　天気雨の後の虹の出た空を見上げながら、少女は口元を緩めた。

　少女はさっと振り返り、その感情を通り過ぎる車列に盗み見られてはいなかっただろうかと恐れた。恐れたところで過ぎたことはもうどうにもならない。そこまで開き直れるくらいの豪放さは少女に似つかわしくはないが、しかしその少女は過ぎたことを過ぎたことであると、恥じらいをあっさりと捨て去った。少女はじわりじわりと侵食してくる濁り水のように、それが似つかわしくないならば浴槽に溜まっていく清らかな水のように、階段を登っていく。大人と子供とは境目の明瞭ではない、賢者と愚者のように表裏一体の、また不可分の、そして可逆性のある概念であることが分かる。そのことを少女は教えてくれたのだ。今、疾走していく自動車の助手席から少女の横顔を盗んだ老人はそう思った。

　ところで一つ、謎が残る。少女はどうして笑ったのだろうか。雨が上がったから？　それとも虹を見たから？

　答えは、それが天気雨であったから。ただそれだけである。