。

遥はガンマニアなので、銃を一瞬見れば判別出来るが、ここでようやくその回転式拳銃の姿を見ることが出来た。

コルトパイソンという、昔のニューヨークマフィアが使った拳銃かと思ったが、違った。ドイツ製の何某か言う珍しいリボルバーピストルだった。

命中精度は高いが、造りが精巧過ぎて、あまり多く撃つと熱膨張で動かなくなるという話を聞いたことがある。

だが、貞人ならば6発以上撃つことは無いだろう。殺傷力も高い為、6人までならリロードしなくてもお釣りが出るに違いない。

女が顔を突っ込んでいるゲロ溜まりが、血溜まりになっていくのを跨ぎながら、貞人はその4インチを懐に収める。札束でもしまう様に満足気だ。

「何やってんだテメェ!」

金山の声が大きくなっていたのは、怒りというよりも、銃声がした途端に撃たれたのは自分かと思い身構えてしまったことに対する羞恥と、次の瞬間に訪れた安堵で、興奮していたからだ。

通行人が銃声に凍りつき、または逃げ出し、通りから人気が無くなった。道沿いの店から顔を覗かせる人々も居るが、貞人達を認めるとすぐに顔を引っ込めた。

警察がまだ居ない現場に近づいてはいけない。

まだどんな弾が飛んで来るか分からない。

「頭おかしいんじゃねぇのか?」

金山は貞人を罵倒してはいるが、声のトーンが落ちている。貞人がまた拳銃を抜くとしたら、今度こそ撃たれるのは金山かも知れない。

「あーあ、せっかく生け捕りにしたのによ」

とボヤくのは戸部だ。

「あ、靴に血が付いた」

とトウを拭う郷崎。2人とも冷静だ。

触らぬ神に祟りなしといったところだろう。

「なんで撃った?どうすんだよ、この始末」

と金山は貞人に正対したまま、問う。

すると、貞人は左の腰に手を伸ばした。

拳銃ではない。手錠でも、ナイフでも、財布でもない。

取り出したのは、手榴弾だった。

RGD-5。

音や光を出す、非殺傷グレネードではない。

金属の破片を撒き散らすタイプのものだ。

金山も昔嫌という程見たし、触った物だ。それに命を脅かされたこともある。

極東戦争期には日本にも大量に密輸され、出回った品だ。

炸裂すれば、半径10メートル以内の人間は無事では済まない。

貞人は徐に、ピンを抜いた。

レバーは握っているので、まだ危険は無いが、手を離せばものの3秒で爆発する。

郷崎が拳銃を抜こうとするのを、戸部が制する。

金山は背後のその様子を見ることも出来ず、ただ、自分の拳銃の重みを感じていた。これを抜けば、どうなるか。貞人の真意は何か。

金山が脂汗をかいていると、

「俺のことをポン引き呼ばわりするのは、構わん」

と、まるでタバコの箱の様な手軽さで手榴弾を持った貞人が、言った。

「……」

「けどな、あの子のことを娼婦呼ばわりするのは、許せん」

千香子のことであることは、すぐに分かった。

金山が千香子を養い始めた貞人のことを「ウマい商売」だと評した件だ。

それが、貞人の耳に入っていたのだ。

いつ、入ったのか。

先日の、車の中だ。

あの時、貞人は眠っていなかったのだろう。

金山の発言を聴いていたのだ。

貞人は、金山の方を見もせず、天気の話でもしている様な調子だが、金山の心は晴れない。

「聴いてたのか。それは別に悪く言ったつもりは無い」

その通りだった。金山としては本当にウマい商売だと思ったのだ。

こういう道で生きている貞人ならば、旨味のあるビジネスを始めたことを自慢に思って良いはずだ。

だが、どうやら、本当に娘のことを大事に思っているらしい。

だとしたら、怒らせるには十分な理由だ。

公衆の面前で無抵抗の人間を撃ち殺し、手榴弾まで持ち出したのだ。

貞人は未だかつてない程に、憤激している。

金山の背筋が寒くなる。

「金山」

貞人の声は、あくまで子犬に話しかける様だ。

「お前に人殺しをやる権利はあるのか?」

「だからそれはどういう意味だよ」

「他人のことをアレコレ言う暇があったら自問しろ」

「悪かったよ」

「お前の罪は、何も考えずに生きてることだ」

その瞬間、貞人の眼の白目の部分が、青みがかる程白く見えた。陶器の様な目玉だ。

