みずがめ座の女

「星座ってさー、なにも十二個だけじゃないんだってさー」


クラス内の流行廃りを常駐監視し続けるヒトミは机の上に座り、仲の良い気さくな友人たちを集めて、談笑している。


今日も、皆で盛り上がれそうな話題を提供する。これが、ヒトミの仕事。


「私なんか、そもそもそらで十二個全部言えるかでさえ、自信ないってのに……」


へぇ、そうなんだ、それ分かる、などと、周りの生徒たちは次々に相槌を入れる。


「わし座、こぐま座、白鳥座、ほうき座、南十字座、蛇つかい座、カシオペア座……。

 こんなにあるのに、どうして今のメンツで選抜しちゃったかなぁ。

 かに座とか、うお座とかよりも、もっとセンスのある星座あったでしょうに」


「そりゃ、アレじゃないの?

 変に細かにカテゴライズして数を増やしてみなさいよ。

 気になる異性との星座が被る確率がぐんと低くなるじゃない」


と、いうと? と言わんばかりの表情を作り、他の生徒たちは、話の続きを促す。


「『……へぇ、アナタもおとめ座なんだ。ふふ、奇遇ね。

  実は、私もおとめ座。

  ……これって、星のお導きによる運命いたずら、ってやつかしらね』。


 なんてにくい口説き文句が言えなくなるじゃないの!」


「なによ、星のお導きによる運命って!?

 運命とか、そういうこと平然と口にしちゃう女は、重いって思われるわよ?」


「ところで、名を体で表す、っていうかさ。

 なんか私、その人の星座が一目で分かっちゃうんだよねぇ」


すごいじゃない、と、一人がおだてると、途端に盛り上がりを見せる。


「ほら、例えば、あの男子。

 いっつも机に突っ伏して寝てるから、おひつじ座」


「それ完全にひつじのイメージに引っ張られてるじゃないの」


「というか、あれは友達居ないからしぶしぶ寝てるフリしてるってだけで……、

 ……察してやれ」


「じゃぁさ、あの子なんかは、

 毎度言動がチクチク突き刺さるから、さそり座」


「じゃぁ、アイツは胸がデカイから、おうし座ってか?」


そんなノリで、クラスメイトの星座を当てめる遊びに夢中になる一同。


「それで、ヒトミはね。

 流行りのアイテムとか、人気の芸人のネタとか、

 なんでもとりあえず噛み付いてみたくなるから、みずがめ座なの」


「いや、言いたいことは分からんでもないけど、

 そもそもみずがめ座って、亀のことじゃないからね?」


え、そうなの!? と、驚くその子。


「みずがめっていうのは、水を蓄えたつぼとかのことを指すんだよ」


「え~、知らなかった~!」


「ぶはははっ、私だって知ってるのに、ばっかで~!」


げらげら、と品のない笑い声をあげるヒトミは、顔を引きらせ、腹を抱えて苦しんでいた。


「あ、ツボってる」


「まごう事なき、みずがめ座だね」

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