読者に対して、謎の解決に至るための手がかりが全てフェアに提示されているかどうか、という点をもって言えば、この作品は本格ミステリとは言い難い。
何故なら、この作品において主題として扱うテーマは“異能”であり、モチーフやガジェットなど数多く登場するミステリーの要素はあくまで味付けであるからだ。
しかし、それらの要素はただのごった煮ではなく、ミステリー好きの心をガッチリ捕らえるための働きを十二分に果たしているし、提示された謎に対して探偵役が解決編を披露するという様式はきちんと踏まえられているので、この作品のジャンルを問われれば私はミステリーだと答えると思う。
ただ、上記で述べたような小難しくまどろっこしいお話が、いかに馬鹿馬鹿しいかということは読めばすぐに理解できてしまうだろう、とも思える。
頭を空っぽにして、目の前の謎解きよりも雰囲気やキャラクター、事件のインパクトなどだけでも十分楽しめるはずだ。
ところで、サブタイトルにある登場人物の名前から既にピンとくる人も多いだろうが、本作はとある古典エンタテインメントミステリー小説の金字塔へのリスペクトが含まれている。
ライトノベル的なエンタテインメント性の中に仕込まれた、小ネタを楽しむのもまた一興、と言えるかもしれない。