「自分のやること、言うことを、疑え」

「……」

「俺と一緒に働くならな」

貞人はピンを元通り手榴弾に挿す。

足元で死んでいる女の手に、それを握らせる。

これで死体達は「無抵抗」ではなくなった。

彼らを射殺した理由が出来たわけだ。

貞人が金山の横を通り過ぎ、戸部と郷崎に断りしようとした時、

「何様だよお前」

と、金山がその背中に言い放った。

「お前が無茶したことと、何か関係あるのかよ。話の意味がまるでわからねぇ」

貞人の異常な様子に対して、自らの怒りや不満を返すことが出来る金山も大した男だと、郷崎は思った。

遥は、うわー超短気、と思った。

ちなみに、戸部は早く帰りたいと思っていた。

「話をすり替えて誤魔化すなよ」

金山は言う。

「こんなマネまでして、異常だろお前」

金山の言うことは尤もだが、狂犬に説法もいいところだ。

貞人は振り向くが、涼風でも顔に受けているかの様だ。

金山は引かず、今度こそ拳銃を抜くつもりである。そういう目つきをしている。

目の前の、この腹の立つ野郎を殺せるなら、命を懸けてやる。そういう眼だ。

「言い返せるのかよ、ボンベイ」

これがトゥームストーンの街ならタンブルウィードが転がって来るところだろう。

2人の間の空気は、張り詰めたガラスだ。

互いの放つ殺気が膨張し、そのガラスにヒビが入る時、2人は動くだろう。相撲の様なものだ。

遥は車中からハラハラと見守り、郷崎と戸部は流れ弾を食わない様に、車の方に避けている。

遥はこの一連の様子を撮影しようと、携帯端末をポケットから取り出すが、慌てていたので床に落としてしまった。

体を折って拾おうとした時、おデコでクラクションを鳴らしてしまった。

ファーッっと派手な音がした瞬間、外で銃声があった。遥は見事に見逃した。

携帯は捨て置いて、顔を上げると、貞人が横手の路地に向かって回転式拳銃を向けていた。

金山は抜きかけの拳銃の銃把を握ったまま、固まっていた。

貞人の方がドロウが速かったことと、あらぬ方に発砲した為、金山はまたも狼狽していた。

貞人の抜き撃ちは、居合術に似ている。

この場に居る誰も知らないことだが、貞人は十代の頃に抜刀術を習っていた経験がある。その応用だった。

腕でなく、腰で抜く。速さの秘訣だ。

そんな貞人は何を撃ったのか。

遥は銃口の向けられていた方を見て、驚いた。

赤黒い毛玉が路地の角に転がっていた。

前足と後ろ足、小さな頭と大きな目。

目に光は既に無い。

猫だ。

貞人は野良猫を撃ち殺したのだ。

「ひどいっ」

遥は思わず声を漏らしていた。

貞人は金山に向かって、気怠そうに言った。

「俺は猫好きでな」

貞人は拳銃をしまう。

「猫は、可愛いからな」

貞人の表情は、読めない。

怒っている様にも、悲しんでいる様にも、笑っている様にも、どんな様にも見える。

能面の様な顔とはこの事だ。

「それに、猫は一匹だって生きて行ける。死に場所も自分で選ぶ。潔い生き物だ。俺は人間よりも、猫が好きなくらいだよ」

貞人は続ける。

「親兄弟よりも……まあ居ればだが、猫の方が大事なくらいに、思ってる」

貞人は鼻で息を吸うと、溜息混じりに、

「でも、そんな猫でも、俺は理由も無く殺せる」

と言った。

そして、金山の眼の奥まで針で突くかの如く、見つめてきた。

「だから、お前を撃つのなんて屁とも思わん」

銃口の様に真っ黒な眼の不気味さ。女子供なら、それこそ先程の貞人の様に吐瀉しているだろう。

「お前も、こいつらも」

貞人は足元の死骸を顎で指す。

「俺にはどうだっていい」

「……」

「お前が生きてようが死んでようが、どうでもいい」

貞人は踵を返す。

その背中に向かって9㎜弾を撃ち込んでやるつもりなら、出来ただろう。だが、金山はそうしなかった。

もし万一外せば、自分の頭や胸が、柘榴の様に弾けるだろう。足元の死体達の様に。

金山の頭に目から飛び込んだ.357マグナム弾が、水力学的な波紋で脳漿を引っ掻き回しつつ、衝撃波で脳髄を平らにし、後頭部から飛び出す時には、風船に穴を開けた様に頭蓋骨が弾けてしまうだろう。

