第4話 0の真実
ようやく町にたどり着いた俺は、彼女の家で色々な話をした。この世界の成り立ち、これからの方針についてだ。
この世界はほんの数年前まで大天使セラフィムによって、魔王リリスの手から守られていたが、数年前の戦いによりセラフィムはその力の大半を失ってしまったらしい。噂によると、力を失った今でもモンスターに襲われている人々を助けて回っているとか…
「それにしても驚きましたよ!まさか勇者様の職が……なんでしたっけ?」
うすうす感付いてはいたが、この娘のおつむは少々粗悪品らしい。でもまぁ、よく言うと天然ってやつなのかな…
「あ、そうでした!奇跡使いでしたね!勇者様だけが頼りなんですよ?」
やはり彼女も俺の職に不安を抱いているようだ。そりゃ、わざわざ異世界まで迎えに行った予言の勇者サマがこんな≪ポンコツ職≫だとは夢にも思わなかっただろう、俺だって剣士とか、もう少し格好の付く職がよかった。
「とりあえず、いまから装備を揃えましょーう!」
街中の武具屋に着き、楽しそうに色々勧めてくれるシルヴィアを横目に、こうして見ると無邪気で幼気な少女なんだなと再認識した。
結果俺は勇者とは程遠く、とても防御力があるとは思えない黒の薄いコートに黒のズボン、極めつけは刀身の黒い刀。深夜に車道を横切ろうものならば、一瞬にして轢かれるであろう服装だ。精霊の加護があるらしく、シルヴィアにもらったこの十字架のペンダントに光が反射すれば轢かれずに済むかもしれない。完全にビジュアル重視である。
「こんな薄いので大丈夫なのか?」
「はい!とてもかっこいいですよ!」
やはりビジュアルしか考えていなかったようだ。
「まぁ、買ってくれたんだし感謝するよ」
「はい!次は
あぁ、これからクエストを受注するんだろうな…
「着きましたよ!ここではクエストを張ったり、受注したりできます!」
そらきた。完全にこの世界RPG仕様だな…
「それじゃあ、おこづかい稼ぎ兼レベル上げに☆1のミッションでも行きましょうか!」
それまでローテンションの俺だったが、集会所の受付嬢が俺の角膜、光彩を突き抜け、水晶体までたどり着いたときには、もう既に俺の心臓がビートを刻んでいた。肩ほどのショートカット、少々赤っぽい茶髪にチョコンと生えた猫耳、サファイアのような色をしたかわいらしい瞳。
「クエストの受注ですか?」
とても心地よい声に思わずテンパる。
「ぼっ、ぼぼっ、僕はですね…」
「何照れてるんですか?この娘はミーニャちゃん、みんなはミーちゃんってよんでますよ」
「あっ、シルヴィアさん、こちらは?」
首を傾げる仕草もこれまたかわいい。ケモ耳の破壊力は予想以上にすごかった。
「ぼっ、ぼぼぼっ、僕は」
「予言の勇者様です!」
得意げに言い放つシルヴィア。驚くミーニャさん。
「えっ!こちらが予言の勇者様?!」
「まぁ、はい」
悪い気はしなかったがなんだか照れくさいので、そそくさとクエストの受注を済ませ、集会所を後にした。…ちょっともったいなかったかな。
「これから目的の地、大草原へとワープしますね!転移魔法!」
すかさず手を差し出した俺に
「あ、1度一緒にワープした相手とは触れ合う必要がないんですよ」
と軽く一蹴、なんだか少し残念だ。
青白く光るシルヴィアが眩しくて、一瞬閉じた目を開くとそこにはだだっ広い草原が広がっていた。うん、まさに大草原だな。
「あ!討伐対象のもふもふです!」
シルヴィアの指さす方向を見ると、直径50センチ程のまん丸い毛玉のようなものがいた。よく見ると顔がついており、とても愛くるしい顔をしている。
「あれを倒すのかよ…」
「はい!あぁ見えても作物を食い荒らす悪いやつなんですよ?」
あまり気は乗らないが、腰に携えたビジュアル重視の細身の黒刀を振りかぶり、もふもふとやらをたたっ斬る!
ギィィン!!
「えっ!?」
刀身が弾かれた。勿論、毛玉生物に刀身を弾き返すための腕などない。念のためもう一度斬りかかる。
ギィィン!!
やっぱりダメだ。一瞬、刀身が当たる瞬間に見えない壁のようなものに阻まれた気がする。するといきなりシルヴィアが
「あぁ!勇者様魔力が0でしたよね!?」
言わずもがなである。
「普通は皆少なからず魔力を持っているので忘れていましたけど、魔力で武器を覆わないとモンスターにはダメージを与えられないんです!」
…えぇぇぇ!!!!?
こんなんで勇者務まるのおれぇぇ!!!
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