第3話 奇跡使い
「
そう唱えた彼女の体は青白い輝きを放ち、桃色の髪は下から強風が吹き付けるかのようにふわふわとたなびいている。
寝起きのようにキョトンとした顔の俺に彼女は
「クスッ。何をしてるんですか?狐につままれたみたいな顔をして」
彼女は続けざまに手を差し出し、
「私の手を握ってください!」
いつもなら戸惑うであろうその呼びかけに俺は、なんの躊躇いもなくその手を取る。
「シルヴィアって言います。よろしくお願いします!」
「いい名前だな。シルヴィア!俺をとびっきりのケモ耳娘たちに会わせてくれ!」
「やっぱりそれが目当てなんですね。」
呆れた顔の彼女のその言葉を最期に、俺たちは異世界へと飛び立った。
どれほど経っただろうか…体感的には2~30秒ほど、だが実際は2~3秒ほどだろう。空気が変わり、先ほどまで居た空間とは違うということがひしひしと伝わってくる。なんというか、空気が痛いのだ。
目を開けるとそこには、大蛇のような深紅に染め上げられたうろこを持ち、1mほどの髭を蓄えた体長20mはあろうドラゴン。でいいのだろうか、少なくとも俺らの世界ではそう言われるその生物は、俺の鼻先まで顔を近づけてきている。一瞬、死んだフリという選択肢も頭に浮かんだが、本能的に俺がとった行動は、マッハで踵を翻し即逃走!
「おいぃぃぃ!!!どこが町なんだよぉぉ!」
全速力で逃げ回りつつ、先ほど俺と一緒にこの世界へ来たアイツを探し回る。彼女を探し出すのに、それほど時間は掛からなかった。
「おぼれるぅ!ブバッ!誰かッ、誰か助けt」
彼女は、小学生でも足がつくであろう小川で溺れていたのだ。
傍から見ると水と戯れているようにしか見えない。俺は彼女を救出した。
「ありがとぉぉぉ~!うっ、うっ~」
「君カナヅチなのね」
泣きながらしがみついてくる彼女。俺の左腕に女の子特有の柔らかさを感じて思わず飛び退いてしまったが、彼女を落ち着かせるため彼女の頭をなでた。このくらい役得ということでいいだろう。
ギュアァァァァァァァ!!!
ヤツのけたたましい咆哮で現実に引き戻される。
「今…のは?」
涙を拭いながら、泣き腫らした瞳で俺に訪ねてきたが、俺も焦っており、
「ドラゴンがでたんだよ!」
と、簡潔な台詞しか出てこなかった
「えっ?私はヤエサールの町に来たはずって…ここはどこなんですか?!」
「ポイントが少しずれただけじゃないの?」
「おぉ!冷静なんですね!」
冷静?とんでもない。一周回って平常なだけだ、もはや悟りを開いてしまっている。
「とりあえず逃げるぞ!」
二人とも全速力で走ってはいるが、相手は滑空しているのだ。すぐに追いつかれるだろう。
「どうにかして倒せないかなぁ?」
「んー、予言の勇者ならあるいは…右手を左から右へスライドさせて下さい!」
言われた通りにすると、空中に半透明のウィンドウらしきものが表示された。そこには、
Lv1, ryou sonoda 職種:
「奇跡…使いってどんな職種なんだ?」
思ったままに聞いてみる。
RPGの職種にしては珍しいなと思い、初めて見るその職種の特性を理解しようと試みた結果だった。
「そんな職種聞いたことがありません!ちょっと見せてください!」
ウィンドウを彼女に見せる。
「って、魔力が0じゃないですか!!」
「レベルが上がったら上がるんだろ?」
「いえ、レベルが上がるということはその者の持つ能力値が強化されるということなんですよ!簡単にいうと掛け算なんです。0には何を掛けても0にしかならないでしょう?」
「ってことは、奇跡も何も魔法すら使えねーじゃん!」
はぁ、はぁ、走りながら話すというのは想像以上に疲れる。こんなことなら少しは運動しているべきだったな。
「まったくもう、しょうがないですねぇ!なんたって私は、最大攻撃魔法の
「はぁ、はぁ、魔導士なんだろ?」
「あーっ!完全回答を使いましたね?」
ふくれっ面になる彼女。それだけヒントを貰えば誰だって彼女の職を当てることなど、容易いだろう。
キュアアアアアア!!!
俺たちの会話を割くように、直撃しようものなら一瞬でウェルダンが間違いなしの火球が、バスケットボール程の大きさで飛んでくる。
「危ない!」
彼女めがけて飛んで行った火球をいち早く察知し、彼女を抱き寄せる。
「あ、ありがとうございます」
顔に出やすい性格なのだろう、顔を赤らめて感謝してくれる彼女。
このままじゃ埒が明かない。とりあえずそこらへんの手ごろなサイズの小石を掴み、ドラゴンめがけて投擲する。
「そりゃっ!!」
的外れな彼の放った石礫はドラゴンの髭をかすめた。好機とばかりに襲ってくるドラゴン。潔く死を覚悟し、再び彼女の身を庇うように抱き寄せる。
「ごめんね、君の世界どころか君のことすら守れそうにないや…」
そう笑いかけた俺に、彼女も微笑み返してくれた。
「ふたりともここまでの運命だっただけですよ…」
「そうかもな」
より一層強く抱きしめる。僅かでも、彼女の生存確率を上げるために…
ドラゴンが牙をむく。あと数センチというところで、
グキュァァァァァァァ!!!!!
目の前のドラゴンではない、とてもおぞましい声が聞こえた。その声に野性の勘というものなのだろうか、目の前のドラゴンはどこかへと飛び立っていってしまった。
「生きてますね…」
「どうやらそのようですね」
「それにしても凄い声だったね…また新手かな?」
いままで力んでいた全身の力を抜き、その場にへたり込む。彼女も同様だった。今なら丸一日眠れそうだが、そんな暇はないらしい。俺の完全回答が先程の疑問に応えるが如く知らせる。
「おい!いまから1分もしない内にさっきの声の化け物がここへ来る!どうやら、俺の投げた石がそいつに当たったらしい」
「それなら大丈夫です!ヤエサールの町ならもう、目と鼻の先です!」
これが奇跡使いってことか、まるで魔法のようだ……ってただ単に運が良いだけじゃねーか!
どうやら、最悪の
こんな職で大丈夫なのだろうか、先が思いやられる。
俺たちは急いでヤエサールの町とやらに足を進めた。
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