そのイメージが見える様だった。

先程までの内なる殺意が、貞人の眼光で萎えてしまった。

貞人は歩みを進め、今度こそ郷崎と戸部に断りする。

「悪い。俺の名刺を巡査か刑事に渡して、聴取は明日受けると、伝えてくれないか」

「ああ、いいぞ。早く帰ってやれ」

郷崎が頷く。

「相変わらずチームプレーが出来ねぇんだな。ボンベイ」

そう戸部が貞人に言うと、貞人は深く頭を下げて、去ろうとする。

その背に、車から降りて来た遥が、

「あ、あの!」

と声をかける。

貞人が振り向くと、遥は視線を足元に彷徨わせ、貞人の眼を見る事が出来ないままに、

「えっと、その、どうやって、ゲボ吐いたんですか?お酒本当に飲んでた、とか?」

と、考えていた言葉以外の質問が出て来た。

「奥歯をな」

「は、はい」

「強く噛みしめると、いい」

「はぁ」

「奥歯が潰れるくらい、ギュッとな。すると、自然とえずく」

貞人はそう言い残して、大通りの方へ去った。

凍っていた空気が漸く溶け解れる。

金山はやっと銃把から指を引き剥がし、息を吐いた。

その金山に戸部が、

「よく言った。けどな、奴に物申す時は覚悟することだ。負い目があると、逆ギレされる」

と諭す。

「負い目なんかねぇっすよ」

金山は反論するが、遥からはまるで叱られた子供の様に見えた。

「そうか。まあ少なくとも、ああゆう奴には気をつけろよ」

戸部が溜息混じりに言う。

足元に広がる血の池地獄。

「怒らせると、こういうことになる」

この始末が大変だった。

「ボンベイが殺したい相手ってのは、どうやら俺のことだったらしいな」

金山が遥に言った。自嘲気味な笑みを浮かべている。なんだ。この先輩も案外可愛い所がある。

「それは違うと思いますよ?」

と、遥は答えやる。

「え?」

「だって、そんなに殺したいなら、機会を伺って、誤射したことにして金山さんを撃っちゃえばばいいんですよ。私ならそうします」

「な、なるほど」

「それに、馬場さん、金山さんのこと『どうでもいい』って言ってましたよね?聞いてなかったんですか?」

「いや、そういうわけじゃないが」

「だから、気にしなくていいですよ、きっと!」

「俺、お前のこと新米って呼ぶのやめるよ」

金山はすっかりショボくれてしまい、タバコを吸うのも忘れてしまった。


貞人は大通りでタクシーを拾うと、尾行防止に何度か乗り継ぎして、自宅へ帰った。

直通エレベーターでマンション最上階に向かい、オーク材の戸を開くと、何やら良い匂いがしている。

サブマリーナーに目をやると、0時ジャスト。

間に合った。

約束を違えると結構な怒りっぷりを見せる、あの娘である。

ちゃんとテッペンまでに帰ったぞ、と胸を張って言ってやろう。

ダイニングキッチンに姿は無い。

しかし、アイランドにラップがけした皿が置いてあった。

貞人の為の夕食だろう。

「ただいま」

洗面所と洗濯室がある方に声をかけるが、返事は無い。

2階だろうか。

そこで貞人は気が付いた。

ジャケットの下には、まだ拳銃2丁を帯びたままだ。

今、千香子と対面すると、上着を脱げなくなる。

「おかえり!」

リビングの吹き抜けから声がした。

手すりから身を乗り出して、Tシャツと短パン姿の千香子が貞人を見降ろしていた。

「ただいま。まだ起きてたのか」

平静を装って、貞人は応える。

「そろそろ寝ようと思ってたところだよ」

千香子は階段を降りて来ると、貞人をキッチンカウンターまで引っ張り、アイランドの皿をレンジにかける間に麦茶を出す。

「さあさ、お疲れ様」

「ありがとう」

着替えに上がるタイミングを失ってしまった貞人は、背広のまま麦茶を干す。

「ジャケット脱がないの?」

娘の余計なお世話だ。

「シワになるから、いいよ」

「衣紋掛け使えばいいのに。こぼすとシミになるよ?」

「いいよ、肌寒いし」

Tシャツ短パンの千香子は、そおかしら、と頭を傾げる。

「何を作ったんだ?」

と尋ねて誤魔化す。

