第5話 序列4位

キュウウウウン!!!


愛くるしい声と共に飛びかかってくる毛玉生物。避けるのは造作もないその攻撃をひらりとかわし


「シルヴィア!俺には無理そうだ、後は頼んだ!」


なんて弱気な勇者なのだろう、こんな様子で勇者は務まるのだろうか…否!無理に決まっている。今すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいである。


一方シルヴィアは、呆れたのちなんだかぶつぶつと詠唱し始めている。


「精霊たちよ汝、我にそなたらの力を与えたまえ。」


シルヴィアの周りが赤く輝きだしたかと思うと


下級炎魔法フレイムマジック!」


この世界に来たとき散々逃げ回った、あのドラゴンを彷彿とさせる火球が前に構えたシルヴィアの両の手から放たれた。


 ンキュウウウ!!

これまた愛くるしい声をあげながら毛玉生物は消滅した。


「ふぅ、中々手強かったな」


「いや、あなた何もしてませんよねぇ?」


シルヴィアが下からのぞき込んでくる


「すみませんでしたぁ!!」


そんなこと自分がよく分かっている。


「これじゃ、レベルを上げることができませんねー」


眉間にしわを寄せ考え込んでいるシルヴィア。


「とりあえずギルドに戻りましょうか!」


ギルドへ戻ると小さな猫耳をぴょこぴょこ揺らしながら、一目散にミーニャさんが駆け寄ってきた。


「勇者様!どうでしたか!?あの程度のクエストなんて一瞬でしたか?」


俺が重たい口を開くよりも先に


「凄かったですよ!一撃で一刀両断ですよ!スパァンってね!」


得意げな口調でミーニャさんに説明するシルヴィア、彼女なりに俺の威厳を保とうとしてくれたのだろう。目頭の奥に熱い何かが込み上げてきた…何よりも自分への怒りがとても大きかった。


二人が話している間、集会所のベンチに腰掛けてしょぼくれていると


「あちらの方の話は本当ですか?」


声のした方に顔を向けると、シルヴィアほどの長さで淡いクリーム色のロングヘアーをした、綺麗なお姉さんが立っており、なぜかネイビーグリーンのローブを身に纏っていた


「まぁ。ところであなたは?」


「ンフフ、私は通りすがりのただのお姉さんですよ」


明らかに只者でないことは俺にだって分かるくらいの、異質なオーラを彼女は放っていた。


「嘘ですね。あなたは只者じゃない」


「ンフフ、さすがは勇者様ですね。あなたに隠し事はできなさそう」


警戒を解かない俺に対して彼女は


「私は数年前まで魔王リリスと戦っていた…」


「えぇぇ!!」


二人が振り向いてしまったので、俺はシルヴィアたちに両手を合わせ表情付きで無言ながらも謝ると、シルヴィアは先ほどまでの対談形式ではなく、こちらの動向を確認しながらの会話形式に切り替えた。


「悪い、今ので怪しまれた。で、あなたはもしやセラフィムさんですか?」


「ンフフ、その名前は適切じゃないわね。セラフィムとは、天使の階級を表す言葉であり、天使の序列1位がセラフィム、でも今の私はその三段階下、序列4位のドミニオンくらいの力しか持ち合わせていないわ」


「それでも結構すごいんじゃ…」


「んー、3日あればようやく国一つ滅ぼすことが出来るくらいかしら」


この人は本当に天使なのだろうか、天使が国を滅ぼすって…


「横から失礼します!あなたは誰なのでしょうかー!」


長話が過ぎたのか、能天気にシルヴィアが割って入る。


「あら、可愛いお嬢さんね」


「いやー、可愛いだなんて。エヘへ」


「私はルシフェル、あなたたちのパーティに入れてもらいたいのだけれどよろしいかしら?」


「全然構いませんよ!むしろ足手まといにならぬよう頑張ります!」


ルシフェルの入隊を許可したシルヴィアに、彼女が伝説の大天使様だということを伝えたらどうなったと思う?


 正解。俺と同じリアクションをとるに決まっている。


「えええええぇぇ!!!!!.」


シルヴィアの声が空に響いた。

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ポンコツ勇者に精霊のご加護を! キルル @kiruru

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