「聞いて驚け。麻婆茄子!」

「それは良い」

レンジがチーンと鳴いて、白飯と麻婆茄子にありついた。

茄子は良い。好きな食材だ。

料理の中にあって、味として個性を発揮する事はあまり無いかも知れないが、他の味を吸収し、他の何よりも料理全体の味を体現してしまう。

食感は柔らかく、歯応えを生まない。ストレスが無い。

しかし、その存在感は確かだ。

俳優で言うなら、ジョン・カザールの様な存在だ。

「美味しい?」

不意に千香子が尋ねた。

「うまいよ」

「よかった。難しい顔して食べてるから、失敗したのかと思ったよー」

空腹だったということもあるが、単純に美味かった。

いつからだろうか。人を殺した後でも美味しく飯が食える様になった。

千香子にふた口ほど食われたが、完食。

すぐに部屋に上がることにした。

その背中に、

「にいちゃん」

と、千香子。

「何だ?」

階段の途中で、貞人は振り返った。

拳銃の膨らみに気付かれたか?

まあ、今更見られたところで、仕事のことは知られている。開き直れば良い。

「にいちゃんのコーデ、私はいいと思う」

「いきなり何だよ」

拳銃の納まったホルスターのことか?

確かに、今時珍しい本革だが、見えたとは思えない。

「いや、普通だねーって言ったけどさ、スーツとかのこと。でも実は、細かいところに凝ってるんだなーって。私はそういうの好きだよ」

何のことだ。

一体この背広の何を指して言っているのか。

確かに、希少なビクーニャを使った生地でオーダーメイドした、高級なスーツではある。

しかし、それが15の娘に分かるとも思えない。

「有難う」

「ううん。スーツは男の戦闘服だもんね。ゴメンね、普通だなんて言って」

「いいんだよ」

おやすみを言い合って、部屋に上がる。部屋と言っても、いつものウォークイン・クローゼットの中だが。

背広を脱ぐ。

ホルスターを外し、棚の金庫に仕舞う。

ネクタイを外す。

ああ、これか。

ネクタイは無地の黒だが、裏地には裸の女のイラストが描かれている。

肉感のある裸体だが、顔は髑髏で、開いたワギナからは怒張したペニスが内側から生え出し、右手に秤、左手には剣を持っている。

生地はシルクだ。

裏側の絵が、横に座った千香子に見えたのかも知れない。

シャツを脱ぐ前に、カフスを外す。

いや、これかも知れない。

カフスボタンは、人間の歯を飾りにしてある。奥歯だ。

この歯の元の持ち主は、勿論もうこの世には居ない。

このカフスを見られたか?

まあ、いい。

どっちにしても、気に入ってもらえたのなら。


千香子は寝床で、その晩何度目かの寝返りを打ちながら、眠い頭で思い出していた。

貞人の靴下だ。

白いワイシャツにダークスーツばかりだが、靴下は真っ赤だった。

変なチョイスだが、解らないでもない。

普段着が地味な人は、下着だけでも派手にすると、性格が明るくなると言う。

きっとそういうことだろう。

あれで結構お茶目なところがある男だ。

千香子は微睡みから、夢を見始める。

また貞人と遊園地に行く夢だ。

千香子は知らない。

あの赤い靴下が、血染めであることを。


貞人は夜な夜な、靴下を冷水とシャンプーで洗ったが、ここまでベッタリと血に濡れてはどうにもならず、捨てることにした。

楽だからと言ってクラークスのコンフォートシューズを履いていたから、こういうことになる。足元で女の頭が弾けたせいだ。

やはり仕事に出る時は、ホワイツのセミドレスブーツに限る。

そんなことを考えながら、シャワーを浴びつつ、ストレッチとプッシュアップをする。

腹筋と背筋。スクワット。

回数は決めていない。

限界までやる。

限界までやり、更にプラス5回。

鼻血が噴き出そうになる。

最後にまたストレッチ。

これは日課だ。

これが日常だ。

馬場貞人。

本名不詳。

通称ボンベイ。

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